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錬生術師、星を造る 【完結済】  作者: モモル24号
第1章 ロブルタ王立魔法学園編
62/199

第62話 ダンジョン探索【獣達の宴】 ⑭ デカブツの癇癪

 ヘレナたちが戻り青白い顔のメネスが寮にやって来たので、機嫌の良くなったエルミィが迎えに行く。


 わたしはヘレナが作ってくれたフカシギの実を溶かし込んだスープをメネスに飲ませて、精神と魔力を癒やす。


 メネスはギルドマスターのがレオンと一戦交えて来たそうだ。そしてきっちりと勝利をもぎ取って来たらしい。


 ギルドには相変わらずの国王陛下からの催促が続いて届いているようだ。そのことでガレオンが苛立っていて、メネスへ怒りをぶつけようとした。キレた彼女がぶっちゃけてしまったらしい。


「あ、アスト様の情報は漏らしてませんから────」


 先輩が笑顔で、メネスの頬を優しく撫でる。だから先輩……逆効果なのわかってやってますよね、ソレ。成分が確保出来て、助かるからいいけどね。せっかくなのでメネス成分をたっぷりと頂いておくとしましょうか。


 本人はいまも気づいていない様子だ。快適スマイリー君によりメネスの肌はピカピカに磨かれていた。ヘレナ達の髪の毛も益々ツヤツヤになっているので、ガレオンが怒ったのはそのせいだと思う。


 メネスが見て来た情報は、主にギルドの動向だ。大慌てでAランクパーティーの探索者(シーカー)タニアが呼び出されていた。その他にも手の空いていたBランクパーティーと一緒に、農村方面へ調査隊が出された。


 メネスにも当然、彼女達について行くように指示が出た。用意していた用紙にある名前を、ニッコニコの笑顔で指差すメネスにガレオンがまたぶちキレたのだ。


 妙にスッキリした顔なのは毎日うるさかったギルマスが、メネスのぶっちゃけと、用紙に記されていた第三王子の名前に混乱して泡を吹いたのが見れたからね。

 

「まぁ、メネスが職員として話すのは仕方ないわよ」


 調査隊が魔物の群れを調べ戻ってくるのに早くて一日、討伐隊が組まれるのがもう一日、行軍も入れると全部で三日。


「────時間が惜しいわね。行きましょう」


 デカブツは同じ部屋にいた。ご飯とか食べないのかしら。食べてるから、デカブツしかいないのかしらね。ダンジョンの魔物の生態ってよくわからない。食べなくて平気そうなのに、襲ってくると喰らいつくし。


 ヘレナとティアマト、それにメネスが盾を持ちながら先行する。巨大牛人(アルデバラン)は眠っているのか、わたしたちが来たことに気づいていない。デカいので、耳も遠いのかも。


 盾はダンジョンの岩を模したものを貼り付けて使う。立て掛けて擬態出来るようにエルミィが足を作っていた。


 デカブツが気配をどう捉えているのかわからないけれど、視認しているだけならチクチクと攻撃がしやすい。


 さあ──いよいよわたしの戦闘お披露目の出番よ。昔も今も散々戦った中でお荷物扱いだった日々がこの一撃で終わる。


 固定式投擲君(なげるくん)に臭い玉と目潰しを混ぜた新たなチンピラ撃退玉を用意し、エルミィの盾をくっつけた台に乗せて構える。


 高笑いしたくなったけれど、声に出して見つかるかったら危険だからね我慢する。遠いけど、ダンジョンは響くからね。


 先輩とノヴェルはわたしの側で待機している。先輩も戦いたがった。でも王子様には、あまり危ない真似はさせられないわよ。


 エルミィは部屋の入口付近で、わたしの射線を塞がない位置にいる。そこで自作の盾を並べ構えて待機している。みんなの準備が整う。デカブツはまだ気づいていない。


 ────バシュッ! 


 ノヴェルのおかげで固定式投擲君(なげるくん)は、速やかに対象の顔面にチンピラ撃退玉をぶつけた。

 

 眠っていたので目には効果が薄かった。あれは鼻から入っても痛いはず。でかいので鈍いだろうから動きの鈍いうちに、もう一発ぶち込む。


 しばらくして、うごぉ〜という悲しい雄叫びがあがる。デカブツの涙目が開き敵を探すようにギョロつく。見つかるのを覚悟で、わたしは三発目を当てる。


 目と鼻をやられ、ダメージはないくせに怒りにながらのたうち回る巨大牛人(アルデバラン)を見て、冒険者(チンピラ)に撃ち込んでもいいものなのか判断に迷った。


 あいつらはパオーム並みに鈍感だから、効果わからないんだよね。


 エルミィがすかさず足を削るために矢を放つ。巨体に暴れられると揺れや破片で、ヘレナたち近接組が近づくのが難しくなるからだ。新しい矢はデカブツの足に刺さると、回転し始め深く抉り出血させた。

 

 メネスがそれを見て動く。目潰しにも使う刺激成分のあるカカシラの葉の刺激玉を、傷口に投擲する。傷口に塩を塗るより激しい痛みが発生するはずなのよ。だけどデカブツは巨体のせいかいまいち鈍い。


 エルミィは構わず足を集中的に狙いメネスも次々と刺激玉をぶつける。カカシラの葉は安価で大量に手に入るので、わたしとしては費用対効果が高くて重宝している素材の一つになったわ。


 巨大牛人(アルデバラン)が、視覚で敵を認識しているのは良くわかった。それに獣系は自身が臭いくせに、ほかの匂いに敏感なのよね。


 デカブツでもそれは同じようだった。とくに意識すると、隠れていてもわかるみたい。匂いが届くと警戒されるのはそのせいね。


 先に鼻と目を潰しておくのは有効だと思う。ただし揺れが激しいので、よろけられると暴れて踏み潰されてしまうわね。

 

 ヘレナとティアマトは、接近するまでの我慢の時間が続く。ようやくエルミィとメネスの、足への攻撃に効果が出てきた所だ。

 

「やばくないか、あれ────」


 大きな顔をグシャグシャにした巨大牛人(アルデバラン)が、手当たり次第に岩を拾い投げつけ始めた。


 わたしたちより大きな岩が飛んできて、ぶつかり破片を撒き散らす。痛み涙で滲む視界で、デカブツがどこまで見えているのかわからない。

 

 先輩とノヴェルには、岩の飛んでくることのない死角へ隠れてもらう。わたしはヘレナとティアマトの動きを見て、エルミィ達とは反対の足へ楔玉を撃ち込んでいく。


 楔玉によって、デカブツに登る足場が出来た。ヘレナ達は揺れる地面を跳ねるように駆け、巨体の拾いあげる反対の背中側から近づき、軸足の楔を深く差し込みながら登る。


 ヘレナが考えた作戦だ。エルミィの矢で体毛が短いのがわかったので、剣でぶっ刺しながら登ると言い出したのだ。


 それならばと、わたしが魔法の楔玉を足から頭へ順番に適当に撃ち込んで、登る道をサポートすることにした。


 ヘレナと、ティアマトは振り落とされないように片手に紐付きの爪の長い鉤爪を引っ掛けながら、楔をうまく利用して登ってゆく。


 二人の姿がデカブツに気づかれないようにするために、エルミィが濁って真っ赤になった目玉を矢で狙う。刺激成分と違い矢は弾かれた。傷を負うだろうと認識される急所などへの攻撃は、魔法で自動的に守られているのかな?


 小さな蜘蛛の毒が人を殺傷するように、巨大生物も認識出来ないような小さな虫が苦手なのは同じかもしれないわね。


 ヘレナとティアマトは楔を深く差し込みなおしながら、肩まで到達していた。


 酷い臭いに自分たちもやられないように防臭マスクをつけていて、魔力を伴った攻撃を開始した。

 

 痛みに気づいて掻きむしろうとする手を逃れるために、鉤爪を背中側にしっかり喰い込ませている。鈎爪には紐もついている。


 場所的に逃場が少ないから、振り落とされる事を想定しての予防策だ。巨大牛人(アルデバラン)は痛む目に、ちらほら映る人の姿を見つけて狂ったように暴れ出した。

 


 わたしは固定式投擲君(なげるくん)を回収して、先輩とノヴェルと共にデカブツの元へ急ぐ。

 

「もういるのはデカブツにバレてる。全員でかかるよ」


 エルミィとメネスには先輩の護衛の位置まで下がらせ、遠距離支援を行う。わたしは酔狂玉を用意し、デカブツにつけられた傷を狙い撃つ。

 

 お酒には消毒効果があると誤解されがちだけど、逆に炎症により傷を悪化させるらしい。水のかわりで汚れを落す程度ならいいのかもしれないけどね。お酒で血流が良くなって、出血死させるには巨体過ぎる。でも徐々に痛みは増したみたいね。


 エルミィはヘレナとティアマトの援護のために、腕を狙う。身体のあちこちで腫れた傷口に、先輩やメネスが再び刺激玉を投げつける。


 ノヴェルは器用に魔法で足場を作っては壊して上方へ向かい、頭上から天使の槌鉾(エンジェルピック)を食らわした。あの娘、やる事が大胆過ぎるわ。


「────先輩、メネスの板に切り替えて目玉をやれますか」


 首から上を主戦場に戦う三人のために、エルミィにもあらめて狙わせる。


「魔法の防御力が上回って通じなかったよ」


「わたしが弱化させるから、先輩、エルミィの順でいくわよ」

 

 メネスには引き続きデカブツへの嫌がらせををやってもらう。最初は怯えていたのになんだか恍惚とした表情で攻撃し、はね跳んでくる岩をうまく避けている。当たり所悪いと即死なのに、よくやるわね。


 先輩達が準備出来たのを見て、わたしは招霊魔物複式君を飛ばす。


 巨大牛人(アルデバラン)の血が手に入ったからね。先輩の専用釜で吸収力を上げたため、牛に群がる蝿のようにブンブン飛び回ってるわ。


 怪力でも弾いたくらいじゃ壊れないし、視界の悪い中で大きな手で掴めない。魔力を吸われ、弱体化魔法をかけられ、先輩とエルミィによる目玉攻撃で弱り膝をつくデカブツ。


「先輩、みんなにデカブツから離れて背後へ行くよう指示をお願い」


 デカブツがキレた牛のように身構えたので、みんなに離脱させた。目を潰され鼻も効かず、頭にはブンブン飛び回ってうるさい蝿のようなものがつきまとう。苛立って怒る巨大牛人(アルデバラン)は、強行手段で壁に向かって突進した。


 猛牛の本能なのか、頭が悪いようで結構厄介よね。ぶつかった衝撃で招霊君たちか壊された。


 こうなると念のために先輩に魅惑の美声君(ボイスチェンジャー)をつけてもらったのは正解だったわ。


 本当は先輩が孤立したり、攫われたりした時にわかるように用心してのものだった。


 マンドラゴラのうるさい声の対策の耳あては、この戦いでも役にたっているわ。至近距離の雄叫びもでも耳を守れるからね。

 

 デカブツの最後の足掻きは、この部屋ごと侵入者を潰すつもりのようだった。ダンジョン化したものではなくて、ドヴェルガー達が地属性の魔法で作っていたものだったのなら、さすがに全部崩れてるわよね。

 

 全員を通路まで退避させ、デカブツが止まるのを待つ。ヘレナとティアマトがとどめを急ぐけど、わざわざ自爆しようとしてる中に行く必要ないと止めておいた。


 巨大牛人(アルデバラン)は七度も壁に激突を繰り返して、ようやく力尽きた────。

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