第5話 錬金魔術科 ② 担当講師と臨時講師
錬金魔術科の講師はエイヴァンというエルフで、わたしでも知っている男だ。冒険者としてかなり高名で腕が立つ。学園でも人気の錬金術師の先生だった。
たしか市場に出回っている美容液が皮膚の病を治す効果があった事を発見したんだっけ。既存のものよりも純度の高い治療薬を作って、一躍人気が出た覚えがある。
あの薬の効果や値段考えるとかえって高くつくのに、有名人が扱うと違うものなね。
そんなに昔の事をわたしが知る由もないので、つい最近の事のはずよ。講師をしつつ、冒険者をして研究の成果を上げているとか天才じゃないかって思う。
わたしと違って高名な錬金術師ならお金あるでしょうに、何ていうかさ……口では依頼をかけろとか言いながらも、結局は冒険者として前線出てるのね。
「エイヴァン先生は別格だよ。エルフだけに狩りは得意だったし、錬金術以外の魔法も使えたからね」
いつの間にかわたしの席の隣に座るエルミィが、憧れの人を見るような目でエルフの講師を見る。
先程エルミィが身内と言っていたように髪の色や目の色は似てるけれど、エイヴァンよりエルミィの方がエルフとしての造形が完成してるように輝いて見えた。
「あれ、さっき言ったでしょ? 身内はエイヴァンじゃなくてエルミオって、臨時の講師だよ」
エイヴァンが講師に決まる前はエルミィの身内、つまり兄が錬金魔術科の正式な講師だったようだ。
「お兄さんの立場を悪くしたのでしょうに、それでいいの?」
「実力至上主義ってわけではないよ。でも能力ある講師に教わる方がみんなには良い話しだよね」
そういうものかと思うけど、なんかモヤってする。エルミィの様子からすると、お兄さんはかなり長い間、魔法学園に協力していたようだもの。
教室内の案内をしてエイヴァン先生の掴みを潰したのは、意図したわけではなかったのね。
散々冒険者に騙されたわたしとしては、どうも腑に落ちない胡散臭い面を感じる。友人になりかけている人達に害がなければいいのだけど、これはわたしの勝手な感想だからね。
授業は初心者の手ほどきのような内容で終わった。錬金魔術科を受けるような生徒は、わたしのように錬金術の器具くらいは触っているのに。
「初心に帰るって思いながら、慎重に学んでみてくれるかい」
生徒の顔から何が言いたいのか読み取ったエイヴァン先生が優しく言う。講師としては真面目なのかもね。
授業の日程は最初から決まっていて、大半のものが経験者だろうと、一から教えるのが学校だ。
どこまで出来るのかなんてみんな力量もバラバラだろうし、教わるために来たのに授業内容飛ばされ覚えられないのなら入った意味ないものね。
そう考えると、しばらく錬金魔術科の授業は退屈かもしれないわね。わたしは自己流で覚えたので、学校が基本形式として教える形には興味があった。
それに高名な錬金術師がどこまで教えてくれるのか、期待も加わった。胡散臭いのは変わらないけど、学べるものは学ばないと来た意味ないから。
どこの魔術科も初日と二日目の二科目は初心者向けの講習のようなものになる。
選択出来る科目が二つのため講習時間が被る科目がある事が配慮されての事だ。
授業を終えて部屋に戻るとヘレナもちょうど戻って来たので、一緒に寮生専用の浴場へと行く。
魔法学園というだけあって、寮生の浴場も魔晶石でお湯が使えるようになっていた。
「薪を用意して火をおこす必要ないし、水場がなくても水を出せる。魔法学園というだけはあるわね」
三十人くらいがいっぺんに利用出来るように、寮生の浴場は湯船も広くお湯もたっぷり入って気持ちがいい。
男女に別れていて教員用も別にあるというのだから、これだけでも高い入学費を取られるわけだと思う。
「ほわぁ────気持ち良いから文句を言えないけどね」
ヘレナもたっぷりのお湯に浸かるのは贅沢だと思う側のようだ。大きな街には湯場があって暖かいお湯を使える事もある。ただ入浴料金はわりと高いし、狭いし人でごった返していて満足度は低いものが多いのよ。
お湯に浸かりながらわたしはヘレナと講師のことや気になった同科生のこと、今日の授業の様子などを話し合う。癖の強い子はどこにもいるようで、ヘレナの教室では騒ぎになりかけたらしい。
本人が来てしまうと面倒なのでその話しは後で部屋に行ってからにしようとお互い頷く。
……ヘレナの様子からその張本人が浴場へやって来たのがわかった。
エイヴァン先生の名前がエルヴァンになっていた箇所を修正しました。