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錬生術師、星を造る 【完結済】  作者: モモル24号
第1章 ロブルタ王立魔法学園編
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第65話 先輩の後始末

 ────わたしは何故か職員でもないのに、先輩の部屋の消臭作業にからり出されている。先輩の世話係がお掃除に来たところ、部屋の中に充満する刺激臭で、先輩の暗殺が疑われたらしいのだ。


 こういう事態に備えて、対応をしっかり教育されていたメイドさんで良かったわ。そうでなければ今頃、寮をあげて騒ぎになっていたはずだもの。


 ────よく出来た世話係は、半分は監視者でもあるからね。


 メイドの娘は、先輩の部屋の違和感と臭いから隠し部屋を発見し、積まれた魔物の素材を見て絶句したようね。メネスのような斥候職でもないのに、発見したのね。


 臭いが特に強い毛皮はパオーム三頭分よりある。角は見たこともない大きさの巻き角だったから、報告を悩んだらしい。


 異臭元の部屋の中の怪しい魔法の壁も見つけたようだ。資格のないものは入れず、どうするか困った所で、そこに戻った先輩と鉢合わせしたという。


 説明をするよりも前に、酷い臭いに先輩がえずき、メイドも釣られてゲーゲーした。部屋の臭いはさらにキツく酷くなったそうだ。美人な先輩と可愛らしいメイド……なのに。


 詳細を聞かなくても酷い絵面だったのは想像出来たわ。スマイリー君で回収作業しているけど、マスクをしても見た目がゲロいから。いやゲロもか。


「先輩が許可を出したのだから、わたしのせいじゃないわよね」


 そのために確認までしたのに、何をいまさらって話だわ。


「君は知っていて押し付けたのだろう。責任持って消臭をしたまえ。僕は父上に説明をする羽目になったのだから」


 どうせ殆ど使っていない部屋なのに、王命だとかわけのわからない権力を持ち出した。先輩は王様ではないでしょ?


 無言でわたしのマスクを剥ぎ取ろうとするので、降参した。最終的に暴力とか最低ですよ、先輩。 


 この部屋に関しては、偶然見つけたこととしてメイドさんにも口を封じをする。


 メイドさんのシェリハは頭が良い。王族に関して余計な口を聞けばろくな事にならない事を、彼女も良く理解しているようね。


 そうでなくては厄介な事情を持つ先輩のメイドさんなど、とても務まらないのもあるだろう。


 このメイドさん……シェリハ自身も、何やら抱えているし。


「王宮へ行くのならついでに、留学生がいつ来るのか確認して来てくださいよ」


 待つだけなのは気が滅入るからね。詳しい日時が分かれば、どうやって歓迎すべきか、考える楽しみが増えるというもの。

 

「貴族の連中は気位の高いものが多い。まして子供など、跡目を継げなければ誇れるのは親の身分だけ。あんまり刺激するような真似はやめたまえよ」


 貴族への先輩の認識は、わたしに近いみたい。先輩は気さくで、王様にするのがもったいないくらい人が良い。珍しいわよね。壊れてるとも言うけどね。


 非情な決断が出来なかった事で、逆に感情を吹っ切れさせた。それが王としての資質に目覚めることになった、とか皮肉な話よね。


 ロブルタ王国の貴族の子は、先輩の理屈だと優しい子ばかりなんだそうだ。確かに悪辣な冒険者(チンピラ)基準で見るわたしからすると、拍子抜けするほど子供らしかったわね。


 メガネ男子すら他人を陥れる事や殺害することにためらいがあって、おかげで助かった面もあるくらいだもの。


 国のトップからして、頭の毛ばかり気にしているような平和な国、それがロブルタ王国だ。


 ドヴェルガーたちを滅ぼし、ドワーフたちの国から寸土を奪ったのは、結局の所、南のローディス帝国の力がそれだけ大きかったってことなのよね。


 そんな国から来る貴族の子供や、そんな国と争うもう一つの国の子供が、優しく礼儀正しかったら気持ち悪いものだわ。どうやら、わたし達は真の悪と対面する事になりそうだわ。


 ────ポカッ! 


「暴力反対ですよ、先輩」


 殴ったわね、先輩にはたかれた事なんて一度もないのに。


「ヘレナやエルミィに教えられたのさ。君はそもそも何をしに来たのか忘れてないかね?」


 あの眼鏡エルフめ、先輩に余計な情報をペラペラと喋らないでほしいわよ。先輩とのお肌の触れ合いは大事な儀式でもあるんだから、拳骨一つで済まされたら心が萎えるのよ。


 先輩が口元を引くつかせてる。あれ、わたし今は魅惑の美声君(ボイスチェンジャー)付けてないはずよ?


「いや、こういう時の君の心の声は、駄々漏れだと言われているだろう」


「先輩と、仲良く楽しくやっていきたいと思っているだけで、妙な気は起こさないでくださいよ?」


 先輩が頭を抱えて首をかしげた。器用な悩み方ね。とりあえず先輩が変な気を起こさないように牽制しておく。王族や貴族はおかしなのが多いからね。


「……どの口が言うのだ。まあ、いい。しっかり励みたまえよ」


 今度はしっかり首に腕を回され本当にそうしてあげようかと、艶っぽく脅された。ごめんなさい、冗談なので勘弁して欲しいです。


 そういう事でわたしは、先輩の部屋の消臭を行うことになったのだ。先輩たちにはふりかけるタイプの消臭香を渡しておいた。


 この部屋の外出用の着替えや礼服も臭うといけないからね。お世話係の娘が涙目で感謝してた。マスクもなく、よくこの激臭に耐えられたね。


 ……防臭マスクなしだと、相当酷い臭いになってると思うのよ。たぶん廊下まで臭いが漏れてるわね。


 わたしは連れて来た快適スマイリー君に、先輩たちの吐瀉物も片付けてもらう。


 二人とも王宮へ行ってしまったのよね。だけど、庶民を一人残して行っていいのかしら? と思った。まあいつでも勝手に部屋に上がり込めるのに、何を今更ってことなよね。


 先輩がいないうちに、快適スマイリー君を駆使して特製成分の回収をしまくるわよ。髪の毛は使いたいから、スマイリー君に言って食べずに集めるだけにしてもらう。仲間たちの協力でスマイリー君にも区別が出来るようになったのよね。


 ついでにあのメイドさんの吐いた物から、特製魔晶石が出来るかやってみた。


 ────ぬふっ、やったわ……反応した。


 つまりあの娘は先輩に忠実で、わたしとも相性がいいって事になる。いざって時のために、先輩の周りに常に一人はいてもらいたいので都合がいい。


 ティアマトに頼んで、取り巻き希望の貴族から髪をもらって来たけど、変化しなかった。


 管理のおじさんとおじいちゃん先生、それ以外に大人で信用あるのは寮長くらい。


 ちなみにエイヴァン先生は駄目でした。ギルマスのガレオンは信用はわりと出来るのだけど、すぐ調子に乗るから駄目なのよね。頭がどうこううるさいし。


 何かすごくよくない感じがする。ノヴェルの事といい、巨大牛人(アルデバラン)といい、ただでさえダンジョンが不安定な時期に跡目争いとか。敵対する帝国と隣の王国が介入して来るのだから。


 ────いったい誰よ、わたしの学園でのコネ作り計画を妨害するの。


 わたしは魔法を学びたい、知己を作りたいだけなのに、ズルズルと争いの渦中に置かれている。メネスみたいに、闇が深まってるのかもしれないわね。

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