第67話 毒無効が効かない?
────わたし頑張ったのよ‥‥って、何度目よ、この状況。
ノヴェルとヘレナの後に次いで、ティアマトの手袋、先輩の魔銃を再強化し直した。みんなの強化を指を加えて見ていて、乗り遅れたエルミィが拗ねた。ほんと、面倒臭い娘ね。
だから、わたしの魔力次第だっていったじゃないのよ。まったくエルフのくせに鈍臭いとか、種族侮辱罪に問われる案件よ?
あくまでわたしの勝手な思い込みだ。エルフだからって、みんながみんな細身で軽やかなわけないのだけれどね。とにかく、今日はおしまい。ぐぬぬぬ、しても駄目よ。
──諦めきれないこの眼鏡エルフに、わたしは一服盛られた。お風呂上がりに冷たい飲み物を渡して来たので、腰に手を当てクイッと一瓶一気にいったのが悪かった。
ヘレナの錬金釜は体力と魔力を回復する霊薬を作れる。この薬をティアマトの錬金釜で仕上げると強化霊薬が作れる。
魔力のある人におすすめである回復薬を、さらに魔力回復効果を高めた逸品。それをエルミィはわたしに飲ませたのだ。
美声君のおかげで毒は効かない、そう思っていたのに、この優秀な眼鏡エルフは弱点をあっさり突いてきた。いわゆる過剰摂取による拒絶反応だ。わたしはお風呂上がりで素っ裸のまま倒れた。
魔力不足だったおかげか、生命に別条はなかった。薄れゆく意識の中で邪悪なエルフの少女が、ほくそ笑むのが見えた。
快適スマイリー君を持ち出し、わたしが吐き出したものをきっちり回収している用意の良さが恐ろしい。いつもはわたしがメネスとかにやっている光景だったわね。
でもね、エルミィ。貴女は策に溺れて、わたしの体力のなさを見誤ったわね。ぶっ倒れても一休みすれば、魔力だけは回復すると読んだのでしょう。
わたしのことを舐めすぎよ。わたしは復調するまで結局一晩休むことになり、お風呂上がりの貴重な作業時間は失われた。
エルミィが泣きながら謝ったけれど、泣いても失った時間は取り戻せないのよ。
「君たちは良い意味で緊張感がなく、変わらない日々を過ごしているようだな」
翌朝、新しくした装備を引き取りに来た先輩に起こされた。いま先輩は王族として現役の学生として、二つの国の留学生を迎え入れる準備に忙しい。
留学生を交えた催し物は学園の委員会が行うけれど、責任者は先輩が引き受ける事になるようだ。
それでも昨日、わたしがぶっ倒れた話は耳にしたらしい。先輩の装備は優先しておいて良かった。護身用の魔銃と弾丸、細剣に腕輪を渡す。
エルミィの暴走で発覚した過剰回復問題は、急いで指輪を作り、虹色の鉱石を嵌め、先輩専用釜で錬成し直して解決した。
「指輪は魔力の保管庫だと思ってください。余った魔力は自動で吸収して、貯まると魔晶石化しますから」
魔晶石化した結晶は魔銃の魔力弾としても使えるように、銃をしまう拳銃嚢の付属収納へ生成される。
先輩は笑顔で指輪を右手の薬指に嵌めた。どの指でも大きさは調整されるんだけど……まあいいかな。
「それと、これを五着渡しておきます」
「なんだい、この布は?」
黒く染まった男物の下着だ。先輩のために上等な生地で作った特製品だ。
「君、これって」
「いちいち持ち運びをしないで済むよう下着に、貴人の嗜みの男の子の張り型タイプをつけてみました」
不埒物が触れても、少し弾力があるくらいにしか思わないはず。さすがにわたしも恥ずかしいので、モノがどういう形か聞くことが出来なかったよ。
これも魔晶石がホルスターの付属収納へ生成される。なるべくなら先輩の魔晶石は弾丸として使わず回収したいのよね。
「履き心地はよいね。使用回数はあるのかい?」
「普通に汚れが気になったら変えてください。回収して洗浄しますから」
回数に制限はない。強いて言うなら壊れるまで、汚れが気になるまでね。堂々と履き替える先輩。一応、みんないるんですよ。
そして何故か食い入るように見ているヘレナ。貴女は変な道に進まないで美少女していなさいな。
「カルミアさま····私の装備もお願いします」
先輩が荷物を抱えて自分の部屋に帰ったあと、エルミィが泣きついて再び謝ってきた。
「あなた、スマイリー君まで用意して完全犯罪を企んだでしょ。謝って済むなら王国法はいらないのよ」
「次は体力のことも計算に入れるからぁ」
この眼鏡エルフ、サラッと恐ろしい事を吐かしたわね。
「それなら特濃魔晶石十個分を、今後も定期的に差し出す事で許してあげるわ。あと別のお仕置きもね」
わたしを苦しめた罰で、エルミィには魔晶石を供出させる。呻いていたけれど、それで許されるならと、彼女は了承した。お仕置きについては準備がいるので後にした。
────ぬっふっふ、落ちた先が金脈みたいなものね。エルミィの錬金釜は結合力があるのがわかったのよね。相性の悪いもの同士でも結ぶ力があるようなので、使用頻度があがる。
需要が高まっていた中で、自ずと差し出す道に進んでくれるとはね。
「おらのもいるだか?」
ノヴェルがエルミィを心配して、ひょこっと顔を出した。ノヴェルは魔力が余っている上に、純度がとんでもなく高いので大丈夫だった。
美少女でも危ないのに、幼王女にまで頼んだら、術師の記憶に呪われそうだよ。いや、うるさいんだよね実際。
エルミィの装備と、メネスの新しい刀は授業中に作成を終えた。刀って何よ、と普通は思うわよね。
エイヴァン先生の話では異界人の武器らしく、御神刀とも呼ばれる破魔の力を持つ武器だそうだ。
怪しいのでおじいちゃん先生の書庫を借りて資料を調べてみたら、あながち間違いでもないみたい。
戦争で使う武器の一つで、先輩の持つ儀礼用の剣みたいなものや、主武装の槍にかわり使うものなど形や長さも色々あるそうだ。
メネスの投擲武器はそのままだとデカブツには砂粒が当たったくらいしか威力がなかった。異界で探索者は隠密とか忍者というらしいので、説明にあった二刀流にしてみた。
錬金釜も黒いし、メネスにはぴったりの呼び名よね。羨ましいけど、役割を調べたら悲しい職業だったのでメネスには秘密にしておくわ。
そしてお風呂と食事を済ませたあとは、ルーネとシェリハの指輪を一つずつ作る。わたし用の装備にようやくたどり着くことが出来た。