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錬生術師、星を造る 【完結済】  作者: モモル24号
第1章 ロブルタ王立魔法学園編
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第74話 希少な庶民

 眠たい頭の中に、先輩の騒ぐ声が聞こえた気がする……けれど、わたしの意識は再び眠りの底へと落ちた。


 ノヴェルから感じる体温が、ほどよく温かくて、わたしを心地よい眠りに誘うのだ。


「────カルミア、起きて。ご飯食べて支度しないと遅刻するよ」


 ヘレナがゆさゆさと、わたしの身体を揺さぶる。いつの間にかノヴェルもいなくなっていて、わたしはようやく目を開ける。


 ヘレナのお腹はすっかり凹んでいた。あれだけ食べてポンポコお腹になって、一晩しか経っていない。いったいどこに消えたというのかしら。人体の不思議というものよね。

 

「朝起きたらルーネがくっついていたのだが、どういう事だい?」


 遅く起きた朝は色々忙しいというのに、面倒臭い先輩に絡まれた。


「いや、説明してくれたまえよ。ルーネの説明は、君に僕を守るように言われた──の繰り返しなのだよ」


「あぁ、まだ難しい説明は無理だったみたいね。ルーネが授業を受けたいみたいだから、ついでに先輩を守ってもらおうと思ったのよ」


 寝坊したわたしの髪を、エルミィが櫛で梳かしてくれる。時間がないので助かります。先輩も早いとこ戻って着替えないと、間に合わなくなるのに。


「いや、まあそれならいいだろう。ルーネをこのまま連れて行けばいいのだな」


「はい。魔晶石もルーネに渡して下さい。浮揚式鉢植君(コスモテラリウム)で、彼女は自由に動きますから。ただ必ず先輩のネックレスに戻るようになってますし、ルーネは球体から出ても一Mの範囲なら枯れません。でも出来れば先輩の身体から離さないようにしてあげてくださいな」


 先輩は細やかな説明を聞き、わからない事は後で伝声で話すことになった。


 先輩とルーネ、それに豪快に寝ていたのに不安で青い顔のメネスが倉庫の非常口から先輩の部屋に向かった。

 

「あの人、すっかりこっちに馴染んでるけど大丈夫なのかしら」


 いつも先輩が自室にいないと、不在の間に訪問者が来たときに、不審に感じるかもしれないわね。


 でも留学生達の事を考えると、強行手段も取りそうだから夜の別行動は避けたいのよね。


 今までと違う状況に、先輩も国王陛下も頭を悩ませていた。自業自得なので、仕方ない面はあるわね。


 メネスもルーネとうまく連携取って奔放な先輩を守ってあげてほしい。


「アストよりも、カルミアの方が危ないと思うぞ」


 ティアマトがわたしを心配してる。この娘がこう言い出すと言う事は、わたしがまた狙われる可能性高いって思ってるのよね。


「心配ないわよ。浮霊式風樽君(ゴーストエアバレル)を衝撃吸収体に変換して、お腹に仕込んでおくわ。顔は、さすがに女の顔を何度も叩くような男は、皇子でも男を下げるだけよ」


 そうなると今度は王国側の王女が絡んで来そうね。結局のところ、顔をはたかれるのは確定だわ。今日は錬金魔術科だからエルミィもいる。わたしよりも、このメンバーだとノヴェルが危ないわね。


「ノヴェル、それにヘレナも。念のために貴女達も風樽君を仕込んでおきましょう」


 エルミィもティアマトも出自のせいか、元々ロブルタ王国の貴族家の生徒達からも敬遠されていた。


 エルミィは眼鏡エルフだからわかりやすいけど、ティアマトって不思議だよね。寮長とか、本気で怯えてたものね。


 あまり自分の事を話す性分ではないので、そのまま一緒に暮らして来た。留学生達の目も、ティアマトを避けていたよね。彼らはティアマトに関して、何か知らされているのね。……何気にティアマトは学園の番格になってる?


 今日はそのティアマトがヘレナと一緒なので大丈夫かな。ノヴェルは単独になってしまう。


 この娘をいじめるような連中は留学生だろうと国際問題になろうと、みんなでやってしまえと言いたい。いまはノヴェルを可愛いがる友達が頼りだ。


「ほら、カルミア。呆けてないで行くよ」


 エルミィに引っ張られ、わたしは仕方なく授業へと向かった。やる事がいっぱい過ぎて時間と魔力が足りないわね。 


 帝国の皇子が大ボスなら、王国からの留学生の王女は中ボスになるのかしら。その王女がわたしと同じ一年生なのはわかる。で……なぜ錬金魔術科にいるのかがわからない。しかも露骨に激しい憎悪と敵意を向けて来てる。


 庶民のわたしとしては、そんな激しく見つめられても怖くて震えることしか出来ないわ。


「そんな感じでいこうと思うのよ。皇子に最初に叩かれかれたのは良かったわ。暴力(あれ)のおかげで負け犬の姿を晒しておけば、好きこのんで庶民に絡んでも損するだけだものね」


 改良したヘレナの錬金釜で、今日の課題のポーションを作っていると、エルミィがため息を深くついた。


「そういう理屈や損得が通じないのが、王侯貴族というものだよ」


 エルミィが訳知り顔をしていう。この娘、まさかエルフの王女とかじゃないよね? エイヴァン先生とも何かあるみたいだし、なんか今更だけど、そんな厄介な連中が何故わたしのまわりに集まってるのよ。


 わたしの欲しいのは、あなたたちの成分だけなの。────嘘です、ごめんなさい。友達として大人しく、一緒にいてくれればそれでいいの。だから皇家や王家絡みの陰謀に巻き込まないでね。

 

 わたしの予感とエルミィの予言めいた言葉通り、授業が終わるとシンマ王国の留学生に囲まれて、王女様にひっぱたかれました。


「この泥棒! だから庶民って浅ましくて嫌いなのよ」


 意味がわからないけれどシンマ王国の王女様には、わたしを叩く理由があるようだ。昨日は皇子、今日は王女。連日皇族王族に叩かれ蹴られた庶民って、そういないよね。


 この国の王子様には何度も首を狩られそうになったし。


 嵐が去ったあと、わたしは自作のポーションをエルミィから受け取った。


 外傷や内蔵の傷を消毒して治癒する試作品だ。エイヴァン先生が講義したのは、ただの傷薬だけどね。


「錬金釜ごと避難してくれて助かったわ。あの王女様の目に入った瞬間に壊されていたもの」


 無惨に壊されたのは、代用品として置いていた教材用の錬金釜だ。学校の備品を投げつけて壊したのは王女様なのに、弁償するのはわたしなのよ。


 理不尽な話だわ。殴られた痛みよりも、そっちの出費の方が痛いわ。庶民のいたぶり方をよく心得ている王女様よね。


「感心している場合じゃないって。早いとこ寮に帰るよ」


 次の災難が待ってるので帰りたいところだけど、ヘレナやノヴェルが心配だ。先輩からは伝声が届いたのに、ヘレナ達から連絡がないのが不安だった。


 ノヴェルからは遅れて返事が来た。ルーネのために、新しい魔本作りの構想を同科生と考え込んでいたらしい。


 いままではノヴェルが本を開いて読んで聞かせていた。でも新しい本を作るのなら、ルーネの大きさに合わせて作ってみたいようだ。


 なかなか面白い話なので、わたしも参加したいわ。でも、しばらくは一人になると危ないから戻っておいでね。仲良くなったのなら、お友達を呼んでも良いから。


 ノヴェルはキリがいいので、先に授業の終わった先輩達が迎えにいき、合流して戻って来るそうだ。


「エルミィ、ヘレナとティアマトから連絡が来ないの」


 ティアマトがいるから、ヘレナは大丈夫だと考えていたけれど甘かった。ヘレナの性格ならティアマトが挑発された時に、庇ってしまう。


 わたしが皇子に暴行を受けた時に、一番自責に駆られていたのに隠していたのがヘレナだったから。

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