第14話 カルミアの正体 ③ 見た目もおかしかったわよ
魔本の中のわたしの錬金術部屋に行くと、みんなから可哀相な子を見る目で迎えられた。
「先輩の事についてとか、この部屋の中の事とか、言いたい事は色々あるけどさ。カルミアって、結局どういう存在なの?」
真っ先にエルミィが噛みついて来た。秘密の部屋はわたしと、ノヴェルとルーネしか知らない所だったのよね。普段は壁にしか見えないからみんな気付かないのよ。
「一番わかりやすいのは竜喚師カルジアとレガトの鉱石人と宝魔族の混生の子ね」
「それ、あの人と鉱石人と宝魔族の混生っていうの。そこが意味がわからないんだよ」
わたしもどうして召喚でそんな真似が出来るのかがわからないのよね。冒険者チームの中にはおかしな進化をした小鬼族や龍人もいた。
いやあの変態商人は人族でも色物で、あとの連中は魔物の気配がした。臭いもね。
「ボクの両親は悪しきもの達に囚われて、魔物と融合されたと言っていたぞ。そしてダンジョンに閉じ込められていたらしい。ただボクの両親は合成魔獣とは違うようだ」
ちょっ──ティアマト、いきなりぶっちゃけないで。あなたの両親……というかお父さんは変態商人以上に、触れたくない人なのよ。
花嫁衣装を着る事にこだわるあなたのお父さんを、あなたのお母さんが気にしていないのも謎だわ。冒険者たちを実質取り仕切る器量の持ち主なのは認めるけどね。
わたしも混成混血という意味では本来合成魔獣に近い存在になるはずなのよね。
おそらくレガトの魔力をもとに鉱石人と宝魔族を呼び交配した種族を作り、カルジアの血と因子と混ぜて生まれたのがわたしだと思う。
作り出したのは────魔女さんだ。魔人創造というのかな。錬生召喚とも言える高等魔法技術だ。
鉱石人なんて狩られまくって絶滅寸前と言うし、宝魔族なんてダンジョンですら見かけない存在だもの。黒の森の魔族の中に、ほんの少しだけ身を隠しているって噂があるくらいだ。
創造するだけならば逆に簡単なのに、対象を特定して生成するなんてね。
「ふむ、とりあえず君が自分の生い立ちについて、何も気にしていないのはよくわかったよ。狩りたい衝動の理由もだ」
擬態宝箱を想像すればわかるように、宝魔族は人を惹きつける何かがあるのかもしれないわね。
そして肝心の金欠の解消に対して、鉱石人も宝魔族も何の役にも立たないと、わたし自らの存在で証明してしまったわ。
「咲夜。ひとまずあなたはレガトが話したいそうよ。聖奈もついでに行っておいで」
わたしと魔女さんとの約束の一つは、これで果たされた。咲夜を無事にレガトたちのもとへと連れて行くだけで、結構大変だったわね。
「ねぇ、あたし嫌なんだけど」
咲夜が何かわからない事を言い出した。もとからあなたたちはお客さまなのよ。拒否られても困る。
「咲夜が嫌かどうかなんて知らないわよ。レガトが嫌なら帝国側について皇子に保護を求めたっていいのよ」
今更だけど、別に咲夜も聖奈もまだローディス帝国と戦ったわけでもないし、わたしたちと一緒に戦う理由なんてない。
咲夜たちに会いたいのはレガトや魔女さんで、わたしではないのよ。
「えぇ〜〜〜カルミアが冷たい。散々あたしたちを弄んでおいてさ」
あっ、なんか咲夜に言われると、ムカつくわね。でも、いいわ。敵対するなら容赦しないから、ちょうどいい。
「あのさ、咲夜はもう少し構って欲しかっただけだよ。気をつけてね、とか、戻ってらっしゃいとかさ」
ヘレナ……相変わらずあなたはいい娘ね。わたしがそんな事を言うわけないのに。
でもね、真面目に咲夜は自分の事は自分で決めていいの。助言役におっさん三人も憑けたわりに、魔王さまにビビって役に立っていないし。
「ああじゃあ、一つ忠告ね咲夜。レガトは年上だけど甥になるの。だからせめてお兄さんと思ってあげて。なんか妹に対して拗らせた想いを募らせる変態みたいで嫌だ……」
────意識はあるのに、声が出ない。喉だけが石化状態になっている?
「い、行って来るね!」
咲夜が聖奈の腕を引っ張って逃げた。魔王さまを怒らせると怖いことがわかってもらえて何よりだわ。
「ねえ、その魔王さまっていうのはなんでなの?」
ヤムゥリさまが不思議そうに尋ねてきた。一見すると大人しい美形な優男にしか見えないのよね。
「見てわからないかな。魔力が高いとこう湯気みたいなのがユラユラ揺らぐものなのよ。でもあれは桁が別次元のものよ。見えない……が正解ね」
冒険者達が手に負えないなんて、彼の冗談だよね。あいつらこそヤバさを肌で感じてああなったんじゃないかしら。
レガトはなんというか、仲間たちの成長の為に自分は動かない。いつも力を出し切らないのがわかる。
「強さの底が、君でもわからないのかね」
そういう先輩も、あっさり偽装を見抜かれて驚愕していた。それくらい先輩もルーネも上手く先輩人形を操っていたのに。
だましてやる気満々だったのに……あの男、容赦なく叩き潰してくれた。
「そうね────招霊君が怯えて一列に整列してるくらいよ」
すでに失う器の中身などない招霊君たちが、レガトの前で一列になっておじぎをする様を想像して欲しい。
「見えないけど……本当なの?」
「嘘よ」
意外と素直なのよね、ヤムゥリさまって。みんなの空気を察して真っ赤になってわたしの首を締め出した。
石化の効果が消えたばかりなので、あまりダメージを積まないでもらいたいわね。
「冗談はともかく、あれからは確かに逃げられないのだろうな」
先輩とわたしは何度かレガトの手から逃れる方法を考えてみたのだ。結果無理。
いまは味方だから良い。でも敵対する事になれば死ぬかない。
ノヴェルの魔本に関しても警告を受けた。魔本を使ったダンジョン作りは、結果的にノヴェルの存在を知らしめる目印……旗になってしまうと。
逃げ出すならノヴェルを見捨てる事になる。そんなの無理に決まっている。魔女さんやレガトがノヴェルに着目している時点で、あれは逃げられないぞと脅しているようなものだった。
「たぶん見解は違うと思うよ。ただ加護も呪縛も紙一重なのはわかったよ」
眼鏡エルフは理解が早いわね。逃さないかわりに、彼は先輩やノヴェルに向かう全てを引き受けると保証してくれた。
「もう少しワレに力があれば比較出来るのじゃがのぅ」
フレミールが残念そうに言何度もいうよ。あれはそう言う次元じゃないの。
「みんな、巨人型ダンジョンを覚えているわよね。例えるなら……あの超デカブツの中の、砂粒一粒を百等分したくらいのものを仮定して。その小さな埃より細かな粒一つがわたしのフル装備分の魔力よ」
砂粒の例えも、視認というか知覚の限界ね。フレミールなら石ころくらいあるかしら。
「巨人型ダンジョンがレガトの力なわけか」
力比べの話しになってティアマトが声を上げた。貴女の両親より彼は強いので興味津津という感じね。
「あくまで抑えた力が──よ?」
全力を出したとするならば……軽く三つくらいは大陸を沈める。言っているのはわたしじゃなく招霊君たちよ。
招霊君達が騒ぐ。招霊君を使って冗談を言ったのはわたしだけど、招霊君の冗談は笑えないからみんなには黙っていようね。
「…………」
冒険者は聞こえないふりをするものとかいう謎の矜持でレガトは持っていると思うのよね。魔女さんと違って、彼は聞こえないふりをしてくれるので助かるわ。
みんなも冒険者の流儀を覚えたようで何よりね。昔だったら大騒ぎになっていたもの。
「彼はカルミアと別の意味でおかしいってことね」
ヤムゥリさまのくせに物分りがよくて生意気よね。まあ、怖さが伝わったのならいいわ。
ヘケトとラナンキュラと言う名の蛙人も預かったので、本音は研究したい。アマテルとは仲良しで、バステトとは相性良くないみたいね。
何を話したのか知らないけど、咲夜たちもあまりいじめないでやってほしい。




