第38話 指名依頼 ③ こだわりと愛情と
オーガ達は農村の裏門を壊してやって来たようだ。薬草や魔法薬用の植物の生息地は裏門から先の山々に多く自生している。魔物だって当然活発に動いていた。
オーガクラスの魔物の出没は珍しいそうだが、発見例はあるという。
「────まだ凹んでるの?」
夜が明けてうっすらと周りが見えて来たので、状況の確認に向ったヘレナとエルミィが戻って来た。
わたしはティアマト達と倒したブラッドウルフから、素材の回収をしながらブツブツと独り愚痴っていたのだ。
「戦闘には向き不向きがあるというが、カルミアの場合は戦う姿勢が根本的に違うと思うぞ」
ティアマトが自分だけわかったような言い方をした。何よ、わたしだって戦えると頑張るのが間違ってるというわけじゃないよね。
「うん、なんかわかった気がする」
ヘレナよ……貴女もですか。何がわかったのかしら。
「カルミアはおらが守るからいいだよ」
まさかのノヴェルも、何か知っているようだ。それなら分析能力の高いエルミィが知らないわけない。
わたしが睨むのでエルミィがため息を吐いた。なによ、いつもは放っておいても話し出すくせに。
「……あのさ、カルミアって何故か発明品で戦おうとするよね。戦闘用の魔法も使えるのに」
────流石眼鏡エルフ、痛い所をつくわね。確かに指摘された癖はあるような気がするわ。
特に開発したばかりの品は試さずにはいられない。狼相手なら臭い匂いの方が効果高いはずなのに。
「いや、みんなが言うのはそうじゃない」
……珍しくティアマトから突っ込みが入ったわ。エルミィの眼鏡は時々ズレるからね。
「カルミアって付与で複数の属性の魔法を扱うよね。それならノヴェルみたいに基本的な魔法で戦えば、銀級冒険者くらいの強さで戦えると思うよ」
ヘレナも戦いに関しての意見は中々鋭いね。でもそれじゃあただの小器用な魔法使いだもの。
戦う魔法使いとして名を馳せる事に興味はないわね。
「はぁ、なんとなくは察していたよ。君ってやつは、オーガの大斧が目前に迫っても欠陥品で対抗しようとするんだろうね」
呆れたけれど、面白い珍獣を見る目でエルミィが言う。この娘、わたしの素晴らしいお宝をハッキリ欠陥品言いやがりましたよ。ポンコツってどこの異界の言葉だったかしら。
「でも……カルミアはそれがいい」
ティアマトは役割が別に変わらないから気にしないそうだ。エルミィの言葉のあとだと、欠陥品だからいいとも取れて複雑な気分だわ。
言葉足らずでわかりづらいけれど、ティアマトはわたしの事をよくわかって言ってるはずなのよ。
「本当に君たちは人が良いというよりも、カルミアの事が好きなんだね」
そういうエルミィもふざけて見えるわたしの戦い方に、怒る様子は見られない。理解することと、許容することは別な問題だからね。
わたしならキレるかもしれない。生命がけの戦いで、仲間がやられるかもしれないって思えば尚更ね。でも、わたしはそうしないんだよ、いいの?
ヘレナやティアマトそれにノヴェルは、わたしだからと許容してくれる。
────もう愛が深いよね、みんな。
「カルミア、それは言いすぎだと思うよ」
エルミィもなんだかんだ言いたいだけで、分かってくれてるのが嬉しいよね。だいたいみんな、わたしに付き合って王都郊外まで来てくれたし。
生命のかかっている戦場だろうと、わたしはわたしのやり方で戦うんだと言う事を、みんなこの時はじめて認めて受け入れてくれたんじゃないかな。
どちらの立場で倫理感を持つのか、それによって意見などは変わる。助けてほしい側からすれば不謹慎だとか、もっと早く助けられたのにどうしてって責めてくるかもしれない。
わたしのわがままで、嫌な思いをさせる事になったらごめんね。でも討伐依頼や救出依頼なら、わたしだってわたしのやり方を押し通したりはしないから、みんなも安心してほしい。
……断言は出来ないけど。
あと言葉を濁して依頼内容をハッキリさせなかったギルドマスターには、毛の生える薬と称して快適スマイリー君枕型を贈ってあげよう。
思わぬ改良型の発想が得られたわ。これこそ即実践あるのみな案件よね。
農村の被害は建物が三軒に犠牲者は五名が重傷、逃げ遅れた老人一名が死亡した。
老人は逃げ切れないとわかって、果敢に魔物に挑んだそうだ。あとは怪我人はいたものの、数日で治るようなものだった。
わたしたちが採取に行く間、学校の職員と衛士さんは王都の冒険者ギルドへ戻り、現状の報告と作業員の応援を呼びに行った。
重傷者の救護に関しては、わたしが手持ちの回復薬の効果を試す名目で、治癒を試みて成功した。
「あれってヘレナ成分がなんちゃらって言っていた薬?」
エルミィの言葉にヘレナがビクッと反応した。
「違うよ。ヘレナ成分のは魔力も回復するタイプだから用途が別だもの。あれはティアマトの釜で出来た強靭薬なのよ」
ティアマト釜は、いわば高品質薬の効果の高い薬が作りやすい。重傷者の傷を消毒して洗い、ティアマト薬を使う。すると徐々に負傷者は回復をはじめ、苦しげな表情が和らいだ。
軽い怪我のものも、バイ菌が入らないように消毒し、解毒薬と治癒薬の混じった薬液を塗り幹部を清潔な布で巻いておく。
特にブラッドウルフに噛まれたものには傷口だけでなく、薬も無理やり飲ませておいた。細菌が体内に入り込み、発熱や幻覚を見て暴れ出すのを防ぐためだ。
感染症とか目に見えない病気ほど怖いからね。
薬師の知識が少しある村人が驚いていた。錬金術師は薬師でもあるから、専門外でもわかるものなのよ。
どちらかというと打撲や骨折の方が回復しづらいので、鎮痛薬は渡す事にした。あとの処置は、ギルドからやって来る者に任せた。
魔物退治と治療行為のおかげか、わたし達はすっかり村人達に慕われた。
「実験台にしただけよ」 って正直に伝えたのに褒めそやすのを止めない。
盲信につける薬は冷水が一番だけど、凍える水玉ちゃんは持って来てないのよね。
馬車はないのでわたし達は歩きで、案内をしてくれる村の薬師の人と山へ向かう。好感度が上がったためか、村の薬師は秘密の採取場所をいくつか教えてくれた。
知ったとしても、ここに来れる実力がないと危険なので構わないのだろう。山の中には魔物が出やすい所や、季節限定の場所もあるので詳しい注意もしてくれた。
「薬草はほぼ手つかずで、自生しているものばかりだったよ」
カゴがいくつあっても足りないくらいの魔力草は久しぶりに見た。
「貴重な植物は土ごと持ってかえって育ててみたいわよね」
「おら、出来るだよ」
わたしの意図を察したのか、ノヴェルが魔力草の一株を土ごと球体の魔力の器に包んだ。
この娘……便利過ぎるわ。ノヴェルの魔力鉢植えは、丈夫で、落としても割れない。
適度に空気と水気が含まれていて、魔力草に必要な魔力は器から採れる。
種族的に細工好きだって聞いた。でも土を扱う能力に関してならば、ドワーフやノームよりも、ドヴェルクの方が実生活向きよね。
ドワーフは金属馬鹿だし、ノームは大地の魔力扱いは凄いけどこういった細かいの苦手だし。
せっかく来たので、わたしは学校にない種類の薬草をノヴェルに包んでもらうことにした。
【錬生術師、星を造る】も、このお話しで十万文字を越えました。
引き続きだらだら展開ですが、お楽しみください。