第19話 錬金釜 ⑤ お引越し
エルミィの眼鏡は魔力の感覚が微妙にズレていて、視野を阻害される感じになっていた。
良い点としてあげるならば、エルミィからエルフ特有の気難しさがなくなっていた。もちろんわたしが勝手に思うエルフの姿だから確証はない。
でも大半が美形。魔力も能力も高くて、寿命まで長い森の妖精人。高慢になりやすく、周りも引け目から取っ付きにくさを覚えてしまう。
この眼鏡、視界だけでなく距離感を狂わせていた。だからだろう、エルフなのに、人に対して慣れ親しみやすく接していける人格が出来上がっていた。
逆にデメリットとしては、エルフ独特の魔力嗅覚がぼやけて、善悪の自己判断が出来ない状態になっている。
……はっきり言ってわたしの発明品と同じポンコツのガラクタだ。
誰がその眼鏡をくれたのかは詮索しないでおくわ。意図がわからないし、欠陥に気づかず純粋にエルミィのために贈ってくれたかもしれないから。わたしが憶測で口を挟むのは違うものね。
わざわざ枷をつけたのが、エルミィ自身の望みだった可能性もあるから。
エルミィには魔力障害を直して、純粋に眼鏡の能力を強化したと伝えておいた。エルフの元から備え持つ能力が眼鏡を掛けると強化されるだけだ。
あと、使わないときは首から掛けられるように軽くて丈夫な鎖をつけボタンで眼鏡部分が収納されて首飾りになるようにした。
「いい、これ凄くいいよカルミア」
玩具を初めて与えられた子供のようにいじり回すエルミィ。
「そう、それは良かったわ」
ティアマトもエルミィも満足したようなので、わたしは自分用の武器を作る。
盾で防御するのは基本として、魔力やアイテムはなるべく味方の支援に回したいのよね。
だから消費を抑えるためにも、捌ける相手に無駄な魔力を使わないように、節約したいのだ。
────ぬっふっふっ〜、さっきみんなからこっそり捻出した魔力で魔晶石化したものがある。これにわたしの魔力を混ぜて、招霊魔物君複式を作る。
固定の魔物を設定しない分、威力は落ちると思う。でも臨機応変に対応出来る。
全員の魔力を登録したようなものだから間違って襲われる事もないし、四個出来たから複数相手の魔物を対応出来そうだわ。
わたしの無双する姿が目に浮かぶようね。地元で冒険者共に拉致られたあげく、散々使えない言われた恨みを晴らせる機会だわ。
ガキンチョ攫っておいて、どうして使えると思ったのか、文句を言ってやりたいわ。
あとは付与も行いたかったのに、魔力がもう尽きてなくなった。実験結果は失敗ということにして、適当な木の枝を折って報告書と一緒に添えた。
理由なんて後付けで、それっぽく書いておけばいい。
もちろん後で提出した際に叱られた。あのおじいちゃん講師……話しは無駄に長くてろくに実験しないくせに、見る目だけはしっかりしてたよ。
そして仲間達はというと、わたしを置いて先にお風呂に行ってしまった。
薄情ものめ〜っと思ったけど、先生が君たちは帰りなさいと言ったので仕方がないのだ。
こってり授業並みに絞られ屍のようになったわたしは、教室の鍵を返して部屋へと戻る。荷物はヘレナが持って帰ってくれたので手ぶらで済んだ。
心優しい仲間達は、お風呂へ行くと言いながら部屋で待っていてくれたみたいだ。
持つべきは友ってやつだよね。なんだか、いいねこういうの。エルミィも障害が取れたせいか、ティアマトが嫌悪せずに普通に接するようになっていた。
……あの娘の魔力を嗅ぎ分ける鼻の仕組みこそ、研究して解明したいものだわ。
そしてもう一つ朗報があった。わたしが付与魔術科の先生にお説教されてる間に、寮内で引っ越しが行われていた。
どうやら寮長の発案で問題児たちをひとつにまとめる事になったらしい。
「カルミアが問題ばかり起こすから、私まで巻き込まれた形だよ」
どうしてわたしが問題を起こした事になっているのよ、眼鏡エルフめ。
────問題児って、本当にわたしも含まれてるの? ……ってまさにお説教されていたわね。
エルミィとティアマトが隣の部屋というかお向いさんの子達と入替えになった形だ。
「ボクはこの方が嬉しい」
ティアマトはそうでしょうね。なにせ問題児筆頭だもの。
二人とも荷物は少ないので移動は早かった。交替した二人も奇声に悩まずに済んでホッとしたみたい。
奇声なんて上げた覚えはないのに、失礼しちゃうわよね。
わたし達の部屋はもともと一番奥のだったので、ヘレナと景色の良い窓側をどちらが使うか悩んだんだよね。
今後は誰がどこで寝るかで揉めて、毎回変わる気がするよ。
何をもって問題児扱いするのかを後日にでも寮長に問い詰めないといけない。でもパーティー仲間が近くにいるのは大変良いね。
わたし達は明日に備えてお風呂で身体を清め、軽目に夕食を食べて休む事にした。
ひとまず今晩の部屋割りは、今まで通りになった。ティアマトもエルミィがまともになったし、部屋が近いから今夜はそれで納得していた。
無意識に抜け出しても疑いのある部屋はすぐ目の前になるからね。