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錬生術師、星を造る 【完結済】  作者: モモル24号
第1章 ロブルタ王立魔法学園編
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第85話 学園迷宮 ⑥ 見方が変わると表現も変わるもの

「逃げた死霊術師はどうするのさ?」


 バラバラに探索して襲われる危険を避けるため、先輩やエルミィ達には結界破壊中もまとまって行動してもらって来ていた。その時に敵の位置をあぶり出して、把握するための行動を頼んでいた。


「シェリハ、糸は?」


 あえて弱い不死者系の魔物は倒さず、シェリハに糸で目印をつけてもらったのだ。まあ術師の所に戻るかと言うと無理だ。でも命令の遂行の形態から、死霊術師のおおよその位置を探れる。


 普段は泣いてばかりのメネスが探索者(シーカー)としての能力を発揮して見つけてくれるはずだ。


「え〜と······あの、ないよ、そんな能力。あれば隠し通路だってわかったはずでしょ」


「……嘘でしょ、ないの?」


 まあ、知っていたけどね。メネス用に探査の瞳(シーカー・ビジョン)でも開発するかな。エルミィの眼鏡につけてもいいかも。


「カルミア、まずいぞ。死霊術師が逃げ切れないとわかってキレた」


 先輩をわたしたちの元へ送ったあとに、ティアマトが騒動を起こした死霊術師の匂いを追っていた。単独行動は危険だと言ったのに。


 襲撃を受けた時は即戻るように先輩が許可したそうだ。狙いはティアマトではないので正しい判断。でも先輩は的にされている自覚をもってほしいわね。


 シェリハが範囲を狭めたので、ティアマトも追跡が容易だった。隠れても誤魔化しきれないくらい、あの娘の感覚は鋭いから。


「────嘘でしょ。あれってデカブツの、骨の魔物?」


 先輩を通して王宮に収めた巨大牛人(アルデバラン)の骨。それを使って不死者化したらしいわね。王子達を使って盗んだんだわ。自分が巨大生物の核となる事で足りない魔力を補っている。


 狙いはわたしたちだ。地上から飛び跳ねて来て、衝撃で足元が崩れるのも構わず、スコルとハティを殺して、力を奪う。


「──肉体が再生した?」


 二体の強力な魔物を喰らい、術師ごとデカブツの胸部は肉に埋まっていった。全部を肉体にするのではなく、剥き出しの弱点を守るだけだったみたいね。


 今の衝撃で、生死不明の王子達と拘束されたままのメガネ男子、それに気を失ったままの王女さまが階下へ落ちた。


「あれが、あいつの切り札だったようね」


 デカブツは基本的に骨だけだからか、ダンジョンの時より速い。建物は壊されたけれど、重量は本物の半分以下だ。


「ティアマト、下に落ちたメガネ男子と王女さまを拾って離脱して」


 伝声で伝えると、ティアマトからわかった、と返事が来る。


「フレミール、あれってあなたやっつけられるの?」


 力に酔いしれて無駄な破壊を繰り返す巨大牛骨(アルデバラン・ボーン)は、転がって来た王子二人も吸収した。


「被害を厭わぬのなら、片付けるのは容易い」


 フレミールは先輩を見た。先輩は頷く。


「ならば消し炭と化してやろうぞ」


 どうするのか見ものだったけど、竜化はせずに魔力だけでデカブツの動きを止めて──ゲロった。人型でもドラゴンの強力なブレスにより、巨大牛骨(アルデバラン・ボーン)は建物ごと掻き消された。


「────オマエ、ワレの見せ場に酷い表現をするな!」


 本人はカッコいいつもりだけど、紅髪の美人が巨大牛人の骨に向かって口からブレスを吐くさまは、現実離れしていて気持ち悪いわよね。


 人と竜の価値観の違いにフレミールが泣いている。スマイリー君は今はいないのよ。泣くなら先輩に黒パンを借りておいてね。


 そのフレミールのおかげで、貴族魔術科の建物ごと魔物は倒された。解放された先生方が、駆けつけ惨状を目の当たりにして悲鳴をあげていた。


 あいつは死霊術師の魔力が尽きるまで暴れ、生命を喰らう度に強くなっていたと思う。


「証言出来るものが減ったね。このままだと君のせいにされるだけだから、メガネ君の喉も潰すのかい?」


 ニヤッと笑う先輩。それならデカブツと一緒に始末してたわよ。


 王女さまはともかく、メガネ男子は王子である先輩に欲情した事実を打ち消したかっただけだ。騒ぎには自分の意思で加担したから、罪を認め裁かれる事は受入れるはずよ。



 実際に処刑されるまで、メガネ男子はその事、先輩への欲情だけは否定し、あとの罪は全て認めて話していた。しつこく、わたしの話に耳を貸すなと連呼していた。


 王女さまはと言うと、無言を貫いた。黙ってさえいれば、メガネ男子に全ての罪を被せられて終わる。悪女らしく、したたかで賢い選択だと思うわ。


「いや、王女さまは君に喉と鼻を痛めつけられて、まともに話せないだけだと思うよ」


 眼鏡エルフが鋭い指摘を入れて来たけど、そんなの治療ですぐ治せるもの。近寄り難い臭気とあわせて、シンマの王女さまは結局お咎めなしになった。


 ……臭いものには蓋をするって、異界の言葉だったかしら。肌に染み付いた臭いまでは、簡単に取れないのよね。


「兄上達は力を吸いつくされて、干からびた姿で亡骸が見つかったよ」


 ロブルタの王子達はフレミールのブレスには巻き込まれず、哀れな遺体となって瓦礫の中から見つかったそうだ。力を吸収され尽くして枯れ葉のようになっていたそうだ。


 本来ここにはいないはずの人物達だ。メガネ男子の証言と合わせ、死してなお罪状が問われた。そして彼と一緒に刑罰を受けて最期は火葬された。


「先輩……これで跡継ぎ確定じゃないですか。皇子も引かざるを得ないですよね」


 帝国の皇子は、騒動に巻き込まれずに済んだ。側近達も全員無事だったようね。首謀者がシンマの王女さまだと勘づいていても、とくに異を唱える事はなかった。そうした姿は帝国の皇子らしい対応ね。あちらとしても現状、都合いいからだろう。


 ロブルタ王国の派閥争いの、根本的な原因は王子達だ。二人が亡くなった今、皇子や王女さまたちも、留学生として滞在する理由はなくなった。荷物をまとめてそのうち帰るのだろう。


「君は頭は良いのに、たまに馬鹿になるし鈍いのだな。とっくに彼の興味は僕から君へと変わっているよ」


「はぁ? 先輩こそ頭がおかしくなったんじゃないですか。殺しかねない蹴りを見舞っておいて、惚れたぜって、ただの頭のおかしい狂人ですよ」


「そうかね。王侯貴族なんて狂人ばかりだから、自分のやった事などコロッと忘れていると思うぞ」


 先輩、嫌な持論を述べないでください。王族が言うと説得力があるわね。それに先輩見ているとあり得る話だとわかるのが怖いわ。この人も、一度わたしを殺すつもりで騒動起こした前科あるから。


 人の不幸を見て、愉快そうに笑うメネスが視界に入りムカつく。笑ってるけど、あなたはギルマスたちを強制的に動かして、結果的に学園の惨事の対応を遅らせた罪でギルドからの糾弾が待ってるわよ。


 言っておくけど、先輩はこういう人なの知ってるなら助けはないわよ?


 たちまち不安そうに涙目になるメネスには黒パンを渡しておいた。それを被って泣いていれば、多分ギルド職員達も優しい人たちになるわ。誰でも病んだ同僚には、恨まれたくないものだから。


 王子達の企みによる騒動によって、学校の授業はしばらく休止となった。もうすぐ長期休暇の時期なので、校舎の復旧とあわせて休暇時期は早まりそうだ。

 

 授業はないにせよ、学習したいものは復旧作業の邪魔にならない本館などで自習するのは許可されていた。


 わたしとしては、管理のおじさんに素材を頼んでいるので閉鎖されずに済むのは助かるわ。


 騒動の後、わたしはやらなければならない錬金道具づくりに励む。先輩は王宮で事後処理に忙しい。ルーネはそのまま、シェリハとメネスに代わって、ティアマトを護衛に連れて行かせた。


 メネスは冒険者ギルドから呼び出しを受けて、本当に黒パンを被って出かけた。メネスが言うには、黒パンには先輩の王家パワーが籠もっているんだとか。


 先輩がそれを聞いて自分が匂うのかと本気で心配していたから、他人に喋るのは止めてあげてね。まあメネスも良識はあるから、首をかけてまでベラベラ話さないか。


「良識があるなら、パンツを被って往来を歩いていかないと思うよ」


 ヘレナがボソッとつぶやく。ノヴェルとフレミールはわたしの錬金道具づくりを手伝わせていた。


 ヘレナも新しいおやつの開発をしていたので、出来上がる度に二人に試食を頼んでいたのだ。


 エルミィにはお兄さんの所に行って、わたしの頼んだ素材の確認をしてもらっていた。ついでに、管理のおじさんの方にも顔を出してもらう。


 なんか久しぶりにほのぼのした日常を過ごせると思ったのに、嫌な呼び出しがかかる。先輩め、早々に王宮に逃げたのは、このせいか。


 わたし達の寮にやって来たのは皇子の側近で、帝国への帰還前に話したい事があるそうだ。

 

 めちゃくちゃ嫌な予感しかしないので、ヘレナには留守番を頼む。わたしは、ノヴェルとフレミールに一緒について来てもらい皇子のいる寮の部屋に向かった。

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