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錬生術師、星を造る 【完結済】  作者: モモル24号
第1章 ロブルタ王立魔法学園編
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第72話 歓待祭と歓迎の宴 ④ 娘はもらってゆくぞ

 わたしと先輩──それに先輩と国王陛下の間に言葉の行き違いがあったようだ。話が通っていないので、国王陛下は現在、庶民の病室を急に訪ねて来ただけの怪しいおっさんになってる。


 メネスは泣いているし、ヘレナも泣きそう。ノヴェルはいまも眠ってる……?


 この娘、寝たふりを覚えたわよ。この状況でわたしが騒げば、国王陛下を嫌う一派に利用されて反乱がおきちゃうわね。


「────いや、それはありえんよ」


 国王陛下が他人事のように言う。自分の人気に自信があるから国王陛下なのよね。娘の話一つ通じてないのに、世間のお話なんてわかるのかしら。


 ヘレナがフルフルッと、首を振ってる。心の声を出さないようにすると、伝声になって、仲間には結局丸聞こえになるんだよね。


 みんなどうやって使いこなしてるのかしら。作ったわたしが使えていないのに器用よね。


 隣国の争いに巻き込まれつつあるロブルタ王国の現状では、国王陛下をわざわざ引きずり降ろさなくても、王位などすぐに消し飛ばされてしまう。


 消されるのがわかっている玉座など、わざわざ反乱を起こしてつきたがるもの好きはいないそうだ。


 裏を返せば、その気のあるものは、玉座を狙わない従順なものたちになるのね。貴族ってややこしいわ。

 

 そうした隙があるから、先輩が跡目を継ぐ可能性が出てくる。それにローディス帝国もシンマ王国も、間にロブルタ王国があるので直接戦うまでに至っていないのよね。


 緩衝地のロブルタ王国に敵対陣営の跡継ぎが就くくらいなら、中立の第三王子を推す事も充分あり得るわけか。


「まぁ、政治の事なんか庶民にはどうでもいいんですけどね。御用がないのなら、そろそろ出て行って下さいな」


 わたしがそう言うと、国王陛下がクワッと目を見開いた。権力を傘に動けない庶民を襲うつもりかしら。


「お前さんの頭はどうなっとるんだ! 国王だぞ? 偉いんだぞ?! 普通は庶民の見舞いには来ないものだ。やって来た時点で察するだろう?」


 うわっ……なんか、キレ出したよ国王陛下。約束もせずに急に面会にやって来て、いきなり怒り出されても介護しきれないわよ。たとえここが医務室でもね。


「父上、だから言ったじゃないですか。その娘は貴族の常識どころか、世間一般の常識も通じないと」


 宴が終わったのか、先輩とエルミィたちが大きな袋と木箱を抱えてやって来た。先輩の登場にヘレナやメネスがあからさまにホッとした顔になった。


「これは、お土産だよ。なんとか楽隊に和やかな音楽を弾かせて場を落ち着かせたのだが、みんな食欲がなくなったみたいでね」


 先輩の言葉にヘレナが頷く。なるほどね。会食の料理がまったく減らない中で、いっぱい食べたい人がいるって聞いて嬉しかったのか。


「アストよ、この娘は本当に頭がおかしいのか?」


 国王陛下とは初対面なはずなのに、わたしを頭おかしい扱いする。普通に会話していたじゃない。どっかおかしかったのかしら?


「常識的な思考をしないという意味では、世の人々におかしいと思われますね。見えている世界が違うようですが」


 先輩──それ援護になってませんよね。むしろ、言葉の刃で追撃してますよ。


「カルミア。貴女が常識としている普通は、世の中の人達の普通ではないよ」


 ヘレナが変声を使って、冷めた低い声でわたしを諭した。ぐぬっ、背後から斬りつけられた気分だわ。


 みんなノリがいいから、わたしをいじって遊んでいるよね。


「……違う!!」


 なんかみんなから否定されたわ。


「君は本当に変わらないのだね。帝国の皇子を相手にした時といい、父上の前といい」


 そう言いながらも、動けない怪我人の首に腕を巻いて狩る仕草をするのは止めて下さい。いや、怪我は回復したのよ。わたしのお腹で、ノヴェルが意地でも寝るので立ち上がれないのよ。


 わたしだってそこまで力がないわけじゃないのよ。でもノヴェルがわたしにしがみつくために、魔法でくっついてるのよ。この娘……魔力の扱い上達しているよね。


「僕も父上の願いを叶えてやりたいからだよ。どうだろう、欲しい物があるなら、叶えられる範囲のもので用意するから言いたまえ」


 そう言いながら、キュッて首を狩る腕に力を入れて脅してますよね。生命と引き換えになんて、条件は飲む気ないですから。


 だいたいあれはティアマトが嫌がるので、彼女が嫌なら国王陛下だろうと却下します。


「────国王陛下がふさふさになったら、お兄さん達の立場も髪も危ないじゃないですか」


 おじいちゃん先生であんなにモテるんだもの。国王陛下が若返って先輩と並び立つと、栄えるのよね。


 余計ないざこざに発展した原因が、わたしに起因するとなって、揉めるのが目に見えるようだわ。そして狙われ巻きこまれるのは庶民のわたし。


「その時は、アストに継がせれば問題なかろう」


 あっ、この国王陛下、開き直りやがった。頭髪のために、あっさり息子たちを見捨てたわ。


 なんで男たちは髪のことになると必死になるのよ。おかしいのは、あなた方であって、わたしじゃありません。


「その、凄く気になったんですが、いいですか?」


 エルミィが、先輩と国王陛下を見て恐る恐る質問する。国王陛下も先輩も黙って質問を許す。


「はじめからアスト先輩の事を溺愛して、継がせるつもりなんですよね」


 バカはエルミィ、あなたよ。それは触れちゃいけないのよ。先輩の浮かれ具合といい、国王陛下のデレデレ顔といい暗黙のなんちゃらなのよ。


 髪は都合の良い言い訳。結局ここも王族という魔境なのよ。庶民って生贄が労せずに手駒に入り込んだのよ? 本質は帝国の皇子と変わらないのよ。


 親バカ国王陛下が、かわいい先輩をお嫁さんに出したくないだけ。それで派閥争いを仕組んだなんて、わたしたちは勘繰ったり知ったりしちゃいけないのよ。


 わたしたちは先輩と知り合った縁でたまたま派閥争いに巻き込まれ、先輩に味方する学友で充分なの。


 ────帝国とか王国とか、争いに駆り出されたくないの。


 ほら、国王陛下の悪い笑顔。わたしの首にまとわりつく先輩も同じ微笑みを浮かべてるわよね。


 エルミィの眼鏡、何でも見通せるようになったから、企みの中身まで透けて逆に映らなくなってない?


 最悪なことに、わたしが気づいた事を密着していた先輩に知られた。首に巻き付く腕が締まる。


「本当に油断出来ない娘だよね」


 先輩が凄く楽しそうだわ。悪い笑顔って意外と綺麗なのね。玩具をもらったお子様よね。


「知られたからには、要求を飲んでもらうしかなかろう。死にたいと言うのなら話しは別だが」


 ほぅら、悪乗りしだしたわ。意外と茶目っ気があるようね。真面目なメネスが震えて、いろんな水分を吐き出しそうだ。回収出来ないともったいないから、スマイリー君の所までは我慢してね。


 陰悪な空気に、ヘレナは逆に肝が座る。ノヴェルはあくまで寝る姿勢を崩さない。エルミィは唖然としているし、ティアマトは匂いでわかってるわね。


「────お断りします」


「ほぅ……この状況でもか」


「えぇ。そもそも先輩との約束はかわらないですし。国王になろうと身売りされようと、渡すつもりはありませんから」


 こんな美味しいお宝を、錬金魔術師たるもの手放すわけないわ。


「君ってやつは本当に狂ってるのどな」


 ……ん? 変な誤解しないで下さいよ。


 わたしは先輩の身体(魔晶石)目当てなんですから。国とかいう皮はいらないのよね。


「それに、わたしが作りたくないのはティアマトのためですから」


 ティアマトが嫌がるなら、薬は作りたくない。誰だって、知らないおっさんの頭の養分に、自分の成分が使われてるの嫌がるわよ。


 ティアマトはとくに魔力の臭いに敏感だからね。変質しても自分の成分はわかるから嫌なのでしょう。


 わたしも自分の成分が、おっさんの頭の養分に使われ、発臭していたら気分が悪くなると思う。


「ま、まさかそれだけの理由か?」


 国王陛下も理由知らないので仕方ないわね。


「それだけの理由ですけど? あと、迫真の演技で遊び過ぎると、メネスが洪水起こすといけないので止めませんか」


 お調子ものの親子だわ。国王陛下が先輩を溺愛してるのは確かだわ。国の事よりも、先輩の好きにさせたいくらい大事にしているのがわかって良かったわ。

 

「ティアマト。またおっさんに薬を使うけどいいかしら」


「君は人の親をおっさん呼ばわりするかね」


「アスト、その指摘は違うぞ。わしは国王だ。一国の王をおっさんと呼ぶなど許さない、が正解だろ」


 やっぱり楽しそうな国王陛下と先輩だ。国王が執務の合間に遊びで教え込んで来たそうだ。


 先輩が根っからの変態じゃないとわかったので、安心したわよ。先輩がふいっと目を逸らしたのは気のせいね。


「むっ……そのハゲなら良いと思う。でも、少し気持ち悪い」


 ティアマトも容赦ない。でも許可はするんだね。彼女が許可するなら仕方ないから作るとするわ。

 

「条件が三つあります。一つはこの泡吹いて倒れているメネスを、王様権限で貴族の養女にして下さい。先輩の護衛として学園に編入させたいので」


 留学生が来た以上は授業中も先輩一人にするのは危ない。取り巻きが頼りないので、前から考えていたのよね。


「それはこちらとしても頼みたいところだったからな、構わぬぞ」


 冒険者ギルドには宮廷から依頼をするとの事。まあ、よくある話よね。年齢がよほど上じゃなければ、いちいち揚げ足取りをする貴族もいないそうだ。


 ────良かったわね、メネス。これで貴女の将来安泰よ。


 当の本人はさっきの圧力で混乱していて気絶状態だから聞こえていないかな。涙と鼻水が酷いので、ヘレナが顔を拭いてやってる。その布はあとでスマイリー君行きね。


「……それで残り二つはなんだ」


 未来が明るくなったからか、やけに機嫌がいい国王陛下(先輩の父上)

 

「王都の王立図書館と、宮廷の書庫の出入りの自由を認めてもらいたいのです」


 学園の図書室より、おじいちゃん先生の蔵書の方が古い時代の事が調べられた。王国史を辿れば、ノヴェルの一族のその後を追えるかもしれない。


「つまりだ、王宮への出入りの自由を認めよと、言うのだな。いいだろう」


 察しの良い国王陛下ね。先輩がいるいないに関わらず、わたしたちは王宮への出入りを認められた。


 薬一つで怪しい庶民の出入りを認めるとか、本当に大丈夫なのかしら。王妃さまに怒られても知らないわよ。


「最後の一つは先輩とわたしの約束を国王陛下、いえ御父様としても約束を守ってもらいます」


 何もかもうまくいかなくて失敗した時は、先輩をわたしたちがもらう。それに企みに先輩が必要性がなくなった時も。


「君……その言い方だと誤解されるぞ」


 先輩の身も心もわたしのものよ、なんて言えるわけないじゃない。まあ、誤解でもない。先輩といたいと思うのは、わたしだけじゃないもの。


 なんか国王陛下が泣いてるんだけど、真面目に誤解したの?


 わたし──先輩を嫁にくれなんて一言もいってないわよ?


「そうじゃない。わしが溺愛し、こういう状況にしてしまったせいで、アストには心を許せる友というものがいなかった」


 まあ、それは先輩も悪いと思う。人を信用し難い立場だったのはわかるけれど、親身になって仕えてくれる子は何人かいたはず。


 心の友だって言って、今は先輩と仲良しこよしをしている。でも──この人は事件にかこつけて、わたしたちをまとめて始末しようとしたからね。

 

 留学生達みたいに、あからさまな敵意や利害なしにやるからわかりづらい。甘やかし過ぎて、国王陛下(あなた)王子()は危ないんだって反省してほしいわ。


「三つの要求は全て承諾した。しかしだ、お前さん個人の要望が入ってないのではないかね」


 さすが国王陛下、よくわかってらっしゃるわね。いまあげた要望は結局の所、全部先輩のためだもの。お金を払うとか、貴族の位を与えるとか具体的な形で支払っておきたいよね。


 でもね、簡単に手に入らないから神の雫(かみのいのち)なの。あなたは奇跡を手にするかわりに自らの魂と、大切な娘を差し出したことになるのよ。


 わたしが何も言わないので、忙しい国王陛下は日をまた改めると言い残し医務室を出て行った。まだ施術前なのに足取りが軽やかだったわね。


 そしてわたしは先輩から再び首を巻き取られて、エルミィから手刀を額にいただき、ヘレナにお説教された。


「陛下が先輩に似て、寛大な方でもやっていい事と悪い事があると思うの」


 ヘレナに嘆かれた。思った以上に話せる人だったからね。さすがは先輩の御父様だけのことはあるわ。


「……君という人物を見誤っていたよ」


「先輩の言う通りだよ。君は人の心に踏み込み過ぎる」


「陛下は優しい方でも、外で待つお付きの方は違うんだからね」


「カルミアらしくていい」


 少しだけ反省してます。だって今後の事を考えると頭が痛くなりそうなんだもの、頭の薬だけに。頭髪の薬なんかより、頭痛薬の開発をしておきたいわ。


 大量に獲得した料理はティアマトと目を覚ましたノヴェルが嬉しそうに運んだ。いつもひもじい思いをさせてるみたいだから、往来であまりはしゃがないでね。


 食べきれない分を保存するため、わたしは冷蔵用の食料庫を作る。


 果汁飲料用の瓶詰めなども貰えたので、暑い時期に向けて必要だったからちょうど良かったわ。


 何はともあれくたびれたので、お風呂に向かう。この時間には入れない先輩には、申し訳ないけどメネスの介抱に残ってもらった。


 護衛に付く人が、初っ端から護衛対象に介護されてる図は、わたしもやらかした。思い出すと、恥ずかしい。


 メネスの場合は、気絶している間に話が進んだので、自分が護衛になった事も気づいていないけどね。

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