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錬生術師、星を造る 【完結済】  作者: モモル24号
第4章 太古の邪竜神編

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第4話 押し付けられた転生組

 二人が信じようと信じまいと、わたしのやる事は変わらない。咲夜については保護を頼まれてはいるけれど、彼女自身の意志を尊重するようにも言われているからだ。


 戦地へ共に連れて行く前に、二人がここから出てゆくのなら、わたしに止める権利はない。あくまで一緒に行動する間だけ保護を頼まれただけだからね。


 出ていけば魔女さんが自分で保護をする。母親から聞いたはずの魔女さんの話を、咲夜は覚えていないからわたしも説明が面倒になった。


 どちらにしても境遇変わらないのは、魔女さんの我儘だもの。わたしが関与出来るものでもないのだ。


 咲夜に憑けた招霊君のおっさん達が、上手く説明してくれるから任せたわよ。


「────あたしは、そんな嫌なやつらに好き勝手されたくないかな。例え異世界でもさ」


 だいぶ悩んで、咲夜が答えを出したみたい。それで意思表示としては充分ね。


 ……どんな結果であれ咲夜達が亡くなれば、誰かが悲しむような罠。彼女の両親は今も不安でいっぱいのはずだ。


 悪しきものは嬉々として咲夜の死を、あちらの世界の両親に伝えるはずだ。母親のサンドラさんには、魔女さんが殺ったとか嘘まで言いそうだよね。


「そんなの、酷すぎるわ」


「そういうやつが貴女達の敵なのよ。現に成功しかけて、ギスギスしてたのでしょう」

 

 聖奈の魂を預かりいろいろ見させてもらったからね。二人は悔しそうに項垂れた。


「まあ……そうさせないために魔女さんが動いているのよ。その流れでわたしにこんな真似させたのよ? 理不尽よね〜」


「貴女も被害者だったんだ。少しもそう見えないよ」


 むっ、咲夜ってティアマトから思慮深さを抜いたように、思った事をそのまま口にするわね。


 ティアマトはあれでも言い淀むのに、この娘は直接的なのよ。わたしだって傷つくのよ。


「貴女が敵ではないのはわかったよ。それより……私の身体どうして付いているのよ!」


 聖奈が興奮気味に吠えた。身体は先輩の男性型をやや幼くして作り、顔は聖奈に似せたのよ。 


「あぁそれは、後で信吾とかいう男に見せつけるためよ」


 聖奈の身体が♂なのには、ちゃんとした理由がある。秘密兵器というやつよね。


「はぁ? 意味がわからないよ」


「会えばわかるわよ。眼鏡男子君もそうだったのよね。あいつら誇り高いから、自分の性癖が歪めて伝わるの嫌がるのよ」


「だから意味がわからないって。性癖って、あいつはケダモノのみたいなやつだよ」


 聖奈は心身共にダメージを受けたから、名前を聞くだけで嫌悪感があるのかもね。


「ああ言う嫌がらせを楽しむ愉快犯には、嫌がらせで返すか楽しみを奪うのが一番なのよ」


 愉快犯ほど、自分が見世物にされ笑われるのを嫌う。偉かろうが強かろうが、結局はそれと同じだ。


 やられっぱなしは悔しい。だからこれでも仇討ちの機会を、二人にもあげようと思っているのよ。聖奈の身体を♂にする事で、信吾との対決時に心理的に優位を保てるはずだわ。


「……私を犯して悦に入る信吾とか、さっさとハンマーで殴ってやるわ」


 聖奈がいい感じにぶち切れている。そうよ、むかつくやつは結局ぶっ飛ばすのが一番だからね。


「聖奈の身体の魔力制限は、解除しておくわよ」


 わたしは聖奈の聖霊人形(ニューマ・ノイド)の制限を解放した。魔力で身体を動かす事に慣れてしまうと、魔力を封じた時に動けなくなる。


 聖奈には聖霊人形(ニューマ・ノイド)身体の使い方を徹底に覚えさせてあるからね。次は魔力の扱いを覚えてもらうわけ。


「なんか身体の感覚が変……」


「魔力の感覚に慣れた? それで自分の身体を浄化の光で包みなさいな」


 聖奈は素直に自分の身体に流れる魔力を輝く光のイメージに結びつける。浄化の光は癒やしの光になって、彼女の傷ついた魂の痛みを和らげていた。

 

 穢された聖女の完成ね。純潔を守るだけが聖女じゃない。痛みと苦しみを知っても、立ち上がるものこそ真の聖女なんじゃないかしら。


「いい、あいつ絶対にあなたたちを貶め、力づくで来るはずだから。その聖剣を見せつけて、このホ〇野郎!! とでも言ってやるのよ」


「……どっちが悪いのか、あんたと話すとわからなくなるよ」


 咲夜は思考が男前だからわからないのよ。聖奈をみなさい、やる気に溢れてるから。


 こうして咲夜と聖奈は、わたしたちの仲間として加わり、ローディス帝国を目指すことになったのだ。


 先輩達は美声君を通して話を聞いていた。狂人もずっと控えていたので欠伸をしながら聞いていたようね。


 ◇


 逃避行なのか特攻なのかはっきりしないまま、わたしたちはローディス帝国へと馬車で向かう。


 わたしたちは、浮揚式円盤君(フロートサイクラー)から水陸両用型円盤君(アンフィサイクラー)に改造された円盤君の最新型、浮揚式陸戦車型(フロート・イェーガー)に乗っている。可変式を採用して飛翔能力や戦闘能力を高めてあるのだ。


 この浮揚式陸戦車型(フロート・イェーガー)なら、険しい山林でも足跡を残さず進める。魔力燃費を抑えるため、山中ではバルスに牽かせるつもりだ。


 咲夜は……こちらの世界に馴れさせるために、来て早々荒野のダンジョンに放り込んだ。聖奈はおまけ。


 魔道具の助けもあって、咲夜の強さは出会ったばかりのヘレナより少し強いくらいになったはず。


 あの性格破綻者の皇子を相手にするには、まだまだ経験が足りない。帝国までの道中二人を集中的に鍛える必要がある。


「ヘレナ、それとエルミィに二人の戦闘教育は任せたわよ」


 戦闘のスタイル的には咲夜ティアマト、聖奈にはノヴェルが合う。ただノヴェルには教えるのは無理だ。ティアマトも斥候の専門職のメネスやシェリハと組ませて索敵の仕事がある。


 ヘレナは優しいし、丁寧だから咲夜も懐くはずだ。捻くれた聖奈には同じ捻くれたエルミィが適任だった。


「わ、私が教えるの?!」


「急に話を振られても、ろくに面識ないんだよ」


 半ば二人に押し付ける形になるのは申し訳ない。でも、わたしたちの会話を聞いていたんだから何とかなるでしょ。


 毎度の事ながら、わたしは非常に忙しいのよ。なにせ戦いに備えてみんなの装備の更新がある。それに背中に張り付きアピールする物体の相手も必要だった。


「先輩、照れてないでみんなの紹介をして下さいよ。ほんとにいつまで経ってもお子様ですね」


 女王様にもなって、いまさら人見知りとか可愛こぶっても冷めるだけ。


「グエ〜っ」


 子供扱いしたおかげで悔しかったのか、ようやく先輩が動いた。世話のかかる人よね、まったく。


「……僕はアストリアという。気軽にアストと呼んでくれたまえ」


 先輩は男装で王子をしていた事もあるので、咲夜達の世界でいう僕っ娘だ。改めて見ると、美人なのよね、この先輩。


 サラッさらの細く艶のある金髪のショートヘアは以前より少し長く揃えるようになった。吸い込まれそうな青い瞳は昔のまま、キラキラと澄んでいた。


 服装は濃い青を基調とし、ロブルタ王国の紋章を金糸で刺繍した衣装を着ている。一目で王侯貴族と分かる格好だ。


 呼ばれた先によって、異界人の生活習慣や価値観は違う。先輩の服装を見て、身分の高い人と思う文化を持つのなら、基本的な思考は近いとわたしは考えるわけだ。


「は、初めまして。咲夜といいます」


 咲夜は不器用だし、作法は気にしない性格。でも礼儀知らずではないのよね。先輩と違って気さくだから順応も早い。


「聖奈です。よろしくお願いします」


 さすが聖女。咲夜に見せつけるように、丁寧におじぎをした。 


 先輩はニコッと笑うと、わたしの所へ戻って来て再び巻き付いた。いや言いたい事はわかるけどさ、文句は魔女さんに言ってほしい。


「凄い美人なのに、咲夜みたいな残念感がある方だね」


 ……聖奈さんや、先輩に聞こえるから事実を論うのはやめてあげて。魔力を解放したのでいまの聖奈の声は、美声君を通してみんなに届くのよ。


 ボソボソ喋っても同調回線を切らないと、わたしみたいになるのだ。


「あんた、さり気なくあたしをディスったね。ただわりと気さくそうな人だから助かるわ。あの可愛らしい小さな人間は妖精なのかな」


 咲夜はよく見ているようね。先輩の成長して膨らんだ胸の谷間には、アルラウネのルーネがお昼寝中だった。種族的には木人とか花人で、先輩のお守りをしてもらっている。


「……魔力が凄く高いから、そうかも」


 聖奈は魔力の流れが見えるようになったみたいね。身体のおかげもあるし、聖奈自身が顔色を窺う生活を強いられて来た副産物ともいえる。


「その身体は聖霊人形(ニューマ・ノイド)の魔法型だから、魔力を感知したり、聖女らしく治癒の光だって使いやすくなっているはずよ」


 簡単な擦り傷とか、傷口を浄化しながら治癒出来る。骨折とかも治せる事は治せる。ただ聖奈自身に医術的な知識が必要だ。


 同じ理屈で切断も理解力がないと、歪にくっついてかえって身体に悪くなる恐れがあった。


「────聖奈だけなんかズルくない」


 咲夜が羨ましそうに聖奈を見る。ズルっていうか、タイプの問題ね。咲夜は脳筋だからガンガン前に出て戦うスタイルが向いている。


 もともと制御が必要だったくらい筋力が高く、魔力馬鹿なので魔法の強化でさらに力を引き出せる。


 憑けたおっさん達が苦労して教え込んでいるから、聖奈にはない必殺技だって使えるようになるだろう。


「まあ……ないものはいいか。ちょっとあの人たちに挨拶して来るから、後で聖奈の魔法見せてね」


 咲夜は自分達の様子を伺うヘレナ達に気づいて、挨拶に向かった。わたしは先輩をヤムゥリ様に預け、いまの内に聖奈へ忠告しておくことにした。


「余計な事を言わないようにね。あの子は割と──いえ、かなり脳筋っぽいからわかるわよね?」


「うん。ただ咲夜は本当に馬鹿ではないと思うよ」


「そうね。だからこそ制御を覚えないと、自分が一番嫌いな道を辿る事になるわ」


 咲夜に関しては慎重な理由は魔女さんに近い。あの手の人が感情のままに暴れては手がつけられなくなる。


 デカブツは物理的に壊す程度だからまだマシ。しかし魔法の力は精神にだって作用するからね。


 本当に厄介な案件よね。召喚された異界の勇者なんか目じゃないくらい魔力を与えられているなんて。それを当人が理解出来てないなんて。


「そんなに咲夜の魔力は高いの?」


「言ったでしょう、彼女の家族を大切に思うものがこの世界にいるって」


「魔女さんとかいう人達のことでしょう。サンドラさんにもっとお話を聞いておけば良かったよ」


「あくまで本人の成長と裁量が限界を超えない程度よ。それでも火竜のフレミール並みにあるから、基礎もなく扱うには、制御が難しいのよ」


「咲夜の馬鹿力も魔法だったの?」


「あれは遺伝よ、たぶんね。羨ましい話だわよね」


 筋力がほぼないわたしには羨まし過ぎる。聖奈も同じようだ。わたしにたちは同志よね。聖奈は聖霊人形(ニューマ・ノイド)の魔法型だけど、ハンマーを振るうくらいの力はある。わたしには……ない。


「もし咲夜が制御出来ないとなると、どうなるの?」


 この子、用心深くなったものね。咲夜についてゆく決意をした以上、相方の事を知っておきたいものね。


「魔力制御に失敗しても、普通の魔法使いはそこまで魔力が高くないから死にはしないわ。でも咲夜は……難しいわね」


「どうしてそんな過剰な力を与えたんだろう。私はまだ制御出来る身体だから良かったのかな」


「ねっ、酷いでしょ? 丸投げよ、丸投げ。魔力大爆発を起こしかねないアホな子を、魔力制御が出来るようにしろって無茶苦茶よね」


 咲夜を喜ばせたくて、あの人やり過ぎたんだと思う。いまは落ち着いているからいい。


 でも、おっさん達が制御出来ないくらい暴れ出すかもしれないので、先輩やノベルにはルーネ達についていてもらう。


 それに聖奈にもこの際役に立ってもらうしかない。


「私に咲夜を止めるのは無理だよ〜」


「何のために貴女を呼んだと思ってるのよ。親友の面倒は任せたわよ」


 親友なんだから大丈夫よ。聖奈の魂はわたしが握っている。でもなるべくなら自分達で解決して欲しい。強制された所で、あなたたちのわだかまりは解決しないのだから。


 魔女さんが文句を言いながら聖奈を選んだのは、親友に何度もぶっ殺されてもしぶとく立ち直る根性を見抜いたからだと思う。


 弱さを認めながら、咲夜と対等に立とうとする聖奈を、咲夜はなんだかんだ気にいるはず。


 聖奈はわたしの意図に気づいて、不愉快そうな顔をした。


「貴女もそうだったんでしょ、カルミア。同族嫌悪ってやつ」 


「そうね。わたしは甘えるばかりの寄生女のあなたが嫌いだったわ。いまのあなたは、人として好きよ聖奈」


 わたしと先輩が、咲夜達の関係に近いと思ったのは丸わかり。そんな事を指摘されたって、あの先輩はもうわたしを逃がす気はないから諦めてるのよ。


 言葉で揺さぶられた所で、だから何? って感じ。聖奈はわたしを凹ませようとして返り討ちに遭い、顔を赤らめていた。


 まだまだ甘いわね、聖奈。先輩を見習いなさい。あの人は一糸纏わぬ素っ裸でも、大衆の前で堂々と演説出来る胆力があるのよ。


 そんな人間と毎日渡り合うわたしを言い負かしたいのなら、まずはバカ皇子にその聖剣をかましてやりなさいな。


 ────ゴッ!!


 たらいではなく、先輩の肘鉄がわたしの頭に落ちて来て、鈍い音を響かせた。


 どうやらまだ見知らぬ人には恥じらいが残っていたようで何よりだわ……。

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