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錬生術師、星を造る 【完結済】  作者: モモル24号
第1章 ロブルタ王立魔法学園編
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第59話 ダンジョン探索【獣達の宴】 ⑪ 共通認識が生まれていた

 ダンジョンへ入るまで、ティアマトに口を抑えられたまま引きずられてゆくメネス。彼女の姿を憐れむ目は多かった。

 

「わたし達が人攫いみたいに思われるから落ち着いてね、メネス」


 わたしがそうメネスに告げると余計に興奮して鼻息が荒くなり、ティアマトが少し嫌そうな顔をした。噛みつかないだけましね。


 冒険者ギルド内の職員や冒険者たちは、ギルマスとの一件を知っている。わたしたちにあまり関わりたくなさそうだった。


 戻って来た冒険者達も堂々と拉致されるメネスを見ても、みんな見て見ぬふりをした。なのでダンジョンの中までは、わりとすんなりと行けた。


 誘拐と疑われなかったのは、普段のギルマスとメネスのやりとりや事情を知っている人達なのだろう。


「ここなら袋小路だから、見張りをすればいいわね」


 ルーネの眷属もいるし、そろそろ騒音対策も考えておいた方が良さそうね。流石に暴れ疲れたのか、メネスはぐったりしていた。


 この所、泣かせて抽出させてばかりいたからね。目も腫れぼったい。メネスのために、専用の目の保養薬でも作ろうかしら。


「知り合いの探索者(シーカー)がいると言っていたな。この娘がそうかね」


 先輩も可哀想な娘を見る目で、メネスの様子を観察している。みんなもジト〜っとした目でわたしを見るけど不可抗力よ。理由もちゃんとあったのよ。


 いまから探索するのに脱水症状になられても困るので、わたしは冷水器君(クールウォーター)に水と果汁液に砂糖を入れてよく混ぜる。


 色々と毒されてそうなので浄化用にヤツレ実を干して乾燥させ、摺りつぶりて粉にしたものをひとつまみ混ぜる。こうすると酸味が増すのよね。

 

 甘くさっぱりした果汁水をカップに入れると、ティアマトに抱えてもらいながらメネスに少しずつ口に含ませた。


 ギルドマスターのガレオンは、宮廷からの圧力で頭だけでなく顔も身体もやつれて縮んだそうね。その八つ当たり先のメネスは、不死の生命体幽鬼(グール)になりかけてる。


「────誰がグールよ。だいたい貴女が国王陛下からの依頼を燃やしちゃうから、ややこしくなったんだからね」

 

 水分補給で元気が戻って何よりだけどマンドラゴラよりうるさい。ギルマスへの文句から、国王陛下への不満をぶちまけてようやく止まる。


 どうも目の前でノヴェルと一緒のアスト先輩の姿は目に入ってないようだわ。この先輩、男装だと凛々しくて格好いいのにね。


 散々毒を吐き出したメネスは、ようやく落ち着きを取り戻したようで、わたしたちの中に見慣れぬ麗人の姿があることに気がつく。


 ギルド内では念のために、フードのついたコートを頭からかぶらせておいた。動きもなるべく目立たないようにしていた。それでも撒き散らす魅力で、ひと騒動起こしそうなのよね。


 受付がメネスじゃなくてかえってよかったかもしれない。このへっぽこ職員は冒険者と兼任しているせいか、受付嬢としての自覚が薄い。雇い主に似たのかしら、薄いだけに。


 融通がきくので、わたしとしてはやりやすい。でもギルドの職員さんたちは、扱い難しくて大変だろうなと思った。


 先輩はメネスの謝罪を一笑して許していた。あれだけ堂々と王族を前にして、国王陛下への不満をぶちまければ不敬罪で首が飛ぶもの。


「病んでるのは見てわかっているからね。元気になったら改めて対応を考えさせてもらおう」


 ────にっこり微笑む先輩。ロブルタ王国第三王子として、国王陛下への暴言は許さないよ……って聞こえるから不思議だ。


 メネスは当然震え上がった。でも先輩には他意はないと思うわよ。

 

「人はああやって、自分の置かれた環境や状況に照らし合わせ、誤解し受け止めていくんだね」


「原因を作った当人(カルミア)が、のほほんとしているのを見ると、私も世の中の不条理について考えを深めておくべきだと思い知らされるよ」


 なにかヘレナとエルミィが失礼な発言をしているけれど、視野を広げて考えるのは良いことよね。きりがないと見たのか、ティアマトがメネスを袋小路の奥へ引き摺る。

 

「ヘレナ────よろしく」


 着替えを持って待つヘレナが、ティアマトと二人で探索用の装備をメネスに着せる。回収した服は成分抽出の為に預かっておく。


「遊んでる時間、もったいないから行くわよ」


 ヘレナから着替え完了の合図が出たので、出発する事にする。ノヴェルが秘密の通路の場所を覚えているので案内を任せた。


 メネスには 探索者(シーカー)の通常の仕事をしてもらえれば助かる。メネスの良い所は、切り替えの早いところだわ。


「僕の前で犯した失態を、挽回しようと張り切っているようにも見えるよね」


 それは言わないであげて下さいよ、先輩。メネスは必死で探知を働かせ、ティアマトより早く魔物を見つけていた。

 

「カルミア、これをメネスさんにあげて」


 メネスの体調を気づかってヘレナが自分の腰の小物入れ(おやついれ)から焼き果汁を取り出す。


 コカチオの実を潰して砂糖と混ぜ、練った物を塗り挟んだヘレナ特製のお菓子だ。


 コカチオはクイタの実と同じく苦味のある実なのよね。同じ免疫機能改善効果もあり、クイタの実は抗酸化作用、コカチオの実は疲労回復効果が期待出来る。牛やヤギの乳などを温めて溶かして飲むと更に効果が高まるんだとか。


「メネス、ティアマトと交替して、先輩の所へ来て。これを渡しておくからゆっくり食べなさいね」


 気に入ったようなので冷水器君(クールウォーター)の容器ごと渡しておく。中身は補充しておいた。


 わたしたちはダンジョンから戻って来る冒険者とかち合わないように、一旦休憩を取ることになった。


 さて……ずっと使われてなかったもう一つの秘密の通路の中はどうなっているのかしらね。

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