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錬生術師、星を造る 【完結済】  作者: モモル24号
第1章 ロブルタ王立魔法学園編
24/199

第24話 ダンジョン探索【獣達の宴】⑤ 術師の記憶

 襲われるままに、わたしは術師を受け入れ記憶を覗く。ノヴェルは良くも悪くも幼いせいか記憶なんてろくになさそうだったので、術師を捕まえて正解だった。


(これが、術師の記憶ね‥‥)


 わたしは術師の記憶の欠片、魔力の断片を見つけて入り込んでみた。


◇◆◇


 ロブルタの地には、ドヴェルガーの小王国がある。ドヴェルガーとはドワーフ族やノッカー族などの大地に関する民の一族で、体格も丁度ドワーフとノッカーの中間くらいの種族だ。


 ドヴェルガーの呼称は種族を表す時に使われ、単体ではドヴェルクと呼ばれる。細工物が得意な種族で、ダンジョンで得られる鉱石を使って彫り物や飾り物を作り、交易商人に売って生活をしていた。


 ドヴェルガーは木材や石造りの住居ではなく岩山の崖を掘り進めて暮らす。


 人族の子供くらいの背までしか成長しないため、身を守りやすい地形が岩山なのと、種族の本能で大地の力の強い地域を好む結果だと言われている。


 天敵のトリアケローという鳥の魔物に注意さえしていれば、岩山の洞穴都市は気候も安定して過ごしやすい。


 ドヴェルガーの小王国は緩やかながらに繁栄していたと言えよう。


 私はこの小王国のダンジョンでの依頼をきっかけに小さいがギルドを築くまでになった。気難しいのはドワーフに似ていて、慣れて信用を得ると懐っこいのも大地の民らしい。


 しかし平穏なドヴェルガー達の暮らしは、ある日唐突に終わる。


 私のギルドが支持するドヴェルク達との連合パーティー隊がダンジョン探索班が深層へ到達し、火山エリアと金鉱脈を発見したのだ。ドヴェルガー達は富への執着はないと言われている種族だが、金となると話しは別なのだ。


 装飾好きのため細工に使う金鉱石には目の色がかわり、ドヴェルガー達は我先にと争い出す。


 ドヴェルガー達が争うと言っても、単体パーティーではダンジョン深層に辿り着けるほどの屈強さを持っていない。


 ギルドから戦闘を受け持つパーティーと組んで採掘に行く、よくある鉱山ダンジョンのやり方だ。


 今回の発見もダンジョンに慣れた彼らと、採掘のため荷運びとして着いていったドヴェルガーの一団の功績といえる。

 

 しかし、深層とはいえ金脈が見つかった以上はドヴェルガーの王も黙っていられなくなった。元々このダンジョンの裁量権はドヴェルガー小王国が持っている。


 今まではライバルのドワーフを締め出す意味で、ダンジョンの探索権を小王国が管理し、私達のギルドに専属的に委ねていた。


 王はこれを取りやめて外部からも冒険者達を集め、ドヴェルガー達を連れて行き採掘させようと企んだのだ。


 利権を王家が発揮するのは構わないが、他所から冒険者をわざわざ招き入れるのは止めた方がよいと何度も忠告したが、聞き入れられる事はなかった。


 ゴールドラッシュに沸くドヴェルガー小王国には、噂を聞き多くの冒険者達や鉱夫がやって来るようになる。


 ただし、探索にはドヴェルガー達が採掘係として必ずついていく事を前提条件を伝えられる。また採掘した金の半分以上がドヴェルガー小王国に、さらにその半分が同行するドヴェルガーに割り当てられるとあって、冒険者達の不満が高まった。


 私達ギルドの所属メンバーは経験という武器を元にようやく深層に辿り着いただけで、野心あふれる腕利きの冒険者達を抑える実力はない。


 帯同するドヴェルガー達もそれは同じだろう。ドヴェルガーの戦士達の数よりも、冒険者達の数が増した事で不満を抑えるのも難しくなっていく。


 冒険者達は当然、権利の改善を主張しだす。そしてドヴェルガー小王国ではなく、隣国のドラーグ洞窟王国に仲裁を依頼した。


 事態の悪化をみて、手ぐすね引いて待っていたのだろう。屈強なドワーフ戦士団が派遣されて冒険者達と組み、ドヴェルガー達と戦いにまで発展してしまった。


 頑健さは同じでも体格差に劣るドヴェルガー達はダンジョン地域から一層され、王家のものと戦士達の大半は殺されてしまう。


 実質ドヴェルガー小王国は消滅したようなもので、洞穴都市で僅かな生き残りと細々と暮らす事を余儀なくされてしまった。


 だが悲劇はそれで終わらない。守り手のいなくなったドヴェルガー達の都市を、勢いづいた冒険者達が襲撃したのだ。


 ドヴェルガー達が高く売れる細工物や金鉱石を貯め込んでいると知って、欲望に塗れた冒険者達とドワーフ軍の連合によって攻め込まれた。


 まともに抵抗する事も出来ずに、ドヴェルガーの国は完全に滅んだ。 


 私は利益を独占するつもりはなかったとはいえない。ただ他所の冒険者を招き入れる事の利点よりも、害の方をよく知っているつもりだった。


 王には何度も忠告したが、最後までドヴェルガー王や側近は聞き耳を持たなかった。ただ冒険者達の蜂起やドワーフ戦士団の派遣に、自分の判断の誤りを理解したように見える。


 私に幼い娘を連れて逃げるように依頼して来たのが戦いの直前だった。


 結局ギルドマスターとして友好を保って来た私が救い出せたのは、ドヴェルガー王の一人娘と、一緒によく探索をしていたドヴェルガー達とその家族だけだ。

 

 王家の滅亡で、ドヴェルガー達は住処も失う。私もギルドメンバーの大半がドワーフ側についてしまい、残っているのは引退した元パーティーの仲間だけだ。


 生き残ったドヴェルガー達は、ドワーフ洞窟王の情けで僻地の荒野に集落を築く事を許された。彼らが好む地はドワーフも好む地でもあるため追跡され続け、完全に血を絶やすよりはマシだろう。


 魔物が多発する地でもあり、数が減り付き合う利点のない惨めな生活を送るドヴェルガー達に興味を持つものなどいないに等しい。


 そこに至った理由もドヴェルガー達自身の強欲の為というのは、誰もが知る話しなので同情するものもいなかった。


 私はドヴェルガーの探索チームから相談を受け、再起を図る手伝いをする事にする。このままやられっぱなしは悔しいという気持ちも長い付き合いで良くわかった。


 彼らはドヴェルガーの能力で、ダンジョンに横穴を開けるという計画を建てる。見つからないようにダンジョンへ入り途中から別ルートを築き、深層までドヴェルガー達だけでも安全に進む。

 

 そんな裏技のような力の使い方が出来るものならみんなやっているはずだが、膨大な魔力があってはじめて出来る力技である。


 並の術者なら無理だが、ドヴェルガーはそこまで魔力を必要としない。


 とくに王家は大地を扱う力に長けていて、王の娘ノヴェルなら出来る保障があった。


 強めの魔物の徘徊する荒野には隠れる場所が何もない。危険だとわかっているから放棄された地だからドワーフ王もドヴェルガー達の生存を許した。


 何も対策しなければ野垂れ死にする地。


 ノヴェルは幼いながら力を発揮して大地を掘り起こして、その荒野に小さな山を築いてみせたのだ。


 このあどけない幼女の力には、私もドヴェルガー達も驚かされた。ノヴェルのお陰で地下に居住する洞穴が掘り進められて、地下水で喉を潤す事も出来たので生存率はかなり上がったように思う。


 小山の地下入口の周域を岩で囲い、柵で扉にしたので魔物も簡単には入って来れないだろう。

 

 集落の確保は出来ても、ドヴェルガーの一族としては、このままではジリ貧で滅亡する。


 外に出ていくしかないが、国が滅んですぐの今現在は目立つのを避けたいところだ。


 私は探索するチームと生活を守るチームの半分に分けた。ドワーフ達の生活圏にドヴェルガー達がいても問題はない。小王国の事で肩身は狭いが、小王国以外に住むドヴェルガーもいたからだ。


 はぐれものの彼らはドヴェルクと呼ばれ、ドヴェルガーの変わり者とも呼ばれていた。


 私はそれらを率いてる冒険者に扮して、基本的には夜に行動した。


 なるべく昼間動くのを見られたくなかったのと、ドヴェルガー達は夜目がきくからだ。


 作業は順調に進む。ノヴェルの能力に欠点があるとするならば、歌を唄わないと効果が発揮出来ない事だろう。


 嫌そうだったがフードを被らせ、口にマスクをして響きを消す。


 魔法の力はそれでも問題なく発揮されて、私達は追いやられたダンジョンから少し離れた地から侵入する事に成功した。


 ギルドのホームは戦いの最中に燃やされてしまったが、探索の情報は先に確保しておいたのは大きい。


 裏切った冒険者達も情報の事は知っているが、ギルドの消失で失ったと考えているはずだった。

 

 あちらは探索のやり直しに時間を取られる。こちらを構う余裕はないので、こちらは情報を頼りに最短で深層へ向かう事も出来た。

 

 二度の探索で、大量の金と希少鉱石を持ち出す事に成功した。


 それを私達は半分以上を少し遠方の都市で品物と変え、荒野の住処へ運び入れる。


 そしていつまたドワーフ達に襲われるかわからないので、余力のある内にドワーフのあまりいない地へ逃れるように伝えておいた。


 ドワーフ達のダンジョン探索が進んでいたため、三度目の探索からはダンジョンの中に横穴を掘り進める案が採用された。裏口からは五階層に通じたので、そこから別のルートを築く事になったのだ。


 暗闇の部屋の中ならば人族の冒険者も気づきにくいし、ドワーフ達も先を急ぐに決まっている。

 

 通路を開いたあとは巧妙に隠し扉を築き、戻る際も真正面から見ていなければ見えない窪みにした。少し経てば勝手に扉が閉まるので簡単には見つからないはずだ。ドヴェルガーの細工がこういう時に役立つとは思ってもみなかった。


 ノヴェルは楽しそうに地下へ掘り進んで行く。このドヴェルガーの王女は大地に愛されているのがよくわかる。


 細工師としての能力より、大地を操る精霊魔法師としての力の方が圧倒的に強いのだろう。

 

 フードもマスクもなく響き渡る唄声に大地が呼応するかのように通路を広げ進んでゆく。ドヴェルガー小王国滅亡後、再興に向けた作戦は順調だったように思う。それ故に私は冒険者達やドワーフ王の欲深さを失念していた。

 

 私達の探索の成功によって金脈が一時枯渇したのだ。そのために彼らの探索班が深層に辿り着いた時には、まだ金脈が回復していなかった。


 出し抜いた裏切りもの探しは当然彼らの内輪で始まる。事態を訝しんだドワーフ王は、諜報隊の派遣を行う。


 そして遠方の都市でドヴェルガーの一団が鉱石を売りに来たのを調べあげて、小王国の生き残りに結びつけた。


 彼らの執念の結果、人海戦術で捜索の網が敷かれて私達は追い詰められる事になったのだ。


 ダンジョンの中を巡回していたドワーフに私達の姿を見られた。


 地上からダンジョン内の横穴まで、少しだけ正規ダンジョンを通る必要があったせいだが、私達が気を抜いてしまったのも要因の一つだろう。


 違和感のない場所がそこしかなかったので仕方ないにしても、もっと警戒をすべきだった。五階層にもなれば冒険者達もそれほどいないという慢心や油断もあった。


 今地上に戻れば大騒ぎの中に出る事になり、裏口まであると気づかれてしまう。いずれバレるにしても今は姿を隠す事を優先し、私達は横穴へ逃げ込んだ。迎撃してどうにかなるものでもないが、時間は稼げるだろう。


 ドワーフと冒険者の部隊は報告の為二人ほど戻らせて追って来る。こちらもドヴェルガーの二人に隠れてもらった。


 隠し通路を全員が追ってくるようなら裏口から地上へ逃げて、荒野の仲間に伝えて貰う。


 報告に人数を割くなら仕留めてから仲間達に、伝えに行かせるためだ。


 地形は一本道だが、地理を把握しているこちらは集団戦にならないように誘い込んで討つのを繰り返す。


 あちらもそれをわかっていて、深手を負う前に前線を下げ、人数の利を活かして来た。


 長い攻防が続く。あちらは隠し通路がどこまで続くのか知らない不安があり、こちらは行き止まりまでの距離が減っていくことに不安がある。


 守らなければならないのはノヴェルだと、この場の全員の認識が一致していた。幼いながら彼女は伝達組には加わらず、みんなといると強情に言い張った。


 ……時間がなくて、逃しきれなかったのをさらに後悔する。


 とこまでノヴェルが現状を理解しているのかわからないけれど、私の生命に変えても死なせたくなかった。


 私達は追い詰められていた。

時間にして一日以上戦い、激しい疲労で動けるのが不思議なくらいだった。


 ドワーフと冒険者達も何人かが応援を呼ぼうと戻ったが入口が消えてしまい、戻るには私達の口を割るしかないと覚悟しているせいで、攻撃が激しさを増した。


 そしていよいよ後がなくなったあたりでさらなる絶望が私達を襲った。


 通路を開拓中の袋小路に追いやられて、冒険者側の気勢が上がるのがわかった。手こずらせた分、残酷な最後になりそうだった。


 一人だけ場違いな幼いドヴェルガーを彼らが見逃してくれるかどうか。

 

 ニヤつくその厭らしい表情が無理だとわからせてくれた。私はずっと隠し持っていた最後の魔力薬を飲んだ。


 この時が来る事を想定していた。わたしの意地でもノヴェルだけは助ける。


 ギルドマスターとしての誇り、ドヴェルガー達の頼み、友人であり仲間達の願いを魔力に込めて、ノヴェルを助ける精霊に彼女を託す。


 かけるのは魔力だけじゃなく、私の生命も、だ。願いが叶い、ノヴェルの身体をうっすらと輝きが覆う。


 そして測ったかのように大地が揺れ、足元から高圧の魔力の塊が発せられて私達と冒険者達はまとめて階下の、噴火する火口の中へと落下した。


 紅の大きなドラゴンが怒りと共にそこにいて、ダンジョンを荒らした私達の仲間やドヴェルガーと冒険者達の何名かを喰らう。

 

 冒険者達に追われなくとも私達は詰んでいたのかもしれない。


 ダンジョン踏破には暗黙の了解(ルール)がある。私達は裏技でくぐり抜けようとしたが、番人はそれを見逃してはいなかったと死の間際に思った。


 やけに死の瞬間までが長いと私は不思議に思った。そしてドラゴンが獲物を狩り尽くしダンジョン奥へ消える。


 私は死んでいる。ノヴェルの行く末だけを見守りたかった未練が霊体にもなりきれない存在にした。


 ノヴェルの精霊化と一緒に私もノヴェルが精霊化するのか、守り手が現れるのか見守る事を許されたようだ。


 どれくらいの年月が経ったのかわからない。ノヴェルは隠し通路の上層で記憶を失い精霊化してさまよっている。時折思い出したように唄い穴を掘るが、すぐに忘れ去ってしまう。


 精霊化してはじめてやって来たのは少女四人の冒険者達だった。全員が高い魔力と奇妙な装備を持っている。


 ダンジョンと認識されたためか、正規ルートとは別の魔物が隠し通路にも存在するようになったが、彼女達は低ランクとは思えない強さで魔物を倒した。


 一人だけ奇妙な道具を使う少女が私の存在に真っ先に気づく。恐ろしいのは思考がダダ漏れで、幾度となくノヴェルを亡き者にして魔晶石化させようと企んでいた。多分研究材料としての興味があるだけで、だ。

 

 自分を殺そうとしているのに何故かノヴェルが懐いて、精霊化を解こうとして来た。この少女の思考はさっぱり意味がわからない。


 私はノヴェルを守る為に、この少女を排除しようと試みたが、ノヴェルの精霊化を助けた精霊が逆に彼女を守り手と判断する。私は、私ごと吸収されるままに身を任せた。


◆◇◆


「長いわっ!」


 記憶がまさか一つの国の興亡に及ぶなんて考えてなくて、思わずわたしは叫んでしまったわ。ただでさえ疲れ切って眠いっていうのに。


 あのダンジョンやっぱドラゴンいるのかとか、あの火口噴火するのかとか、わたしが色々雑念をないまぜにしたせいで余計長く感じた。


 ダンジョンのルールなんて決まり事はないのに、この術師……色々早とちりし過ぎよ。

 

 そしてノヴェルは当時何が起きたのかは詳しくないのがわかった。


 術師(こいつ)の一方的な存念なので鵜呑みに出来ないけれど、精霊化を解いた魔晶石の中にこの記憶は残っているので、ノヴェルが成長した時に渡して自分で判断させよう。


 今はもう駄目だ、眠たい。 ノヴェルはわたしに抱えられてウトウトしている。この娘、案外神経図太いよね。


 わたしはノヴェルを背中におぶって部屋に戻った。ヘレナとティアマトが仲良く同じベッドで眠り、何故かエルミィがわたしのベッドで眠っていたので、仕方なくエルミィ達の部屋に行きノヴェルを寝かせてわたしも休んだ。


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