第68話 怪光線
わたしもようやく戦闘で役に立てたからね。固定式投擲武器を主体にするのは変わらない。でも先輩に作った魔銃のように、もっと遠くへ速く飛ばせるようにしたいのだ。
同じ異界でも技術の発展した世界には、魔銃の弾が光線なんてのもあった。威力は別として、魔法なら再現は簡単だと思うのよね。
光線を放つことには、わたしも興味をそそられる。必要かどうかは微妙かな。
魔法防御が厚かったり、メネスの成分のような霧散の力があると、威力そのものが散ったり減速したりするからだ。
先輩の魔銃は、一応魔力を封じられた結界内でも使えるように作ってある。でも魔力系の弾丸は魔法の効果は封じられちゃうのよ。当たり前の話で、魔銃本体を氷や岩なんかで固められてしまえば、すぐに使えなくなる。
隣国の留学生に対して先輩の置かれる状況をあれやこれやと想像すると、何だか先輩がどんどん酷い目に合う妄想をしちゃうのよ。
認めたくはないのだけど、先輩とわたしは精神的な性的趣向の相性がいいのかもしれない。
────認めたくないのよ?
悪いのは先輩が歪んでるからなんだよ、わたしはまともなんだよ。
ノヴェルの澄んだ瞳に見つめられると、なぜか心が痛む。……気のせいにしとこう。
その点、留学生の偉い人達の子供はまともなのだと思ってる。あくまでも貴族として正しい姿を、庶民であるわたしに見せてきそうという意味でね。
これを撃退するためにも、わたし専用の手甲型の投擲武器を作った。投げるより速く遠く正確に飛ばせて、防御にも向いている。
デカブツみたいな相手には、固定式の大きなもので適当に飛ばす方が良いとわかってる。目的や用途が異なるからね。
誘導線はノヴェルに手伝ってもらい、手甲の盾になる部分は取り外しも出来るようにした。ずっとつけてるとわたしには重いのよ。
だって二重に手甲をつけているようなものだもの。わたしの筋力だと何度も構えると、重さで腕がぷるぷるして来るのだ。
「ドラゴンの皮や、甲虫の外殻が軽くて頑丈だと聞くぞ」
ティアマトがやって来てわたしの手甲を興味深く見て言った。彼女の新調した手袋は、デカブツの皮を使用している。
弾力性が高く丈夫で魔法耐性まであるけれど、実は手甲の金属より重いのだ。
「ドラゴンって深層にいたアレよね」
深層にいた火竜は巨大牛人より大きなドラゴンだった。
ダンジョンによっては中層くらいに小型のドラゴンも出るそうね。アーストラズ山脈にも氷の竜が生息すると聞く。
ブレスや魔法にわたしたち……というか、わたしが耐えられそうにないわ。
「いや、だからまた同じことを言うけど、君は錬金術師なのになんで最前線で戦おうとするかな。前と違って学習したはずだよ」
散々泣いていたエルミィが、復活して眼鏡をクイッとして来た。この娘、立ち直り早くないかしら。
「カルミアは依頼を出す側になった方がいいと思うよ。ドラゴンとかは、状態異常にも強いみたいだから」
エルミィとヘレナの言う事はもっともな意見というか、研究職の先生みんなに言われてるんだけどね。デカブツをみて、何でみんながそう言うのかは身を持って知ったわよ。
わたしが少し筋力増強を頑張ったところで、デカブツが投げつける岩一つ受け止められず、潰されるのが現実だった。
今のティアマトならぶん殴って岩を破壊出来そうだし、ヘレナなら剣で両断してしまいそうだから余計に実力差が出る。
「カルミアはみんなで守るだよ」
ノヴェルがわしっと抱きついてきた。おらが守る、じゃなくて皆でって言ったわね。
「お荷物でも役立たずでも私達が一緒に行くから、絶対に君は一人で行かないこと」
エルミィがチラッと脱出口を見て言った。わたしの性格を良くわかってきたわね。これはわたしだけではなく、仲間の皆に言える事だから、共通の約束事になった。
ただし、わたしに関しては三人以上である事を強制された。本当にお荷物と思っているのね。せっかく戦える事を示したのに、信用されていないようで悲しいわ。
ずっとお荷物扱いは悔しいよね。わたしは招霊君を専用釜で改造して、浮霊式風樽君を開発した。
わたしの作った数々の妨害アイテムを内蔵していて、相手に向かって飛んでいき噴射するのだ。
半霊体なので隠しやすいし、不意に襲われたら直接噴射で撃退してやれるわ。
浮霊式風樽君なら、光線もありかな?近寄ろうとした瞬間身体から光線が飛び交うとか素敵だわ。
「それは相手と距離を置いてから使わないと、自分も巻き込まれるのわかってるよね?」
完成した風樽君を見て、ヘレナが不安そうに言った。特製辛苦玉とか至近距離は確かにきついわね。
「アストに作った魔力吸収の指輪みたいに、魔法攻撃を吸収したり反射したり出来ないのか?」
その案、採用よ。身に潜ませるのは魔力霧散と吸収ね。
反射はわたしが未習得で使えないかわりに、硬化で弓矢を防ぐとかならいけそうね。
「先輩にも二つ、潜ませて魔力吸収の指輪で操作出来るようにしておこうかな」
急いで作り直して指輪は交換する。先輩の、部屋に行くと忙しそうに書類の作成をしていた。
「指輪で動かせるのはいいな。でも二つあるのは予備ってことかい?」
わたしがやって来たので驚いた先輩は、手を止めて浮霊式風樽君の取り扱い説明を聞いてくれた。二つあるのはちゃんと理由があるのよ。
「ほら、先輩は胸が膨らみ出してるじゃないですか。半霊体の風樽君を胸に納めておけば、そのためだったのかと誤魔化せますよ」
ついでに、弱体化の光線を発することが出来るようにしておいた。錬金術師の遊び心ってやつね。
「色々と言いたい事はあるが、僕の身を考えての事だと素直に受け取るとしよう」
さすが先輩は受け入れが早い。足りないものはつけ加え、余ってるものは誤魔化す。留学生が来るまでに準備が間に合って良かったわ。
わたしは先輩と違ってまともなので、胸に風樽君を潜ませるのは恥ずかしいわ。それより手甲の左右一枚ずつを風樽君に変えた。光線も手から出す方が格好いいものね。