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錬生術師、星を造る 【完結済】  作者: モモル24号
第1章 ロブルタ王立魔法学園編
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第55話 挫折と諦めないこころ

 おじいちゃん先生から貰った本は、収納魔法について研究していた学者の試行錯誤の手記に近い。


 わたしもパラパラ本を(めく)って読んだ程度なので確証はない。研究された時代はかなり昔のものだとわかる。

 

 収納用の魔道具に必要な素材や人材一覧に、ドヴェルクの名前があったからだ。研究者がどこの出身の人なのかは記入はない。ドヴェルガー族の国ならば、ドヴェルクに会うのは容易いと書かれていた。

 

 つまりこの研究者はドヴェルガーを個で示すドヴェルクの存在を知っていて、国がある事を知っていたことになる。わたしの知る術師の記憶の中の人と関連性があるのか気になったけど──それはあとにする。


 おじいちゃん先生がなんでこんな本を隠し持っていたのか、それも気になるわね。でも探りを入れると、スッとぼけそうだわ。術師の記憶と、この本の内容から読み取る事が出来た情報を活かす方が先だわ。


 わたしはベッドでうつ伏せになって、足をパタパタさせながら魔本を読むノヴェルを見る。


 アルラウネのルーネに、自作の魔本を使って文字を教えてるみたいね。この瞬間を切り取って魔本に収めておきたいわ。


 ドヴェルガーの王女であるノヴェルは、精霊化するほどの大地の魔力がある。だからダンジョンを掘り進める事が出来ると思っていた。


 誰もがドワーフの親戚くらいにしか見ていなかったし、ドヴェルガー達も自分達の能力を勘違いしていた可能性があるわね。

 

 彼らは大地の民だ。当然のことながら大地属性の魔法は得意なわけ。大地を操るのに際して、もう一つ特異な|能力をもつものがいた。


 それがノヴェルのようなドヴェルクで、彼らは空間魔法を無意識に使っていたのだと思う。


 ルーネの入っている魔力の檻は、見た目は土の花かごや虫籠のようなものね。最初は空の檻だったのに、中は小さな洞のようになっていて、香り草や魔力草の花が植えられていて箱庭みたいで綺麗だ。


 手のひらサイズのルーネが困らないようにと、ヒイコラと土運びを手伝わされたのに……何で気づかなかったのよ、わたし。


 固定観念の慣れと怖さよね。少なくともノヴェルは、一回の魔法でダンジョンの通路の倍くらいの部屋を作っていた。


 今なら意識して魔力を込めればもっと広く出来ると思う。ルーネの檻を見る限り魔力維持が必要なので、大きすぎると大変そうだ。


 空間の確保が解決しそうなのに、今度は魔力維持か。道は険しいわね。

 

 ノヴェルに相談してみるとダンジョンの中のように、魔力に満ちていれば学校の建物くらいの空間を作れるらしい。


 ただしダンジョンという土に囲まれた所の想像が働くのが条件で、維持せず作ったら放置出来る場合に限るそうだ。


 これはノヴェルの想像力や、技量に関係していそうだ。魔力維持がさほど重要ではないのは助かるわね。


 ルーネの花かごはルーネを閉じ込めるために作った檻なので、これもノヴェルには魔力維持は必要ないそう。


「────つまりさ、ノヴェルがイメージしやすければ、収納魔法のように手のひらサイズの石の中に空間を作る事は可能なわけね」


 コクリとうなずくノヴェル。当たりだ。問題はノヴェルの意識と、想像して空間を作るだけの事になる。


 収納場所の出入り口の自在性や、中へしまった際に入ったものが整理整頓されるかは別の話しだとわかった。


 わたしの簡易収納と同じね。遠い場所にある物置に、適当に放り込むのと変わらず、取り出せない。

 

 ノヴェルの力がなければ、魔力の維持、温度管理、転移座標などにかなりの魔力消費する。それに加えて、空間魔法、時空魔法、次元魔法など高度な魔法技術がないと、小さな魔法の鞄(マジックバック)すら作れない事がわかった。


 ……完全に敗北だわ。

 

「持ち運ぼうとするから駄目なのではないのか」


 わたしたちの様子を眺めて楽しんでいたティアマトが話しかけてきて、わたしを我に返す。

 

「本来の目的は収納魔法や魔道具ではなくて、()()()()だろう。そこの広がった荷物をどかして棚の大きさで土を固めてみてはどうだ」


 ティアマトが言いたい事はよくわかった。溢れてきた物をしまうために収納場所がほしいのに、出来もしないものを作ろうと欲張り過ぎた。


 いつかは作りたいにしても、いますぐに欲しいものはただの収納だ。わたしを見て楽しむという変な娘だけど、たまにこうして疑問を解消してくれるのよね。ありがとね、ティアマト。


 買い出しに行っているヘレナとエルミィが戻ってくる前に、お部屋の片付けに挑戦するとしますか。


 管理のおじさんから使っていない補修用の板を貰った。それを外庭まで持ってゆく。補修板を利用して、わたし達が通れるくらいの高さの木箱を作った。


 要は中に入るための入口になればいいので、扉もただの板の蓋にした。箱そのものは、土を入れて壊れないように角を強化した。

 

 出来た長方形の板の箱に、外庭の土を入れ固める。あくまでイメージの問題だからノヴェルの魔法技術の高まり次第で、いずれは手間をかけなくても出来るかもしれない。


 いまはせっせと土を入れて、ノヴェルが魔法を使いやすいように頑張るわ。


「────やってみるだよ」


 ノヴェルは土を入れる間は、イメージを高める事に専念していた。賢い娘なので、わたしとティアマトの会話から何をすればいいのか理解している。


「……うまく出来ただよ」


 おぉ……ノヴェルは凄いわね。棚型の木箱は寝かせて土をいれたので、覗いてみると大きな落とし穴みたいで恐い。


「カルミア、落ちると危ないだよ」


 ノヴェルが注意しがてら、小石を中へ落とす。穴の大きさは学校の教室くらいの大きさで小石が落ちカツンと音を立てるまで間があった。怪しまれるといけないから、棚型木箱に蓋をする。

 

「────ふんグゥッ!!」


 わたしの全身の全力でも、棚型木箱はピクリとも動かない。板で出来た空っぽの棚のくせに、めちゃくちゃ重くて泣いた。


「カルミアはたまにアホになる」


「土を入れたの忘れてるだ」


 どこに消えたのか見えない土の中に空間があるのを、わたしはすっかり忘れていた。土の重さはそのままなのよ。


 入口側を下にして倒してしまうと土ごと空間が出るのかしら。ノヴェルが板に固定したので、土が溢れる事はなかった。


 力のないわたしは蓋というか扉を押さえる係になった。運ぶのに何の役にも立ってないよね、これ。棚はティアマトとノヴェルが運んでくれた。なんで二人とも簡単に運べるのよ。


 寮の部屋に戻り荷物をどかした場所へ棚のように設置する。一応、床が土の重さで抜けないように床板に頑強と防音を付与し直しておく。


「────おぉ、室内なのに倉庫が出来たわ」


 横道にそれたけれど、念願の収納部屋が出来たわよ。ノヴェルがうまく床の高さを合わせていたので薄い壁板のはずなのに、教室くらいの部屋が広がった。


 重いし大きいけれど中に棚を作って固定化させれば、馬車とかでも運べるかもしれない。


 それに、わたしは投げ込むだけの転移魔法は使える。だから部屋の一部を素材や鉱石置き場にすれば、簡易の収納魔法もどきが出来るかもしれない。


 一旦は挫折しかけたけど、仲間達のおかげで目的は達成出来た。わたしは魔力馬鹿でも、魔法の大家でもないからね。いま出来る事を最大限に活かして作るのみだわ。


 収納が出来て一番喜んだのはヘレナだ。資金に余裕が出来て、食材や調味料を買い込んで、棚がパンパンになっていたからね。


 シルダレ草とハルミ竹を使って空気を流す管を作り、天井へ設置した。寮の窓の外から直接空気を入れ替えられるように魔晶石で風の魔法を働かせる仕組みだ。


 風の魔法の得意なエルミィが協力してくれたので、収納倉庫は快適に保てそうだ。

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