第4話 浮遊城塞農園アガルタ ④ 慢性的な病
レガトたちにアリルさんが加わり、わたしは部屋に戻る。ノーラはヘレナに任せた。二人とも汗だくなのでお風呂に行かせた。
倉庫には魔女さんが待っていた。正式な使節としてやって来た後、アガルタ山を見て回り、浮揚に必要な結晶の数やサイズを見直していたのだ。わたしも人の事は言えないけど、なかなか研究熱心なのよね。
すでに【星竜の翼】の都市が、浮遊城塞として都市全体が浮遊化している事は誰も知らない。知ればその魔力の膨大さに驚かされ、恐怖に怯える可能性があったからだ、。
「あなたたち親子が揃うと途方もないバカ魔力になるわよね」
アリルが呆れたように呟いた。わたしも羨ましく思う。魔力操作に長けた魔女さん‥‥レーナが、レガトの膨大な魔力を好きに使えばこうなるという見本のようだもの。
「これでも手狭なのよね。カルミアが温泉施設は外せないってうるさいから」
「またその話? 魔女さんはおババだから仕方ないか‥‥あっ」
ガィィィィーーーーーゴッガン!!
つい思考どころか、言葉に出してしまった。ただアリルさんが金ダライを一瞬で弾いてくれた。
「ファウダー以外は身内みたいなものだから、この子の口の悪さは許してあげてね、レーナ。それとカルミア、私も地味に傷つくからせめて御婦人くらいに留めてほしい」
「むぅ、わかったわよ」
「うっ、わかったわよ」
魔女さんとわたしの返事が重なった。
魔女さんの暴走を止められるのはレガトとアリルさんしかいない。うん、今まさに生命が砕け散る寸前だったよ。真っ二つに割れ、床に響き渡る金属からしていつもの十倍は重そうな金ダライ。
「いや、これ普通に死ぬわよコレ。あの金属はお詫び代にわたしがもらうからね」
「⋯⋯⋯⋯」
アウアウ怯えていたカルジアまで無言でわたしを見た。だって、捨て置くなんて勿体ないじゃない。アリルさんが斬ったせいで固体化した魔力の金属が消えてないんだもの。
魔力が結晶化した魔晶石をさらに圧縮したような魔法金属なんて、めったに手に入らないのよ。
この魔力の塊をレガトの魔力で作り上げ、魔女さんが成型し直し、アガルタ山の浮揚魔力にするそうだ。わたしの頭へ落とそうとしたものは試作品なのね。
「母さん。この際だから、まとめて作るよ。ただしカルミア、制御なしに勝手に使用すると⋯⋯わかるよな」
「そんな魔力暴走の塊のようなもの、むしろ危ないじゃない」
「他の人間から見ると単なる岩にしか見えないものさ」
血族⋯⋯この場合は違うか。レガトとレーナの二人から認められたものにしか扱えないらしい。わたしと、必要性からメニーニ、それにここにいるカルジアとファウダーしか使えない。
倉庫が可視化されぼんやりと青白い輝く。レガトが魔力を込めて、ファウダーが結界で包んだ。魔女さんがそれを魔力核として使えるように調整し、わたしやカルジアなど、使用権限を与えられたものを刻み込んでゆく。
私の身体くらいありそうな結晶の素体が魔力により圧縮されて、両手で抱えられそうな大きさに凝縮される。これで錬生したら、とてつもない生命体が創れそうだ。いまの状況でも駄目なわたしには、到底制御出来なくなるのが目に見える。でも⋯⋯無尽蔵の魔力だけでも欲しくなるわよね。
「⋯⋯アリルさんはいいの?」
身内の中で権限登録を行わない剣聖が離れて眺めていたので気になった。
「権限与えられた所で、私には動かせる魔力がないのよ」
剣聖と言われるアリルさんの魔力は、わたしより低くて、常人と変わらない。魔女さんの道具により上乗せした魔力で不死化しちゃっているけどね。
本来の実力以上のものをあてにしない。それがこの人の強さなのだろう。面倒臭がりにも思うけれど、はっきりと割り切っている所に好感が持てる。ヘレナが憧れるだけのことはあるわ。
「シャリアーナやアストリア女王にも、一部権限を与える予定だが、いいか」
身内としてではなく、リーダーとしてシャリアーナさまや先輩にも責任を担わせるあたり、抜け目ない男よねレガトは。
「誤解を生む思考は止めてくれないか」
実際に使う可能性があるのは、わたしか先輩だ。シャリアーナさまを加えたのは、わたしや先輩が調子づかないための牽制みたいなものね。後に意図を察したシャリアーナさまに、「私を叱り役にするな」 と、後でレガトは怒られていた。はぁ‥‥、レガトのそういう所がわたしも似ていて、なんか嫌だった。
出来た結晶結界石を運び出し、アガルタ山の中心の石室へと設置する。アガルタ山浮揚装置と、起動後の移動用のための操作室になっていて、結晶にはアガルタ山の全貌を映し出す魔法が付与されていた。
「基本的には起動も操作も鍵を必要とする」
レガトから鍵の形をしたアクセサリーがついた首飾りを受け取る。鍵の魔力認識、それに権限登録されたものが命令を入力すると、起動するようになっていた。
「基本的にはっていったわよね。鍵を奪われたり紛失したり⋯⋯緊急時には別の操作方法があるのね」
「ああ。登録者自身がその窪みの中に入る事で鍵の役割になり、一時利用が可能になる」
何の変哲もない石棺のようなものが立てられている。動かせるのはあくまでも登録者なのは同じで、鍵は実際必要ない。単なるレガトの趣味だった。
アガルタ山の浮揚化の目処がついた所で、ギルド会議を行う事になっていた。場所はロブルタの元宮廷の予定だったけれども、情報の漏洩を避けるためにアガルタ山に新設された「星竜の翼」の支部の会議室に変更された。
旧王都から一番近い、アガルタ山の麓付近にある建物で、一般人向けの入り口にあたる。アガルタ山の温泉に行くには、ギルドを経由する形だ。
スタッフの大半はバステトの眷族の黒い猫人たち。猫撫声の得意な新ギルドマスターに相応しいスタッフよね。
「レガトさま、ようこそお越し下さいました」
支部のギルマスになったメネスが、魔力の光よりも青白い顔でニヤリと不気味に微笑む。相変わらず黒い。それでも本部のトップであるレガトには丁寧に応じ、、わたしたちを出迎える。ロブルタ旧ギルドはダンジョンもあるため出張所になり、武闘派の元ギルマスのガレオンをそのまま据えたらしい。
こちらとは別でメネスたちも現場のものを集めて会合を開き、支援体制を整えていた。メネスの動機が動機だけに若干不安があったものの、うまくやっているみたいで安心した。
先輩たちやシャリアーナさまたちも集まり、ギルド会議が開かれる。戦後に一度、顔合わせや立場を示し合わせていたので、以前のような張り詰めた緊張感はなかった。
議題の進行役は、ガウトの冒険者ギルドマスターのミラさんが務める。彼女は戦闘向きではないので、ロブルタ側のメンバーとは初顔合わせだ。
もともとはギルドの受付嬢をしていて、レガトが昔から信頼し、シャリアーナさまたちとも旧知の仲だった。メネスと交換してもらいたいくらい、しっかりしているのがわかった。
会議⋯⋯っといっても実際はレガトたち、わたしたちの中で、いつも方針を話し合うメンバーが中心だ。
レガトの親友でも双子はあまり会議の内容に興味はなさそうだし、わたしたちの側もティアマトやフレミールは警護と称して会議室の入り口で欠伸をしていた。
会議の目的は主に三つある。一つ目は黒の大陸を去ったノヴェルの仲間⋯⋯ドヴェルガーたちの足取りを追うことだ。ノヴェルほどの才覚がなくても、集団魔法によるダンジョン化を持つ、使えるのがわかった以上放置出来ない案件になる。姿を見せないない死の神に囚われている可能性も考えられた。
ロブルタのように悪しきものの残滓が及んでいたとしたのなら、別の大陸で厄介事が生じていてもおかしくないものね。
もう一つは、こちらも追跡だ。行方知れずとなったロブルタ元王妃を追い、捕らえるなり打ち倒す事だった。
「母上にはきっちり責任を取っていただくさ」
先輩はハッキリと、実の母親を滅ぼす事を断言した。施政者としての責任というよりも、母娘として教えを忠実に守る事でけじめをつけるのだそうだ。
「アストより、あなたの発想よね」
先輩というよりも、わたしの発案だと推測された。シャリアーナさま、鋭い。
「散々荒らして回って楽しんでおいて、勝ち逃げみたいにトンズラなんてありえないもの」
先輩もウンウンと頷く。さすがにわたしの首には纏わりついていないで、大人しく隣の席に座っている。普段が酷いので忘れがちだけど、偉いのよね先輩も。
「敬愛する君の先輩に母親殺しをさせに行くことになるんだけど、本当にいいのかい」
一応、レガトはわたしに確認するように聞いてきた。道理は間違っていない。情を考えてやることも出来たからだ。
「いいんですよ。わたしたちには殺し合いまでさせて、自分は子供を置いて助かろうなんて甘いって教えてやらないと」
「そう言う事だ。検討してくれたまえ」
わたしたちの気持ちが同じ意見に固まっているのなら、もともとの仲間たちも異論は挟まない。
「それじゃあ決まりだ。それで最後の目的の前に⋯⋯アストの新型は出来たのかい」
最後の目的は言うまでもない。合流により帝国と王国が合併したようなものなのに、わたしたちには実感がわかない。理由はただ一つ、金欠病のせいだ。
もう、これは主目的よね。あの変態商人が駆けずり回るのも、病にかかったせいだ。貧乏神の祝福を受けた商人ギルドとか⋯⋯わたしなら入りたくない。
そういうわけで、遠征の最大の目的は出稼ぎ。そしてわたしやノヴェルが旅出るとなると、もれなく先輩がついて来てしまう。たぶん‥‥レガトの目を見る限り、彼もシャリアーナの扱いで困っている。
旅について来る以上は、重鎮たちの代理が必要になる。
「素材を融通してもらったからね。最高のものが出来たわ」
目に隈を作りながらわたしが錬生した複数の聖霊人形。
その中に最新型の先輩型聖霊人形があった。




