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錬生術師、星を造る 【完結済】  作者: モモル24号
第1章 ロブルタ王立魔法学園編
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第8話 往来の日常

 同性のわたしから見ても、ヘレナは可愛らしい娘なのはわかる。でも往来の真ん中で、今どき声をかけて(ナンパして)来るかな。


 ヘレナが怯えて、わたしの後ろに隠れ、キュッと服の端を掴む。トロールの方が怖いと思うのに、変わってる娘よね。人の感性はそれぞれ違う。ただの強面の冒険者が、ヘレナにはオーガに見えているのかもしれない。


「何か御用でしたら、明日にでも冒険者ギルドに来て下さいますか」


 一応年上の冒険者らしき男達に、わたしは怯まず言う。少しお酒臭いから探索終わりの打ち上げ後と言った所ね。きっと依頼報酬が良くて御機嫌なのだろうけれど、こっちには関係ないのだからどいてほしい。


「用があるから声をかけたんだよ」


「先輩冒険者として、後輩には色々教えてやらないとな」


「授業料はサービスしてやるぜ」


「別なサービスもしてもらうがな」


 ガハハハと汚い声で楽しげに笑う五人の冒険者達。わたし達を囲み、お酒臭い口から欲望を垂れ流す。楽しくて仕方ない感じだけど、わたしは不愉快だわ。


 お昼も過ぎた人気の多い通りで一方的に露骨に絡んで来て、王都の治安は見掛け倒しなのかと思う。わたしはヘレナを庇いながら、懐から粉状の薬品の入った筒を取り出す。


 酔っているからなのか数で勝っているからか、わたしの挙動に冒険者達は気づかずヘレナのおしりを触ろうとする。


 ────くらえっ!


 いやらしい目をした男が涎を垂らしながら開けた口に、筒の粉を噴射した。魔物兼暴漢対策用の特製辛苦粉(スパイス)だ。


 口にした後、体内に浸透して激しく痛み身体中を発熱させる一品だ。体内に入り込んだ、悪い寄生虫退治用の薬なので、人体に悪い影響はない。むしろ排毒効果もあるくらい。


「ぐあぁ〜〜〜っ」


 大袈裟にゴロゴロとのたうつ冒険者。わたしは間抜けな顔で口を開けている冒険者を、順番に治療(・・)する。


 たまに噴射が強過ぎて目に入るけれど、お薬だから問題ないわよ、多分。治験ご協力感謝って事でいいわよね。


 腰に武器をぶら下げた冒険者の男五人が、二人の少女に絡んでのたうち回る図。なかなかに滑稽でおかしなものだわね。


「て、てめぇ、よくも!」


「かよわい少女二人に、武器を持った男五人で絡んで恥ずかしくないの?」


 転がりながら武器を抜きかける男の手をわたしは踏みつけ、残りの薬を目に噴射してやる。目に入るとめちゃくちゃ痛いようね、この薬。

 間違って炎に投入するとさらに地獄が見れるのよ。


「酔い醒ましついでに悪い虫を追い払ったから、明日は一日静養することね。お代は後でギルドから請求させますから」


 予備の筒はもう一本あるけど、材料費だって馬鹿にならないのよ。


「ヘレナ、大丈夫だった?」


 ヘレナは、わたしの服に顔を押しつけるようにしがみついていたので|()()の影響は受けなかった。


「……大丈夫。カルミアありがとう」


 騒がしい冒険者から離れた所まで移動すると、ヘレナがようやくわたしの方に顔を向けた。


「あいつらヘレナと同じ鉄級みたいだから、貴女がやっても良かったのよ」


 震えながらも、万一わたしに何かあればと勇気を振り絞る声は聞こえていた。ヘレナが何に怯えているのか、わたしにはわかった。


 だから、その強い意志が整うまで、初めて出来た友達としていくらでも頼っていいよと思うのだ。


 なんて格好つけたけれど、わたしは戦士でもないからね?

 あと本当に友達いないの。だから、ヘレナも見捨てないでね。約束よ?


 冒険者ギルドへ行くまで、見物人に往来での立ち回りを冷やかされた。相手が酔っ払っていて、エッチな目でヘレナを見ていたから、動きも悪くて対処しやすかっただけだ。


 素面なら……わたしは勝てなかったと思う。見ていたんなら助けてよと言いたいところなんだけど、それは無理な話しだというのもわかってるよ。


 助ける義理も実力もないのに、見ず知らずの人間に関わる方が間違ってるのも事実。


 正義心で動いた結果、返り討ちにあった挙げ句、助けた相手はとっくに逃げたあとなんて事もあるからね。明らかに酔っ払って絡んでる時点で、悪いのはあっちなのだとしてもね。


 女の子だからって下心丸出しに助けたら、実はその子はスリだったとかパーティーのお金持ち逃げしていた、なんて話しはよくある世界。もっと怖いお仲間が後からやって来るのも、お約束らしい。


「カルミアはそういう酷い目にあったの?」


「うん、まあね。それに今日みたいに理不尽に絡まれる事はあったよ。田舎の領主街だからか、地元の冒険者は他所者に舐められたんだよね」


 ギルドの問題というより、領主同士の問題だったのだろう。わたしのいた街はダンジョンが近かったから、それだけで利益になったみたいだもの。


 嫌がらせしてくる格上の貴族からすると、労せず利益が上がる下っ端領主を潰したかったんじゃないかな。


 それは別として他所から来た冒険者パーティーには、しょっちゅう騙され詐欺られたものだ。こちらが子供だったから尚更舐めるわよね。ギルドも領主の立場を慮ってか、強く言えなかったみたいだし。


 今だからわかるけど、当時は力のなさに憤慨した覚えがある。あっ、だんだん腹立って来たよ。


 ────余計な怒りを思い出させてくれたかわりに、景気の良いこいつらからの()()費は水増ししておこうっと。

 

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