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錬生術師、星を造る 【完結済】  作者: モモル24号
第1章 ロブルタ王立魔法学園編
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第82話 学園迷宮 ③ 突き刺さる······頭

 ダンジョンの深層‥‥その中の火山付近までやって来た。火口を上から見た時に、思ったほど大きく見えなかったのは随分高い位置に天井があるからだとわかった。


 あの高さでは、長いロープを使って降りるのも難しいわね。そう考えるとドヴェルガーたちの最初に掘った洞窟は有用に使えそう。


 わたしは人化した火竜のフレミールの魔法の力を借りて、仲間たちがやって来るという隠し通路へと飛んだ。


「ねぇ、フレミール。あなたはダンジョン深層に転送されたわたしを、助け出してくれた冒険者って形にしたいのよ。でもその服だと私と大差のない頭のおかしい人に見えるわ」


 フレミールの服は上の服が肩の露出し下は裾の広がるフレアスカートの一体型のワンピースドレスだ。魔力付与もなにもない、お洒落なだけの服。


 自分の髪の色と合わせた赤いドレスだけとか、良く人のことを言えたものだ。そうは言ってもドラゴンだし人族が服を着ると知って、服を用意して着ているだけでも偉いわね。


 フレミールはわたしの意図を察してくれた。拾い集めたという冒険者の装備から、胸当てや手甲や靴を選んで身につけ、槍を持った。これにわたしが付与を行い、上級冒険者っぽくしてみせた。 


「荷物はなくしたことにすればいいわよね。それにしても、いいの? ズルしたわたしたちを消さなくて」


 ダンジョンの番人役なのかしら。ただの気まぐれのようにも思うのよね。


『ドヴェルガー共はダンジョンからズルをして宝を持ち帰ったからの。成敗されても致し方なかろう』


 なんか、そういうものだって知っていたからやった感が強まったわね。


「わたしの記憶のドラゴンは、そこまで配慮しているように見えなかったわ。それにノヴェルはどうなるのかしら」


『もう、充分に禊は済んでおる。あれは大地の精霊にも愛された、稀有な魂じゃ』


 この竜……ノヴェル諸共一吹きで消しかけた事を忘れてるわよね。術師が守らなかったら稀有な存在も消えていたわよ。


『バカなやつよ。あの男の力で、ドヴェルクの娘を精霊化になど出来るわけなかろうが』


 そうか、それならわかるわ。いくら何でも魔力が違い過ぎるもの。術師がどんなに凄い人だったとしても、あのブレスを防ぎきる力はなかったように思う。フレミールが自分から結界を張らなければ、ノヴェルも消し飛んでしまったはずだから。


『意外かの? ワレはあの娘の唄う歌が好きなのじゃよ』


 それも納得出来る話だわ。わたしが放置しようとしたのは過去の話よ。この火竜が見ていたら危なかったわ。でも今はノヴェルなしの生活考えられないからね。


 フレミールと雑談しながら通路を進んで行くと、反対側から駆けてくる足音が響いて来た。ヘレナとノヴェルがわたしを見て、嬉しそうに駆け寄ってくる。


 そして興奮し──犬のように走り出し突進してくる。ちょっと待って。その勢い‥‥わたしに止められないの知っているでしょう?

 

「────ゴフッ」


 王女さまの手の者に拉致られてから、いままでで最大のダメージがわたしの腹部を襲った。二人が怪我をしないように、頭突きされる部分を風樽君で柔らかくガードしたのに、ダメージが浸透して来た。


 フレミールが倒れこむわたしの頭と腰にそっと手を添えたので助かった。あの勢いのまま倒れ込んで頭を打って、まさかの死亡にならずに済んだわ。意外と優しい火竜なのね。


「────バカバカッ、カルミアの大バカ!」


「隠し扉をみつけたのなら、そこへ入って待っていればよかったとボクは思うぞ」


「どうしてカルミアはアホな行動を望んでするのさ」


「おらカルミアが無事でよかっただよ」


「……本当に君は飽きないやつだな」


 ヘレナとノヴェルにしがみつかれ、先輩から首を固められ、ルーネがふよふよしながらわたしの頭を鉢植君でたたく。どうやらわたしの危機はまだ続くようだ。みんな一斉に話しかけるので、何がなんだかわからない。


 エルミィとティアマトの後ろにはメネスにシェリハまでいて、ガレオンの大きな身体と、探索者(シーカー)のタニアさんまでいた。


「‥‥よく、わたしが深層に行ったのがわかったわね」


 わたしがそう言うと、再び蜂の巣をつついたような騒ぎになる。失敗したわね、すごくうるさい。救出パーティの指揮をして来た先輩が、ひとまずわたしの首を片腕で締めながら、場を収める。


「ガレオンさんとタニアさんの二人には、秘密の共有は済ませた。その上で言うぞ。君は自分の言葉が我々に繋がっているのを忘れていたな」


 うん、忘れてたわね。でもさ、ダンジョンだし、離れすぎていたから通じていないかもしれなかったわけよね。


 助けに来ても、あのワンコに食われて終わりだもの。このメンバーなら勝てるか。


「それも踏まえて、じっとしていてくれれば動きようがあったと言っているのさ」


 ワンコは外にもいて、合計二匹いたみたいだ。魔法の制約や約束事で動けないのなら、エルミィが言うように、遠距離攻撃中心に仕留められた可能性はあった。


「だいたい、そんな格好でふらふらドラゴンに会いに行こうって頭がおかしいにも程があるよ」


 メネスが目に涙をためて苦笑いをした。わたしの考えが全部まる聞こえで、みんなハラハラしていたそうだ。


「そちらのフレミールさんが、私てちの接近に気づいて助けてくれようとしたのに、カルミア断わったよね」


 フレミールはわたしとのやり取りの間に、先輩たちに念話を使っていたんだ。なかなか出来る火竜だと再認識したわ。


 でも優秀でもうちの仲間たちを見てきたわたしにはわかる。あとで苦労するのはわたしだと。


「いや、だって地上へ連れて帰ったって、どうせわたしたちの所に居着くじゃない。そうすると、保護責任はわたしになるわよね」


 問題児ばかりなのに、面倒事の塊のようなのこれ以上増やしてたまるかって、普通は思って当たり前だ。それなのに、フレミールも含めて全員からため息が漏れた。


「こういう娘だけど、いいのかいフレミールさん」


「構わぬ。しばらくはワレが側におれば、この娘が死に近づく事はなかろう」


 先輩の問いに、フレミールは面白そうにわたしの頬をつねってニヤッと笑った。そこはみんなの真似をしなくてもいいから。ノリがいい人って順応性も高いわよね。


「無事だったのなら良かったが、後日直接説明をしてもらうぞ」


 ガレオンとタニアさんはある程度の話を、先輩やエルミィから聞いただけみたい。実際は意味がわからず混乱していた。


 まあ、深層から学生服姿で知らない冒険者とやって来られても、脳が見た情報を受け入れないよね。


 深く聴き込まないのはロブルタ王家とシンマ王家の諍いに、あまり深く関わりたくない防衛本能が働いている。そのあたり、流石ギルドマスターや主力の冒険者よね。


 

 地上へ戻るために、疲弊したわたしは大きく丈夫な布に乗せられて運ばれた。救出の際に怪我人や病人を運ぶためのもので、背負ったり棒で吊るしたりして運ぶのだ。


 ヘレナが作った果実たっぷりのパンと水をもらい、ゆらゆら揺られながら齧りつく。帰りの道中もみんなの文句が止まらないけれど、なんか泣いてない? 


 ……茶化したら叱られた。


「わたしはみんなのおかげで助かったけれど、地上は大丈夫なのかしら」


 みんなからスコルとハティという狼の魔物の話を聞いて、わたしは自分の仮説を述べた。


 その考え事をしている時は、先輩たちも準備に忙しく聞いてなかったみたいだ。


「魔狼の幼生体だとしても名のある狼の魔物ならば、よほど強力な召喚術師じゃないと、帰還に応じないこともあるのよね」


 わたしがフレミールにしつこく煽ったのも、魔物がいつ気まぐれに暴れるかわからないからだ。これだけ魔力と知性が高く人語も語れるドラゴンなので、今更暴れるような真似はしないのわかってるけどね。


 器用に声質をわたしを基にして変えたようで、冒険者の姉設定でいくつもりみたいね。


 わたしたちは【獣達の宴】の手前まで戻って来た。みんな寝てないので、順番に仮眠を取ることにする。


 念のためというか、どうせ今日は授業に出るのは無理だから、少しでも休んでおこうと話し合って決めた。わたしの予測なので外れてるかもしれないからね。


 エルミィがわたし用に装備を持って来てくれたのが嬉しい。やっぱ錬金道具がないと落ち着かないからね。


「いつも使ってそうなの持って来たよ。役に立つかは別だよね」


 眼鏡エルフはちょっと感謝するとすぐ調子に乗るんだから困るわね。でも耳飾りまで拾って来てくれたのね。


 感謝はするけど、謝らないよ。きっとエルミィも殴られたり蹴られたり大変だったはずだ。眼鏡が壊れてても気を使わせないように黙っているんだもの。


 眼鏡は帰って一休みしてから直してあげないとね。あと、協力してくれたガレオンに早いところ薬をあげて、タニアさんにはとうしようかしらね。


 色々と考えていると先輩から首を締められ「寝たまえ」 と怒られた。先輩の目尻に涙が浮かんでいたのを黙ってあげたのに、扱いが酷いわ。


 深層から上がってくるまでずっと揺られていただけ。でも装備の補助がないから、体力がない状態の探索でだいぶ消耗していたみたい。


「君はしっかり休みたまえよ。頭が働かないと、余計な事をしでかす」


 返す言葉もないまま、わたしは先に休む事になった。しがみつくノヴェルをそのまま抱えて眠った。頭が重い。ルーネめ、先輩に言われて眠りの魔法をかけたわね。疲れ切っていたわたしは、みんながひと通り休憩するまで爆睡したようだった。


「お陰様で体調は万全よ。ワンコでもコボルトでもどんと来いって感じね」


 わたしがバカな事を言ったせいか、隠し通路から五層へ入るとコボルトの群れに襲われた。


「くっ、カルミアが余計な事を言うから」


 ティアマトとガレオンが躍り出てコボルトを殴り切り払う。数が異様に多くない? 他の冒険者はなにをしているのよ。


「君の懐中時計君(ポルタイマー)の示す時間は、朝方になる。大半の冒険者はこれからやって来る時間なのだろう?」


「はい。奥に進んだパーティはいつ戻るかはわかりませんが、入る方々が一番多い時間のはず」


 先輩がギルド職員でもあるメネスを見る。メネスがビクッとしながら頷き答えた。


 わたしの予測通りならば、何かあったとしか思えない。強力な魔物を二体も出して、初めから長時間の維持なんて出来ないはずなのよね。


「わたしは王女さまに狙われていた。その王女さまの計画を利用して、先輩か王女さまのどちらかが狙われてますよね」


 どさくさに紛れて、学園の騒乱を裏で画策しているものがいる。王女がいなくなって一番喜ぶのは帝国かもしれない。だけど‥‥あの皇子に隠れて、帝国側がわざわざ面倒な手間かけてまでやるかしら。


 先輩を殺す選択をあの皇子が取るはずないし、あるとするなら助けに入って惚れさせるとか? うわっ、皇子の気色悪さが、あがったわ。


 王女さまの自作自演はありそう。でもわたしが生きたまま逃げてしまったせいで、召喚術師は召喚魔獣の制御が不能になってる気もする。彼女は自分の立てた計画で、もらい事故死をしてそうね。


「自業自得って言いたい所だけど、学園で賓客の事故死って、不味いですよね」


 王女さま自身の計画で、ある意味自殺のようなもの。なのにロブルタ王国としての失態、先輩の落ち度になるかもしれない。


「先輩が死んでくれるのが理想、失敗しても責任問題に発展しますよね」


「その様子だと、仕掛けた相手が誰なのがわかっているのだな。言ってみたまえ」


「それは二人の兄上か、まったく寝耳に水の企みを持つものでしょうね」


 心当たりはあっても、確証もなしに先輩には言えないもの。


「なんだい、その予測は。ドワーフの線とか、夜魔たちの陰謀とかはないのかね」


「先輩こそ、適当過ぎですよ。どっかの大陸で宗主国を務める宗教勢力が、最近壊滅したそうですよ。その影響が、ロブルタ王国まで届いたのかもしれないって事ですよ」


 わたしがガレオンを見ると、頷いて肯定してくれた。わたしはドヴェルガー達の滅亡も、そういう連中が絡んでいたんじゃないかと考えている。ノヴェルの能力を知ったいまなら、わたしだって確保に走るわ。


「真相はひとまず置いておくとしよう。王女が生きていたら探れそうだね。現状は彼女の無事を祈るしかないだろうな」


 数十匹のコボルトを見ると、そう楽観視出来ない事態。だからと言って、慌てても仕方ない。


「俺達は先に行く。ギルドで情報が得られ次第、学園なり王宮には応援は出す。メネス、お前は王子様にしっかりついていろよ」


 ガレオンとタニアさんが先行してパーティから外れる。わたしたちの足に合わせるより、ギルマスたちだけの方が断然早い。


「それで‥‥わたしたちはどうします、先輩。ギルドから行くか、秘密の通路の脱出口から農村へ逃げるか、寮へ戻ることも出来ますが」


「街を経由する時間が惜しい。寮へ行くとしよう」


 ギルマスたちが先に行ったので、時短が使える。企んだ側も、ついでに殺すはずのわたしが消えて、二匹まとめて制御が効かなくなる事態は予定外だったんじゃないかしら。


 黒幕が王子達ならこの状況は望んだ展開に近いのかしらね。散々叩かれたけど、いい味を出してた王女さまは嫌いじゃない。仕返しもあるし、高笑いしながらカプッとされていない事を祈るしかないわね。

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