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錬生術師、星を造る 【完結済】  作者: モモル24号
第1章 ロブルタ王立魔法学園編
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第50話 学園七不思議 ② 先輩の色気は毒気

 学園内の討伐隊で期待されているのは、エイヴァン先生達だ。エイヴァン先生は現役の金級冒険者だからね。次いで魔法学科の先輩方、そしてわたしたちのパーティーだ。


 残念ながら貴族の坊ちゃまパーティーは魔法はそこそこ扱えるものの、階級は養殖まがいなので戦闘能力は低い。

 

 わたしたちはというと、実際のところ先輩方よりも期待されているっぽい。ギルドから、少し情報が流れているのかもしれないわね。


 金切り声の対策には、わたしが耳あてを用意した。準備期間が一日しかなかったから、見た目が雑なのは勘弁してね。


 耳栓より耳あての方が機能をつけやすいので、仲間の物はみんな同じものにした。ちゃんとエルミィの耳あてだけは、形を変えたからね。


「金切り声や騒音はかなり防いでくれるはずだわ。あと防音中にお互い会話出来るようにしてあるわよ。魔力で紐づけた、魅惑の美声君(ボイスチェンジャー)を装着してね。催眠無効と、毒耐性をつけたものを渡すからうまく歯に合わせてから使うのよ」


 声は変声させないように伝えた。みんなで声を替えたら、誰が誰だかわからなくなるからだ。ヘレナもわかってくれた。


 毒耐性は、一応植物系の魔物が別にいるかもしれないので付けておいた。


 耳あてには魔力で紐づけたから、変声器からの声が拾える付与をしてある。耐性付与が一つ減るのは痛い。でも口を動かさずに会話が出来るので便利だと思うのよね。


 難点は念話じゃないことね。魔力探知などで魔力の高い相手には会話がわかってしまうし、範囲も使用者によって変わる。


 試したところ、ヘレナとエルミィでは五十M近く差があったので、ヘレナに合わせて動くことにした。


 催眠対策にしたのは去年から出始めた情報と、男子の精気に引っかかりを覚えたからだ。


 マンドラゴラはうるさいけど、魔物としては弱い。まともに耳をやられさえしなければ、衛兵だって対処出来たはずだ。

 

「────たぶんアルラウネがいるわ。それも統率する知恵があるほどの」


 違うと思っていたけれど、結局はアスト先輩絡みだ。

 

「例の先輩の色気増したせいで、思わず発情でもしたんじゃないかな」

 

 エルミィも同じ見解のようね。アスト先輩にはイキリ男子君達の他にも、元々取り巻きだった同学年の下級貴族の生徒達もいる。


 イキリ君達より立場が弱く取って代わられたにしても、授業等は一緒にいるものね。発情してもおかしくないわね。


 他に何人の男子生徒がいるのかわからないけれど、近くにいれば常に我慢を強いられるはずよね。


 ……あの強烈な色香には、ずっとそばにいたら耐えられないんじゃないかとわたしは思うのよね。


 怪しいのは、必然的に新旧の取り巻きの男子になるわよね。あとはエイヴァン先生くらいかな。あの人はマンドラゴラを持ち込んだとかのきっかけにはなっていそうだ。


 ただマンドラゴラそのものは、普通の土で育てる分には問題ないものなのよね。責任は管理のおじさんにされちゃうかな。それはわたしとしては困る。


 わたしは男の子じゃないから、アスト先輩みたいな人を見た気持ちはわからない。でも、冒険者の下卑た話は嫌でも聞かされてきたからね。


 もしかしてわたしのいた田舎街って、ケチなろくでなしばかり? 地方の農村や田舎町が、素朴で真っ直ぐな人ばかりが取り柄の平凡な所なんて──幻想だわ。



 マンドラゴラ退治のために、わたしはお蔵入りになりかけた盾を錬成し直して大鋏盾(おおはさみ)にした。


 両腕が手甲の変形型になっている。仕込み刃を引き出して、両手を合わせて肘をあわせる。手を握りながら肘を開くとハサミになるのよ。


「また使えない、ややこしいのを作ってるし」


 使えないって何よ。エルミィがそういいつつ、盾の強度や重さを興味深そうに調べている。


「普通に小盾と鋏じゃ、だめだったの?」


「手が塞がるから駄目よ」


 仕込み刃ならば剣のように使えるからね。使い方はヘレナのような片手剣ではなく、ティアマトのように両手でナイフを使う感じだ。


 わたしが新作の武装を自慢気に話しているのに、仲間たちは暖かい目でみるのは何故かしら。


 ヘレナ達が「どうせまた出番ないよ」と言わないのは優しさなのね。


 ────マンドラゴラの金切り声が近づくと、その大半をヘレナとティアマトで屠る。


 ノヴェルも天使の鎚鉾(エンジェルピック)でマンドラゴラが悲鳴を上げる前に刈り取る。


 討ち漏らす可能性のある魔物はエルミィが弓矢で始末するため、わたしの出番はまったくなかった……。


「────落ち込んでる暇はないよ、カルミア。なんか空気がおかしい」


 ティアマトがマンドラゴラ以外の気配を感じ取った。わたしたちはいま、学校の本舎と呼んでいる建物の外周部を中心に回っている。


 マンドラゴラは錬金魔術科の教室の隣にある、中庭の隅で育てられていたはずだ。エイヴァン先生が持ち込み職員が管理していたものに、誰かが魔力の土を与えてしまった────それが去年の騒ぎなのはわかっている。


 マンドラゴラが魔物化して成長して逃げ出したにしても、去年はきちんと処分はしたみたいなのよね。


 だから今回の件は、去年のものとは別だとわたしはみている。騒ぎをあえて真似して利用したのかもしれない。

 

「アスト先輩、管理のおじさん、取り巻きの派閥争い。考えられる狙いはこの三つね」


「先輩はどうして狙われるの?」


「秘密を握る派閥がいたっておかしくないでしょ」


 あまり宮廷の争いに興味なかったのに、アスト先輩を旗頭に戦おうとする相手側の生徒だっていてもおかしくない。


 マンドラゴラは薬草の一種で幻覚や幻聴の効果がある。神経毒性により、死に至ることも確認されていた。たしか魔物化すると、毒性も増すのよね。


「学校で育てるとか大胆よね。毒性は知っていても、魔物化する条件は知らなかった感じがするわね」


 あくまで先輩が狙われたとする仮定なので、本当にそうなら間抜け過ぎるわ。


 マンドラゴラが魔物化したのも、発情してアルラウネを生み出したのも偶然だとなると、余計にそう思う。


 他にわかりやすいのは、管理の職員への嫌がらせをだろう。中庭なら発覚しただろうから外で育てて、騒ぎを起こして管理のおじさんの責任を問う。

 

 去年の騒ぎと犠牲者の出たのも合わせて利用されて、責任問題へ発展すると減俸処分では済まないかもしれないわね。


 わたしとしては管理のおじさんの人間性を信用しているので、濡れ衣を着せられるのを避けたいのだ。


 取り巻き達の騒ぎが一番迷惑だし、その動機もどうでもいい。マンドラゴラを何に使おうとしたのか、彼らの誰かが犯人ならハッキリさせたいけれど、アルラウネはやり過ぎだ。


 もしかしたら別の狙いがあって、アルラウネを利用して騒ぎを起こさせるつもりだったのかな。


 じっと仲間から視線を浴びる。暗くてもわかるわよ、最近のあなたたちの気配はよく伝わるからね。


「────あのさ、君……自分が狙われているとは考えてないの?」


 エルミィが困った子を見る目を向けながら言う。


「なによ、またその流れ? わたしを狙うのなら、こんな回りくどい事しないで適当に罪をでっち上げるわよ」


 わたしは後ろ盾などなにもない、ただの一般庶民なのよ。


「いや、自分でいま上げた人たち全てに関わり持っているのって、カルミアだけだよね」

 

「えっと、騒ぎの結末がどうであれ結局は疑われるのはわたしってことかしら」


 エルミィが頷く仕草をする。みんながわたしを見る理由はそれね。偶発的な事件を利用されて、犯人とは別に扇動者としてわたしも排除されそうだった。


 なにせ、散々学校でも寮でも騒ぎを起こしているものね。まさに罪をでっち上げるのには、適した状況なわけだ。

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