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錬生術師、星を造る 【完結済】  作者: モモル24号
第1章 ロブルタ王立魔法学園編
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第83話 学園迷宮 ④ 知らない男が何故か報復していた

 わたしたちが寮へ戻ると、廊下から騒ぎの声が聞こえてきた。


「ティアマト、ついてきて」


 エルミィがティアマトと情報収集に出る。わたしは急いで自分の装備を換装し直しす。


「メネスとルーネとシェリハは先輩から絶対に離れないこと。助けを呼ばれても無視よ無視。いいね」


 先輩たちには耐火用フード付きマントを頭から被せた。王国がいよいよ崩壊した時って、そこら中が火の海に包まれていると想像して用意していたのよね。耐火用って、防雨用にもなるからいいわよね。


 フレミールがいるので、性能をもっと上げられる気がする。今は顔を隠すためなので、改良は後にしないとね。


「メネス、あなたにはこれを渡しておくわ」


 獣が大嫌いな臭いを発する護臭気君(ヘドロヌーバー)だ。魔物の顔に投げつけて張り付かせれば、きっと悶え苦しみ戦意を失うわ。


 メネスが凄く嫌そうな、悲しい瞳を向けた。あなたの古傷を抉ろうが、先輩の生命を守るのが最優先だわ。それにあなたたちの生命も。


 先輩たちには、ちゃんと鼻栓も渡す。その涙は回収まで無駄に流さないでほしいわね。


「ヘレナとノヴェルはわたしとフレミールと一緒に行くわよ」


 確実に学園で騒動が起きている。だとするとあのワンコどもが、わたしや先輩を狙う確率は残されていた。


「固まって、両方に来られるとまずいから離れます。先輩は戻って来たエルミィとティアマトに付かせます。必ずみんなで一緒に行動してくださいね」


 危機になれば、伝声で連絡をし合うよことにしている。フレミールの実力は未知数なのに、先輩たちはわたしたちを任せて良いと判断したみたいだ。


「君も狙われているんだ。気をつけたまえよ」


 すでに狙われて、やらかして迷惑かけてますけどね。


 偵察に出たエルミィたちが戻り、寮内はまだ無事だとわかった。二匹の強力な魔物に加え、呼び出された狼の眷属達が学園内で暴れまわっているようだ。


 わたしたちは二手に分かれて行動を開始する。学園内の建物は古い。でも強化が施されていて、あれでも頑丈だ。それに先生方が結界で食い止めているはずだもの。


「オマエの見立て通りじゃな。もう一つの可能性が決行されたようじゃぞ」


 この竜、美声君なしに心を読むから嫌いだわ。先輩に動揺が伝わったらバレるじゃないのよ。


「バカめ。アストなる娘はオマエと同じく、兄たちの末期を想定しておったわ」


 せっかく核心的な事を言わず、わたしが黙っていたのに。余計な種明かしを得意気にするフレミーの鼻に、護臭気君(ヘドロヌーバー)を塗りつけてやろうかしら。


 フレミールがわたしの考えを読んで情けない表情をした。賢いのはわかった。でもね、賢しさはひけらかすと駄目なのが人の社会なのよ。


「オマエ……性格が悪いのう」


 ぬっふっふっ〜、魔力がいかにあろうと、臭いのと気持ち悪いのは防げまい。知覚遮断したって、想像力は遮断出来ないものね。


「二人共、遊んでないで。来るよ」


 うぇぇ、臭い話しをしていたせいで腐月狼(グールフ)の群れに囲まれたわ。


「オマエはワレらの真ん中におれば良い」


「おら、カルミアを守るだよ」


 新参のフレミールにいきなり邪魔者扱いされたわ。そして、久々のノヴェルのフンスッはかわいい。


 ────────って、あっという間に魔物の退治完了。ヘレナとフレミールの炎の力が強い。相性が良すぎよね。魔法の制御もうまく、学校が燃えないように出力を抑えていた。


「ねぇ、フレミール。召喚獣って死霊術なんて使う?」


 腐月狼(グールフ)なんて、普通の召喚士は呼べないはず。


「ワレにもわからんが、魔法を使えるなら使えるじゃろ」


 まあ、そうなんだけどさ。召喚士が呼ぶ必要ないから使わないだけ。使わない理由は同レベルの生きた魔物の方が能力は高いからだ。


 ただ、人だろうと獣だろうと何を呼ぶかなんて好みによるわよね。


 それにしてもなんなのよ、この複雑な黒幕連鎖は。シンマの王女が発端として、それを利用した王子達に、彼らを使い捨てにした別の術師まで混じってる。


 そうでなければ、真っ先に呼ばれた二体のスコルとハティがわたしと先輩を襲うはずだから。


「ヘレナ、魔晶石はいいから燃やしちゃって。放置するとこいつらは復活するから」

 

 腐月狼(グールフ)の面倒なのはそれだ。一旦死んだ時に処置をしないと復活する不死性を持つ。


 臭気が立ち込めるので鼻栓がわりのマスクをつける。毒対策でもある。メネスが泣くと面倒だから先輩たちにも用意しておいて正解だったわね。


 もともとはわたしの作った護臭気君(ヘドロヌーバー)対策だったけど、それは言わない約束ってやつね。

 

 先輩達も狂月狼(ムーンリヒトルフ)の群れにいきなり出くわしたようだ。シェリハが糸を絡め動きをうまく弱め、ティアマトとエルミィで対処出来たみたいで良かった。


「魔物はなるべく無視。仮にも魔法学園だもの。不意さえ付かれなければ、耐えるくらい出来るでしょ」


 学園に張られている結界の強度はわからない。ここに閉じ込められているうちに、操る術師や二体の魔物は仕留めたい。先生方も向かってると思うから加勢する。


「カルミア、結界壊すだよ」


 ノヴェルが違和感に気づいた。ティアマトも守りの結界を利用した匂いを感じたと報告が来た。


「学園と寮を弱体化させる魔法が、結界の内側から貼り付ける形で展開されておるな」


 それはそうか。魔法を得意とする学校に喧嘩を売るのなら、あらかじめ得意な魔法は封じるなり弱めるなりする。マンドラゴラの騒ぎを見る限り、まともに戦える生徒は少ないと思う。


『しっかりしたまえ。どのみち右往左往しても間に合わない。僕は弱体化させる結界を壊しに向かう。キミ達は術師を狙いたまえ』


 先輩から叱咤の伝声が入る。いつも煩いエルミィの助言もありがたいわね。


 敵は冒険者ギルドや王宮から援軍が来ないうちに、結界内の講師や生徒から魂を刈るつもりね。不死者の魔物が多いのも、そのためだ。


「頼もしい先輩よね」


 非道と取られるかもしれない。でも混乱している寮生達を助けに行くにしても、男子寮と女子寮がある。わたしたちが二手に分かれて助けに行ったとして、誰がわたしたちの事を信頼する?


 先輩の方は大人しく言う事を聞いてくれると思う。でもわたしは助けに来たのに罵声を浴びる自信があるわ。いちいち説明して、信頼を得てから助けて回っている間に被害は絶望的に拡大する。


 つまり行くだけ無駄。いざ危機になって助けてあげて、ありがとう今まで誤解していたわ、ごめんなさいって展開を誰が欲しがる?


「カルミア、自分の妄想で毒を吐かないでよ」


 移動中に邪気を漏らしまくっているのに、ヘレナもノヴェルも天使かっ、ていうくらいわたしに引っ付く。


 フレミールはめちゃくちゃ嫌そうな顔をする。あなたが自分で取り引きを持ちかけたんだから、受け入れなさいよね。


「オマエ達は、いつもこんな緊張感なく戦いに赴くのか」


 フレミールの、もの凄い渋面顔。人化した姿は美人のお姉さんなのに。


「そうよ」


「違うよ、カルミアだけだよ」


「おらもそう思うだよ」


 天使な二人に速攻で見放された。いや、ノヴェルはどっちかよくわからないわね。


「まあ良い。あの通路を渡った先が魔力の集まりが強い」


 フレミールが示したのは貴族魔術科のある建物だ。いやフレミールじゃなくても一目瞭然ね。廊下の先は建物の屋根が吹き飛んだのかなくなっているもの。


 貴族魔術科の教室の玉座を模した椅子に、やつれて青白い不健康な表情の男が座っている。背後には最初に見た時より大きく育ったワンコと、もう一匹のワンコが忠犬のように控えている。


 男の足台がわりにシンマの王女が丸まっている。とりあえず生きているようね。豪華な制服はボロボロの血まみれだ。打ち捨てられたように倒れている二人のハゲは、きっと王子達だろう。


 わたしたちが来ると、男はニヤリと笑った。なによ、その同好の士を見るような気持ちの悪い笑い方。わたしには裸同然の女の子を足蹴にする趣味はないわよ。


「違うと思うよ」


 ヘレナが構えつつ、わたしの考えを否定した。違うの?


「久しぶりだな貧民。どうやって逃げたのかわからないが、この女の浅知恵では死なんと思っていたよ」


 評価が高いのはいいけれど、浅くはないわよ。監禁場所がダンジョン以外なら詰んでいたもの。むしろわたし以外なら思惑通りに進んだはずよ。


 よく知らない他所の国の学校で、あの短期間で思いついたのだから、王女さまの才能は高いと思うわよ。


 ニヤつきながら、弱っている王女に蹴りを入れる男。四つん這いで足台にされるのを強制されているのか、王女さまはグフッと息を吐く。肋骨が折れそうな強さなのに、王女の姿勢はそのままだ。


 わたしが皇子に足蹴にされた時と違って、無防備な状態で固定化されているのね。だから痛いし苦しいと思う。でも呼吸はかろうじて出来ているようだわ。反抗の気力は残ってないみたい。


「わたしの代わりに王女さまに酷い目に合わせてくれるのは嬉しいわね。でもその前に、あなた誰よ」


「えっ?」


 男とヘレナと何故か気力のない王女さままでが反応した。あとフレミールまで。


「オマエ、少しは空気を読んで同情せんのか」


「違う、そうじゃない。お前は僕を覚えてないのか」


 ヘレナは呆れてるし、ノヴェルは……変わらない。王女さまは助けてもらえると思ったのか、口を陸にあがった半魚人(サハギン)みたいにパクパクさせていた。


 男は腹立ち紛れに王女さまをまた蹴る。呻く王女が悔しそうに何故かわたしを睨む。えっ、悪いのわたしなの?

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