第7話 お買い物
付与魔術の授業は次からに期待することにして、わたしとヘレナは商店街へと向かった。持って来た食材が乏しくなって来たのと、別々で作るより二人で一緒に食べるから買い出しも作るのも一緒にする事にした。
「ヘレナって人見知りなのに、こういうの躊躇わないよね」
「そういうカルミアこそ、人付き合い嫌いそうなのに」
それだけお互いの懐具合が寂しいという事だ。同室の娘がヘレナで良かったよ。学校側もそのあたりは配慮したと思うけどね。
日持ちする食材や原料を購入して、調味料を買い足す。一人分より二人分だと使える予算も増えていいわね。
材料費をわたしが出すからと、お菓子用の砂糖も少し買った。ヘレナのお菓子はわたしの好みに合うのだ。
贅沢はあまり出来ないので、果物やお肉類は少ししか買えない。
屋台から香ばしい串焼きの匂いが漂う。あれ一本に銅貨一枚だすならば、いっそ塊肉を買って自分達で味付けした方が断然お得なのよ。
冒険者達にくっついていた時はよく奢ってもらった。なんかわたしが食い入るように見るから怖かったらしい。
「そうだ、冒険者ギルド行かないと」
これでもわたしは銅級冒険者になっているからね。ほぼ冒険者パーティーにくっついていただけの実績で、等級も三級になってるのだ。
鉄級に上がれば受けられる依頼も増えるし、報酬もあがる。だから籍は変えないようにする。
こちらの冒険者ギルドに登録しておけば、王都で活動しても王国内のギルド貢献度が上がるのだ。
「ヘレナは冒険者登録してるの?」
貴族でも冒険者登録をしている人達は多い。実力あるクランでは貴族の冒険者専門のパーティーがいて、実績作りを手伝う所もあるくらいだ。
ヘレナは貴族の子だけど実戦派だろうから、そうした寄生する必要なさそうだけどね。
「パーティーには入ってないけど、一応ね」
スッと、申し訳なさそうにわたしの前に出したプレートは、鉄級のものだった。
「えっ、わたしより上じゃない」
見かけによらないというか、騎士の子で魔法も使えるならわたしより実力あって当たり前だった。
「私の住んでいた地域はゴブリンとかトロールが多くて」
「退治していたらいつの間にかってやつね。でもヘレナが実力あるのはいい事だよ」
可哀想なのはゴブリンもトロールも、いくら倒してもあまり稼ぎにならない魔物だという事だ。
ゴブリン一匹倒しても角と魔晶石で小銀貨一枚貰えればいい方だからね。
地方ならその半分くらいにしかならない事もある。
「王都にもダンジョンあるから、いっそ休みの日に一緒に稼ぎに行く?」
ヘレナが提案して来た。お互いの懐具合の寂しさを考えると、臨時収入を得ておくのは今後の為にもいいよね。
「そうね。でもわたしは足手纏いになるよ」
「浅層で無理しない所までなら、フォロー出来るし良いと思うよ」
「なら行こう。先に荷物置いて、登録だけ更新しておこうか」
わたしとヘレナは意見が一致して、ガシッと握手した。ヘレナの手は女の子の手なのに、剣ダコでわりとゴツい。握った手の力もわたしより力強い。
人を見かけで判断するなを地で歩いている娘だよ、この子は。
わたしとそんなに変わらない背丈で戦士としては小柄だけど、鍛錬してるのはわかるもの。
良かったよ、初対面で大人しい見た目に騙されなくて。今も寄り添って歩いていて、どちらかというとわたしが前だ。でも絶対逆だよね、職種的にも実力的にも。
買い出しをして来た食料品などの荷物を、寮の部屋へと運び棚にしまう。
棚は衣服を仕舞う棚とこうした食材を仕舞う棚があって、二人で一緒に使うので分けずに入れた。
お茶をいれ少し休息した後、わたしとヘレナは冒険者ギルドのある通りへ向かう。
わたし達は寮生だけど貴族の子達や商人の子などは、毎日外から通うので大変だろうなと思った。
なんせ王都はやたらと行き交う人が多いから。
衛兵隊が結構巡回しているから治安は悪くないけれど、田舎者のわたしは買い出しだけで目を回したもの。
「私も人混みは苦手なの」
えぇ、そうでしょうね。ヘレナは荷物がなくなったので遠慮なくわたしにしがみついてる。騎士は貴女なのよ、まったく。
でも、わたしの性分としては頼られるのは悪くないので嬉しい。
そうやって楽しいひと時を過ごしていると必ずやってくるのよね、間の悪い頭も悪い連中が。