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錬生術師、星を造る 【完結済】  作者: モモル24号
第1章 ロブルタ王立魔法学園編
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第23話 ダンジョン探索【獣達の宴】④ お風呂は大事なのよ

 隠し通路を深層近くまで進むと答えが見えて来た。熱気が明らかに流入して来ていて、広めの部屋に空いた大きな穴からはマグマだまりが覗いて見えた。


「たぶん荷物や道具とか、痕跡は全て放り込まれてるよね」


 証拠の品は残っていないので、誰がどうして彼らを襲ったのかはわからなくなった。ただ、実際に現場に来てみて良かった。


「エルミィ、あの魔力の痕跡わかるかな?」


 わたしは穴の断面をエルミィに見てもらう。下から、つまり火口側からぎりぎりまで天井を穿つような魔法の痕跡があって、落とし穴を簡単に作動しやすくしてあった。


「この床の厚さを魔力でぶち抜くくらいの実力なら、最初から全員まとめて始末出来ると思うのよ」


 そこまでの実力はないか、特定の術師を警戒していたのだと思う。ノヴェルだけ助かったのは、精霊化して浮遊出来たんじゃないかな。ひょっとすると、ノヴェルの記憶ごと封印されてそうだ。


「ねぇ、カルミア。この先はもう進めないんだよね?」


 ヘレナがおそるおそる火口を覗きながらわたしに聞く。


「そうだよ。探索続けたいなら火口へ降りて、正規ルートへ戻るしかない。そうは言っても、深層だからねぇ」


 あいにくこの高さを降りるロープも、耐火性の高い品を用意してない。


「戻るしかないね。……って、待って、火口って深層だよ。忘れていたよ」


 エルミィがうるさい。火口に行くっていったじゃん。


「そうじゃなくて、時間どうなってるのさ。一本道で疲労もあまりなかったからわからなかったよ」


「時間はもう朝かな。疲労は休憩の時のドリンクで回復したでしょう」


 時間は懐中時計(ポルタイマー)君が教えてくれてるからバッチリだよ。疲労の方が心配だったけど、一番体力のないわたしが大丈夫だからね。


「そうじゃなくて、帰り道もあるんだよ!」


 おぉ、すっかり忘れてたよ。あれ、今朝だから完徹して頑張っても明日の朝になる?


「ノォ~やっちゃったわ。お風呂入る時間ないじゃない」


「カルミアのおバカ! お風呂より授業だよ」


 入学して学校と隣接している寮に入っているのに、遅刻する生徒はそうはいない。


 校舎へ向かう際に玄関口でチェックするので、寝坊していても寮長に叩き起こされるからだ。


 優等生のエルミィを遅刻させるわけにはいかないので、わたし達は急いで来た通路を戻って行く。


「まるで私が悪いみたいだからやめて〜!」


 エルミィに怒られた。優等生も、努力だけではどうにもならない現実を前にするとキレるのね。


 幸い魔物の出現がなくて助かる。深層へやって来たという事実から、疲労を思い出して鈍った歩み。それでも夜にはダンジョンの入口まで戻って来れた。

 

 諸々の処理は、疲労が激しいため明日以降に回す事にする。新人パーティーが戻って来ないため、捜索を出すかどうかギルドで揉めていたようだ。まあ、それもあとにしてもらう。


 今のわたしはとにかく寮に戻り武装をさっさと解きたい。そしてお風呂に入って汚れを落とし、ゆったり湯船につかることしか考えられなかった。


 さすがに疲れが溜まっていたのか、ヘレナやティアマトもお風呂の後はぐったりしていた。ダンジョンでの負担は一番大きかったからね。

 二人共先に部屋へと戻り眠り込んだ。エルミィは寝過ごさないように、きちんと明日の準備を整えてから休んでいたよ。


 わたしはお風呂から上がると、ノヴェルの身体を拭いてやり、着替える。身体が精霊化をしているのに、お風呂は気持ち良かったらしい。


「さて……眠たいけどノヴェルをどうするか決めないとね」


 このままでも実は問題ないとわたしは思っている。精霊を使役する召喚師はいるし、霊体化した魔物も招霊出来るのはわたしもやっていて知っている。


 利害を考えると、このまま精霊として懐いてくれた状態の方が言う事も聞くし、わたしも魔力供給を得られて強くなれる。


 でも、何かノヴェルや精霊化(まほう)をかけた術者に意図があるのなら聞いてやりたいと思う。


「ノヴェルは、本当の事を知りたい?」


 記憶はなくとも知性はあるから質問の意味を理解して、答える事は出来ると思う。


「オラ、気づくと独りだっただよ」


 独りでいる経緯や過去を思い出そうとすると、彼女の頭の中に靄がかかり何をしていたのか忘れてしまうようだった。


 下層へ進もうとしても記憶の罠に引っかかるらしく、ずっと浅層、中層上部をうろつく事になっていたらしい。隠蔽化されていても深層域の魔物は危険だから、防衛機能のような働きがあったのかも。


 わりと長い年月が経っているわりに、能力を考えての進み具合が足りていない。ノヴェルが唄いながら掘った通路の大きさや長さからもダンジョンが複雑にならないようにしていたのだろう。


 無意識なのか、隠しルートの通路はノヴェルが掘った後は露骨にわかりやすく、迷う事がなかった。


「おいで、ノヴェル」


 わたしは備え付けのベンチに座り、ノヴェルを抱きしめる。ギュッと抱きついてきて、中々良いわね。


「あなたを守るこの精霊化(まほう)は辛い記憶をなくすかわりに、ずっと精霊として楽しく存在してゆく事が出来る魔法なの」


 わたしも研究中なので詳しくはわからないけれど、精霊を見れば今のノヴェルに近い事はわかる。


 ノヴェルに魔法をかけた術師は、完全に地霊化すれば彼女が悲しみを忘れる事が出来ると考えたんだと思う。


 だから放っておくのも選択肢に入る。むしろ精霊として招霊すれば、精霊化が完全になるんじゃないかな。ドヴェルクとして生きた過去は完全に忘れて消えてしまうのでしょうけれど。


「わたしとしては、このままの方がいいと思うわよ。蘇るのは幸せな記憶ばかりとは限らないもの」


「うぅっ……でもオラ知りたいだよ」


精霊化(まほう)が解けると言う事は、誰一人知る者のない世界で辛い記憶と共に生きる事になるかもしれないのよ」


 精霊化を解いて人と暮らす事が正しいとは言えない事もある。悲しくて辛くて暴れる可能性もあるのよね。いや、別に悪いってわけじゃないと思うのよ。


 わたしがノヴェルの立場なら助けようとしてくれた人だろうと、無関係な人だろうと八つ当たりするし。


 状況考えると魔法をかけた術師の考えは理解出来る。たぶん誰かが隠しダンジョンにやって来て、ノヴェルを解放する可能性は低いと思っていたんじゃないかな。


 まして魔法、招霊に詳しいものがやって来るとかさ。


 わたしもたまたま向かったダンジョンで、精霊化しかけているドヴェルガーの娘を拾うなんて思ってなかった。記憶を戻すかどうかで生命の取り合いになるなんて、想像してなかったわ。


 狂って襲って来るのを覚悟して、わたしは彼女の願う通りに精霊化を解除する。


 記憶の解放された事、霊体的な存在から肉体的な存在に戻された事による閉塞感に、ノヴェルが唸る。


 わたしはノヴェルを抱っこしながら魔力暴走を抑えるために、快適スマイリー君で包んだ。


 幸いというか読み通りというか精霊化を解除する事を妨害するために、ノヴェルに取り憑いていた守護霊とでもいうべき術師の残滓がわたしに襲いかかって来た。


 ────いいわ、見せてもらおうじゃないの、術師(あなた)の記憶を。

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