第25話 ダンジョン探索【獣達の宴】⑥ 魔本との出会い
────爆睡していたらエルミィに叩き起こされた。いや怒るの違うでしょ、あなたがわたしのベッドに寝ていたから悪いんじゃない。
「カルミア、起きろ〜っ」
エルミィがわたしのあげた凍える水玉ちゃんをわたしの顔に乗せた。
「うひぅ」
どこの馬鹿よ、目覚めに氷水をぶっかけるの考えたの。水玉ちゃんなので、水には濡れないけどさ。
目を覚ました……まではいいけれど、危うく別の世界に旅立つ所だったわよ。
「遅刻しちゃうから、起きなってば」
エルミィはすでに支度を整えているのに、わたしはまだ寝巻き姿のままだった。あぁ、昨日遅かったし精霊のせいでどっと疲れが出たんだっけ。
「ん、ノヴェルはどこへ?」
ティアマトのベッドに乗せて寝かせたまでは覚えてるんだけど。
「ヘレナ達といるよ。寮長に言って、ダンジョンで迷子になっていた子として扱ってもらう許可を得たよ」
おぉ、流石は眼鏡エルフ様だ。わたしだと、寮長は許可してくれなかっただろうな。
「てか、なんでわたしのベッドで寝てたのよ」
「えっ? カルミアを待っていたのに眠くなっちゃって、って時間ないって言うのに」
エルミィがキレだしたので自分の部屋に戻る。あの娘、エルフの優等生なのに、だんだん下町のおっかさんみたいになってない?
わたしのいた田舎街にも、そういう人がいたよ。お節介焼きしかいなかったかも。
部屋に入るとヘレナとティアマトが、ノヴェルと何やら話しをしていた。
時間が本当にないので軽く挨拶だけして、急いで着替えた。
「それで、ノヴェルはわたしの預かりってことで良いのね」
授業用の制服に着替えると、ノヴェルがわたしにしがみついて来た。迷子っていうか召喚したら美少女でした、ってした方が良くない?
年齢は正式に数えるのなら軽くわたしたちの十倍くらいは越えそうね。歴史の本に乗ってるかな。授業のあとにでも、学校の図書室を覗いてみよう。
「ご飯は私達と食べたから、お昼まではカルミアの邪魔をしないように大人しくするって」
「おら、いい子にするだよ」
教室への移動中に、わたしが起きるまでノヴェルと何をしていたのかを聞いておいた。
「学校には怖い人間いっぱいいるから、カルミアにくっついてるだよ」
怖い人間……まあ確かにいじめとかあるかもしれないわね。わたしも庶民なので狙われそうだもの。
ただ三人で何を真剣に話をしていたのかと思ったら、そんな事か。
幼いとは術師の記憶が言っていたけど、わかんないよねドヴェルクの思考って。
エルミィが先に寮長や学校に報告してくれたお陰で、注目はされたけど波風は立たずに済んだ。
まぁ隠し子だとか、わたしがまた何かやらかしたんだと冷やかしたり、嘲る声もあったりした。
────でもね、そんな事よりノヴェル成分の抽出のが先なのよ。
ポーションも一回のダンジョン探索で使い切ってしまったからね。授業というのは、材料をただ同然で作る良い機会なのよ。くだらない噂話なんかに、いちいち付き合ってられないわけ。
エイヴァン先生が心なし元気ないようだけどさ、作業と成分抽出に忙しいので先生にもかまってられないからね。
ノヴェルは大人しくわたしの側で、錬金道具と遊んでいる。図書室の使用についてはエルミィが教えてくれたので、放課後行ってみる事にした。
授業の後は、みんなでお昼を食べた。朝食を抜いたわたしのために、ヘレナが気を利かせて多めに用意してくれたのがありがたい。
放課後になると、わたしはノヴェルと図書室へと向かう。王立魔法学園の図書室は蔵書が豊富で、管理責任者はなんと学園長らしい。
実際の管理は専任の司書官がいて、生徒の立ち入りや貸し出しの管理を行っていた。図書室は二階にあり試験の時期など利用率は高い。
もちろん蔵書も豊富で、講師や生徒達の研究の成果なんかもあった。テラスも備え付けられていて、中庭を眺めのいい所から見る事が出来た。
「ノヴェルはそこで、おこちゃま向けの本を読んでいなさい」
わたしは眺めのいいテラス席の椅子にノヴェルを座らせ、絵本を一つ渡した。なんでこんなものが、と思うけれどこれもれっきとした魔法学園の授業の成果だ。
「おら、人族の文字は読めねえだよ」
少し悲しい目で本を見つめるノヴェルの頭を撫でてやる。
「それは魔本だから読む必要はないわ。ほら」
借りて来た本の一つをわたしは取ると、重厚そうな皮の表紙をめくる。
すると、中に描かれていた絵が飛び出すように浮き上がった。まるで本の精霊が宿っていたかのように立体化して、お話しをはじめた。
持ち手に魔力が流れる仕組みなのか、開くと勝手に本の魔力で動くのか、魔晶石などセットするかは製本のタイプによるらしい。
ノヴェルは目を輝かせて、渡された本を開き読み始めた。
「子供が読むには少し重いけど、テーブルに広げて読む分には問題なさそうね」
わたしより力があるノヴェルを、子供として扱うのは違う気もするわね。
図書室にはこうした魔本制作科で作られた本が沢山ある。作品とはいえ、買うと金貨一枚以上はかかる魔本が読み放題とか素晴らしいわよね。
「ここに他の本も置いておくから、汚したり破いたりしないようにね」
「うん、おら気をつけるだよ」
ノヴェルは魔本を気に入って大人しく座って本を読み始めた。なんか本に向かって喋ってるけど、あれは児童向けに文字を教えてくれる教科書だから、ノヴェルなら自然と身につくと思う。
魔本……わたしも作りたいな。次の自由科目は魔本制作科に決まりね。
さて、ロブルタ王国の成り立ちと、ダンジョン【獣達の宴】についての情報があるといいけど。
ドヴェルガー達の末路は、記憶から想像がついていた。どうしてこの国がドワーフの国ではなくて、人族のロブルタ王国になったのかは知りたくなった。
ロブルタ王国に生まれて、自国の歴史を知っているというか習うのって、貴族くらいだと思う。後は学校に入って歴史科の授業を受けるか、こうして図書室や図書館で学ぶしかない。
お金を払ってわざわざ国の歴史を学ぶ庶民などいないというか、そんな余裕ないわよね。
わたしも魔法の勉強の為に学校に入れたから、ただで学校の蔵書を読めるだけ。
ノヴェルの事で興味を持って調べる気になったけれど、街でお金を払って図書館で調べるかと言えばしないものね。
────ダンジョンとドワーフに関してはわかりやすい結末が残されていた。
ドヴェルガーを追い出したように、ドワーフ達も結局は冒険者達との争いになって、追い出されたみたいね。
【獣達の宴】と言われているだけに、元々はは鉱山ダンジョンではない。だからドワーフ達も管理は諦めたようだ。
この様子だとドヴェルガー達の築いた通路の存在は、わたし達と逃げ延びたドヴェルガー達しか知らない。誰か来ていれば、ノヴェルの存在にすぐ気づいたはずだから。
ロブルタ王国はドヴェルガーともドワーフとも関係なく、南方のローディス帝国から来たギルドが興した国だった。ローディス帝国の支援を受けて帝国の姫を迎え入れて王国と名乗るようになったそうな。
ギルドに魔法を扱う冒険者が多いからか、魔法研究が盛んになって、ロブルタ王国は魔導王国と呼ぶものもいるとか。
ダンジョン一つ国一つに歴史や物語がいくつもあるっていうけど、わたしの故郷のダンジョンも知らない物語がいくつかあるのかもしれないわね。