第4話 錬金魔術科 ① 眼鏡エルフ
錬金魔術科の教室は他の学科の教室に比べると、特殊な部屋になっていた。
「扉が二重になってるわね」
入口などは他の学科と一緒なのに、中にはもう一つ入口があって内壁は固い鋼鉄と、衝撃を吸収する緩衝材が張られていた。
「教師の研究室と素材の保管庫もあるから、壁が厚くて狭いようで中は広いよ」
後ろから声がかかる。同じ錬金魔術科を受講する生徒がわたしの後ろにいた。
わたしが中へ入らないと邪魔になるので、扉を開け教室へ入る。室内は教室を二つ分使っていて確かに広くなっていた。反対側にも扉があり、中庭に行けるようになっているようだ。
「あの扉の先が中庭になってるのさ。素材になる植物や鉱石が積んであるから、出る時は転ばないように注意がいるんだよ。奥には倉庫もある。非常口としても使っているね」
言われてみた先には珍しい植物の植えられた花壇や、鉄鉱石が雑に山になって積まれていた。希少な素材は、全部奥に見える倉庫の中に仕舞われている。
中庭の中央には小さな噴水もあって、いくつか設置されてるベンチに座り生徒は本を読んだり食事をしたり出来るらしい。他の科の生徒も使えるようなので、ヘレナを誘ってみるのもありだなと思う。わたしは同室の友人と、食事をする風景を想像してみた。
手順を間違えなければ、実験での問題は起こらないはずなのよね。それでも万一のために、部屋と中庭全体に魔法の結界式が刻まれているみたい。結界の維持については錬金魔術科の上級生の生徒の中から、週替りの当番を選ぶようだった。
「ずいぶん詳しいのね」
支給された制服は同じようだから、新入生だと思うのよね。それにしては内部情報に詳し過ぎる。
「講師の一人が、身内なのさ」
試験の事や重要な情報は教えてくれないようだけど、どういう所かは講師のお兄さんから聞いていたようだ。
「自己紹介がまだだったわね。わたしの名はカルミア。あなたは?」
「これは申し訳ない。私はエルミィと言うよ」
エルミィはペコっとお辞儀をした。どうみてもエルフ。だって、耳の先が細く可愛らしく尖ってるもの。思ったより長くはない。それに魔力が独特に洗練されている。流れが綺麗なのよ。
髪は白味がかった金髪に碧眼、本当に人形のようなのね。街を歩くエルフは普段はあまり見かけない。
冒険者の中にはたまに見かけるけど、エルフは無口な人が多い印象がある。
それにしてもエルフは気位が高いというか、少なくともこんな気さくな種族じゃなかったような?
「ふふ、エルフらしくないかい?」
疑問が声に出ないように頑張って抑えたのに、わたしの顔色で伝わったらしい。ヘレナといいこの娘といい、察しが良すぎよ。
「エルフの住む大陸の一つは少なくとも人族に限らず、他の人種を嫌うエルフがいると聞いていたわ」
同じエルフでも森王国の方はまぁまぁ気楽に付き合いがあるとも聞いた。
ただ立ち振る舞いからして、エルミィはエルヴィオン大陸の出身だと思う。
エルヴィオン大陸には巨大な霊樹があるらしく、エルデン王国のエルフは色素が薄目で魔力が強く濃いのだ。
このエルミィという娘も髪の色の白味が強く輝かしい。抑えているけれど、かなり魔力が高いんじゃないかな。
この変わり者のエルフはおしゃべり好きで、後からやって来る同科生の生徒を見つけては話しかけうんちくを傾けていた。
いけ好かないエルフよりはいいけれども、みんなエルフへの印象や認識はわたしと一緒なんだなぁと思った。
散々小話まで交えて錬金魔術科の話しをしてしまったため、錬金魔術科の講師が教室を使うに当たって説明するときには、笑いが一つも取れず泣きそうになったのは言うまでもない。
授業を潰す意図があったのかはともかく、このエルフはなにかやらかしそう。わたしのなかで要注意人物の一人になる気がした。