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錬生術師、星を造る 【完結済】  作者: モモル24号
第1章 ロブルタ王立魔法学園編
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第90話 悪女と錬金地獄 ④ 怒涛の黒パン制作

 錬金釜を作り直したおかげで、各人の専用釜の曖昧だった特徴もはっきりさして来たわね。


 元々わたしの想像力が必要性に応じて強く作用している面があったので、更新は良い機会だったと思う。


「さてと、ようやくお楽しみの装備品に取りかかれるわ」


 そうは言うものの、急ぎ再開発しなければならない魔道具があった。わたしにとって、呪いのアイテムとなりつつある────黒パンだ。


 このままだと無事に学校を卒業したとしても、わたしは黒パンツと毛生え薬を作り続ける羽目になる。


 パンツ職人になるために魔法学園を目指したわけじゃないの。毛生え薬なんか、尚更よ。


 それでも先に作らざるを得なくなったのは、ヤムゥリ王女さまのせいだ。檻にベッドを入れて隔離したのは良かった。吸音装置のおかげで騒いでも、わたし達の部屋まで声が届かないから、静かな夜を過ごせた。


 ただ‥‥みんな放置したまま忘れていたのよね。朝一番で起きる事の多いヘレナが、騒ぎ疲れて泣いている王女さまに気がついたようだ。


 わたしは魔力切れで爆睡していたので、惨状は知らないのよ。ヘレナが快適スマイリー君で、色んな成分を回収してくれていた。


 わたしを酷い目に合わせた張本人なので、ヘレナとしては複雑な気持ちで世話をしていたみたい。でも弱った人を虐めるような事はしないのがヘレナなのよね。


「やるときはスパッとやるよ」


 許したわけではない……と、ヘレナは一度だけヤムゥリさまの肝に命じたみたいね。ヘレナの噂は耳にしているからか、流石のヤムゥリさまも素直に頷いていた。



 先輩とメネスのおかげで、最新式黒パンの成分の吸収量と、魔晶石の精製量は分析出来ているのよね。耐久性も上々。あとは、吐瀉物のような流動固形物の消化をどうするかだろう。


 快適スマイリー君が、問題解決になるのはわかっているのよ。ゴーレムに着想を得ているスライムだけに固定化が難しいのよね。


 お尻に合わせて超小型の非常口を結ぶ手も考えた。それはそれで、こう色々と履き心地が悪いと思うのよ。


 朝からパンツについて考えているわたしを、みんな微妙な表情で見るのは止めてほしいわ。わたしだって、ハゲと黒パンについて考えるのはうんざりなのよ。


 文句があるなら頭髪の薄い人々と、堂々と黒パン一丁でうろつく先輩に言ってね。次期国王候補が下着姿でうろつく変態だなんて知ったら、この国は終わりよ。


「君が試着を頼むから協力しているのに、酷い言いがかりはよしたまえよ」


 わたしの首を腕でキリキリと巻きながら、空いている手の指を曲げて頭部をグリグリとする。知らない間に、新手の技を繰り出す先輩。事実を述べたまでなのに、いまさら照れないでください。


 おかげでいい案が閃いたわ。形造るのが難しいのなら、形がなければいいのよね。


「──エルミィ、管理のおじさんから材料の追加分をもらって来てくれるかしら」


 まずは特殊スライムを作る素材の準備をする。召喚魔法ならスライムの核となる魔晶石でスライムを呼べる。


 わたしのスライムは錬生なので、生成素材で違う種類を生み出せる。スマイリー君のように。


 素材にはモチノキとミズネ茎に消臭草(ケツクサソウ)と魔晶石を用意する。魔晶石は、吸収力を上げるため先輩のものを使う。


 ある程度育てないと必要な核が育たないので、ヘレナの魔晶石も追加投入してみる。


「────本当にスライムが生まれた!」


 ヘレナが剣を構える。いや魔物なんだけど、倒さないであげて。


「先輩、予備の新しい黒パン使いますよ」


 男装がバレても問題がなくなったので、新しいタイプは履き心地を重視しているのだ。日夜努力を重ねた結果よ。いまや黒パンのために、大商会の研究者より苦労している女学生なのよ。


 あれ‥‥おかしいわね。なんか涙が出そうよ、わたし。心を強く持たないと。


 なんとか折れかかる心を鼓舞して、スライムの核を抜き招霊君を出す。核を壊すとスライムはお亡くなりになる。でも核のかわりに招霊君が入ったことで、粘体招霊君(スライム・ゴースト)にかわる。


 そしてこれを黒パンに憑依させると、漏らさず安心の新黒パンの完成よ。


「さあ先輩、履いてみてください」


 履き心地は変わらないはず。お肌にぴったり吸い付くのに柔らかな生地の感触が心地よい感触を生む。


 あくまで道具の使用感というのは、使ってみないとわからないからね。躊躇いなく履き替える男前な先輩。見る限り問題はないようね。後は機能が働くかどうか……なのよね。


「さすがにみんなの前では、僕も試したくはないかな」


 先輩の嗜好と方向性が、違うものね。‥‥首を絞めるのはやめて下さい、先輩。そうなるとメネスか期待の新人、王女さまの二択になるわね。

 

「わ、わたしギルマスに薬を届けて来ます」


 メネスが、逃げた。あなたの場合は使い方が違うから、試しても問題ないじゃない。


 王女さまも逃げようとした。でも宿は引き払い、残っていた側近達も帰国してしまったので、逃げ場はなかった。


 新しいものをもう一つ作ると、ティアマトとフレミールに捕まえてもらい、新黒パンに履き替えさせた。


 効果がわかるまで檻へ入れておきたい所だわ。でも、わたしはそんな酷いことはしないから大人しく協力してよね。


 ヤムゥリさまが土下座して謝るので履くだけ履かせて、後でみんながいない時に試させることで妥協したわ。


「先輩と王女さまとメネスには数枚いるわよね。他のみんなにも、作るから好みの色があったら言ってね」


 今後はもっと必要になるかも知れないので、たくさん作って渡しておきたい。エルミィに追加を頼んだのはそのためだ。


 わたしの中に、もう黒パン問題を、これで終わらせたい気持ちがあったと思う。



 パンツ制作を終えて一息入れた後は、ようやく靴作りを始められる。


 靴の素材にはあてがあった。王家に納めた分は全部奪われたみたいだけど、あのデカブツの皮はまだまだ沢山あった。


 これを使って靴を大量に作れば、靴屋を開けるわね。せめて名を広めるなら魔法の靴でも作って、靴と言えばカルミア魔法具店って言われたいものね。

 


 そろそろ王宮へ向かう時間なので、先輩も服を着ていた。連日の会議や、事務処理を国王陛下と王妃様の三人で手分けしてこなしている。


 仕事は嫌そうな顔をしているけれど、堂々と両親と一緒にいられて幸せそうで良かったわ。


 先輩には、王妃様に約束した美容液を渡してもらう。陛下と王妃様が若返り、先輩も男装を止めてしまうと、王家が別人達に乗っ取られたように見えるよね。先輩はいまのままだといいな。


「どうして靴なのだ?」


 暇なフレミールが不思議そうに聞いて来た。ドラゴンから見ると、そりゃ靴なんていらないものね。


「錬金作業が終わる頃には、前倒しで長期休暇になるわ。そうなるとみんなで旅行に行く事になるでしょう」


 そうなると、旅装が必要になる。靴だけじゃなく、日除けの帽子やマントなどもあった方がいいかな。


 先輩とルーネ、シェリハとティアマトが王宮へ向かった後、暇なフレミールが側に寄って来た。


 火竜は授業を受けてみたかったみたい。騒動のせいでタイミングが悪かったわね。夏季休暇が明けた後におじいちゃん先生かエルミオ先生に頼んでみよう。


 ヘレナは、エルミィと王女さまを連れて街へ向かった。部屋にいてもグジグジ鬱陶しいので、二人が気をきかせてくれたのだ。


 フレミールは人混みが嫌いなのと、一応わたしとノヴェルを心配して残ったらしい。ドラゴンのくせに心配し過ぎなのよね。


「オマエ、自分の立ち位置をもう少し考えた方が良いゾ」


 立ち位置なんて、今も昔も変わらず庶民のままよ。金鉱石もあっという間に溶けた貧乏学生よ。


「ワレがこの地を狙うものなら、真っ先にオマエを狙うのだがな」


 裏で躍動している連中の事は知っているわよ。でもローディス帝国もシンマ王国も帰還して、ロブルタも今後は安定するのなら、庶民なんか誰も相手になんかしないわよ。


「ロブルタの次期国王と親友で、帝国の皇子からは求愛されていて、シンマの王女を保護している。狙うには充分な人物じゃと思うが。それに、ノヴェルの存在がの」


 ノヴェルは朝ご飯を食べ過ぎておやすみ中だ。ヘレナが分量を間違えて作り過ぎたものを一人で平らげたようね。


 わたしにぽんぽこのお腹の可愛らしい姿を見せたかったのかしら。食べることに関しては、ヘレナやノヴェルって学習しないのよ。


「ノヴェルの種族は狙われてるのね」


 ノヴェルには簡単な力しか使わせていない。拡張させた部屋だって、ダンジョンのものに比べると手抜きだもの。ノヴェルはもっと出来る所を見せたがった。でも、それは危険な気がしたので、わたしが止めた。


「異界に穴をあける力というのは貴重だ。自由神も、彼らを保護する意味でこの世界に連れて来たのだよ」


 いま、まさにわたしも過去の出来事とはいえ、その恩恵を得られているからわかるわ。


 膨大な魔力とか犠牲もなしに一方的に奪略し、侵略する道筋を作れるとなれば、その力を得ようと奪い合いになるに決まっている。


 ドワーフのその後を見る限り、ドヴェルガーたちを襲ったのがドワーフかどうか怪しくなってきた。


 隣国のものに成り済まして隙をつくなんてよくある手段だ。現王妃様を見ていると、それはよくわかった。


 先輩の為にルーネをつけたので、ノヴェルにも護衛になる子を探さないとね。


「しばらくは、フレミールが見張ってやってくれるかな。あなたの力が及ばないようなヤバいの来たら、どうしようもないけどね」


「まあ、よかろう。ワレとしてはオマエにも護衛をつけてほしいのだがな」


 フレミールはドラゴンなのに、心配症でいい竜なのよね。一応姉で通しているけど、姉がいるとこんな感じなのかしら。それにしても、なんでダンジョンにずっといたんだろう。


 聞いてもきっと誤魔化されずはぐらかすだけだろう。どのみち聞く気はないので、話したくなっても聞いてやらないからね。

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