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錬生術師、星を造る 【完結済】  作者: モモル24号
第4章 太古の邪竜神編

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第17話 最悪同士な煩悩皇子の融合力

 ローディス帝国の皇帝モート、それにセティウス皇子達を前にして、わたしたちは苦戦していた。


 レガトたちの戦いの場と同じように、ここでも戦闘用フィールドと呼ばれるダンジョンが展開したためだ。


 魔物がまるで魔物の大暴走(スタンピード)のように湧き、防戦を強いられる事になった。


 苦戦の原因は魔物だけじゃない。ロブルタの魔法学園に留学生としてやって来た、傲慢皇子セティウスが暴れているせいだ。


 人格は元々酷かったのよね。いまはあの時よりも、さらに狂悪さが増しているような気がする。


「ため込んだ歴史を、今ここで吐き出さなくてもいいのに」


 浮揚式陸戦車型(フロート・イェーガー)を背に、わたしは先輩とノヴェルとフレミールに何故かガッツリと守られている。


 ルーネとブリオネが、それぞれ先輩とノヴェルにくっついて結界師の魔法に魔法耐性を上乗せしていた。


 敵の一番の狙いは先輩だというのに、わたしを守ろうとするのよね。仕方ないので戦車はヤムゥリ樣とノエムに任せて、固定砲台とした。


 周囲は大楯を構えたごっつ君で囲み、シェリハがまとめて操る。単純な壁役だ。


「皇子には異界の勇者の魂が、完全に乗り移ったのかね」


 わたしの横で先輩が傲慢皇子に目をやり、険しい表情になる。ここへ来て自分の素性や自国と帝国の関係を知らされて、かなり動揺しているはずなのに冷静さは失わない。


「もっと厄介ですよ。性質が合うのか融合して、力が相乗効果で上がってるもの」


 わたしの目には、いままで見た異界の強者達よりも、一番この世界に馴染んでいるように見えた。


 性格の不一致で別れる夫婦がいるように、憑依系の召喚は性格が合わないと反発して実力を発揮出来ない事が多い。


 魔力の消費が少なく済むのと、術師の力量が低くても呼び出しやすいので多用されるのよね。


 魔物の召喚みたいなもので、強力な魔物に憑依させ操らせる……そんな召喚師もいるそうだ。


 それにしても嫌な悪いやつ同士が、悪いことをするために気が合うとか最悪だわね。犯罪者集団のギルド結成の瞬間を見た気分だわ。


 皇帝モートは、助っ人のアナートさんという女傑がやって来て抑えている。どっちも魔力量が高い化け物だ。


 魔物達とはいえ味方ごと平気で攻撃してくるモートに対して、アナートさんはわたしたちに気を使うので、やや不利な感じがした。


 二人には因縁があるようね。罵り合う言葉を聞くと、ただの姉弟喧嘩にも見える。どっちも先輩の魂の根源……アスタルトへの情愛が深くて気持ち悪いわ。


 それにしても殴り合いの余波が迷惑なレベル。二人には近づかないように、放っておいた方が無難だ。 


 浮揚式陸戦車型(フロート・イェーガー)を中心に見て、皇帝モートと戦うアナートさんがいるのが最前列の前方になる。


「シェリハが時間を稼ぐ間に、防衛陣を築くわ。エルミィ、ヒュエギアと一緒に小型防塞貝(ガード・シェル)を出して頂戴」


 わたしたちとアナートさんの間に小型防塞貝(ガード・シェル)を設置する。エルミィとヒュエギアが囲いを作り、簡易砦を形成した。


 二つの砦の間をティアマト、バステト、アクラブ、ミューゼが布陣して魔物の群れを撃退する。


 ヒュエギアは戦闘用武装に換装しているけれど、基本はアナートさんへのフォローと、エルミィと前衛陣の仲間の支援を行ってる。


 魔物の大半は鰐人や蜥蜴人を強くしたやつなので、異常にタフだけど突進攻撃もなく助かっている。


「エルミィ達の援護に行くよ」


 ヘレナが忠狼聖霊人形(アプワート)に乗るメジェドを連れて、ティアマトがいる浮揚式陸戦車型(フロート・イェーガー)の左側に出る。


「シェリハ、私達は右に出るよ」


 メネスとごっつ君の配置を終えたシェリハが、バルスに乗るバステトが戦う右側へと移動した。


「私達も小型防塞貝(ガード・シェル)で背後を固めるわね」


 レガトの仲間たちのノーラさんがコノーク、タンキ、ヤメネ、エメロの四人の子分達を引き連れて背後を固めてくれた。辺境伯の娘らしいのに、好戦的よね。


「リモニカさんは屋根からの支援をお願いします。アマテルは戦車内でヘケトとラナを守ってあげて」


 ヒュエギアと同じく武装型に換装しているアマテルと、レガトたちから預かっているヘケトとラナンキュラは戦闘に向かない。


 狙われているのもわかっていないみたいで、なんだかぼへ〜っとしながら、モーモーちゃんと戯れてる。


 緊張感がないと言われるわたしたちだけど、この娘達は緊張って言葉を知らないんじゃないかしら。


「カルミア、おらとブリオネは前につくだよ」


 シェリハが移動したのでノヴェルがカバーに動く。彼女を守るブリオネのタイニー戦隊と浮揚式陸戦車型(フロート・イェーガー)円形風樽火門(フレミールドーム)から分離した小型火竜戦車(ミニフレミー)に乗り込んで移動した。


 わたしたちとエルミィたちの助けに動くつもりね。助かるけれど、ノヴェルも狙われているので無理は駄目よ。


「それならヤムゥリ、君も小型火竜戦車(ミニフレミー)で背後を守りたまえ」


 戦車は動かせないし、砲撃は味方に当たるので手数は活かせない。先輩はヤムゥリ樣にノーラたちのカバーを任せた。


「ねぇ、あたしたちは?」


 咲夜と聖奈がやる気満々で出てきた。戦意旺盛なのは良いことね。


「あなたたちはまだ待機よ。皇子が接近するまで戦車の主砲で支援をよろしくね」


 そのポジションにいたコノークさんたちはノーラさんが連れ出したし、ヤムゥリ樣もカバーに向かった。ヤムゥリ様は砲撃させると暴走しがちだ。でも狙いは正確なので、こういう時は頼もしいのよね。


 【星竜の翼】 のメンバーに比べて、わたしたちは体力も魔力もそれほど多くはない。消耗戦を仕掛けてくる相手に、馬鹿正直に付き合う必要はなかった。


 咲夜たちは対皇子の切り札になる。本当は戦車内にいてくれた方が安全なのに、みんなの負担を考えてくれたのね。


 敵の数を捌くだけならば、これで良かったはずだった。しかし帝国の皇子が強過ぎる。召喚された力も相まってもの凄い魔力を発揮して暴れ回る。


 皇女らしき娘と皇子と一緒に留学生としてやって来た呪術師はついていくので精一杯のようだ。


 セティウス皇子が、わたしたちに気づいたのだろう。防衛陣を築く蠍人の戦士や猫人の眷属を蹴散らして向かって来た。


 ヘレナ、ティアマト、バステトが布陣から抜けて皇子の抑えに向う。でもセティウスは、味方の魔物ごと剣の一振りで三人を吹き飛ばした。


「フハハハハァ!! 迎えに来たぞアストリア姫。ほぅ、咲夜もいるのか。それは都合が良い。まとめて俺が可愛がってやろう!」


 うわぁ……腰をカクカクさせてめちゃくちゃ気持ちが悪い。融合の相性が良すぎて煩悩まで丸出しなのね。


 体勢を立て直した、ティアマトが隙だらけの皇子へと魔力を高めて殴りかかる。


「フン。いつぞやは叶わなかったかもしれんが、いまは余の力が上。消えよ」


 まずいわ。魔力の開きが想像以上にある。レガトほどではないけれど、フレミールより一点の魔力が強い。


「────落ち着いて、観察して」


 屋根の上からリモニカさんが声をかけてくる。彼女の放つ矢が皇子セティウスに向かう。


 魔力的には敵うはずがないのに一瞬嫌がって、無理矢理叩き落とした。


 ティアマトはその間に逃れることが出来た。間髪入れずに(ネオ)・火竜の兎武装(ドラゴンバニースーツ)を着たヘレナが、受けたダメージを上乗せして割って入った。


 戦闘能力に優れた三人はリモニカさんの狙いをすぐに察し、動きを変えた。


 最低な人間同士が奇跡の融合をしたことで、魔人の勇者というべき力を発揮していた。レガトが戦っていた一つ目の魔人みたいに。


 でも、リモニカさんは皇子を一個の相手とせずに、脆弱な魂の結びつきを狙ったのだ。恐ろしい観察眼だわ。


「──ようするに弱点はあるのだな」


「えぇ。勇者のくせにドス黒いので浄化が有効です」


 先輩はノヴェルを呼び戻し、わたしの守りを任せる。フレミールと位置を入れ替わりながら、牽制し一緒に観察をしていた。


 ちなみに先輩もノヴェルもタイニー状態、つまり小人になって先輩型器械像(アストタイプタロス)に乗り込んでいる。


 その小人も招霊君に協力してもらって、魂を偽装しているのよね。最終手段として、ルーネとブリオネが身を挺して二人を守るので三重の保護になるはず。


 だから簡単には死なない。そして肝心の二人の魂は、何故かわたしが預かっていた。


 わたしが死ぬと二人も巻き添えになるのに、なんで先輩もノヴェルも魂を預けるのよ。

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