第20話 ダンジョン探索【獣達の宴】① 順番待ち
わたしたち四人は、朝早くから王都のギルドへと向かっていた。
ようやく学校の授業が休みになり、ダンジョンへ潜る準備を整えて、探索へとやって来ることが出来たのだ。
「さすが王都のギルド、朝早くは冒険者の人達で一杯だね」
昼間や夕方に来るのと違って、朝はダンジョン探索の仲間を捜す人よりも待ち合わせのために待機してる冒険者もかなりいた。
「この人数がダンジョンに入って行くとなると……浅い層なんて魔物も素材も根こそぎなくなっていそうね」
田舎のダンジョンも賑わっていた方だ。冒険者の数はそれでも良くて二桁くらいのパーティー数。全員合わせて五十名もいればかなり多い日だなと思ったものよ。王都は軽く倍はいる。
「そのぶん安全度が高くなるし、先へ進みやすいよ」
受付に行って登録を行って来たエルミィが、わたしの言葉に答えてくれた。依頼を受けていなくても、ダンジョンへ潜るためには探索許可証を発行する決まりになっていた。
ダンジョン内では基本的には自己責任。許可証は戻って来ない冒険者パーティーを把握するための保険だ。
上級パーティーは中々戻って来ないのは当たり前だ。しかし、わたしたちみたいな初心者は、救援が間に合う可能性があるからだね。あとは王都だから貴族絡みの理由がありそうだ。
「初心者あるあるだよね。ダンジョン内って時間の把握が難しいから、朝に潜って地上が夜になっても気づかないとかあるし」
ダンジョン内で徹夜しちゃって疲れ切って戻ったら、翌朝になっていたなんて話もよくある。慣れていない初心者は、時間配分も出来ていないからだ。
逆に頑張ったのに大した時間過ぎてないのかと落胆して大笑いされた、なんて話もよく聞くあるあるだよね。
ダンジョン内に朝も夜も関係ないけれど、日常感覚のあるなしは重要なんだとか。だからこそ朝一混むのかもしれない。
「わたしたちにはこの懐中時計君があるから、時間経過への備えはバッチリよ」
また怪しげなものを、という目でみんな見る。寮では使わなかったランタンに、魔晶石をセットするのも忘れない。
付与魔術科の授業の長いお話の間に、魔晶石の欠片を快適スマイリー君で使いやすい大きさに再結晶化しておいたのだ。欠片は寮でタダ同然で手に入るのも良いのよね。
「よく先生に見つからなかったね」
快適スマイリー君にトラウマのあるヘレナは、少しその話題は警戒している。
「付与科のお爺ちゃん先生は、お話に夢中だもの」
癖の強いわたしたちの中で、一番の問題児はいまや断トツでわたしになっていた。
おかしいわね、問題を起こしてるのはわたしじゃなくて仲間達なのに。
メインホールでお喋りしながら待っていると、ようやくわたし達がダンジョンへ入れる順番が来た。もう百人近くが入った後なんじゃないかな?
一見するとだらけて見えた冒険者達もいる。遅い時間にあえて集まってダンジョンに向かうのは、人混みを避ける上で効率良かったのかもしれない。それもまあ、ダンジョンで野営して、生還出来る技量があればの話になるわけなのよね。
順番待ちをして一緒に入ってゆくパーティーは他にもいて、ランク的には良くてDランクか、わたし達と同じEランクパーティーに見えた。
多分先に高ランクの冒険者を行かせるのは、混乱を避けるのと効率が良いのだと思う。
より深く潜るパーティーやクランがいる時は、露払い的に中堅クラスを真っ先に行かせるようだ。これだけ冒険者が多いとやはり獲物の取り合いになりそうね。
【獣達の宴】は広い部屋が通路で繋がれた、迷宮のようなダンジョンだった。
「これ、かなり渋滞するダンジョンだね」
ヘレナが周りの様子を伺いながら呟く。わたしも同感だ。探索の順番をギルドが管理するわけだと、わたしは納得した。
早い者順だと、へっぽいパーティーが先に行く可能性があって、魔物を倒すまでかなりの時間がかかった。
「ランクごとに入れる時間は先に決まっていて、早く来ればランク内で一番早く行けるみたいね」
エルミィが目ざとく他のパーティーのランクを確認している。そうなってくると、早起きして来ようとも、あまり関係なかったみたいね。
「でも早く来たから、わたし達のランクだと最初の組に入れたよ」
「ヘレナは前向きだね」
わたしの中のヘレナ好感度がまた上がる。
Dランクがいたのは最後に余ったパーティーだ。一旦Eランクのパーティーが全員ダンジョンに入った後は、ランク関係なしのフリーになるそうだ。
後から来るのが上級パーティーだと、途中ですぐに追い抜かれるわよね。
ダンジョン内で他のパーティーの姿を見ないで済む位置まで来るのには、三階層下までかかった。
わたし達よりは格上といっても、Dランク程度の進行速度はたかがしれてる。
わたし達はティアマトの嗅覚を頼りに、どんどん先へ進んでいた。浅層はブラッドウルフやオークが出る。
どちらも素材の毛皮や肉や脂が売れるけれど四、五匹も倒すと荷物がいっぱいになる。
パーティーを組んだ人数にもよるけれど、低ランクなら一回の探索で稼ぐには充分な量でもある。
ポーターがいるならその倍くらいは稼ぐことが出来る。ただ、わたしたちは休みの日しか来れないので、もっと奥へと進みたかった。
五階層まで降りて来ると冒険者もだいぶバラけたから、ゆっくりと探索をしている。
目的は稀に出るという兎の魔物で、ルナティックラビットとマレフィックラビットという。
狂気とか不吉と名付けられているだけ合って、浅層の魔物としてはかなりの強さという。
「単体でも強いと言われるのに、二匹出てきた時、初心者で勝てるのかね」
エルミィがもっともな事を言う。かなり素早く魔法も駆使するので、Cランクパーティーくらいにならないと実際は危険だと言われていた。
ただその分、毛皮も爪や牙も魔力が強くて希少と言われ高く売れるのだ。
影に潜むというので、ティアマトの索敵をあてに動いていた所で彼女は動きを止めて鼻をひくつかせた。
「む、なんかここの壁おかしいよ」
そういわれても、わたし達にはわからないのよね。ん、でもなんかここだけ確かに空気の流れが違うわね。
上級冒険者があれだけいて、気づかないなんて事あるのかしら。先を争ったりゴチャついたりしているから気づかない事もあるのかも。
「有り得なくはないよ、魔力量とか特定の個人や種族に反応する場合もあるようだから」
エルミィって、眼鏡をかけないと説得力が薄れるわね。眼鏡をかけて喋りなさいよ。
「……」
わたしの独り言が聞こえたのか、エルミィに睨まれた。
「要するにダンジョンの気まぐれってことね」
隠し通路が最近出来たものだと仮定する。場所は浅い層で、注意を払うような場所じゃない。だから気づけそうな上級冒険者達はスルーしちゃってる可能性は高い。
でも……そんな単純なわたし達に都合の良い事あるわけないから、罠を疑う方がマシなのよね。