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錬生術師、星を造る 【完結済】  作者: モモル24号
第1章 ロブルタ王立魔法学園編
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第78話 似たもの同士

 ────値踏みするような視線を遠慮なく向ける王妃様を放っておいて、わたしは小うるさい国王陛下の施術に入る。


 わたしがいつ来るかわからないから、毎日念入りに身体を綺麗にするようにしていたようね。良い心掛けよね。ただ……おっさんが愛人みたいで気分は下がる。


 わたしは陛下を椅子に座らせ、快適スマイリー君を取り出す。手慣れた感じで、王様の頭へと覆うように被せた。


 先輩のキラキラ目を輝かせる仕草は御母様譲りなんだね。母娘揃って、夫であり父である国王の頭がつるつるになるのを見て大爆笑した。


「────な、なにをしたんだ」


 もとがもとなので、地毛がなくなっても違和感を感じなかったのね。風が吹いてもわからないくらい荒れていたようだ。


 とりあえず頭を正面に戻して、上向きにして、お顔にもスマイリー君で処理を行う。こっちは慎重に扱わないと、眉毛や睫毛がなくなる。髪の毛の容量と顔の表情を合わせると、効果が一層よく見えるってわかったのでついでだ。


 顎髭とか邪魔よね、どうしようか迷い先輩と王妃様を見ると、イケイケやっちゃえとノリノリだったわ。


 ノリの良さは両親共通のようね。わたしは鬱陶しい鼻下の髭や顎髭をスマイリー君で除去していく。

 

 家族が大爆笑する姿に、国王様が泣きそうになってる。施術はこれからが本番ですから安心してほしいわ。 


 国王の頭を定位置に戻して、神の雫(かみのいのち)を丁寧に塗り込んでゆく。つけすぎたり、耳回りなどうまく塗らないと見た目がおかしくなるので注意する。


 錬金釜の性能が以前よりも向上しているせいか、まっさらな大地に芽吹くのが早い。これには仲間たちも、先輩達もびっくりしていた。


 少し辛いだろうけれど国王様にはそのまま、じっとしていてもらう。陛下の容貌の変わる姿に身内の二人が一番驚く。かつての面影を知る王妃様なら尚更だわね。

 

 この薬って、髪だけじゃなくて、肌にまで効果があるのはこれで確定、間違いないよね。故郷の領主の奥さま方も、これなら大喜びだっただろう。


「────これは、私にも効果があるのかしら」


 王妃さまは、わたしの物思いを察したみたいね。効果はなくはない。だけど乾いた砂漠の砂のような男性の頭皮と違って、女性には難しい気がする。砂漠の砂なんて、まだ実際に見た事ないけどさ。シンマ王国に砂漠があるとか聞いたくらいだ。


「そのふよふよしたので、せめてお肌だけでも駄目かしら」


 獲物を狙う狩人のようで怖いよ、王妃様。過去の失敗を例にあげて、お断りをする。大人の女性は、腹の中で何を思っているのかわからないから嫌なのよね。言葉通りに受け止めてはいけない。

 

「でも、この子もお仲間の子もお肌がすべすべで輝いてるのは、年齢のせいだけじゃないわよね」


 回りこんでぐいぐいせまって来る。旦那(おうさま)もしつこいけど、奥様(おうひさま)も相当だ。


 言い方は優しいけれど目が真剣で、了承するまで逃さない感じが凄い。これが本物の王侯貴族さまの振る舞いだわ。


「────今日は駄目です」


 ……ヤバい、怖い。バジリスクに睨まれた気分だわ。でもね、断るのがわたし──カルミアの矜持よ。


 ヘレナとエルミィから、カルミアのバカぁと、呟く声が伝声される。器用よね、あなたたち。先輩は声を殺してケタケタ笑ってやがるし、頼りのおっさんは瞑想中だ。いや、そんな集中しなくても、毛は生えるから助けて欲しいわ。


「──今日は、っていったわね。別の日なら良いの」


 圧力はそのままなのに、意外と冷静というか、たとえ庶民の戯言でも都合のいい話しは聞き逃さないらしい。


「失礼な言い方をしても怒りませんか?」


 経験上、念押ししても後で怒られるから嫌なのよね。でも保身のために、一応確認する。怒られたら先輩を攫って逃げよう。


「絶対怒らない。約束破ったら、旦那の毛をもう一度差し出すわ」


 王妃様の言葉に、国王陛下がビクッとした。わたしには得はないよね、その取り引き。


「このスマイリー君は、見ての通り、汚れとかお肌の余分な成分を取り除くだけのものなんです。若い内はお肌の再生効果も高いので、それだけで充分に磨かれるんですよ」


 だいたいこの発言で怒らせたり、話しを聞かずにスマイリー君を奪い取り、勝手に使って失敗したりするのだ。


「確かに失礼な話しね。いいわ、続けて」


 眼の前で施術している姿を見ているからか、意外とすんなり話しを聞いてくれる王妃様。だから余計に怖いわね。


「この神の雫(かみのいのち)は、対象となる髪の薄い男性に合わせて調合された薬です。豊かな作物の畑にこの薬を使えば根を枯らしかねませんが、荒れた大地に使えばこの通り」


 荒れ地に花を咲かせるから神の雫(かみのいのち)というわけだ。


「それはつまり……私にも合う薬を、私に合わせて作れば効果があるということね」


「御明察の通りです。どんなに高名な錬金術師の薬でも、効果がさほど出なかった要因の一つは、使用者の状態に薬の条件が噛み合っていなかったと思うのですよ」


 他にも環境や状況に違いがあるから実際に誰にでも効果を出すには、即応力がなくなる。薬の合う合わないが出てくる理由の一つだ。


「効きすぎても駄目ってことね」


「はい。先人の薬はきっと効果が強すぎて、逆効果になったものや、条件を満たすための準備をしていなかったのではないかと、わたしは思います」

 

 何事も下準備というものが大事なのだ。同じ薬のようでも、頭皮の油分の強いガレオンと乾燥肌のおじいちゃん先生で、投入する成分量は変えている。腕の良い薬剤師が、その人にあった薬を調合するのと同じなのよ。


 量産品は結局どれもこれもそれなりに効くように作る。一見そのどれかにうまく当たれば効き目あるかもしれないけれど、効果が合わない部分が相殺し合うため、気休め程度の性能に落ち着く。


「私、ヴィロノーラ商会のお化粧品を使っているのだけど、お見立てしてくれないかしら」


 ローディス帝国に本店を構える有名な商会の一つだ。確かエルフの里から仕入れた、霊樹性の薬液が人気だったわね。霊樹の性能とこの美容液の用途は合ってなくて、効果があるのは自意識の向上ね。


 エルミィが苦い顔をする。エイヴァン先生がまさに指摘した美容液がこのヴィロノーラ商会の商品だった。


 エルミィのお兄さんに再調合してもらい治療薬にしたわけだけど、エイヴァン先生の功績ではなかったという。もうその件の話の種明かしは済んでいる。


 もとの美容液の値段が高いせいで、実際原液を薄めて治療薬に変えた商品の原価はかなり安い。


 ただし同じ効果のものを、普通に売れば十分の一にも満たない金額に下がる。


 悪いのは、ヴィロノーラ商会なのよね。効果が望めなくても効くかもしれない希望があると、騙されるのがわかっていても縋りついちゃうもの。商会はその気持ちを利用して販売するわけだものね。


「結論から言うと、効果はほぼないです。霊樹の成分は治療薬に適していますし、エイヴァン先生が発見したように病は治しますが、再生や保護効果があるわけではないですから」


 顔に傷や火傷、腫れ物などあれば治って綺麗になった感じは出る。それに肌に合う人には良液かもしれない。それってルーネのような植物人や木人だと思うのよね。ただエルミィが顔をしかめたように、霊樹の成分は見受けられない。


 この美容液の瓶の中身、千本対して一滴分あるかないかかしら。ぼったくりよ、ぼったくり。こういう輩のせいで、まっとうな薬師や錬金術師があらぬ疑いをかけられるのよね。


 わたしがあまりにハッキリ断言するので、ニヤついていた先輩まで自分の母親が怒り出さないか不安そうに見た。


 ノヴェルがトテトテと近寄って来て、いつでもかわいい光線で、わたしを守ろうとする。誰よ、こんなあざとい真似をノヴェルに教えたのは。


 王妃様よりも、わたしはノヴェルの純心さを穢す輩を締め上げたい怒りがわく。犯人はあの王女さまね。つまり関与させたわたしのせいだわ────無念。

 

「貴女……頭がおかしいって言われるのでしょう」


 急に王妃様がおかしな事を言い出した。いや、おかしいって指摘されているのは、わたしなのだけど。


「思考や興味が広がってしまって、抑えきれないようね。このアストリアもそういう子だから、貴女達は気が合うのでしょう」


「失礼ですが先輩ほど、わたしは変態じみた行いは無理ですから」


 あっ、ついそのまま返答してしまったよ。王妃様の子を変態呼ばわりとか、処刑ものだ。


「そういう着想を得ている貴女も同類よ。それで、美容液は作れそう?」


 話が脱線しかけたのを怒ることなく軌道修正する王妃様は実は懐が大きいようね。ただ先輩と同類扱いにされたのが悲しい。


 あなたの娘さんは、初対面の庶民の後輩に素っ裸で自己紹介かますような方なんですよ? 


 納得いかない指摘もあったけれど、王妃様の肌の様子を見るために、別室でスマイリー君を使わせてもらう。


 ヘレナたちはその間に食堂へ案内されて、食事を御馳走になった。


 瞑想したまま一人取り残された国王陛下は、若々しく毛も生え揃ったというのに誰にも褒めてもらえず、喜びと悲しみの涙を流していたそうだ。



 王宮の入口でちょとした騒ぎが起きた。黒いパンツマスクを被った変質者な女の子がやって来たらしい。自分がアスト王子の護衛で、わたしたちの仲間だから中に入れろと騒いでいるようだ。


 出来れば他人の振りをしたい。仲間と思われたくないわ。


「────迎えに出てこないなら黒いパンツマスクを燃やしてやるからぁ〜」


 わたしの行動を察して、変質者なメネスはそう叫んだらしい。


 関わりたくない。でも成分たっぷりな黒パンは回収したい。あの娘、黒パンツを被った格好のままギルドからここまで戻って来たの?


 こういう時って、だいたいエルミィかティアマトが迎えに行くよね?


 エルミィは良く聞こえているはずの耳で聞こえてないふりをする。ティアマトは先輩と王妃様に頼まれて、帝国の様子を話していた。


「──だからメネスを泣かすと面倒臭いって言ったのに」


 聞こえてないはずのエルミィがボソッと呟く。頼みの綱のヘレナとノヴェルは、お腹パンパンのポンポコリン中だ。君たちも学習しないよね。


「ルーネ様、お願いします。わたしについてきて」


 先輩の所にいたルーネが、ふよふよとわたしの所に来る。


「!?」


 突然立ち上がった王妃様に、ルーネの浮揚式鉢植君(コスモテラリウム)がわしっと捕獲された。国を騒乱に巻き込む悪女じゃなかったんですか、王妃様。ちゃんと黒幕らしくしていてほしいものね。


 国王陛下がぼっちで涙する頃、わたしも一人で王宮入口へと向かう。迎えが遅いので発狂したメネスを、涙ながら迎えに行くことになった。


 見た目の存在は騒がしいのに、黒パンを被ったままなので、近くまで行かないと何を言ってるのか聞き取れない。


 苦笑いを浮かべる門衛さんに、ご迷惑をかけた事を謝って連れて行く。

 

「メネス、あなたお酒臭いわね」


 ギルマスのお説教中に、なにがあったのかは聞きたくなかった。黒パンのおかげで悪酔いして吐いても迷惑はかけずに済みそうだ。


 子供がお酒を飲むことを禁止している国は多い。でもメネスは一応成人しているので国法的には問題ないか。


 酔いが冷めて、素面になったらきっと死にたくなるわよね。でも黒パンだけに、黒い歴史は消えずに残るものなの。

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