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錬生術師、星を造る 【完結済】  作者: モモル24号
第1章 ロブルタ王立魔法学園編
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第80話 学園迷宮 ① 王女様の高笑い

 新講師のエルミオ先生とは授業の後も教えを請いたいものなのに、王女さまという敵がわたしの前に立ちはだかった。


 ────何度かお見かけしましたが相変わらず可愛らしいお顔を、憎悪に歪めてらっしゃいますね。それに加えて今日は悪巧みを考えついたようで、邪悪さが増してますよ。


 どれだけ引っぱたかれ、罵倒されてもわたしに通じてない。いや、痛いのは痛いのよ。ただ暴力も暴言も、帝国の皇子様の方が酷く激しいのよね。


 治療薬があっても傷は塞がるだけで、痛みは残るのよ。気絶死するかもしれない事を考えていないというか、それでいいとおもっている節もあるから怖い。


 皇子様は最終的には先輩を奪うつもりだから、わたしへの暴行はただの嫌がらせに過ぎない。皇子様にとっては、わたしは死んでくれた方がいい存在だからね。


 嗜虐心が強いっていうのは、ああいった人の事を言うのね。わたしが死んで心から悲しむ先輩の姿も楽しむ質だ。わたしも少し見たいけど、わたしが死ぬ前提は嫌ね。


 もっとも最近はヘレナを気味悪がってか、あまりちょっかいをかけては来なくなった。


 シンマ王国の王女さまはそれに比べると、可愛らしく微笑ましく思えてしまうのよ。それが一層彼女を苛つかせるようね。


 ……でも今日は笑顔の邪悪さが違って、何か強行手段を取る気のようだった。


 顔をはたかれて倒れるのは、いつもの通りだった。エルミィにも仲間にも、止めなくていいって伝えているし。


 ヘレナ用に再開発した美声君が、口の中を切らないように保護材かわりになっている。刃物や鈍器を使うようなら、両肩と両手の甲、それにお腹と背中に仕込んでいる風樽君が硬化展開して守ってくれる。


 ぬっふっふ────守りは完璧なのよ、王女さま。バカ皇子に蹴飛ばされても、衝撃吸収で魔力を献上するだけに終わるくらいに守りが強化されたのよ。あなたの力じゃ、かすり傷すら負わないわよ。


 ただ──わたしの体力の問題で衝撃は吸収出来ても、勢いは受け止めきれずに倒されるんだけどね。


 王女様も学習能力は高い方なので、自分の嫌がらせや暴行が効果がない事や、先輩の気を全く引けていない事に気づいていた。


 これは不味い。邪悪な表情は演出だとわかる。でも目が座っている。いっちゃってる狂人の目だわ。これ……わたしを真面目に殺る気だわ。


 わたしが倒れた時点で、エルミィが王女さまを護衛する取り巻きに羽交い締めにされた。わたしもその場で縛り上げられて、袋詰めにされた。


 誘拐の手口が手慣れ過ぎてる。身動きの取れない身体を持ち上げられ、浮く感覚がする。


 どこかに担がれ運ばれてゆくのだろう。袋の中でもエルミィの叫ぶ声と、王女さまの高笑いの声が聞こえて、遠のいてゆくが聞こえた……。



 ────かなり長い間担がれていた気がする。懐中時計君(ポルタイマー)があれば時間で場所の特定出来るのに。


 ────!?


 フワッとした、急に投げ捨てられたような浮揚感を感じ、とっさに風樽君を発動した。放られた高さがわからないので、衝撃から頭や首と関節を守る。


 ──ドシッ!


 自分の身体が地面に落ちて、鈍い音を発する。見えないので身体の感覚で当てずっぽうに部位を守ったおかげか、それほどダメージはなかった。最初にぶつけたお尻が少し痛いくらいだ。


 数人の去ってゆく足音と、何かを魔法を唱える声がする。これは召喚魔法だわ。どうやら王女さまの筋書きで、わたしは魔物に喰い殺されるのね。


「────さてと。このままだと死ぬわね、わたし」


 せめて袋から出して、縄を解いてから行きなさいよ。雑に扱われたのは、どうせ死ぬからよね。


 皇子対策で風樽君を複数仕込んで置いて良かったわ。わたしは魔力を使って風樽君を縛り付けた縄の下に潜らせて膨らませる。


 風樽君にわたしを包むように連結させる。実体化するから当然わたしにも膨らんだ時の圧力が身体に掛かって苦しい。自分で自分の首を締めてる感じだもの。


 ご丁寧に魔力縄で縛ってくれたので、風の刃や炎の魔法で切断出来ない。その魔力縄も、膨らむ圧には勝てなかった。


「ぶはっ──」


 魔力縄との根比べには勝って、袋から這い出た。わたしの前には、わたしの倍はありそうな大きさの犬か狼の魔物がいた。


 毛並みは白くふかふかしているので狼と思える。王女さまの趣味なのかしら、獣臭いわりに無駄に色艶がいいわね。


 大きいけれど、この魔獣は多分まだ幼生だ。従属させられるレベルには術士の能力によって限界があるものだ。だから召喚士の力量が魔獣を見てわかる。


 わたし一人始末するには、この狼でも充分と判断されたのね。まあもっと小さい子犬でも……勝てないわね。


 狼は比較的大きな部屋の入口に陣取っていた。わたしが近づくと唸り声を上げる。餓死するか、狼と戦い食われて死ぬまでこのままみたいね。


 拐われた時の手慣れた感じから、目撃情報は期待出来ないと思う。ただ魔力の流れの感じから、ここはダンジョンのようにも感じた。


 確か学園にダンジョンがあるって言っていたわね。ロブルタの王都のダンジョンと言えば、【獣達の宴】だ。


 でも【学園迷宮】はロブルタ魔法学園の関係者しか入れない。冒険者がたまたまやって来て、わたしを救出してくれる可能性はないわけね。


 あの王女さま、中々残忍な性分よね。ひと思いにやれば済むのに、じわじわ苦しめて殺すつもりだ。やる気になるよう煽ったわたしが悪いのだけど、キレてやり口が酷くなるのは想定外だったわ。


 ──エルミィは無事かな。学園の講師の妹で、エルフの国から来た族長の娘だ。わたしをかばって去った金級冒険者エイヴァン先生とは、元婚約者。貴族的な扱いしないと不味いし、大丈夫よね。

 

 王女さまは標的をわたし一人に徹底していたので、いまさらヘレナやノヴェルたちには手を出さないと思う。


 救助が来るかどうかは、先輩次第になりそうね。王女様が残忍な性格なのは、いまは大人しい魔獣の仕掛けでわかる。


 入口近くに人が来た瞬間に眼の前のコイツが、わたしを噛み殺すように指示されてるのがわかった。


 わたしなら、きっとそうする。だからわたしが戦わずに、大人しく待っていれば助かる可能性を残したように見せた。


 先輩に見せしめにしたいのではなくて、徹底的にわたしが狙い。救援が近づいて来て、助かるかも……そう思った瞬間に──ガブリッ! だもの。


 うわっ、想像しただけでムカつくわ。もう攫われたことなんかよりも、わたしの頭の中は怒りで埋まる。あの王女さまに仕返ししてやる計画で一杯だ。でも……皇子も王女も護衛の魔術師の技量が高いのよね。


 命令がない限りは動かないので助かる。こういう時のために魔力を温存してるから厄介だわ。


 何はともあれ脱出が先よね。わたしは浮霊式風樽君(ゴーストエアバレル)を一つを動かし、壁側を探る。都合の良い考えではなくて、ずっと引っかかっていたのよね。


 ドヴェルガーたちが、何で通じるかどうかわからない農村の方からダンジョンへの通路を作ったのか。それと、すぐ近くに【獣達の宴】があるのに、浅層だけとはいえこんな所にダンジョンがあるのか。


 答えは最初は街中に秘密の入口を作り侵入していた……よね。術師の記憶はしょせん術師の主観で見た記憶なので、別の入口を作って入った理由が欠落している。


 街中だと近すぎて、行きは良いけど帰りは困る。だから農村のある辺りに作り直したのだと、わたしは思ったわけ。


 カサッ──


 ほら、当たりだわ。風樽君が魔力の壁に引っかかったもの。妙にこの部屋の飾り彫りが立派なのは、ドヴェルガーの仕業だったようね。


 学園を作った時に、隠し通路だったこのダンジョンが見つかったのだろう。この部屋が豪華なので浅層だけのダンジョンと勘違いしたのだと、わたしは推測した。


 これはドヴェルガーたちの歴史を知らないと出来ない発想だ。ずっと知られていないのはそのためだ。


「ほうら、あったわ」


 【獣達の宴】へ通じる扉が開く。扉の先が狼の魔法の範囲外になっても、でかい身体のせいでワンコは追って来れない。


 問題はこの先の通路がどこまで通じているのかということ。あとは、わたし一人で手ぶらに近い状態で、ダンジョンを戻って来れるかなのよね。


 学生服の、女生徒一人がダンジョンを彷徨いていて不審に思わない冒険者は皆無だ。


 学生とわかったとして、わたしを助けて保護してくれるような真っ当な冒険者に当たるかどうかは運次第になる。


 そしてもっと悲しいお知らせが、術師の記憶にあるのよ。あいつの記憶、うまくいった部分は端折られてるせいで、役に立つようで使えない。


 そして、端折られているということは、あの時の彼らには都合良くて、窮地のわたしには都合が悪いという事実だった。


 わたしはひとまず扉から中へ入った。農村の秘密の入口からなら五階層に繋がっていた。

 

「これは……非常にまずいわね」


 わたしは馬鹿みたいに進みやすい通路を見て、進むか引き返すか迷った。


 だってここ、深層直結してるのよね。ノヴェルは賢いのに、ドヴェルガーたちがアホなせいで、実は苦労と迷惑ばかりかけられてない?


 二度目は中継地点をダンジョンに繋いだのは正しい。だって、深層の手に負えない魔物が入り込んだ時に、地上まで直接来られるとか危ないもの。


 強い魔物が、扉を通れない大物ばかりとは限らないからね。

 

 通路はドラゴンが通れそうにない幅なだけマシかな。あぁ、でもここのドラゴンはダンジョンに穴をあけちゃうくらい強い奴だったっけ。


 戻っても餓死するかワンコの餌になるし、進めば魔物の群れにミンチにされるか、ドラゴンに黒焦げにされる罠だ。不運な偶然と王女さまの執念の結晶だ。


 ────よし、進もう。死んでまで王女さまなんかを喜ばせるくらいなら、行方不明のまま死んで疑心に陥らせてやりたいよね。


 先輩の前から消えちゃう事実は変わらない。どのみち王女さまの思惑通りに進んでも、企みが成就することはないのよね。


 なにより事実が明るみに出たら、わたしなんか死に損だよ。

 お読みいただきありがとうございます。


※ 公式企画、夏のホラー2023用に、短編ホラー作品も初投稿しております。

 怖い話しが得意な方や、ホラーに興味のある方は是非読んでみてください。


 


※ 公式企画、2023年8月24日終了時点で、個人の作品投稿数は、十一作品になりました。読んでいただいた方、応援して下さった方ありがとうございました。


※ 2024年7月改稿中。昨年同様に夏のホラー企画に参加しております。ホラーが苦手でなければお楽しみ下さい。

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