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錬生術師、星を造る 【完結済】  作者: モモル24号
第4章 太古の邪竜神編

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第6話 似たもの扱いはやめてほしい

「────聖女なんだから、紡ぐ言葉にも魔力を込めなさい」


 巨大掌熊(ビッグハンドベア)の素材を回収した後、ろくに魔法を使う事も出来なかった聖奈を連れて特訓用の魔本へ入った。


 受けた傷の浄化と治癒を行う聖奈に、魔力の込め方と流れの意識の助言を行う。


 せっかく魔法を使えるようにしたのに、この娘ってばハンマーで戦おうとするのよね。


「カルミアと同じ戦い方だっただよ」


 聖奈の特訓にノヴェルが名乗り出た。繊細な魔力の扱いなら、ヘレナにそのまま面倒を見てもらえば良かった。


 ただノヴェルは最近、ルーネやブリオネ相手に言葉を教える先生になっているからね。教えたくて仕方ないみたいだ。


「……って、わたしは聖奈ほど不甲斐なくないわよ」


「カルミアも力がないのに無理して戦ったんだね」


「勝ち誇るのは構わないけどさ……何も解決していないのよ」


「ぐっ……ごめんなさい」


 まったく、誰の為の特訓なのかって話なのよ。ノヴェルが聖奈をかがませて、頭を撫でて慰めていた。


 厳しい訓練を移動中も続けたおかげで、聖奈は細やかな魔力制御が出来るようになった。戦闘になるとハンマーを振り回したがるので、強化した手袋をあげたよ。注意はしたものの、気持ちはわかるからね。


 アーストラズ山脈が魔境だと言っても、雪山に登るほど魔物の絶対数は減る。スノードラゴンやフロストウッドなどと遭遇しても、戦車内のフレミールの気配を察知して逃げてしまった。


「ダンジョンの魔物と違って、野生の魔物は無駄に賢いわよね」


 魔本の中から魔力は漏れていないはずなのに、どうしてわかるのだろう。野生の勘っていうのかしら。


 比較的小物の方が襲いかかって来るのを見ると、強くしぶとく生きているものたちの理由がわかるわね。


「呼吸が厳しいねィ。バルスに頭巾被せるよィ」


 アーストラズ山脈の中腹付近まで来ると呼吸がきつくなって来た。 浮揚式陸戦車型(フロート・イェーガー)を牽いてくれるバルスには風の魔法で呼吸を楽にする襟巻き(マフラー)をつけている。


 わたしが狂人と呼ぶ、猫人のバステトが心配してうるさいので、防寒がてら頭巾を被せてあげた。


「それにしても、魔力が強まりがまた違うのね」


 高山病について、わたしはあまり詳しくはない。咲夜たちから聞いて納得はしたけれど、地場の仕組みが違うように思う。


 たぶんこの世界と、咲夜たちの世界では星という形に違いがあるためだ。


 フィルナス世界は無駄に広い。わたしも黒の大陸と隣のムーリア大陸あたりは関係者もいて内情も知っている。でもその他の大陸はエルフが多いとか竜の巣だとか、戦いに明け暮れる大地とか、そんな大雑把な話しか知らなかった。


 その先の未知の大陸までどれくらいかかり何があるのかなんて、王宮や学園の図書室にも載っている本はなかったのよね。


 メネスに確認した所、ギルドも直近で取引きのある都市くらいした情報を扱ってなかった。


 ただ咲夜が話してくれたゲームの話のおかげで、なんとなくこの世界の形は見えて来た。蠍人の故郷の地が、この世界と違っていて本当に良かったわ。


「魔力の嵐が来るわ。バルス、中へ戻りなさいな」


 バルスが吹き飛ぶと、わたしの首も狂人に狩られかねないので中へ入らせた。


「秘境とか魔境とか言われるわけだな。ずっと目にして来た風景の中へ入ると、美しさなど欠片もないものだ」


 先輩が当たり前の事を、感慨深く偉そうに言う。遠目で見る分には巨人のダンジョンだって美しいものよ。でも現実は逃げ場もなく踏み潰しにかかる超危険な兵器だったりする。


 いつ収まるかわからない魔力の嵐の中を、さすがに進み続けるのは危険過ぎる。


「ノヴェル、結界をお願い」


「おらやるだよ」


 少しでも安定してそうな岩肌の凹みまで 浮揚式陸戦車型(フロート・イェーガー)を移動し、ノヴェルに結界を張ってもらう。


 不意に起きる雪崩で動けなくなるのも不味いからだ。



「ここで休憩にしましょう。早目に到着して、帝国軍全て相手になるのも避けたいものね」


 本来ならば先輩は新女王として、帝国軍の迎撃に出ているはずだった。しかし、元ロブルタ王国は潜在的には帝国の属国扱い。宮廷にも帝国派が多く、戦いになれば裏切られて負ける。


 それでも女王となったのなら先輩は戦わざるを得ない……はずだった。帝国もそれを見越しての進軍。戦いの目的は侵略などではなく、アストリア女王の捕縛。


 どうぞご自由に侵略して下さって構いませんと言われて、今頃旧都ロブルタは大混乱に陥っていることだろう。


「先輩が狙いなのに、ノコノコと敵の本拠にわたしたちだけで先乗りすれば、帝国は大喜びでしょうね」


「少し試したくなったのではないかね。それならいっそ、君をここで始末しておこうじゃないか」


 休息なので、わたしたちは先輩の部屋に集まって寛いでいた。先輩とヤムゥリ様の部屋は広くて、調度品も良いものを使っているのよね。


「凄い……あたしらの部屋のよりフカフカだぁ」


 咲夜が殆ど使われる事のなかったもこもこ羊の魔物(フカースバロメッツ)の綿をたっぷり詰めた最高級品貴族のくつろぎ(バロメッツソファ)に身を委ね感動している。


「好きにくつろぎたまえ」


 わたしの首に腕を絡めたまま、先輩がそう言ったからだ。躊躇なく最高級品のソファへと身を沈められる、咲夜の性分が少し羨ましく思う。


 先輩もヤムゥリ樣もわたしの部屋や、わたしのいる場所について来るのよね。親鳥について回る雛鳥みたいに。


 殆ど使われないのも悲しいので、旅の間は先輩とヤムゥリ様の部屋で集まる事にしたのだ。


 シェリハやヒュエギアが毎日手入れを行っているのだから、自分達で友達を作って誘えば良いのよね。


 もしくはぼっち同士、二人で御茶会を開けばいい。無邪気なノヴェルや咲夜を見習って欲しいものだわ。


 戦闘の為に招集した吸血魔戦隊(ヴァンプパーティー)を率いるミューゼや蠍人の戦士のアクラブたちは、まだ搭乗していない。


 いつ呼ばれてもいいように現地待機してもらっているからだ。魔本があるにせよ、さすがに大所帯だと狭苦しく暑苦しい。いや、あくまで認識上そう感じるだけで広さは申し分ないのよ。


 ドローラやノエムにはガレスとガルフをお供に園沺(エデン)の管理を任せている。錬生術師の箱庭(カルミアガーデン)ごと蠍人の故郷にいるので、用があれば来てくれるのだ。


「便利なようで、迷子になりそうだね」


 咲夜の横にちょこんと座った聖奈が、不安そうにわたしの仲間の話を聞いていた。彼女の言うように移動が便利過ぎると、人の位置と場所の把握が困難になる。


 それを防ぐために移動の際は、わたしの部屋を必ず通る事になっている。魔女さんの転移術と違って、ノヴェルの力でダンジョン空間を魔本としたものなので、制限があるのだ。


「魔王さまくらい魔力に溢れていれば、居住空間ごと異界に新しい世界を造れそうだけどね」


 魔女さんが船を作ったって、うざったく自慢して来た時に見たのよね、収納可能な空飛ぶ戦艇。


 あれは作るにも相当魔力が必要だと思うし、異空間を維持するのに、何を使っているのか実際わかってないのよね。


「あんた……じゃなくて、カルミアからちょいちょい魔王さまって言葉が出るのって、何?」


 ぼへ〜っとしているようで咲夜は耳を傾けていたようね。

 

「会えばわかるわ。慌てなくても、そのうち会うことになるし。前に言ったように、あなたたちを保護するように指示したのは彼らだからね」


 わたしたちが帝国の中心部、帝都ロズワースに行けば、彼らも行かざるを得ない。


 わたしと先輩で立てた作戦は、向こうがやる気なら【星竜の翼】 を巻き込んで潰しちゃえ……だ。


「大人しく女王様の新しい都で待てば良かったんじゃないの?」


「…………」

「…………」


 咲夜って、勉強が出来ないと馬鹿にされて来たらしいのに、物事を見る目はあるのよね。そして空気を読まない。それは今更言ってはいけない禁言なのよ。


「ちなみに咲夜や聖奈が身につけている高級素材の黒パンや黒ブラは、王族御用達よ。食事だってヘレナが作っているから先輩と同じ物なのよ」


「えっ、そうなの? 凄く柔らかくて履き心地良いから高いやつだろうなって思ったとおりだ」


「咲夜ってご飯おかわりしまくってたもんね。黒パンツも凄い推してくるし」


「黒パンについては、何でもこの僕に聞きたまえ」


 強引に話題を変えた。黒パンや黒ブラについて熱く語る先輩に、咲夜と聖奈が熱心に聞き入る。


 あまり魔王さまの情報や素性を話し過ぎると、会った時の楽しみが減っちゃうからね。

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