第3話 ヘレナは腹黒?
ロブルタ魔法学園と呼ばれる魔法研究学校の授業は、教科書で学ぶ座学、実験器具を使う実技、現場での実践と大きく三つに別れている。
受ける学科によって内容は違うようだけれども、ヘレナの受ける魔法学科などは、大広場で魔法による実演練習や地下にある学園専用のダンジョンなどにも行くらしい。
ちょっと覗いてみたい欲求にかられるわよね。学園専用ダンジョンなんて、卒業してしまうと入れないでしょうし。
そのためだけに魔法学科に入るわけにもいかないので、慣れて来たら教員に相談してみよう。
わたしの選んだ錬金魔術科は、ほぼ座学と実験が中心になる。素材の調達は、現場に行くか購入する必要がある。授業で使う分は学校が用意してくるそうだから、お金はかからないで済む。
錬金術師になりたいのならば、野山を歩き回ったりダンジョンに潜ったりは、冒険者に任せて依頼をかけろという事だそうだ。
個人的には調合まがいの事も、冒険者達にくっついて素材集めをした経験もあるので、よくわかる。
戦闘慣れしていない人間を連れて移動して回るのって、わたしが思っているより大変なんだってさ。あいつら人の事を拉致っておいて、言い方が酷いのよ。
わたしのような貧乏調合士だと、自分自身の研究用の依頼は費用が高くつくので出せない。素材にも入手ランクみたいなものがあるものだからね。
素材の価格って希少さよりも、結局は仕入れもとになる冒険者パーティーの、依頼額に左右されているものが多いとわたしは考えている。
Aランクに依頼するような品は依頼料もかかるから高い、Eランクでも簡単に手に入るようなものは安いに決まってる。
そこでわたしは考えたわけよ。いちばん手っ取り早いのは、貴族院に入り出資者を募ること。
まあ、これはないわね。田舎領主街の平民が、貴族院なんてまず入れるわけないもの。
次が騎士学校か、ここ魔法学園になるのよね。騎士団や、上ランク冒険者になりそうな同級生と仲良くなるのが目的だ。
早い話しが出資は無理でも、仲良くなった伝手で提携を結ぶわけ。治療薬など必要な品を用意するかわりに、任務ついでに素材を集めて来てもらうのが目的だ。
ここでヘレナという知己を得たのは幸先良いと思う。向上心があって思いやりがあって、現実的で将来の有望株だもの。
「その……友情を自分の野望に利用するのはどうかと思うけど」
「えっ? あれ、なんで?」
「考えていること全部声に出ていたよ」
ヘレナに呆れられている。わたしの悪い癖で、独りでいる時のように声に出していたようだ。
「その、本当に利用してやるってわけではないのよ」
うぅ、不味い。本音がだだ漏れとかありえないでしょ、わたし。一人で長いこと暮らしていた、弊害だ。ひとりぼっち症候群だわね。
「クスッ」
わたしを見てヘレナが笑う。また漏れた?
「カルミアがどういう娘か、よくわかったよ」
ヘレナが、ちょっと怖い。会ったばかりの人間に、都合良く扱われたら気分悪いわよね。冒険者パーティーと組んで、探索に出た時もやらかしたのに。
「カルミアが私をあてにするならさ、私も貴女を頼りにしてもいい?」
ヘレナがここぞとばかりに条件を出してきた。流石は貴族様ね。
「いいわ。何をすればいいの?」
わたしには断る理由はどのみちない。
「私も付与魔術は習うの。でも私の場合は魔法的な付与だから、カルミアと使える魔法の種類が違うでしょ?」
「確かにそうね。ヘレナの付与魔法はいわゆる強化だもの」
「私としては、剣や鎧に付与してくれる、付与魔法錬金術師が友達というか仲間にいたら助かるかな」
まさかの付与術師としてのお誘いだった。錬金術師の魔道具も買ってほしいな。
「お互い利用価値があったってことかしら」
ヘレナはいい子ちゃんではなかったということね。オドオドしていたのは演技半分で様子見ていたとか、わたしはすっかり騙されたわよ。
なんてね。そういう事にしてわたしとヘレナは握手する。会って間もないけど、わたしもヘレナの性分はよくわかったわ。
少し震えながら貴族の真似事までしてさ。まぁ貴族なんだけど。
勇気を振り絞って、気まずくないように振る舞ってくれちゃって、いい子というよりかわいいじゃないの。
男の子相手ならあざといとか、可愛い娘ぶりっ娘に見えるかもしれない。
でも、わたしの野望の為にも余計な嫌がらせ入る前に守らないとね。