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錬生術師、星を造る 【完結済】  作者: モモル24号
第1章 ロブルタ王立魔法学園編
75/199

第75話 残酷な現実

※残酷な描写が多い話しになっています。


 苦手な方は後書きにて内容を簡素な形で載せています。

 ティアマトがヘレナを抱き上げて運んで来た。ティアマトは歯を食いしばって耐えたのか涙を流し、口から血が流れていた。


 ヘレナは一目でわかるくらい酷い有り様だった。微かに息はある。うわ言のように、ずっと怒っちゃ駄目って言っている。


 ティアマトやわたしの為なのか、ヘレナ自身になのか、とにかく怒りを抑えてずっと我慢していたようだった。

 

 ────やったのは誰? バカ皇子に決まっている。汚されなかっただけマシ……でも、それも長くいたぶるためってだけ。


 わたしはスマイリー君に薬液を含ませる。出来たばかりの試作薬は、急いでノヴェルの釜で再生力を強化した。


 ヘレナが身につけていた風樽君も美声君も、魔道具は全て破壊された上で、指輪まで奪われていた。


 腕や指の骨は折られ、腕や足にはわざわざ呪いをかけたナイフで、魔法封じの印が切り刻まれていた。傷が治っても、身体に刻まれた呪印はなかなか消えないようにするためだろう。

 

 最悪、魔法が使えなくなるかも知れない仕打ちに、わたしはヘレナと同じように怒りを抑える自信はなかった。


 それでも親友の治癒を優先する。仲間たちは怒りと悲しみで何も言えない。


 先輩が何か言い出そうとしてる。でも、いまは放っておいて下さい。傷は消毒と浄化を施してスマイリー君で、ゆっくり患部を冷やしながら治してゆく。


 呪印については、わたしに考えがある。いまはヘレナの受けた痛みをスマイリー君に吸収してもらい、魔晶石化する。ヘレナから苦痛の呻きが消えて呼吸が柔らかくなる。わたしはヘレナのための特製の回復薬と、果汁を混ぜた砂糖を足して少しずつ舐めるように飲ませる。


 あとは出血で体温の下がった身体全体を冷やさないようにして、ゆっくり休ませ回復を待つしかない。ノヴェルに頼んで、今日はヘレナと一緒に休んで貰うことにした。


 わたしはヘレナの介護をノヴェルに任せると、報復の為の作業を始める。ヘレナに変わって殴り返す力なんか、わたしにはないのは分かっているのよ。


 それでもわたしの初めて出来た友人を、酷く傷つけられて黙ってなんていられないわ。

 

 あいつらは、自分達の立場の強さをよく分かっている。嘘をついて捏造して、本国に情報を送れば簡単だ。それでは面白くないから嬲るのだ。


 王国からの留学生がいなければ、もっと酷い惨状になっていたかもしれないわね。今となっては、親バカによる派閥争いが功を奏した感じになっていた。


「────ティアマト、説明してくれるかしら」


 発端は彼女だ。挑発されたようだけど、ティアマトの力を彼らは恐れていたはずだった。


「カルミアに……いやみんなには話してなかった。ボクの母は、あいつらの宮廷で暴れたことがある」


 どういう経緯でそうなったのか、それはティアマト自身も知らないそうだ。ただ宮廷の護衛騎士を始め、名のある騎士や魔法使いのいる部隊全てを、たった一人で潰してしまったらしい。


 その後の要求は、ティアマトのロブルタ魔法学園への推薦状のみだったとか。そういう事情があったので、寮長も学園長も腫れ物扱いしていたようだ。


 ティアマト自身にはどこまで力があるのかわからない。当人はあの場で戦って、勝てる自信はあったみたいね。


「たぶん意趣返し。ボクが暴れると、相手を殺しちゃうからヘレナが止めた。ヘレナはボクと一緒に学びたいって」


 ティアマトがグッと涙をこらえた。わたしたち学園の問題児を、陰で支えていたのはヘレナだった。


 わたし以上に怒ってるのはティアマトだ。だからヘレナはあんなに酷い目にあっても、ティアマトを止めていた。


 でも、きっとヘレナも気づいている。貴族ってやつの言い分は、上にいくほど尊重されるって。それでも、友達を守ると決めたんだね。


「恨みを買ったのは確かだけど、ティアマトに暴れさせたら、退学させる前に自分達の首が飛ぶことになっていたわね」


 ヘレナを呪印で傷つけた術師程度では、ティアマトは抑えられない。この中で筋力はわたしが最弱だけど、魔力はヘレナが一番弱い。ヘレナに魔力で勝った程度で、勝てる相手ではないのよ。

 

「待ってくれたまえ。たぶんあいつがヘレナに酷い事をしたのは、僕のせいだ」


 先輩が思いつめるように切り出した。先輩の愛情は歪んでいるけど、ヘレナの事も気にかけてくれてたからね。


「あいつは昔の僕を知っているんだ。今回やって来たのは、僕を脅して帝国へ連れ去るためだと思う。ティアマトさえ追い出してしまえば、逆らえるものなどいないと思い知らせた上でね」


 皇子側も、ティアマトが先輩の護衛についていたのは誤算だったみたいね。気性を考えれば、学園に残っているのも奇跡だろう。


「ティアマトにちょっかいをかけていたのは、そういうことね」


 帝国の息のかかった貴族は当然いるわよね。そこから子供を通して追い出しを仕掛けたようね。


 どっかの庶民が猛獣(ティアマト)を飼いならさなければ、彼女はとっくにこの学園からおさらばしていたはずだった。


 本来なら帝国からも皇女を出して、ロブルタの王子達に引き合わせるはずだったと思う。しかしティアマトの件や、先輩と皇子の過去の、まさかのダブルパンチで、ヘレナが犠牲になった。


「あいつらが何を考えてようとそれは、どうでもいいわ。わたしとしては、親友を傷つけた報いを返すだけだもの」


 たかが庶民の錬金術士と、舐めて好き勝手やらかした報いを倍々にして返してやるわ。


 完成したのは倍々怨霊君(バイバイカース)浮霊式風樽君(ゴーストエアバレル)の複合仕様だ。


 とりあえずぶん殴る。退学? 知ったことか。わたしの友達の生命は重いのよ。怒りをあらわにしているけど、これでも冷静なの。だって、わたしの力では届かないかもしれないから。


 側仕え連中に、止められて終わる可能性は高い。でもあいつはヘレナにあげた、わたしの作った指輪を奪った。


 わたしの魔道具は、みんなの成分がこもった特製なのよ。わたしたちの血肉で出来ているに等しいものだ。


 わたしを止めても怨霊君は止まらない。指輪を奪った人物に奪い返しに行くと同時に、受けた傷や呪いを倍返しにするわよ。


「じゃ、行って来ます」


 わたしは軽やかに告げ、報復相手(あいつら)のいる男子寮へ向かう。怨霊君なら指輪の位置であいつらの居場所がわかるのだ。


 ────これ、報復仕様じゃなくて、探索仕様にすれば使えるわね。


 そんな事を考えるくらい冷静なのよ、わたしは。だから止めないでね、みんな。わたしの思いとは裏腹にエルミィに言われてティアマトが立ちはだかる。


「止めたら絶交よ。わたしのことよりヘレナを頼むわよ」


 ティアマトはうなだれた。この娘が悄然とする姿は似合わないな。あなたの怒りもぶつけて来てあげるから、先輩と大人しく待っていなさい。


 わたしの後をエルミィだけがついて来た。この娘は別の大陸の出身なので、あちらも余計な手出しはしないわね。それに……返り討ちにあったわたしを拾う役目も必要だもの。


 わたしとエルミィは、男子寮の元々先輩の部屋だった最上階へと乗り込む。警備の衛兵が二名立ちはだかる。わかるわよね────その一言で黙らせた。

 

「なにがわかるんだか」


 眼鏡エルフめ。こんな時でも、さらっと毒を吐いたわね。衛兵がそういう認識とか、かなりヤバいわね、あの皇子。いや、あれが普通なのかな、皇子だし。


 先輩もお盛んな噂をたてられていたから、衛兵もその流れで勝手に勘違いしたみたい。先輩は自ら行く形だったし、帝国の皇子は呼びつける。


 衛兵の心のボヤキが聞こえるようで恥ずかしいわ。思わぬ恥辱を受けた分も合わせて、全部ぶつけてやる。


 皇子の部屋の入口には、あちらから連れて来たらしい付き人が控えていた。先輩の話では男子寮の部屋の中は、学生寮にしては広いみたいね。世継ぎの王子が使う可能性もあるからかしらね。


 わたしたちの部屋四つ分の主賓室に、メイドなどお世話係ようの寝室などが二つあるそうだ。


 同じ階には護衛騎士や従者用の部屋、それと客室があって入寮した王族が自由に使える配慮がされていた。


 女子寮の方はその半分くらいの広さなので、差別感があるように思う。これは世継ぎの問題より、王女さま方は貴族院に行くことが大半のためだ。逆にそちらは女子寮の施設が充実しているんだとか。


「エルミィ、わたしがボコられてもあなたは手を出しては駄目よ。下卑た真似をされたくないなら、帰りなさい」


 扉前の付き人に取り次ぎをさせている間に、わたしはエルミィに念を押しする。というか、帰ってほしい。


 先輩の心を折るためにヘレナをあそこまで傷めつけた人間が、凌辱はしない……なんてお優しい倫理感など持つはずないもの。


 冒険者(チンピラ)の時と違って、悪いのは皇子ではなく皇子の気を引いた被害者のせいにされるだろう。


 ムカつくわよね。わたしが乗り込んで来ても、一晩の余興程度にしか思ってないのが、嫌な表情にあらわれていた。


「お前のような女が図々しく入って来ていい場所ではないぞ」


 ずいぶんと物々しいと思ったら、ティアマトが報復に来ると思っていたようね。そこへ、ひ弱な庶民と眼鏡エルフがやって来たので拍子抜けした様子だ。


 逆に罠を警戒してるのかしらね。強力な術師は、きっと対ティアマト用に呼んでいたのだろう。


「わたしの大切な友達を傷つけた、そのお返しをしに来たのよ」


 わたしはそういうなり駆け出して、殴りかかる。


「────いや、無理でしょ」


 皇子たち相手側ではなくて、エルミィが頭を抱えて呟く声が聞こえた。わたしは待機していた武装した従者に簡単に取り押さえられて、床に這いつくばる。


「はっはっはっ──大切なお友達とやらの仇を討ちに来て、殴る事も出来ないとは惨めだな」


 人数は五人。取り押さえているのは護衛騎士の二人ね。動けないわたしの側で高笑いする悪辣皇子と呪いの術師、それに従者がいた。指輪は皇子が身につけているようだった。


 最悪の状況だわ。犯されようと呪いを刻まれようと、わたしに油断して近づいてくれれば充分だった。


「庶民の分際であいつに近づくから痛い目に遭う。やれ」


 わたしを抑えていた護衛騎士に、ポッキリと両腕を折られた。遅れてやって来る激痛に、わたしが顔を歪めるのを、楽しそうに見る皇子。


 手足を折り、抵抗出来ないようにしてから嬲る気だ。残酷な皇子は同じ妄想を先輩に向けているのがわかる。だから、余計に気持ちが悪い。


 わたしなど本当に目障りな塵にしか見えてないみたい。脂汗を滲ませ、折れた腕を踏まれて這いつくばる。そのわたしの頭を潰す勢いで、皇子の靴で踏みつけられた。痛みで意識を保つのが精一杯だった。


「嬲ってやりたい所だが、お前のような庶民はお情けを与えられたと勘違いするようだからな」


 裸に剝いて部下に任せて恥辱を与え、裸に呪印を刻んで先輩への見せしめにするそうだ。ぐりぐりと頭を足で押し付けられ、庶民の血で汚れた絨毯に巻いて送りつけてやろう、皇子はそう笑って言った。


 わたしの這いつくばる後ろでエルミィが、付き人に羽交い締めにされ離せって騒いでいる。魔法はまだ使わず我慢しているみたいね。ティアマトは力が、その眼鏡エルフは魔力はバカ魔力なの知らないのね。


 ······まったく、見るに耐えない有り様になるのわかっていたんだから、帰りなさいって言ったでしょ。

 

 だいたい見ていたのでしょ? バカ皇子は自分からわたしに殴られに来てくれたのよ。

 帝国の皇子にヘレナが傷めつけられた。帝国とティアマトの母とは因縁があり、アスト先輩も皇子には正体を知られていた。

 皇子は先輩の心を折って帝国へ連れ帰るために、怒って乗り込んで来たカルミアを捉えて、頭を踏みつけ高笑いしたのだった。


 ヘレナを傷つけられて黙ってやられるカルミアではない。両腕を折られながらも、得意の錬金術で作った魔道具で反撃を試みる。

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