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錬生術師、星を造る 【完結済】  作者: モモル24号
第1章 ロブルタ王立魔法学園編
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第47話 貴族魔術科 ② 言葉の遊戯

 授業が終わるのを待っていたかのように、嫌な空気を持つ集団がわたしたちの前に寄って来た。貴族……それもこの前の子たちより身分の高そうな集団だ。


 わたしはノヴェルを背中側に隠し、ティアマトがエルミィの前に出る。ヘレナはそのわたしとティアマトの間で睨みつけてくる集団に、負けないように背筋を伸ばして立っていた。


 権力はあちらが上だ。でも戦力はこちらが上回っているわね。喧嘩になっても、ティアマトなら素手で全員倒してしまいそうだもの。


「──お前が錬金魔術科の問題児か」


 背の高い男子生徒が、わたしをジロッと睨む。同じ魔法学園の制服でも、支給品のわたしたちと違いがひと目でわかる。特別仕様の制服は、見るからに身分や財力の差が見えてしまう。威圧効果にも一役買っている感じね。


 もっともエルミィとティアマトの制服は、わたしやヘレナより良い生地を使った物だ。あえて質素にしつらえている。なにげにノヴェルの制服も貰い物でお高いやつね。


 それに比べてこの人達のは華美で派手だ。それでも下品にならないように、洗練された意匠の刺繍などがあって、服を着る当人の格を上げているようだった。


 でも先輩の王者の格に比べると、中身が乏しいわね。先輩とはお風呂場でほぼ全裸で会うことが多いから参考にならない。でも部屋や校内で制服姿は見ているからわかるわ。


 わたしから見ても凛として格好いいのよね、あのアスト先輩(おうじさま)


「問題児かどうかわたしは知らないわ。でも錬金魔術科を受けているのは、間違いないわね」


 王子の取り巻きの、中心人物たちって所ね。親の身分か立場が上なのか知らないし、どうでもいいわ。


 第三王子に肩入れするのは、そうせざるを得ない状況なのだろうと推測出来る。つまり、あまり大きな声で言えない立場だ。


 ヘレナの様子から、八つ当たりの的にされかけていたのもわかる。思わぬ援軍、つまりわたしたちが来たせいで狩り(いじめ)の邪魔をされて、腹ただしいって感じね。


「まったく、どうして早く言わなかったのよ」


 わたしは横にいるヘレナに聞く。えっ、いじめっ子どもがいるのに相手しないのって顔で、ヘレナがビクついている。


 筋力ムキムキならともかく、わたしでも喧嘩で、勝てそうだもの。それに先輩につく時点でお察しの貴族なんて、わたしのいた田舎街の領主の身分と大して変わらないのよ。

 

「おい、魔法学園の恥晒し。俺達を無視するとどうなるのか、わかっているのか」


 なによ、この前の子達と言ってる事がたいして変わらないじゃないの。もう少し、捻りが欲しいわね。一応、武力でも魔法でも勝てない可能性を考慮してるのね。

 

「え〜っと、初めまして、お貴族の坊ちゃま。王子さまに何か言われて来たのでちゅか〜?」


 うるさいから貴族のお坊ちゃんの為に、極力丁寧に挨拶をしてあげたわ。結局は王子に目をかけられてる俺達すげえだろって自慢したいだけでしょ? 


 家格なんて親が偉いだけだって、言われてしまえばそれまでだものね。わたしなんて、その王子様と裸の付き合いしてるのよ。冗談じゃない所が我ながら恐いわね。


 すでに先輩のせいで面倒事に巻き込まれてるし、早い所先輩(トラブル)ともおさらばしたいわね。研究の出資者は商人を地道に探そう。


「お前、俺達を馬鹿にしてるだろ」


 なんか急にワンコのように吠えるからびっくりしたわ。


「馬鹿になんてしてないわ。貴族のお子さまなんて、面倒臭いから相手したくないだけよ。身分をわきまえ、庶民としてわたしからは避けていたはずよ」

 

 あちらが言いそうな事を先に潰す。先輩の取り巻きを担う連中の、頭のレベルがどいつもこいつも酷すぎるわね。


 目の前の連中(こんなの)や、以前の連中(あんなの)では、先輩を担ぎ上げるにしても難しいわね。いざ戦う事になると、すぐに空中分解しそうだもの。


 煽りに弱いというか、虚栄心しかないなんて。これは駄目だ。傍から見れば、わたしたちが弱いものいじめをしてるように見えるもの。

 

「ちょっと、そこメガネ男子君。あなたはわたしを一番敵視しながら、問題児として衝き上げる資料の一つも用意してないわけ?」


 異臭騒ぎの要因とか、素材の大量消費とか、わたしってば我ながらやりたい放題やってるのよ。いくら高い入学金を支払っていようとも、限度ってものがあるからね。


 実際に薬学魔術科の分が足りなくなりそうになったし、叩けば埃が出まくりよ。何で賢そうなメガネ男子が、貶める相手の事を何も調べてないのよ。うちの眼鏡エルフなんてしれっと正論でマウント取りに使うわよ?


 まあ……管理のおじさんとは話が既についていて、責められても痛くも痒くもないけどさ。


 まさか子供みたいに、反撃されたら貴族の親(パパ)に言いつけてやるぅって、泣きつくつもりだったわけじゃないわよね。


「ちょっ、カルミア止めてあげて」


 眼鏡エルフのエルミィが、聞くに耐えずわたしの口を塞いだ。わたしの心の声と怒りが、すでにだだ漏れになっていて、メガネ男子君達が泣きそうというか涙を流していた。


「だから言ったじゃないのよ。わたしが虐めたみたいになるから、相手したくないってさ」


 エルミィの手をどけて、わたしはメガネ男子にトドメを刺す。わたしはいいけどヘレナが傷ついた分は、きっちり心を折っておかないとね。これでも親友思いなのよ、わたし。


「それと、イキってるあなた。きっと親の身分がこのメンバーの中で一番高いのよね。でも口下手なら出しゃばらないで、すっ込んでなさいな」


 口火を切るなら、口の立ちそうな女子生徒二人に任せるべきだった。同じ貴族の女子グループが勝てないのは、きっとこの娘達の方が立場と口撃力が高いからだと思うのよね。


 うんうんと頷いているので、絡み方が悪くて失敗するってわかっていたわね。ちょっと見直したわ。ヘレナに狙いをつけたのもこの二人だろう。


 あの先輩は賢いから、この二人のように口の立つ計算高い相手は、利用はしても好まないのよね。わたしも利用価値があるから声をかけただけだろうし····。


 どちらかといえば馬鹿っぽいけど、単純なイキリ男子の方がマシかしらね。なんといっても深く考えないから色々と誤魔化しが効くもの。


「好き勝手言ってるけどさ、庶民(あんた)の起こしている騒ぎが宮廷でも取り沙汰されてるんだからね」


 ニヤっと、勝ち誇る女子二人。やり込められた男子生徒にかわり、ようやく前に出て来たよ。貴族って、序列とか誇りとか無駄にあって大変ね。


 その話は先輩から聞いていて、とっくに知ってるのよ。庶民だから知らないと思ったのね。王宮も庶民の事で、そこまで騒ぎ立てるのもどうかと思うのよ。


 何が騒ぎのもとになっているのか、流石にわたしも検討がついていないのも面倒な事よね。


「それで? 宮廷で騒ぎになっていようといまいと、庶民のわたしには関係ないわ。議会でも開かれて、たかだか魔法学園の一生徒の処遇を決めるわけないでしょうに」


 庶民が王宮に入れるわけない。退学(クビ)にするなら、とっくにされてるはずだ。それでもそうならないのはエルミィやティアマトがいるおかげかしら。感謝しておきましょう。


 寮長が中々口を割らないから、二人の王国との関係性がはっきりわかっていない。学園側が彼女たちを重視しているのは確かだ。


 今はエルミィとティアマトの意見を聞かずに、いきなりわたしを追い出す事はないと思うのよ。もちろん、とてつもない不利益を出さない限りね。


「貴族の方しか知らない情報で責めるのは正しいわね。噂程度じゃなくて確定情報できっちりと言葉で殴り倒せないのなら、手札として出す意味がないわよ」


 十枚の札から一枚ずつ取り、山札をやはり一枚ずつめくる遊戯がある。言葉で誘導して、相手の札の数値を当てれば勝ちと言うものだ。


 異界のカードゲームと違って単純だ。目的は遊戯より話術、交渉術だから単純さが丁度いいのよね。おっとみんなの視線が熱い。

 

 わたしは何も知らないので、一番情報源として確かである先輩の警告は、怖いのは確かだ。まぁ彼女らに言う必要はないから、虚勢を張っておくとしよう。


「これでわかったでしょう? わたしやヘレナをチクチク嫌がらせしても、貴方達の境遇が変わるわけじゃないってことがさ」


 本当に貴族の子とかいう連中は、面倒臭い。誇る相手をすぐ間違える。わたしやヘレナに威張ったところで、なんの評価にも繋がらないのだから時間の無駄なのよ。


 ヘレナに実力あって綺麗になったとしたって、王子とは元の身分が違い過ぎるものね。

 

 せっかく有利な立ち位置にいるのにもったいないものね。下ばかり見ていないで、まっすぐ歩くだけで勝てるのが、貴方たち貴族の立場なのでしょうに。


 ────わたしのお説教に、貴族のお坊ちゃんお嬢ちゃんがシュンとなって凹んだ。

 

 この際だから徹底的にやり込めて、この手の輩が続かないようにする。ついでにヘレナ達に手を出せば、どんな手段を用いても報復することも刷り込んでおくのを忘れない。


 泣きながら去っていく貴族の子たちを見て、ヘレナがハァとため息をついた。明らかにやり過ぎだったか。でもね、ヘレナ。あいつらはなかなか懲りないから、あれくらいでも足りないくらいよ。


 貴族っていうのはね、ドラゴンより自尊心が高くて、オーク並に精神もタフでしぶといの。泣いてるように見せながら、心の中ではわたしをやり込めて、復讐を誓っているに違いないわ。


 ティアマトは手を出さないなら出番はないと、眠たそうに欠伸をしていた。ノヴェルなんかすでに飽きて、しゃがみこんでいる。何やら魔本の素材用の絵を書いて遊んでいた。


「相変わらずハッタリだけで貴族の子女をやり込めるなんて、どうかしてるよね」


 エルミィは、なんだか興味深く目をキラキラさせていた。イキリ男子は喧嘩っ早いんだから、気をつけてほしいわ。


「あの二人がいい感じにわたしの悪評を広めるだろうから、ヘレナには余程の事がない限りもう手は出さないと思うわよ」


 甘やかされたお子さまの遊び程、質の悪いものはない。遊んでやってるつもりで、傷つけている自覚のないものだっているからね。


 もう諦めて、こういう輩は何度も出てくると思うしかない。二度と関わりたくないと相手が逃げるまで、精神的に追い詰めるしかないのよ。


 大人なら損得で考えて、引いてくれる事もあるんだけどね。嫌悪の対象として触らないでくれるものだ。

 

 また似たようなのが湧くとおもうから、ヘレナ達には早めに知らせてもらいたいものね。


 あとあの先輩には、もう少しまともな側仕え用意するように、注意しておかないといけないわね。


 王子の取り巻き達が泣きながらわたしにやり込められた話は、あっという間に学園内に広まった。


 そんなに大したことは言っていないのに、わたしの言葉は呪いの言葉のように突き刺さるようだ。


 ただの庶民で悪役令嬢でもないのに、悪評高いなんてどうかしてるわ。


 むしろ脆弱な貴族の子ばかりでは、この国の未来の方が心配になるわよね。

 2023 8·17 十枚の札の数あての話しを追加。

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