表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
錬生術師、星を造る 【完結済】  作者: モモル24号
第1章 ロブルタ王立魔法学園編
37/199

第37話 指名依頼 ② オーガも笑うんだ

 食事のあとは借りた器を洗いに行き、ボロ布を濡らしたものを五本用意して戻る。馬車での移動だから汚れは少ない。身体を拭きたい人は、濡らして絞ったボロ布で、汚れを落とせばいい。


 わたしに次いでお風呂好きなノヴェルの身体は、わたしが丁寧に拭く。ボロ布はトイレ後にも使うので重宝しているのよね。

 

 異界人なんかは魔導具で自動で洗うものを開発したり、別の異界人は魔法を使うものもいたりした。あれは財力や魔力あっての話しで、庶民には関係ない話なのよ。

 

 ────村の中なので、安全性は高い。でもわたし達は念のために交代で休むことにした。襲ってくるのは魔物ばかりではないからね。


 見張りには輝く光玉君(フラッシュボール)を持たせる。暗闇だと、魔物も人もわからないからだ。

 

「これ、私達の眼もやられない?」


 目を痛める過去の記憶から、何かを思い出したのだろうか、エルミィ達は不安そうだ。

 

「ランタンの灯火だと、暗過ぎて外の様子までわからないもの。部屋に投げつけないで、入口付近の外へ投げると目をやられずにすむはずよ」


 わたしの言葉にエルミィが、やっぱり欠陥品だと文句をつけた。真っ暗なダンジョンとか、見通せない場所とかで投げつけると便利なのに。


 開発したのはダンジョンのためだったのに、こんな形で使うことになるとは思ってなかったよ。


 見張りはヘレナとノヴェルが最初になった。次がティアマトにわたし、最後はわたしとエルミィの順に替わってゆく。


 交代で見張る時は、睡眠の質や量的に真ん中の人が一番キツイって言うわね。ダンジョンでもティアマトってそのポジションを何気なく受け持つ。


 ほんと不器用で誤解されやすい典型。わりと気を遣ってるのよ、この娘。戦闘に関してわたしは一番役に立たないので、ずっと見張りした方が良いかしら。


 ────ひと眠りしただけでもスッキリした。昼間の移動で身体の痛みは残るのは仕方がない。


 わたしとエルミィの見張り番の時に村人の騒ぐ声が聞こえた気がした。わたしは輝く光玉君(フラッシュボール)を手に持ち、布で塞いだだけの木の格子窓から外の様子を伺う。


 エルミィは弓を取り、いつでも使えるように矢を番えた。眠る三人は、起こすかどうか迷った。声の様子に集中して、まだ待つ事にした。


 ブラッドウルフが出たと聞こえた気がする。ダンジョンにもいるし、この辺りににも生息する群れで動く狼の魔物だ。


 ここの農村の柵は雑だけど、ゴブリンには越えられない高さで、オークにだって破壊されにくい作りになっている。


 狼達の跳躍力がそんなにあると思えないので、門から入り込まれたのか気になる。


「三人を起こして。オーガが入り込んでるみたい」


 わたしより耳の良いエルミィが村人の叫びを聞いて、眠る三人を揺り起こす。ヘレナとティアマトは何も聞かずに支度をして、臨戦態勢を取る。


 わたしはまだ眠たそうなノヴェルと荷物を片付けて、動ける準備をしておく。王都から馬車で半日かからない距離の農村で、オーガが出るなんて聞いた事ないよ。


「オーガを相手にするのに、この小屋ではかえって危ないわ。村長の家にいきましょう」


 遠くから喧騒が聞こえる。狼がオーガに追われて来たのか、飼われて襲って来たのかわからない。やはり暗闇の中で戦うのは不利過ぎるわね。


 魔物達はまず明かりのついた家を狙うだろうから、ランタンの灯火はつけたままにして置いてきてある。


 次は匂い。狼ならば、人数の多い所よりも薄い所を狙うと思うのよね。


「無事だったか、お前たち」


 護衛の衛士の人と、職員の人が村長の家の外で馬車の馬を落ち着かせていた。眠っていた所を、馬の鳴き声で起こされて気がついたみたい。


 村長の家の周りは浅めの堀と柵があり、有事の際の避難場所にもなっている。騒動に気がついた村人達が、震えながら続々と集まってくる。


 激しい物音は、オーガが村人の建物を壊して襲っている所だろう。吠えるブラッドウルフの様子から、オーガに従って村人を襲い、おこぼれをもらっているのが伝わる。


「オーガがいるって聞こえたんですが」


 たった一人とはいえわざわざ護衛をつけたのは、冒険者ギルドから何か情報を伝えられていたんじゃないかと思う。


 あのギルドマスター(おっさん)はわたし達の実力を間近で見ているからね。


 でもね、戦闘に慣れた人達とダンジョンで戦うのと、村人を守りながら暗闇の中で戦うのは状況違いすぎるわよ。特別級っだって言っても、銅級は銅級よ。


「強い魔物の出る話は聞いていた。ただオーガとは……な」


 この護衛のおっさんが黙っていたせいで、わたし達だって危なかったじゃない。わたしは護衛のおっさんの脛を蹴る。


「ウゴッ?!」


 護衛のおっさんが、ゴブリンが潰れたような小さな悲鳴を上げた。


「うぅっ、ギルドマスターからは、魔物が出たらお前たちに任せろとしか言われてないんだよ」


 どうやら農村部から報告がチラホラ上がっていて、依頼を出すかどうかの調査を兼ねていたそうだ。

 

「薬草とか足りないってのは、口実なのかしら」


 いたいけな子供達を強い魔物がでるかもしれない農村に連れ出して、人の心がないのかしらギルドマスターは。


「素材が足りないって言うのは本当だぞ。どうせなら調査ついでに本人に採らせればいいだろうって話しになっていたな」


 素材の不足は本当のようだ。人選理由もわたしが原因なのね。


「私たちの方が、カルミアのとばっちりを受けたってことだよね」


 エルミィに追撃を受けてわたしはぐぅの音も出なかった。護衛のおっさんも味方を得てニヤリと笑う。もう一度脛を蹴ってやったわ。


「カルミア、戦うなら明かりを」


 ティアマトがわたしに落ち込む暇を与えず、戦いに出ようとしている。仕方なくわたしは輝く光玉君(フラッシュボール)を、ティアマトとヘレナに渡す。


「カルミアはおらが守るだ」


 眠そうにしていたノヴェルまで、戦う気でいた。フンスする姿が可愛くて戦う気が失せる。


「ティアマト、ヘレナと必ず二人で行動して。狼は統率が取れている分、動きは読みやすいわ」


「わかった」


 わたしが指示をしなくても、戦闘なれしているわよね。二人が喧騒を頼りに暗がりに消えてゆく。


 ティアマトはわかるけど、ヘレナも夜目が効くのかと思ったわ。彼女は強化をうまく使って、視界を上げる効果へに変えていた。あの娘が器用なのは、料理の腕でわかっていたわ。


「エルミィはわたし達と一緒に、オーガの牽制するわよ」


「牽制って、ここだと逃げて来る村人に当たっちゃうから、弓は難しいよ」


「二人が明かりを投げてくれるわ」


 ヘレナとティアマトが明かりを使えば、エルミィも的を絞りやすくなる。近づく狼は、わたしとノヴェルが対処すればいい。わたしだって錬成して、少しは戦える力をつけているんだから。


 輝く光玉君(フラッシュボール)が二箇所で上がり、光で目を潰されたブラッドウルフがヘレナとティアマトによって退治されてゆく。


 オーガが狼達の異変と、明るい光に気づいた。大きさは三M半くらい。ミノタウロスよりやや大きく、力もあるし魔法も使う。


 ヘレナとティアマトを見て、一瞬ニヤッとしたのは相手が人族の女の子供だからね。ヘレナは剣を持つけどティアマトは素手に見えたからだろう。


 油断したオーガの片目に、エルミィが正確に矢を当てる。眼鏡の精度が上がったとは聞いたけど、この薄暗い中でよく狭い箇所を当てるものだと思った。きっとさっきのは謙遜だったのね。


 矢による痛みと、視界を塞がれた事でオーガが怒り暴れる。力任せに殴りつけた大斧を狙われたヘレナが躱す。魔法の力なのか穿つ地盤が散弾のようにヘレナとティアマトを襲った。


 オーガが大斧を殴りつけるように振る度に、岩の破片や石礫が二人を襲う。ノヴェルがそれを見て大地の動きを操り、オーガの足を固めて動けなくした。


「いまよ!」


 わたしは動けないオーガに向けて、輝く光玉君(フラッシュボール)をぶつける。残りの目を光に奪われ、怒り暴れようとするけれど、ノヴェルの土の拘束は簡単には解けない。


 小さいからって舐められがちだけどドヴェルクの王女様の魔力はやっぱ凄いわ。


 輝くオーガは良い目印になる。ヘレナの剣がオーガの急所を貫き、襲いかかるブラッドウルフはティアマトとエルミィが片付けた。


 ────わたしってば、また活躍は無しでしたとさ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バナー用
 推理ジャンルも投稿しています。応援よろしくお願いいたします。↓  料理に込められたメッセージとは
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ