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錬生術師、星を造る 【完結済】  作者: モモル24号
第1章 ロブルタ王立魔法学園編
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第86話 皇子様の悪夢

 皇子達はまだ先輩が使っていた男子寮の部屋にいた。あれだけの騒ぎにも関わらず、まだ居残ってるのね。さっさと帰れば面倒がなくて済んだのに。


 フレミールがいるから今回は大丈夫だと思う。ノヴェルは皇子がわたしを殴りつける前に、超硬化の魔法で防御してくれるそうだ。


 わたしは念のためにダンジョン仕様の装備を身につけている。また拉致られないとも限らないからね。

 

 ヘレナに頼んで、非常用の焼き菓子も包んでもらった。ちゃんと甘いものとしょっぱいものを二つ共ね。水は自前で作れるけど、食べるものがないのはきつかったから。


 あの通路が何もないのも苦しかった理由の一つだわ。まあ魔物が出るよりマシだったかな。お宝に直通とか考えると、辛くて大変だった思い出なんて忘れそうだわね。


 部屋に案内されると、深刻な表情の皇子と術師がいた。エルミィのいたずらは流石に気づいて消したみたいね。


 わたしたちが来ると、まっすぐに皇子がわたしを睨んで顔を赤くした。


 ────何だろう、この皇子が気持ち悪いわ。ルーネに魅了でもかけられたのかしら。あの娘は先輩にくっついたままだから、そんな事は出来ないはずよ。


「ようやく来たか。俺達は明後日、帝国へ帰還する事になった。こういう状況だから、予定外の帰国になる」


 もう庶民相手に、かまって遊んでられなくなるのが寂しいわけね。わたしがワンコ扱いなのにはイラッてするけれど、大人なので耐えてあげるわ。


「立場的にこちらは糾弾してやりたい所だが、犠牲者の大半はこの国の者だからな。アストにも送別の式典などは控えるように伝えたよ」


 それは騒動の一因を作ったシンマの王女さまの行動も、帝国側は不問にするという宣言に等しい。


 この皇子様、先輩の事が本当に好きなのね。わたしなら容赦なく賠償求めて絞り取って、叩き潰すもの。


「……オマエの方が非道の君主に向いてそうじゃな」


 わたしにしか聞こえない声でフレミールが呟く。馬鹿ね、わたしがそうやって悪逆非道な立場にいないと、皇子様が泣くでしょ。


 シンマの王女様はその点はタフよね。自分のやった事など全て棚上げだもの。あれこそ悪女の鑑よ。をたしも見習いたいくらいだわ。


「おらには難しいだよ」


 ノヴェルはいいのよ。シンマの悪役王女さまや変態の先輩みたいにならずにいてほしい。あなたは純真無垢な聖王女でいるのよ。ヘレナとノヴェルには、先輩やメネスの闇に侵食されないように守るから。


「貴様、人の話しを聞け!」


 おっと、皇子様の事なんて心底どうでもいいから忘れかけていたわよ。本当にさっさと帝国に帰りなさいよね。


「まあよい。お前がそういうやつなのはわかった。とにかく俺達は帝国へ帰る。お前もついて来い」


 なんか皇子様がバカな事を言い出したよ。先輩の呪いかしら。貴方、先輩が好き好きって、わたしを虐めていたの忘れたの?


「正妃は無理だが側室の筆頭に置いてやる。飾りの正妃と違って実質、俺の一番の女と言う事だ」


 本当に貴族の思考はどうなってるのかしら。にこやかに寝言をほざくのを聞かされている気分だわ。死霊術師に、実は脳みそだけ不死者化されたのかしら。


「……質問いいかしらね」


 口答えしただけで暴行されていたので、普通に会話する事が出来るのも何だか気味が悪い。王女さまと違ってわかりやすい性格だと思ったのは、勘違いだったようね。


「構わん、言ってみろ」


 この男、攻め方を変えたのかもしれない。肉体的なダメージより、精神的なダメージの方が効くものね。ただの言葉や表情は魔法でも防げないから、実際に攻撃手段としてはかなり有効よね。


「アスト先輩の事はどうなったんですか? あと庶民でもわたしはロブルタ王国の民。勝手に連れて行けませんよ」


 皇子様の言い分は貴族の思考で、自国の民を自分のもの扱いする輩だよね。その理屈には言いたい事は別にあるけれど、それは後にしよう。


 その貴族の論理を押し付けるならば、他国の人間であるわたしは貴方のものではないわけよね。


 力のない庶民ではあるけれど、国というか住まう地域の領主を通して住民は登録を行っている。ようは契約みたいなものね。


「アストは俺が帝国を継ぎ、あいつがこの国を継いだ時に結婚すればいいだろう」


 先輩を諦めたわけじゃないんだ。てか、なら一途であれって言いたいわ。立場上、そうもいかないのか。


「それなら先輩と、仲良く楽しく明るい帝国の未来の為に頑張ってくださいませ」


 ぺこりと皇子様にお辞儀をして帰ろうとすると、側近に阻まれた。


「アストが俺のものになる以上、この国は俺のものになるのと同義だ。お前を先行して連れてゆくのに、何も問題はない」


 うわぁ、屁理屈こねて得意になってる。前言撤回しまくりよ。こいつ最低の皇族よ。王女さまより格上だったわ。貴族の横暴を特権と思っている典型的なやつよね。


「わたしの事はお嫌いだったはずではないのですか。殺すつもりで蹴って、殴ってましたよね」


 いまも、対皇子用に風樽君を増量して身を守っている。ノヴェルだって、わたしを一人にさせないように引っ付いてくれていて頼もしい。ノヴェルは様子が変わったのを察して、魔法を発動している。フレミールも不用意に近づく側近を、無言で威圧してくれた。


「あぁ、確かに嫌いだ。庶民はともかく、無駄に頭がいい女というのは、常に騒乱の種だからな。頭が悪くても、従順なのが一番だ」


 意外と口にするほど、身分については気にしてないのね。頭が悪い方が良いというのは、庶民にはわからない視点だと感心したわ。


 皇族なので、お国の事を考えての好みでもあるようね。それなら尚更おかしい。


 わたしのような女は、争いの火種をわざわざ持ち帰るようなものだから。魔法学園に入ってからの騒動で、ついに建物をぶっ壊した女にされたもの。


 壊したのわたしじゃないのよ。メガネ男子の仕業なのに。だからまあ関係なくはないのだけど、被害者なんだから責任はないはずよ。おじいちゃん先生のおかげか、退学にならずに済んでいるのが現状だった。


「性分的にも体格的にも好みではないはずなのだが、悪夢をみるうちに、本当はお前が気になって仕方ないのかもしれないと考えるようになったのだ」


 ……悪夢? あの何の役にも立たない悪夢製造機の怨霊君のせい??


 意味がわからないわね。この皇子様、悪夢に見るほどわたしが恐ろしく嫌いなのに、どういう思考をしたらそうなるわけ?


 ────怨霊君、わたしのもとへおかえり。ヘレナにまた手を出して痛めつけるなら、今度は直接皇子の鼻に護臭気君(ヘドロヌーバー)を押し込んでやるんだから。


 先輩の予言というか忠告通りになった。貴族達の頭はみんな腐っているのかも。脳が腐って生まれるから気付かないのね。理解したくないので、二度とわたしの前に来ないで欲しいわ。


「フレミール、皇子様と周りの護衛の抵抗力を奪って」


 なにをする気なのか面白そうに見ていたフレミールが、火竜の魔力であたりを拘束した。わたしは身動きの出来ない皇子様の前に来ると、全力で頬を平手打ちした。


 バチ────ンッ!


 我ながらいい叩き方が出来たわ。でも残念な事に、手首を痛めたかもしれない。フレミールの魔法の拘束の力で皇子様の首が固まって、力が逃げなかった。石像を平手打ちしたようなものだ。


 わたしが平手で叩く衝撃に、わたしの手首が負けた。どんだけ脆いのよ……わたし。


「これで悪夢から冷めたはずだから、国に返ってひとまず落ち着いて考えなさいな」


 下手に刺激すると、こうした変態は燃える────それは先輩で学習済みだ。あと、怨霊君のことがあったので上手く誤魔化されて欲しいわ。


「わかった。君の言う通りにしよう。だが、この愛情が本物だとわかれば、有無を言わせず迎えに行くぞ」


 うひぅ〜〜、どんな罰よ。寒気と怖気が背中どころか全身に走ったわ。ひっぱたいたのに怒るどころか、気持ち悪い言葉を吐き出した。怨霊君に人格改変機能はないはずよ。ないよね?


 でも、一応引いてくれる事になったので、あとは放置で構わないわよね。


 どうせ二度と会うつもりもないので、今までの迷惑料や治療費をたっぷりとふんだくっておいた。


 ──やったわよ、ヘレナ。あなたの分も分捕ったから美味しいものでも食べて、皇子様の反省の気持ちを昇華してあげましょう。


 不気味な皇子様の怖いくらいの変貌ぶりや、理解し難い強烈な性癖を見せられた。でも高額の賠償を勝ち取れた為に、わたしは皇子同様に、怨霊君を憑けていた側近の術師の事はすっかり忘れていた。


 それと、皇子様の色恋沙汰の後始末を先輩に押し付けようとしたのが、美声君から伝わっていたみたいだ。帰った後に、首を狩られながら、ずっと張り付かれネチネチ文句を言われ続けた。


 真っ先に面倒事をわたしに押し付けて逃げた事は、すっかり忘れてるらしい。だから王族は信用出来ないよね。


 何故かみんなからは、わたし(おまえ)が言うなと口を揃えて言われた。

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