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錬生術師、星を造る 【完結済】  作者: モモル24号
第4章 太古の邪竜神編

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第8話 邪竜出現

 浮遊しているとはいえ、地形の制限を受ける浮揚式陸戦車型(フロート・イェーガー)と違い、空を飛ぶフレミールの速度は速かった。


 随伴する浮揚式鉢植君(コスモテラリウム)からの映像は、魔力映写器に映しだされる。四十Mを超す火竜のフレミールの身体が大きいせいか、下方の景色はさらに速く流れてゆくように見えた。


「フレミール……また少し太ったようね」


 未だ成長期なのだとしても、意識して姿を変えることの出来る人化状態と違って、竜の姿は正直だ。


「気にするのがそこかね。だがローディス帝国の侵攻で、彼女がろくに運動してないのは確かなようだ」


 先輩とも意見が一致した。また少し絞らないといけないわね。不運の滴飴(ミセリアドロップ)は警戒するので、ヘレナと相談して新しい食べ物を考えるとしよう。


「帝都ロズワースが見えて来たようだぞ」


 フレミールの視点にあわせた映像から、帝都の防壁といくつもの建物が映し出された。


 人口およそ五十万人という都市の規模よりも、歴史のありそうな建物群に目がゆくわね。咲夜に憑けた術師のおっさんの記憶では、ロブルタより古いはずだ。


「フレミール、聞こえる?」


「うむ、聞こえるぞ。帝都が見えて来たようじゃ」


 さっそく美声君の伝声機能で、わたしはフレミールに襲撃箇所を指示する。あちらから仕掛けて来た奇襲戦争なので、宣戦布告はいらないよね。


 戦争中だもの……防衛体制だって充分に整えているはずだから。勝てる戦いと思って、油断していれば儲けものね。


「逃避行だったのではないのかね」


 先輩がわかりきった事を言う。逃げた先に、たまたま敵の帝都があっただけよね。挨拶がてら殴りつけるのは礼儀の一つだって、学園時代に皇子が自ら教えてくれたからね。


 意趣返し……じゃなくて、あくまで挨拶を返すだけ。だから盛大に

ぶっ放してあげましょうね。


挿絵(By みてみん)(イメージイラスト『フレミール、吐く』)


 フレミールの火竜ブレスで、帝都ロズワース城壁に大きな穴が空いた。城壁は魔法障壁ではなかったようね。


 帝都のつくりは、平野部に一般の民が街を築いている。古めかしい芸術的な建物の多くはアーストラズの山側にある。つまりわたし達がいる側だ。


 帝都民はさぞ肝を冷やしたことだろう。混乱の様子が浮揚式鉢植君(コスモテラリウム)の魔力映写器から伝わって来る。


 どうせなら最大火力で宮殿の皇帝ごと焼き尽くしてしまえば良かったわね。流石に宮殿には魔法の防御結界が組まれていて、一撃では壊すまでいかなかったみたいね。


 もう一撃ぶちかませば破れるかしら。そう思った瞬間────背筋に強大で邪悪な魔力の波動を感じ、わたしは身震いした。


「不味いわ。フレミー────急いで撤退!」


 魔力の塊が感じられる。宮殿裏の広場らしき所から、魔法の煙のように立ち昇るのが分かった。


「あの辺りの大きな建物……あれはきっと収容型のダンジョンね。あんなデカいの、さっきまで見えなかったもの」


 ノヴェルの魔本と基本原理は同じだ。あちらはデカいままでも出入りが可能なように、邪竜の身体と門に転移の魔法がかけられていた。


 四十Mを越えるフレミールの巨体よりも、さらに三回りは大きくみえた。頭が七つあるヒドラと魔竜の混じったような魔物だった。


「────おのれカルミア、謀ったなぁ! あんな邪竜がいるなんて聞いておらぬぞ」


 フレミールの美声君から泣き言が聞こえて来る。調子に乗って油断するからそうなるのよ。火竜って種族としては強いから、学習させるのが難しいのよね。


 勝てそうにない相手に喧嘩を売ってはいけない。速度は貴女の方が速いから早く戻って来なさいと伝えておいた。


 ────逃げるフレミールに追走する浮揚式鉢植君(コスモテラリウム)からの映像に邪竜の姿が大きく映し出される。


「デカいだけあって初動は鈍いわね。厄介そうなのは魔力かしら」


 フレミールと比較した感じ、倍の大きさはある。鈍く見えるのは大きいためで、近くに寄ると相当な早いかもしれない。


 映像を通して邪竜の目がこちらを見た気がする。邪眼に睨まれたのかのように、先輩がブルッと震えた。


 何か悪寒と言うのかな、よくない気配を感じたようだ。身に付けている王家の衣服のように、先輩の顔色が真っ青になっていた。


 わたしはヘレナとルーネとアマテルに先輩を囲ませて、操縦席から離れさせた。あの邪竜はフレミールよりも、離れた所で乗り物に隠れていた先輩をみているのがわかったのだ。


 わたしもシェリハに操縦を代わってもらいみんながいる錬金部屋にゆく。部屋ではノヴェルや咲夜達が、備え付けの大きな映写機で騒ぎながら見ていた。

 

 フレミールはまだ泣き言を叫んでいるようね。でも飛翔速度は彼女の方が断然速い。邪竜は飛翔するのに向いてない姿だからね。


 逃げ帰って来たフレミールが戦車内に飛び込んで来た。もちろん竜化を解いて人の姿に戻っている。でないと頑丈な戦車でも吹き飛んでしまうからね。


 涙を浮かべながらズカズカと荒い足取りで、わたしのいる錬金部屋にやって来る。そして泣きながらわたしの襟首を掴んだ。


「オマエ、ワレをコロス気か!!」


 怒りと震えでフレミールの言葉が片言みたいに聞こえる。


「はいはい、怖かったわね〜。真竜なら任せても安心だと思ったのよね〜」


 自尊心を保ちたいのか、フレミールがわたしの挑発にブルブル身体を震わせた。


「それよりあの邪竜、こっちに気付いてるわよね」


 フレミールを抱きかかえ、彼女の涙と鼻水塗れになりながら先輩を見た。みんなを不安にさせまいと、先輩はケロッとした表情でこちらを見た。


「おそらく……邪竜の魔力が安定した瞬間に、すぐ襲撃に移すわ」


 帝都の城壁に残した浮揚式鉢植君(コスモテラリウム)は破壊された。その最後の映像を見ると、防壁の先、都市部の方で何やら騒ぎが起きていたのよね。フレミールを逃がしたのでハッキリ確認出来なかった。


「あれと戦って、勝てるのかね」


 邪竜の気配が動いたように感じた。この距離で邪悪な魔力が届くのが、危険さをあらわしているわよね。


「わたしたちだけじゃ無理ね。狙いは先輩だろうから、逃げるのは簡単なんだけど……」


 その言葉の意味を察して先輩がわたしの首を狩る。邪竜の目当ては先輩だもの。彼女を囮に逃げる気満々なのがバレた。


「僕の生命を対価にするのなら、勝つ以外は許されないと思いたまえ」


 躊躇なく主の生命を囮にしようとするわたしと、死ぬことより生命の使い方に言及する先輩。関係性が相変わらずよくわからないと咲夜と聖奈が首を傾げていた。


「……あれは星竜の面々に押し付けるしかないわね。わたしたちをそのまま追わせなければいいから簡単よ」


 わたしは 長距離魔銃(ロング・ライフル)護臭気君(ヘドロヌーバー)死悶の辛味(グリムペッパー)の混ぜた特製弾丸を数発詰めたものを用意する。


「先輩は囮ね。ヘレナ、ルーネは撹乱をよろしく。エルミィとヤムゥリ様は 長距離魔銃(ロング・ライフル)を使って狙撃を頼むわよ」


 戦う気はないと言いながら、わたしたちはフレミールの倍以上はある巨大な邪竜の迎撃準備を行う。


「メネス、あなたはシェリハと戦車をいつでも動かせるように待機を。フレミール、ノヴェルと一緒にここでみんなを守ってあげて」


「ワレに任せるのじゃ」


「おら、守るだよ」


 醜態を晒して気恥ずかしいのか、フレミールが素直に引き受けてくれた。ノヴェルはフンスッと可愛らしくやる気に満ちている。あなたにはブリオネをつけて守らせているのよね。


「戦って勝つ必要はないわ。狙いはあいつらの鼻と目よ。先輩に集中するから頭の付近を狙えば簡単なはずよ」


 風の魔法などで妨害されると届かないかもしれない。ただ身体ダメージを与えるものではないし、魔力もないので、デカブツは気にも留めない気がする。


 牛が集る蠅を払うように近づくと叩かれるので、囮の先輩と、注意を引くヘレナとルーネには距離を保つように告げた。


 三人にはフレミールと同じ浮揚式鉢植君(コスモテラリウム)を追従させている。すでに飛んでくる邪竜の姿を捉えていて、怖いと思った。


「ねぇ、この世界って……あんな巨大な生き物が普通にいるの?」


 不安なのか、聖奈が声をかけて来た。フレミールの火竜の姿でも驚いていたものね。


 竜人の国や巨人の里など、当たり前に大きな体格のものが存在する。デカブツの牛人もいたし、巨大な人型ダンジョンだってあったくらいだ。


 あの邪竜サイズの魔物が、普通の魔物として出没するダンジョンだって有り得る事だった。


「普通に……の意味が、そのまんまの意味なのが怖いね」

 

「あなた達のいた世界にもあるのでしょう、そういう伝説」


 でっかいタコとかイカみたいなのとか、島のような亀の話しの事を聖奈は想像していた。彼女は信じていないようねので、実在するかどうかは怪しい所だ。


 創作の世界なら巨大なロボットなる人形(ゴーレム)もいるようだ。武装をどんなに強化しても、生身の人間が戦うものじゃないわね。


「へぇ、街一つがロボットになるのほ面白いわね。魔法技術なしに動いたり立ち上がったり……建物とかどういう状態になってるのかが気になるわ」


 聖奈に聖霊人形(ニューマ・ノイド)を使わせて、初めて役に立った気がするわ。


「勝手に思考を読まないでよ!」


 わたしは自分の作った人形からならば、情報が得られる。ヒュエギアやカルディアなんか、勝手にわたしの思考を先読みするくらい優秀だ。


 まあ……どのみちわたしの考えは美声君を通じて、みんなにはだだ漏れなんだけどさ。


「聖奈はまだマシだよ。あたしなんておじじ達にずっと見られてるんだからさ」


 咲夜が憤慨した。あなたの場合、わたし以上に気にしてないでしょうに。


「思考くらい読まれても、話しが早くていいじゃないの。それに言っておくけど、この世界では国ひとつ丸呑みにするような怪物が存在するわ」


 邪竜なんて可愛いものだ。この世界にはわたしも知らない未知の生命体に溢れている。


「咲夜と私が異世界の情報に疎いからって、また騙そうとしてるんじゃないの?」


「失礼ね。咲夜と聖奈を騙して、わたしに何の得があるのよ。むしろそう言う生命体の上に自分達の住む世界があるかもしれないわよ?」


「悔しいけど反論出来ないね、聖奈。いつか自分達の目で、あたし達のいた世界が本当はどうなっているのか見れるといいね」

 

 咲夜は前向きね。招霊君と聖奈がいてちょうど良いくらいね。一人で放っておくと、逆に何をしでかすかわからないもの。


 ────邪竜が到来した。先輩をあからさまに狙って動いているのが、映像でわかった。なんというか頭はヘレナ達を煩わし気に追うのに、先輩から目が離れない。


 だからだろう。長距離魔銃(ロング・ライフル)で地上から狙撃するエルミィとヤムゥリ様の弾が全て当たる。


 どれだけ巨大でも、生命ならば五感を狂わせれば動きが鈍るものだ。

魔力がない攻撃で傷つかないのを知っているので、邪竜は当たってもはじめは気にしていなかった。


 しかし護臭気君(ヘドロヌーバー)死悶の辛味(グリムペッパー)を混ぜた弾丸は鱗の隙間に入り込み、邪竜の表皮を刺激した。


 気がついた時にはもう遅いのだ。護臭気君は臭いがへばりつき浸透するからね。鱗のない粘膜を刺激する。


 何もダメージは与えていないのに邪竜が悶え始め、苦しみの咆哮をあげたのだった。

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