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錬生術師、星を造る 【完結済】  作者: モモル24号
第1章 ロブルタ王立魔法学園編
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第18話 錬金釜 ④ ヘレナ・タイト

 付与魔術科の授業の後で、わたしは武器を作るために許可証を貰いに行く。錬金釜はあるので錬金魔術科ではなく、付与魔術科にしておいた。


 昨晩錬金魔術科で騒ぎがあったせいで、錬金科の放課後の自習がしばらく禁止になったからだ。


「まったくエイヴァン先生も高名な講師なら、迷惑をかけるような実験は別の所でやって欲しいものね」


 時間が惜しい時に余計な事をしないでほしいわ、まったく。生徒も講師も、研究のための失敗はよくあることなので仕方ないのだ。


「いや、昨日のカルミアの……ま、いいか」


 エルミィが実験の失敗について何か知ってるようね。言葉を濁していたから、触れない方が良さそうね。


 わたしが錬金釜で武器を作る事にしたら、ヘレナ達もついて来た。昨日作成した盾にも付与を施すので、望むなら仲間の武器や装備にも付与を施すよ、と伝えていたのだ。


 ついでにヘレナの剣をパワーアップさせたいな。でも一見普通の剣でも代々受け継ぐ家宝とかだと怖いから、ちゃんとヘレナの許可はもらうわよ。


 エルミィあたりは、わたしが見境なく錬成すると思っていそうだもの。


「私あまり錬金術には詳しくないけど、カルミアの錬金釜って壊れてるの?」


 ヘレナがわたしの錬金釜を見て、不思議そうに尋ねて来た。素人目にも錆びついて見えるみたいね。


 彼女(ヘレナ)の成分からつくられている特別製だなんて、本人を前に言えるわけない。仲良くなれても、まだ信頼関係も深くない。そんなの作っていたら気持ち悪く思われるよね。


「……わたしから何か集めてたのって、まさかコレ?」


 なんて勘の良い娘なのかしら。ヘレナからの圧が強い。


「はい、そうです」


 わたしには、隠すのは無理でした。誤魔化しきれそうにないので、ヘレナ成分について説明した。


 はじめは凄く冷たい目になっていったけれど、性能上昇値について説明すると納得してくれた。


 わたしの武器を作成するよりも、みんながヘレナタイトに興味を持ったので、先にヘレナの武器を作ることにする。


「念の為確認したいの。家宝の剣とかじゃないわよね? 付与に失敗しても、武器が駄目になる事はないのだけど、一応ね」


 普通に使う分には、何も問題ない。でも特製釜なので、ちょっぴり不安はあった。

 

「新品の剣は腕がないともったいないから、貰った剣を使ってるの。だから大丈夫だよ」


 使い古しのヘレナの剣は騎士である父の予備の剣で、思い出があるくらいで家宝とかではないらしい。


「それならかえってその方がいいかもしれないわね」


 ヘレナ成分の相性を考えると、ヘレナの気持ちの詰まった剣の方が性能良さそうだ。物質的なものも含めてね。


「錬金術って、そういうのと違うと思うんだよね。君はやっぱり面白いよ」


 ヘレナ公認となった新鉱石(ヘレナタイト)を観察しながら、エルミィが眼鏡をクイッとした。それは言われなくても、わたしだって百も承知よ。


 ティアマトも、興味深く匂いを嗅いだりしている。それだとヘレナが匂うみたいだからやめてあげてほしいわね。


 錬金釜って使用時は、一種の亜空間になるのよ。盾だって錬金釜の口より大きいし、ヘレナの剣だって長さがあるものだから。溶かし込んでいくものがあるにせよ、器の容量明らかに越える事もあるからね。


 ヘレナの剣と新鉱石(ヘレナタイト)特製魔晶石(ヘレナの素)青魔鉄(コバルト)を混ぜて、馴染ませる。


 ……なんだかわたしの魔力をかなり持ってかれる感覚がする。


「ヘレナ、手を貸してくれるかしら」


 わたしよりもヘレナが自分で魔力を供給した方が、より良い出来のものになると思った。まあ、あくまでも勘ね。


 ヘレナがそっとわたしの手を握り、わたしの真似をして錬金釜の釜口へもう片方の手をかざす。魔力を消費するけど、ヘレナの剣のイメージが出来上がってゆく。


「ぬっふっふ、すごいわヘレナ」


 出来上がった剣は使い古され、くたびれた剣から、ヘレナの魔力と成分に染まり錬金釜の色合いと似た赤みのある茶色。


 錆びてるようにも見えるし、鉄じゃなくて銅になったようにも見える。


 ヘレナだけは手に持ってみて表情を和らげた。当たり前だけど道具も素材も魔力までも、ヘレナのもので出来ているから本人が一番違いを感じるに決まっていた。


「いや、それでもさ普通はそういう変化はしないんだよ」


 エルミィが納得しかねるみたいで、抱え込んでわたしの錬金釜を覗く。


「まるでわたしがおかしいみたいに言わないの」


 失礼な眼鏡エルフだよね。それに、まだ発熱していて熱いから火傷しないでね。


「いや、おかしいっていうか……そもそも君は錬成まで出来るんだね」


「魔晶石があればの話よ。わたしの魔力では媒体がないと難しいから」


 真の錬成師ならば、錬金釜を必要とせずに魔力錬成出来るだろう。わたしは魔力は人より高めってだけ。(ゼロ)からの魔力錬成は苦手なのよね。


 逆に媒体さえあれば出来るというか、やりやすいし作りやすい。エルミィに言うと質問が止まらないから放っておく。


 ヘレナは新しい剣を持ってうっとりとしていた。ヘレナ専用なので彼女の得意の強化付与が、身体だけだったのが剣にも及ぶのだ。


 ヘレナの身体の一部みたいなもので、生体剣とでも言うのかな。実際は身体強化した際にどう影響するのか等は、試してみないとわからない。


 ヘレナには説明をして、明日のダンジョン探索で試すように伝えておく。


「ボクのも出来るの?」


 ティアマトが予備の剣を目を輝かせてポンポンと叩く。


「ヘレナの剣のようには無理だよ」


 これはわたしのやる気にも直結しているからね。ヘレナのために作りたかったから特に気持ちが違う。


 だいたいティアマトは剣よりも武闘派スタイルだから、手袋(グローブ)とかナックルガードのようなものの方がいいでしょうに。


 わたしはとりあえず手持ちの採取用の手袋と、魔晶石の欠片を再結晶化させたものを投入して、ティアマトを呼び髪の毛を数本貰う。


「魔力も貰うわよ」


 ティアマトの手を握り、ヘレナと同じようなやり方で錬金釜の釜口に手をかざさせた。


 ヘレナほどではないけれど、ティアマトに馴染むであろう手袋が出来た。


 わたしの手袋のお古なので、錬金の過程で消えたはず。お願いだから匂いは嗅がないでね。


 心の中で言ったそばから、ティアマトがクンクンと手袋の香りを確認してニヘラと笑う。


 喜んでるみたいだから、気にするのはやめるとしよう。毎日お風呂入っているから匂わないはず……よね。


「みんないいなぁ」


 眼鏡エルフがのエルミィが淋しそうにこちらを見た。何よ、その馬車に乗り遅れた子供みたいな目はさ。


 だいたいあなたは自分で錬金術が出来るわよね。それも綺麗な純度の高い魔力で。


「カルミアと違って、付与は上手くないから錬成は無理だもん」


 無駄にプライドが高いから面倒臭いわね、この眼鏡エルフはさ。


「仲間外れにするみたいで嫌だから、その目で見るのはやめてほしいわ」


 エルミィにはシーツ提供してもらったり砂糖融通してもらったし、学園内の事も案内してもらったりと、わたし自身もお世話になってるわね。


「むぅ、仕方ないわね」


 わたしはエルミィの顔から眼鏡を取る。エルミィへの思い入れは眼鏡だし。


「えっ、ちょっとそれは」


「魔力反応で識別してるのでしょう。でも出力だけで害意や敵意や邪意まで細かく見れないようね」


 誰が眼鏡をつけさせたのかわからないけど、この眼鏡のせいでエルミィはエルフらしくなくなっている。


 多様な人族の社会で生きて行くには良く見えるけれど、魔力を殺して盲目的にさせてる枷にも見えた。

 

「望んだのエルミィなんだからね」


 みんなのように欲しがったんだから有無を言わさないよ。わたしはエルミィに近づき、彼女の髪の毛をもらう。


 試しに快適スマイリー君で、エルミィから採った魔晶石と、浄化した魔晶石と共に錬金釜へ眼鏡を投入した。


「魔力、魔力っと♪ 」


 もう慣れたよね、魔力供与もさ。エルミィの純度の高い魔力は赤茶けた錬金釜まで青く輝かせた。


「────出来たよ、掛けてみて」


「弓を強化して欲しかったのに」


 まだエルミィがぶつくさと文句を言ってる。けどさ、弓はエルフというか狩人の感覚。扱い慣れていないわたしには良くわからないから、駄目なのよ。単純な付与するだけなら簡単だけどね。


「なんだ、これは」


 見かけはとくに変わっていない眼鏡。エルミィがかけると淀んでいた青い瞳まで、気品ある碧に輝くように見えた。


「魔力の流れが、正常に戻ったようね」


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