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錬生術師、星を造る 【完結済】  作者: モモル24号
第1章 ロブルタ王立魔法学園編
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第84話 学園迷宮 ⑤ 認識はあった模様

 認識されていないことが不愉快なのか、男は胸のポケットから何かを取り出した。魔道具か、と思いきや装着したのは眼鏡だった。


「あれ、メガネ男子君じゃない。生きてたの?」


 メガネ男子君が眼鏡をしていなければ、ただの人。わかるわけないじゃないの。


「なんだその名称は。お前のせいであらぬ疑いをかけられたんだ。投獄された後、恨みを晴らす機会を待っていたんだ」


 なんか勝手に怒り出したけど、知らないわよ。


「疑いも何も、事件の首謀者として自白したんでしょうが」


 わけのわからない逆恨みはともかく、召喚獣を呼び出したのはメガネ男子で間違いなさそうね。迷惑な。


「事件の疑いじゃない。王子に欲情したとかお前が抜かしたせいで俺は……」


「先輩が、好きなんでしょ? なら間違いじゃないわよね」


 相変わらず面倒臭いわね。眼鏡かけると、小理屈並べるようになるわけじゃないでしょうに。マンドラゴラの件といい今回の件といい、派手に暴れないと告白一つ出来ないのも考えものよね。


 でも今回は犠牲者がかなり出ているようだし、やったのが別の術師でも処刑される。性癖を拗らせたのが運の尽き。このメガネ男子も哀れな末路よね。


「だからその勘違いを止めろ!!」


 怒るメガネ男子が召喚獣をけしかけた。召喚術師として実力がかなり上がっていて、このワンコ一体分なら長い間の制御も出来たわけね。


 でも二体同時に命令をすると魔力の消耗が激しい上に、大雑把な命令しか出来なくなる。だから護臭気君(ヘドロヌーバー)がかわせない。


 ヘレナとわたしがそれぞれその臭い玉を投げつけると、スコルとハティの顔にぶつかり割れて貼り付く。


 たちまち臭気が広がる。臭いに襲われたメガネ男子と、動けない王女さまがえずきだし、涙を浮かべる。建物が壊されていたので、対象以外への効果は半減した。


 わたしの守りにヘレナが戻り、ノヴェルとフレミールがワンコ達を魔法で拘束する。この二人には魔法の弱体化は無意味ね。


 先輩たちも結界を見つけ壊して回ってくれたので、じき騒ぎも収まりそうだわ。


「さあて、あれを顔面にぶち込まれたくなかったら、どうなってるのか説明しなさい」


 メガネ男子はわたしと同じで、体力はそんなにない。あっさりヘレナが拘束して、魔力縄で縛り付ける。さらに落ちてた王子達のマントでぐるぐるに巻いた。


 メガネ男子は王宮の地下の牢屋に投獄されていた所を、王子達に助けられたという。


「シンマの王女が策略に使える召喚術師を探していて、僕が選ばれた。召喚魔法を使える術師自体が少ないからな。お前を殺してアスト王子を脅すとなると、それなりの力量がないと勝てないわけだよ」


 力量云々関係なく、悶え苦しむ魔物を無言で見るメガネ男子。ルーネの時も今も、メガネ男子としては納得いかない展開だったのかしら。


「つまりよ、王女さまの企みを知った黒幕が王子達を唆して貴方を使ったわけね。わたしと王女さまと、先輩を一網打尽にしつつ、バカ王子二人と貴方を始末して証拠や魂を回収して帰ろうとしたのか」


 二体の魔物は、メガネ男子が扱うには強力過ぎる召喚獣だ。それが、今までずっと召喚を維持していたのがおかしいと思ったのよね。


 何より、先生方がいない。おじいちゃん先生とか、エルミオ先生とか結構優秀な魔法使いなのよ。


「アストとやらが合流すれば、姿を見せるようじゃな」


 フレミールが余裕そうに笑った。あちらの誤算は、わたしが生きていた事と、なんだか得体の知れない冒険者風の者を連れて来たことね。こんなの来られたら、わたしなら即退散するわ。


 猫と竜は気まぐれで動くって言うものね。実際に遭遇すると、本当に迷惑よね。フレミールの気まぐれのせいで、きっと勝利を確信していただろう死霊術師達の計画は、全て水の泡に消えただろうから。残されたのは拘束されたメガネ男子と地べたに這いつくばる王女さま。


 なんかわたしに、わざとやりやがってぇ、などと呪詛を吐いている。あなたをやったのは、そこのメガネ男子でしょうが。


 メガネ男子を無力化しても、王女さまは動けない。四つん這いの呪いはまた別な術師の仕業かしら。


 時間稼ぎをさせていたのは、被害者を増やすためだったと思う。でも、途中でやばいやつがいるのに気づいたようね。


 犠牲になった生徒の魂を回収すれば、容赦なくブレスを吐きそうだもの。強力なんだけど、人型だと嘔吐みたいで絵面的に嫌よね。


「オマエ‥‥ワレでも傷つくのだぞ」


 恨みがましい目でフレミールに睨まれた。先輩来るまで暇なんだもの、かまってくれてもいいじゃない。


「やれやれ、だね。僕の在学中に派手にやらかしてくれたよ」


 エルミィ達を連れて、先輩がやって来た。結界は全部壊して、先生方も解放したそうだ。


「僕の兄さんたちまで巻き込んで、それほど僕が憎かったのかい」


 さすが先輩、黒幕の一人には検討がついていたのね。庶民で貴族と関わりのないわたしよりも、身内だから詳しいわけね。でもお兄さん達と違って、先輩もこの人とは別に血が繋がっているわけじゃないのよね。


「それでシンマの王女を乗っ取りきれずにそんな体たらくで、どうするつもりですか御義母(元王妃)樣」


 王女さまがわたしに対して暴力的なのは、元王妃に乗っ取られていたから──なわけないじゃないと思いたいわね。


 王女さまのわたしへ向ける憎悪が、先輩への憎悪を持つ元王妃様を引き寄せただけで、王女さま自身の性格の悪さは元からなのよね。


 元王妃様にとっては、先輩を助ける行動を取ってばかりのわたしがムカつくってことだ。執拗に殴って来たのも、たまたま同じ感情を持つ王女さまと心理的な利害の一致した結果なのね。


 ややこしいというか、複雑な目的になったのはそのせいね。メガネ男子も絡んでるせいで余計に面倒になった。


 逃げた黒幕を含めて全員がわたしを殺すのは一致しているから、最初の計画がうまくいったようだ。偶然なのかしらね、悪意の結束って。なんか凄くムカムカしてきた。


「────悪霊退散!!」


 バスっと音が鳴って、私のぶつけた護臭気君(ヘドロヌーバー)が王女さまの顔面を覆う。あっ、ちゃんと気道は確保したから死なないわよ……たぶん。


 王女さまと、彼女と感覚を共有している元王妃様が動けず固まったまま、転がりだせずに悶える。憑依とか呪いの解呪って難しいわね。


「何をしているんだ、君は」


 わたしの行動に、先輩が呆れたように見る。


「殺されかけたからね、遅まきながら反撃をしておこうかと思ったのよ」


「思うも何も行動に出てるみたいだが。まあ、この際存分にやりたまえ」


 先輩ってこういう時は話が早くて助かるわ。王女さまが、えっ待って、って言っている。


 あなたの身体に元王妃様が憑いたままだと、国際的に面倒臭いのよ。だから腹いせも兼ねて、王女さまの身体から追い出してあげるのよ。わたしの行動に対して、メネスが非常にいい顔していた。


 改良はしていなくても、対人相手に充分使えた特製辛苦粉(スパイス)を王女さまの口に放り込む。鼻が臭いで鈍感になっても効果は充分あるようね。


「ガ‥‥がるビあこ、ごロズ……」


 たまらなくなって、元王妃様の邪霊は王女さまの身体から逃げ出す。感覚共有率が高いせいで、かなり苦しかったようね。


 残された王女さまは鼻と口から色々吐き出して白目を向いていた。四つん這いの呪いからも解放されたみたいで、良かったわね。


「おのれ、愚民の分際で邪魔ばかりしおって」


 邪魔も何も元王妃様はごく最近死霊化させられて、王女さまに取り憑いたんでしょうに。


 ちょうどいい位置にいたので風樽君をぶつける。わたしの扱う招霊君達は実体のない霊。


 ──なんか、やたらとこの国には魂をからっぽにされた霊体が多いのよ。わたしが道具を作ると喜んで協力してくれるのだ。


「先輩、元王妃様の邪霊、風樽君で捕まえたよ」


 意志あるものに、飢えた招霊君が邪霊をがっつり捕まえ同化した。魔晶石化したのはいいけど、これ魔晶石かしらね?


「なんか凄い毒々しくて、禍々しい魔晶石になったわ」


 肉の腐った色に(カビ)が生えたような腐臭が、今にも漂いそうな色だ。護臭気君(ヘドロヌーバー)とは別の視覚に訴えてくる臭気ね。

 

「それ、持って帰るの?」


 ヘレナが気色悪そうに言う。たしかに臭いそうよね。護臭気君(ヘドロヌーバー)対策のマスクで、今のわたしたちは臭いがあまりわからないのよね。


「このままは確かに嫌よね。なんかうるさいし」


 わたしは先輩へ手を差し出した。さすがの先輩も、少し嫌そうな顔でポケットから黒い布を取り出した。先輩の予備の黒パンだ。


 先輩専用なので、逆に先輩の事が嫌いな元王妃様入りの魔晶石には、拷問に値する包みになる。すごく騒いで苦しみ出したもの。


「おぉ、先輩の成分に包みこまれて、漏れ出た邪気が吸収されるわ」


 魔晶石が勝手に邪気を吸い、邪な魔力を貯める。でも先輩への拒絶反応で溜まった魔力が別の魔晶石を生み出す。禍々しいのに、簡易浄化装着のようになっていて面白いわ。


「それはもういらないから、新しいのを作ってくれたまえよ」


 わたしの錬金魔術師生活から、毛生え薬とパンツ作りはなかなか外す事が出来ないように、世の中に組み込まれているかのようだった。いやな仕組みね。


「ひとまず先輩のパンツのおかげで、元王妃様の死霊は封印出来たみたい。この魔晶石を美声君に組み込めば、一応伝声君で声が拾えるわ」


 怨霊君へ設置すれば凄く攻撃力が上がりそうね。でも十中十の確率でわたしを攻撃しそうだ。


「その言い方は、不当に僕を変態にしようとする意図を感じて不本意なのだが」


 先輩が細かい事を気にする。悪いのは元王妃様で、先輩が臭いわけではないし、臭いのが好きでもないのはわかっているわよ。


「設置する時は、絶対にみんなに伝えようね」


 ヘレナが冷めた目でわたしを見る。ヘレナの言う事はわかるわよ。この世には絶対なんてないって言いたいのよね。わたしに任せて。有効活用するから。


 それにしても先輩はちゃんと自分が変態的な行動に見られているという認識は持っていたのね。今回の事件で一番驚いたわ。

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