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錬生術師、星を造る 【完結済】  作者: モモル24号
第1章 ロブルタ王立魔法学園編
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第54話 学園七不思議 ⑥ 眠るおじいちゃん先生

 わたしたちが眠たそうにしているのを見て、おじいちゃん先生もようやく話しを始めるかと思いきや────ゆらゆら船を漕いでらっしゃるんですが!?


「先生まで眠ってどうするんですか!」


 わたしを呼んでおいて、忘れてる……なんて事はないわよね。あれ? 結構ダメージあるのね、この手段。今度あの取り巻き希望の伯爵令嬢達に会った時、謝っておこう。


 おじいちゃん先生は、ハッと目が覚めたようだ。本気寝入りだったわよ。


「──すまんのぅ、歳のせいか夜になると眠くての」


「いえ、それは人として本来なら正しいのですから」


 安心して眠れる環境下って、前提があるけれどね。きっとおじいちゃん先生は若い時は研究熱心で、徹夜で何日も寝ないタイプだったのよ。そう言ってるだけで、ボケたわけではないわよ……ね。


「カルミア君を呼んだの、わしじゃったか。おぉ、そうじゃ取引をしたいと思ってのぅ」


 ────……いけない、危なくおじいちゃん先生の頭をはたくところだったわ。自由過ぎて何故かムカつくのよね。どうやらわたしが錬金魔術で作るものに、興味があるようね。


 御自身の研究に没頭しそうな方に見えたけれど、いまさら学園の生徒の作品に興味を示すようなものあったかしら。

 

 あるとすればみんながつけてる虹色の鉱石(カルミアタイト)のネックレスくらいかな。意外とお洒落好きなのかもしれない。


「カルミア君が収納場所に困っておると独り言を呟いていたのを、わしは聞いていたのじゃよ。わしの倉庫を貸してやりたい所じゃが、生徒一人を特別扱いするわけにはいかんのでのう。昔、大量に預かったマンドラゴラの種が大変な騒ぎを起こし禁止したのじゃ」


 ん、どこかで聞いたばかりの話しのような。アルラウネのルーネは眷属を呼び出せるけど、種も生体も一回につき一個だ。魔力次第で複数呼ぶにしてもら大量に呼ぶのは大変なわけよね。


 メガネ男子君の話だと、あまりアルラウネを使って召喚はさせていない。大量のマンドラゴラの出処って、まさかのおじいちゃん先生なの?


 語りぶりからすると、学園で時々おきる金切り声の騒ぎはおじいちゃん先生が預かったという、その種が原因かもしれないわね。


 この学園の先生は癖の強い方ばかりなので、先輩に報告して調べてもらった方が早そうよね。確かこの学塔の一階部分が倉庫になっているし、どこかに隙間があれば外へ出られる可能性は高い。


 おじいちゃん先生が陰謀を企んでる可能性は、流石にないよね。ウトウトしだしたヘレナとノヴェルの頭を両肩に乗せ、わたしはおじいちゃん先生を観察する。そういやこの先生、いっつも学者っぽい帽子かぶっているわね。


「わざわざ呼んで取引というからには、わたしの収納場所に関してはあてがあるって事ですよね」


 なにかと物騒になって来たので、倉庫の場所とか、鍵とか安全性の高いものなら嬉しい。


 おじいちゃん先生は立ち上がり、ノロノロと近くの書棚に行き、一冊の本を取り出した。手作りの少し年季の入った本だ。


 ノヴェルが学んでいる魔本ではないみたい。勝手に読んだり、本が劣化しないように保護(プロテクト)が付与されていた。


 本の中身だけにかけて、背表紙は味を出すためにあとからくっつけるとか、中々やるわね。


「これは、いわゆる収納魔法に関する研究をまとめたものじゃな。複雑な魔法や、膨大な魔力が必要なものは除外されとる」


 先生が解呪してくれたので、軽くめくって読ませてもらう。魔法として扱うのはわたしには無理そうだ。錬金術で作り出すことは出来るかもしれない。


「本当なら魔法なり現物をあげたかったんじゃが、それしか対価になりそうもないのじゃ」

 

 なにを求めているのかはともかく、わたしにはこれで充分だ。必要な素材や、魔法が詳しく書いてあるので助かるもの。


「それは先にカルミア君にやろう。そこで対価なんじゃが……」


 おじいちゃん先生が急に赤くもじもじしだして気色悪かった。本をもらったので我慢する。先生はかぶっていた帽子を取った。輝き具合は年季もので────それはそうだろうね、って感想しか出ないよ。


 初めて会った時の冒険者ギルドのガレオン(ギルマス)より、残った髪の毛の比率は少ない。年齢もあるし、良くない頭皮環境が続いた成れの果てなのね。

 

「わしにも、マルカスのようにふさふさの草原のような頭にしてほしいのじゃ」


 ────この先生(じじい)、まだ頭に未練があるのね。もう毛生え薬の研究は済んだから興味ないし、素材に使う成分が特殊でティアマトが嫌がるのよ。


 あとマルカスって、管理のおじさんのことかな。あちらこちらで自慢気に話していると言っていたわね。なんか、髪のあるなしで刃傷沙汰にならないか心配だわ。


 ただこの本はほしいわ。いまのわたしにすごく焦点を絞った品物よね。


「本は今すぐいただきますが、薬は別の日でもよいですか」


 まずは貰うものはもらっておこう。おじいちゃん先生のことだ、忘れてくれるかもしれない。ギルマスに知られると、また煩いからね。


「構わんよ。ただ、すっとぼけて約束を破らんでおくれよ」


 ボケてるんだか、しっかりしているんだかよくわからないけど、いい物を手に入れる事が出来たわ。髪への執着心だけは凄いから、この話だけは忘れなそうね。


 ヘレナとノヴェルを起こして、使ったカップ等を洗う。護衛ありがとうね。ほっこり姿にしっかりと守られたわ。

 

 おじいちゃん先生はいつものわたしより酷く興奮してぶつくさ言っていた。もう用は済んだので、わたしたちは片付けをして、勝手に帰らせてもらった。


 翌朝……ティアマトを説得して、おじいちゃん先生用に神の雫(かみのいのち)を作った。


 頭皮のお手入れが必要なので、授業のあとに好奇心の強いエルミィを連れて学塔へ向かった。どうも先生は若い時から後退し始め、ずっと気にして過ごして来たらしい。

 

 快適スマイリー君と、神の雫(かみのいのち)の連動力は強くて、おじいちゃん先生の毛髪は云十年ぶりに復活を果たしたのだった。そう考えると、たしかに奇跡ね。


 年齢的に色は抜けて白髪ばかりになったけれど、おじいちゃん先生は満足そうだ。


 帽子を取って活き活きと講義を行なう、おじいちゃん先生の姿が発見されると学校の新たな七不思議がまた一つ加わる事になった────。

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