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錬生術師、星を造る 【完結済】  作者: モモル24号
第4章 太古の邪竜神編
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第24話 戦後処理 ③ 荒野のお茶会と初顔合わせ

 聖奈が涙を流しながら誓いを立てている所に、咲夜と七菜子が連れ立ってやって来た。仲が良いようで何よりだわね。


 聖奈と七菜子の目が合う。七菜子は無表情を保っているけれど、その手は咲夜と繋がれていた。


「はぁ……やっと目が醒めたのね咲夜。この凶犬(コボルト)みたいなお友達に人生諦めが肝心だと、教えてあげて頂戴」


 聖奈は何だかんだ言いながら、結局わたしに泣かされた。そして咲夜と一緒にいたい──そう誓いを立てた。本心を気づかせてあげたのに、わたしの首を締めようとするのよ、この娘。頭がおかしいわよね。


「カルミアが酷いのよ。元の身体に戻せるのに、実験体にしたいから嫌だって色々脅して」


 あっ──聖奈め、七菜子に便乗したわね。咲夜は阿呆だから、そうやって頼られ甘えられると騙されるのよ。


 まあ、いいわ。咲夜に憑くおっさんたちがバラすにしても、うまく誤魔化した言い方をするだろうから。


 わたしが元凶ということで咲夜も納得したみたい。あいつのせいにしておけば良いみたいに、便利使いにされそうよね。


「────それなら七菜子は戻せるんだよね?」


 咲夜は真っ直ぐな澄んだ目で、七菜子を見て言う。悪いのはわたし……理論はその一つの問いで破綻した。


「……戻す? どうして?」


 七菜子はきょとんとした表情ですぐに尋ね返した。


「えっ……あたしがおかしいの?」


 咲夜が動揺している。勇者の資質を持とうと、人の心の機微は読めないようだ。


「その女の人はまともじゃないって、言ったでしょ。普通に考えれば咲夜の隣に立つのは私だけで充分だもの」


 七菜子は強引にわけのわからない理論で押す。あくまでわたしのせいにして、さりげなく聖奈を排除にかかる。


「七菜子って、こんなキャラだっけ?」


 咲夜が軽くパニックになる。そして握っていた七菜子の手をそっと離し、聖奈の側に隠れる仕草を取った。


「咲夜、あなた逞しいわよね」


 親友の豹変ぶりに対して反応がそれだけで済むのは、胆力がある証よね。


「蛇神は倒されたから、もうこの辺りは当分荒らされる事はないわ。わたしは先輩と一緒に王妃を懲らしめに戻るけれど、あなたたちはどうするのかしら」


 レガトや魔女さんからは、咲夜の意思を最優先に動くように厳命されている。元の世界に戻りたいのなら戻す事も可能だ。


 残って冒険したいのなら、サポートもつけるし、依頼もかけるつもりでいる。


 聖奈も七菜子も咲夜についてゆくだけ。どのみち行動を決めるのは咲夜になるわね。


 七菜子やモブ男達は、死んでなくてみんなに不思議がられると思う。でも辻褄合わせは魔女さんが何とかするでしょうし、普通の生活に戻れるだろう。


「向こうで困ったことがあれば、変態商人(リエラ)が手を貸してくれるわ」


 思い出したくもない女だわ。商人だけに外面はいいし、咲夜の両親と仲は良いのよね。


 連絡役があの変態なのは魔女さんも嫌そうなので、別の人を立てるほうが無難よね。


「────あっちに帰れば、おじじ達は解放されるんだよね」


 咲夜が何か寝ぼけた事を言ってる。おじじ達って、招霊君のおっさんの事よね。


「────外せないわよ」


「えっ、聞こえなかった。もう一度言ってよ」


 聞こえたはずだけど、信じたくない咲夜が問い返す。簡単に取り憑いたものを外せるようなら、除霊師も呪術師も商売にならないもの。


「……外せないわよって言ったのよ。その三人が満足すれば別よ。でも付いてく気満々だもの。ケルベロスだけに懐いたのね」


 咲夜に憑く煩いワンコみたいなもの。わたしに向かって騒がしく吠えるし。


「へっ……嘘でしょ? どういう事なの?」


 咲夜の顔が青冷める。招霊君に取り憑かれたまま、元の世界に戻るとどうなるのか想像出来たようね。切り札にもなるし、番犬にちょうど良いわよ。


「──魔法ないんだよ? お風呂とか着替えとか見られて困るもん」


「それなら簡易の遮断装置をあげるわよ。魔本も持って行くといいわね」


 咲夜の顔がみるみると明るくなる。咲夜の心配の方向がズレている気もする。あちらの世界で使えないと思うけど、言わない方が良さそうね。


「どうするのか、お友達と相談して決めていいわよ。メジェド、アプワート、ヒュエギア。わたしは先輩たちと話しがあるから後は任せるわよ」


 後の事は魔女さんに任せるわ。もともと魔女さんの我儘から始まって、仕方なく手伝っただけだもの。


 ◇


 魔女さんと入れ替わりで浮揚式陸戦車型(フロート・イェーガー)から出ると、骨の崩れた砂の山の中で、優雅なお茶会が開かれていた。


「捕虜を放っておいて何してるのよ。新手の拷問かしら」


 何となく共闘していただけで【星竜の翼】 の主力メンバーとわたしたちは会話もろくに交わしていないのよね。魔女さんが咲夜の所に逃げて来たのって、この会談の圧が凄くて面倒になったからに違いない。


 新生ロムゥリの英雄女王である先輩と、ムーリア大陸のインベンクド帝国の皇女シャリアーナ様は初めてここで邂逅を果たした────って、吟遊詩人の物語で謳われそうな場面だわ。


 二人の緊張感が半端ない。先輩はだいぶ人に慣れたけれど、友達付き合いの下手くそなぼっち王子だったからね。胸元のルーネをあまり強く握り締めないで下さいよ。


 現実の立場としては三国をまとめる女王の先輩が上になるのかな。でも冒険者としての経験や功績、年齢的にもシャリアーナ皇女は上だ。それに近々女帝になるかもしれない。


 立場など普段は気にしない二人なのは、互いの陣営の仲間たちが知っているはずなのに……空気が重い。バチバチと雷が発生しているんじゃないかしら。


 宥められそうなレガトは、こういうの好きそうだから駄目ね。役立たずだわ。剣聖アリルは魔女さんより面倒臭がりで、気に入らないなら剣を振れと言わんばかりだ。


「初めまして、シャリアーナ皇女殿。僕はアストリアだ」


 わたしの姿を見て、先輩が先に声をかけた。シャリアーナ様ではなくて、わたしへの対抗心で緊張が解けたらしい。


 それに自由奔放な先輩も、先輩貴族に敬意を持っていたみたいね。同じギルドに所属する事になった冒険者同士なのに、大陸間の重鎮同士の話し合いの場になるからおかしくなるのよ。


「私はシャリアーナよ。お互い立場のせいで、必要以上に名声が高められてゆくの大変よね」


 そもそも挨拶は今さらなんだけどね。握手を交わしながらシャリアーナ様は先輩の状況を思いやってくれた。


「僕はカルミアに代わりを押し付けられるので、わりと気楽なのだよ」


 先輩がわたしを見て席につけと手振りで示しつつ、そんな事を言った。好き勝手に言ってる割に、皇女様相手に頑張ってるよね。


 あと、そこは皇族王族同士の気楽な会話の場であって、庶民出の錬生術師のいる場所じゃないわ。隣に座り助けを求めるヤムゥリ様の姿もわたしには見えないの。レガトとアリルさんは別として、伯爵令嬢のノーラさんしか座ってないじゃないのよ。


 アマテルとヘケトは王族の立場だけど、話し合いにならないからわたしの部屋にいる。実質先輩とシャリアーナ様の一騎打ちみたいで、みんな避けてるのね。


 そんなことより戦利品の分配と、素材の分前を話し合いたいのよ。別のテーブルにいた鍛冶師のメニーニを見つけると、交渉に入る。


「羨ましいものね。望んでも選択の歯車一つ違えていたのなら、この娘は存在しなかったと思うわ」


 なんで先輩とシャリアーナ様が、わたしの話をしながらこっちへくるのかしら。


 それを機に【星竜の翼】 のメンバーとわたしたちの仲間の交流が始まる。ヘレナは憧れの剣聖アリルへ突進した。(ネオ)・火竜の兎武装(ドラゴンバニースーツ)だけど興奮して気づいてないわね。ヤムゥリ様とお揃いなので、アリルさんも気にしていないようだ。


 奇抜な格好といえば、ティアマトと話をしている彼女の父親の花嫁衣装の方がおかしいものね。ティアマトの甘える姿は貴重なのに、先輩達が邪魔して見えない。


 その近くで、ごっつ君よりふた回りは大きな女戦士アナートがいた。先輩を見て涙している。先輩に妹さんの姿を重ねてるのね。


「彼女はどうだい、アナート」


「間違いないワ。流れる血が変わり、肉体も別物なのに、容姿があの娘の生き写しねようヨ」


 レガトがアナートに尋ねているのがわたしにも聞こえた。


 ローディス帝国のモートとは兄弟だったそうで、バアルトやティフェネトもティアマトから色々話を聞いているように見えた。


 無事……と言えるのかわからないけれど、元気な先輩の姿を見れて良かったわね。それと先輩が変なのは両親のせいではなく、宿した魂の問題だとわかったわ。あの一画だけメンバーが濃すぎるのよ。


 エルミィはリモニカさんから、弓の扱いの指導を受けていた。なんでこんな時まで真面目なのかしら、あの眼鏡エルフは。


 メネスとシェリハは、ノヴェルと一緒にフレミールの世話をしている。ノーラさんと部下の子達が調子に乗ったフレミールの武勇伝を聞いていた。まあ誇りを取り戻し艶々になるために好きにさせるしかないわね。


 ハープとホープという双子の冒険者や剣騎スーリヤ、結界師ファウダーにチンピラ冒険者達は、バステトとロズワースの住人の見張りについていていなかった。姿の見えない他のメンバーも交代で巡回中らしい。


「意外とマメな人たちなのね」


「制圧しなれているだけだよ。あんたの所も真面目っ娘ばかりだね」


 メニーニとは素材の在庫を折半、し、得意の加工をしてその半分を交換し合うことで話がまとまった。同じギルド、同じクランに籍をおくので共同でも構わないのに。


「学園の話は聞いているよ。高級素材を湯水のように使われたくないの」


 鍛冶師のくせにしっかりしているわね、メニーニは。わたしの仲間達の装備も見直してくれる事もお願いした。デカブツの素材や特殊鉱石を要求されたので、そこは再び交渉が必要だった。


 メニーニとの話の後、背の低い召喚師と二人の冒険者と変なメイドが近づいて来た。【神謀の竜喚師】 カルジアだ。


 話す事は何もないのだけど、一応は挨拶すべきなのかしら。名前だけはこちらの大陸にも響いている。ヘレナと同じくらい小柄で常にオドオドしている。


 古龍を始め、グリフォンやら魔人やらあらゆる種族を召喚する金級冒険者。このカルジアこそ、わたしの母にあたる因子の持ち主。錬成が錬生になったのも、レガトとこのカルジアの才能のおかげかもしれない。


「初めまして────お母様。そう呼べばいいのかしらね」


 気が弱い人なのだろう。わたしの前にやってくるだけで、相当勇気を必要とした感じが伝わる。後ろのふてぶてしい夜魔のメイドを見習って、もっと気楽にすればいいのに。


「わたしが言うのも何だけど、わたしを創り出したのは魔女さんなのでしょう。別にあなたに放置されて来たと思っていないから気にしないでいいわ」


 苦手なのよ、こういうの。馬鹿ばっかりだけど冒険者(チンピラ)達がしょっちゅう顔を出して来たし。


「大体魔女さんのせいでしょ。可愛がるのと、振り回すの勘違いしてるのよね、あのひと」


 カルジアだけじゃなく、後ろの二人の冒険者にメイドまで激しく首を縦に振った。どれだけ彼女に人生を狂わされた人がいるんだろうか。


「一般的な親子とは違う形だろうけど、母と呼ばせてもらうわよ、カルジア母様」


 震えながら、ワシっと抱きつかれ泣かれた。よほど苦労して来たのだろう。ただ……普通母娘の立ち位置、逆じゃないかしら。


 カルジアが落ち着くまで、わたしは頭を撫でて待った。 ニヤニヤしている先輩とシャリアーナ様は無視する。このカルジアお母様を味方につければ、希少な魔物の素材や成分が手に入り放題なんだから。


 二つ名の割にわたしと大して変わらないくらいの魔力。魔女さんがレガトの魔力を使って、何でもかんでも勝手に召喚契約をしているみたいね。


 変態商人や魔女さんまで契約しているので、下手に扱うと国が滅ぶヤバい人になっていた。魔女さんが教えてくれた魔本の収納魔法の原理は、魔本の本人形(ブック・ゴーレム)化と召喚だ。


 魔本を聖霊人形(ニューマ・ノイド)のように生命ある存在にしたことで、召喚師のように呼び出したり戻したり出来るようになった。本はわたしの錬金術研究室の入っている、本棚に勝手に戻る。


 本自体に傷つけるとダメージを負う。そのかわりに持ち歩かなくてもすむし、亜空間にしまうのと違うので、魔力消費が殆どない。魔力を封じられた時のために、最低一冊は持っておくけどね。


 正規の亜空間化、転移などに比べて魔力消費が少なく済むのがわたしみたいな魔力の持ち主には助かる。


 わたしはメインの魔本をカルジアに契約してもらった。危機の際はこれで呼んでもらえば助かる。


 それに魔本の中のノヴェルの力はそのままなので、必然的にカルジア率いる冒険者(チンピラ)チームにノヴェルを見守ってもらえるのだ。


「えへへっ」


 初めてカルジアが笑った。魔本なんて契約しても魔力消費は殆どない。きっと自分だけの力で、わたしの役に立てて嬉しいのだろう。


 ────やっぱり逆よね、親子の役割。


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