第13話 カルミアの正体 ② 蛙の子は蛙なのか
わたしが大人しくなるのを待って、レガトがわたしの生い立ちを語り始めた。
敵の帝都ど真ん中を進行中に話すような内容ではないと思うのよ。美声君を使った思考妨害するとみんなから怒られるので、わたしは吊るし上げられたグラスラビットのように、自分の身の上話を黙って聞くしかなかった。
────自分の身の上話なのに、黙っていないといけないのって意味がわからないわ。
「……まず誤解を生まない為に先に断っておきたい。僕はカルミアの誕生について関与していないんだと」
わたしの出生に関して、レガトが何も知らされていないのは魔女さんから聞いている。でもその言い方だと、かえって誤解を生むわよね。
「カルミアは……その娘自身がつくった聖霊人形に近い存在なんだ。僕の魔力をもとに、【神謀の竜喚師】カルジアの血と因子を混ぜ、鉱石人や宝魔族と呼ばれる特殊な生命体なんだ」
わたしが土人形づくりが得意なのは、鉱石人や宝魔族の能力によるものなのかも。でも宝魔族って、ミミックとか鎧とかに擬態する魔物だよね。わたしって、悪魔とか魔物だったわけ?
レガトの話で魔女さんの説明不足な部分が補足された。もともとレガトのお嫁さんを誰から選ぶのかで、魔女さんとあの変態女商人リエラがお節介を考えたらしい。
なにせレガトは、魔女さんこと母レーナが十五歳の時に出来た子だ。冒険者をしていたお父さんは既に亡くなっている。
危険を伴う冒険者の寿命は短い。母のお節介ではあるが、構い過ぎとも言えない。先輩だって、あのセティウス皇子が一方的に婚約者扱いしていたからね。
ただレガトはあまり色恋に興味のないお子様だったのと、冒険者仲間の女の子の大半が脳筋なせいで、いつまで経っても孫の顔が見られないと魔女さんが焦ったわけだ。
お嫁さん候補は何人かいたらしい。本命はリモニカね。境遇も似ていて、ずっと行動を共にしているからだ。見た感じ、魔女さんが余計な真似をしなければ自然にくっつくと思うのよね。
対抗はシャリアーナかしら。リモニカとは別の意味でレガトが頼りにしている感じがする。いまも、わたしたちの周りを固めて指揮をとるのは彼女だ。
竜喚師のかルジアと、結界師のファウダーは妹枠ね。レガトが気にかけているそうだ。あと良くわからないのがヒルテという夜魔とミラという人。
全員同じ条件で魔女さんが血と因子を取り出した。その中で魔力生命体として誕生したのが、カルジアのものだった。
もともとカルジアには竜魔の血が入っているらしく、相性が良いのもある。
「ただ……母さんの事だから可愛がっているカルジアの子が、一番都合良かっただけな気もするんだよ」
そうなのよ、わかっているのね魔王さまは。あの魔女さんは結局は息子を溺愛する駄目な女だ。腹ただしいのは魔王……レガトのために、わたしは呼び出された使い魔のようなものだ。都合の良い女扱いなのよ。
「……」
「……」
────ゴンッ!!
「────うぎゃっっ!」
魔女さんから、わたしの存在を直接揺るがすような一撃が放たれた。ルーネの操る先輩人形に動きを封じられながら、わたしは声を出せずにもがいた。
わたしの乏しい魔力を勝手に使って、罰を与えるのは本当に止めて欲しい。なんで魔女さんが持っていった伝声君だけそんな高性能なのよ。
「そもそも……どうして鉱石人や宝魔族なのかね」
わたしの奇行はいつもの事だからと無視して、先輩がレガトに尋ねた。それは確かに知りたいわね。だいたい両者共に大地の属性が強めなくせに、力がなさ過ぎなのよ。
「たぶん……金策の一環なんだと思う。ギルドの起ち上げ、街の開発。交通網の整備に人件費。要するにお金が足りないんだ」
────待って。凄く聞きたくない話を【星竜の翼】 のリーダーたるものがぶちまけたわよ。
「────金欠病は遺伝か。不憫な」
先輩が憐れむように悶えるわたしを見る。いや、あなたも好き勝手に浪費しまくる元凶よ。先輩のために開発したグッズ……そろそろ売り捌かないとロムゥリは破産よ。
アミュラさんがいなければ、新生ロムゥリの財政は、実際危なかったのよ。
しかし困ったわね。【星竜の翼】 の懐をあてにして、やりたい事は山程あるのに。とりあえずシャリアーナ様を皇帝にして、税金の一部を回してくれないかしら。
美声君はないはずなのに、外からもの凄い怒気が届く。あの悪しきものも元は皇女だったらしい。
シャリアーナさまは、同じ道を辿りたくなくて心配しているみたい。だったら尚更よね。帝座についてわたしたちを楽にさせてほしいわ。
「相変わらず思考がダダ漏れなのは諦めるとして、我々が【星竜の翼】 に加入するのは確定なのかね」
先輩はあまり乗り気ではないようね。まあ魔王さまの下につくのはわたしも不本意なのよ。でも逆らえばわたしたちはローディス帝国諸共消し炭と化すわよ、
「────グハッ」
わたしはレガトに息の根を絶たれた。
「そのノリは嫌いじゃないよ。でも本気で怯える娘たちもいるみたいだから、レガトと呼んでくれるかい」
無言の圧に見えて、わたしの体内だけ魔力がどんどん膨らむ。わたしの魔力を使わないだけマシだった。やっぱあの魔女さんの息子、似たもの親子だわ。
「────そういう君は彼の娘なのではないのかね」
エルミィじゃないんだから、そんな正論は言わないで下さいよ、先輩。
レガトがそろそろ咲夜と話したそうにしていたので、先輩とルーネに引き摺られたわたしは奥へと引っ込んだ。




