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錬生術師、星を造る 【新章再開】  作者: モモル24号
第5章 ギルド選抜、海外遠征編

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202/203

第3話 浮遊城塞農園アガルタ ③ 乙女の私室


 魔女さんとの話が終わった頃、【星竜の翼】のメンバーが、ロブルタにやって来た。レガトたちには、ノヴェルの魔本を預けているので、実際やって来るのは、わたしの部屋を通路がわりに来るのよね。


「なんか臭かったよ、あの部屋」

「据えた匂いが酷くなってない?」

「腐肉の匂いだよ。ほら幽霊船の」

「あぁ、あの魔物だ」


 騒がしい双子がやかましい。乙女の私室を通路がわりに使っておいて、臭いとか失礼よね。腐肉って何よ、冒険者としての経験が豊富過ぎて聞くのが怖いわ。盾使いの双子、弓使いのリモニカ、アミュラの親友の剣士スーリヤなど、わたしの知る冒険者(チンピラ)たちも一目置くメンバーたちが揃ってやって来たようだ。


 双子とかどうでもいいか。それより商談相手‥‥というか、共同研究者の方が大事よね。


「相変わらず臭いわね。研究熱心で何よりだわ」


 鍛冶師のメニーニも辛辣な一言を放つ。通りすがらにわたしの錬生部屋を物色して、使えそうな発明品を持ち出していた。もちろんただじゃないよ、取引だからね。


「はい、この鉱石ならお釣りが来るわよ」


 コレよコレ。鍛冶師だけあって貴重な鉱石やわたしの研究に必要な素材を良く分かっているのよね。リエラ(変態)やアミュラなど商人たちとは違い、売買取引よりも創作熱心で話が早くて助かる。


「────うごぉっ」


 メニーの筋力(馬力)を舐めていたわ。涼しい顔をして手渡された鉱石は見た目以上に重く、わたしは腕を持っていかれメニーニへぶつかった。


「相変わらず華奢なのね」


「いや、あなたがおかしいのよ」


 筋肉のなさは認める。でもいくらドワーフの血を引くと言っても、メニーニの筋力はおかしい。邪竜ぶん殴って一瞬硬直させていたし、親世代より上に異界の強者の血もたぶん混じっていると思う。


「メニー、鉱石はわたしの部屋の棚に運んでおいて。薬も必要ならエルミィに声をかけてね」


「それは助かる。貴女(カルミア)のは匂いに癖があるし、効果がまちまちだがらね」


 わたしの作る薬と違い、エルミィの作る薬は授業で習った教科書通りの材料と配合なので、効果もあてになる。わたしの薬は、効能は高いけれど相性がある。当人から絞ったものならば、最高の効果を得られるのよね。


 その証に、メニーはちゃっかりわたしの作った自分(メニー)用の薬は持っていってるもの。


 

「肥やしでもひっくり返したのかい。臭いぞ」


 軽口を叩くのはわたしたちのボス⋯⋯ギルドマスターのレガト。一緒に来たのは無表情の結界師ファウダーとオドオドした竜喚師のカルジア、それにウザいメイドのヒルテがやって来た。わたしと目が合うと、カルジアはビクッと身体を震わせレガトの陰に隠れた。


「地味に傷つくので、お母様らしく堂々と胸を張って下さいな」


 わたしが優しくニッコリ微笑み両手を広げると、カルジアはずんぐり鳥のように足をバタつかせて、わたしに抱きついて来た。だから役割が逆⋯⋯。


「なんだかんだ娘だね。君に癒されるんだな。目が怖いのに」


「胡散臭い笑顔⋯⋯ババエイプの投げる岩の匂いがする⋯⋯」


「どういう意味よ、ファウダー。あとさ、あなたも一応父親なのよね? もう少し優しさと愛情を注ぐべきだわ」


 ⋯⋯というか、無表情のくせに結界師(ファウダー)が酷い。わたし、何も悪い事してないのに。ババエイプって、そのまんまあの()ギルマスじゃない。無表情なのに表現力が豊かな結界師だわ。


「ひとまず会議はシャリアーナが揃うまで待つとして、浮遊の魔力を先に込めてしまおう」


「そうね。バ⋯⋯魔女さん(レーナ)が先に来て核となる結晶を用意してくれたわ。あとは魔力を注いで、結界で固めてもらえばいけるわね」


 最終的にはアガルタ山も魔本の本人形(ブック・ゴーレム)化のように、召喚対象にするつもりらしい。浮揚させるだけでも充分凄いものなのに。


「魔力化というよりも、君やカルジアを介した結びつきの方が大事なんだよ」


 それはレーナやレガトだから言える事だろう。普通は魔力の確保すら難しいのだから。


 星竜の翼のメンバーは、先輩の居室で待たせ、くつろぐ。わたしの仲間との交流時間のようなものだ。戦後もやったが、今回は本部と支部と立場が明確になっただけに、冒険者の先輩方が、後輩の指導する要素も含まれている。


 ヘレナは剣聖のアリルさんに、エルミィはリモニカさんに、ティアマトは母親のティフェネトさんに稽古をつけて貰っている。ノヴェルやフレミールたちは先輩やルーネと饗食の準備を任せた。何度となく方針を練っているけれど、主要メンバーが揃っての会食の機会は貴重だものね。


 ◇


 レガたちと結晶のある倉庫へ移動がてら、先輩の居室の先の広間を覗く。ノヴェルにより、天井の高い比較的豪華な装飾の施された広間は、先輩の来客用の食卓の間にも使う。


 饗応の支度前に、アリルさんとスーリヤがヘレナたちと訓練していた。デカブツの素材でシェリハが縫った絨毯は市場では出回っていない超高級品なのよね。学生時代、大き過ぎて臭くて処分に困って、先輩の部屋にまとめて放り込んだ際に騒ぎになったものだ。


 裁縫の得意なシェリハが広間で使えるように毛皮を鞣し、洗浄して加工し、丁寧に飾り縫いを施した一点物。本来なら王の居室や貴賓室に使うべき品の上で訓練とかあり得ないのよね。でも‥‥わたしたちの中では、ただの臭い毛皮の認識が強い。


 それに丈夫で毛は硬いけれど、弾力があるので転んで頭を打っても衝撃を緩和してくれる優れもの。在庫は山程あるけど、貴重なので今後の取引材料として確保していた。


「新生王家は貧乏王家だから、アミュラに上手く捌いて稼ぐのが一番よね」


「あまり彼女をこき使うとスーリヤに絞められるぞ」


「わかってるわよ。もう警告されたし」


 国の財政を担う意味でも、アミュラは今後さらに重要になる。だからしっかり休めるように強力な聖霊人形(ニューマ・ノイド)の護衛を二人つけ、魔女さんに装具を貰っている。



「それにしても、酷い有様ね」


 涼しい顔をして立つアリルさんとスーリヤが雑談を交わす足元には、ノーラにメジェドにネフティスがヘタって転がっていた。ネフティスは何でここにいるのかわからないし、剣は不得手そうなのに何故か一緒にしごかれていた。。


 ヘレナだけは剣を杖代わりにプルプルしながらも立ち上がる。格好のよい騎士が強敵に挑むようだけど、小柄で幼い顔立ちのヘレナだと可愛いが勝ってしまう。


 憧れていた異国の剣聖は化物だと知りながら、ヘレナは火竜の兎武装(ドラゴンバニースーツ)を脱いだ生身の身体で挑んだみたい。彼女はダメージを受けるほど強くなる呪いを持っていただけ、他の子たちより耐えられた。


「ハァ⋯⋯ハァ⋯⋯、アリルさん‥‥もう一回……」


「いい根性ね――――でも今日はここまでよ」


 アリルさんがこちらに目をやり、時間切れを告げた。それに訓練で本当に動けなくなると、万一何か起きた際に困るからだ。


 今はそういう状況を脱している。しかしアリルさんもスーリヤもそういう点に関して用心深かった。


「うぅ、でも」


「無理して怪我したいの?」


「彼女の言う通りよ。同じギルドメンバーになったのだから、稽古はいつでも受けるわよ。スーリヤやシャリアーナたちを越えたければ、私よりレーナやレガトが適任よ」


 スーリヤは邪竜神との戦いでも、怯む事なかったのよね。剣閃一振りで邪竜神の首を切り裂いたように見えた。


 わたしは無理だけど、ヘレナはきっと自分達は戦えている⋯⋯そう思っていたけれど違った。


「オルティナ達を見て、やれそうだと判断したのね。あの娘達は剣より他の武器が得意なのに聞かないのよ」


 スーリヤが面倒そうに呟く。応援に来てくれたありがたい三人だが、連携は凄いわりに、どこかぎこちなさに矛盾を感じた。


 理由は明白で、ヘレナにも彼女たちの気持ちがわかるようで項垂れた。剣聖アリルに褒められるのは嬉しいのだ。


「まあ僕はもちろん、母さんも頼めば受けてくれるよ」


 レガトがヘレナにそう諭す。ようやく彼女は膝をつき、ぶっ倒れた。


「捻くれたあなたと違って良い子ね」


 スーリヤがヘレナを気にいったみたい。ヘレナを抱え、寝室へ運んで来ると広間を後にした。メジェドもネフティスを逆さに抱えて退出する。一応元皇女さまなのよね、あの子(ネフティス)



「ノーラ、君はシャリアーナと一緒にラグーンに戻るはずだったよね」


 ヘレナより先に絨毯の上にぶっ倒れて息の荒いノーラに、レガトが尋ねた。アリルは連れて来た覚えがないと首を振る。どうやら途中から乱入して来たので、仕方なく相手をしただけだったらしい。


「⋯⋯気が済むまでついて行くって決めた。兄さんらが片付いた(婚約した)ら、絶対私に来るもの。見合いなんか嫌だもん」


 うわっ、久しぶりに見る駄々っ子お嬢様だ。懐かしい。先輩やヤムゥリさまは変人だし、シャリアーナさまは男前過ぎて貴族感ないのよね。


 リドルカ女傑は騎士精神が強く普段は凛としていたし、アマテルたちはぼんやりし過ぎてわたしの理想の貴族像から外れている。


 学園にあれだけいた典型的な貴族の娘たちも、戦争でずいぶん変わって大人しくなった。わたしを庶民のくせに⋯⋯そう見下して来る事がなくなり、宮廷でも凄い勢いで道を空けるので逆に怖い。


「迷惑かけないというのなら、本人の好きにすればいいと思うよ」


 レガトが面倒そうに言う。ノーラはレガトが拠点とするガウトの街の一応領主になるラクベクト辺境伯の娘だ。帝国の立場上は辺境伯の方が上だけど、レガト一家はシャリアーナさまの事もあり、帝国内において特別な存在になっているのよね。


 そのレガトがノーラの自由を保証してやれば済む話なのに、彼はトラブルの予感を避けるため明言はしなかった。


「それでいいの、レガト」


「ノーラを世に放った時点で辺境伯の負けだよ。だいたい僕のせいではないし」


 アリルさんはため息をついて片手で額に手をやる。辺境伯が怒り狂ってそうだ。辺境伯から恨み辛みを言われるのはレガトなのだけれど、当人は気にしてなさそうだ。


 最終的にはシャリアーナに泣きつけばいいと、レガトは開き直っていると思う。


 『インベキアの至宝』 や『ムーリアの至宝』と呼ばれるシャリアーナは皇女から、インベンクド帝国の皇帝になる。その彼女に最終的な判断を押し付けてしまえば、例え彼女から見て兄である辺境伯も文句が言えなくなる。


「本当にあなた達は‥‥」


 何故わたしを見る? そういうアリルさんも、面倒な事はシャリアーナさまに投げる気でいた。ただでさえ忙しい彼女の怒りが爆発しそうだったものの、ノーラに関しては身内なので文句を言えない。レガトもアリルさんはもそう読んでいた。


 ちなみに後日、わたしの作った美声君のせいで、二人とも事情を聞かされて激怒したシャリアーナさまの怒声を、半日近く正座して聞かされる事になった。


 

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