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錬生術師、星を造る 【完結済】  作者: モモル24号
第1章 ロブルタ王立魔法学園編
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第17話 錬金釜 ③ 失敗を組み込んでおく

 わたしのダンジョン用の装備は棘鉄球(スパイクボール)の二つだ。


「棘々のついた鉄球と棒ってメイスじゃないの?」


 ヘレナに自慢気に見せたけど反応が薄い。自信作なのに。


「これはわたしの専用魔道具なの。魔力を通す事で鉄球が招霊魔物一式君(ゴブリンコロス)招霊魔物二式君(コボルトボコロス)に変わるわけ。これをあいつらにぶつけると勝手に倒してくれるのよ」


 自動で魔物(あいつら)が絶命するまで追いかけてゆくので、不意打ちにも反応する優れものだ。ただし範囲が十M程しかないのが難点ね。まだまだ改善の必要はあるものの、これがあれば充分戦える。


「……あのさ、王都のダンジョンはゴブリンもコボルトも出ないと思うよ?」


 ヘレナ言いづらそうに、サラッとわたしの主戦武器のダメ出しをした気がする。


 わたしの故郷や僻地の農村では、一家に二本セットが必須なくらい需要のある便利な武器。


 わたしの発明した数少ない売れ筋というのに、都会ではほぼ役に立たないようだ。


「【獣達の宴】っていう所だから、未踏破階層にはコボルトの上位種がいるかもしれないけれど、ゴブリンはいないよね」


 側にいたエルミィにまで残念そうな目で見られた。


「私の予備の剣を貸そうか?」


 ティアマトも心配そうに言う。この娘は基本ぶん殴りスタイルだから、剣は触りたくない相手や打撃が効かない相手に使うらしい。


「ぐぬぬ、あと二日あれば武器くらい作れるわ」


 研究結果を提出すれば、教材は無料で無限に使えるようなものだ。エイヴァン先生に見つかると面倒臭い。でも授業ではないから、自主研究の邪魔まではしないはずよね。


「カルミアのことだから、教室の使用許可を取ってないよね」


 呆れながらエルミィが許可証を貰いに行ってくれた。なかなか気の利く娘よね。


「エルミィが戻って来たら、私はティアマトと三人で、商店街に食材とダンジョン用の備品を買いに行って来るね」


 この間の事があるのでヘレナとティアマトは剣を身につけ、わたしの作った特製辛苦粉(スパイス)を一つずつ持つ。エルミィは弓が得意だけど、短剣とナイフも常に身につけているそうだ。


 護身用に招霊魔物君を開発したい所だけど、設定を酔っ払い(クズ)にすると見境なくなって惨劇になりそうだものね。


 エルミィが許可証と教室の鍵を借りて来てくれた。


「買い物から戻って来たら、迎えに行くから」


 研究に没頭するのを見越して、エルミィが釘を刺すように言う。その眼鏡は先を見通せるのか····なんて冗談はともかく教室へ入る。


 教室は試験や卒業検定がある時期は、かなり課題に追われた生徒で混む事もある。いまは入学したてで、教室に来る生徒は滅多にいないそうだ。


 だから教室は貸し切りのはずだったし、わたしの錬金釜を間違えて持ってくなんて事もないはずだ。


 なにせわたしの錬金釜は失敗作扱いで、他の生徒のものと色合いからしておかしかったからね。


「それがないってどういうことですかね、先生」


 捜すまでもなく犯人はすぐ近くにいた。講師専用の部屋でわたしの錬金釜を、ぶつくさ言いながら調べてるエイヴァン先生だ。


「カルミア君、自習かね」


「そうですけど、わたしの錬金釜をどうするつもりですか」


 勝手にいじって壊しかねない勢いだ。提出したポーションが、他の生徒のものより質がいいのに気づいたようね。


「勝手に触ったのは申し訳ない。どうやって失敗したかを知るのも、講師として研究として、必要になるものなんだ」


 素直に謝り、それほど興味を持っていないぞとばかりに錬金釜を返してくれた。


 うん、嘘臭い。でもヘレナの成分で出来てる、なんてわからないと思うわよ。


 一般の術師だって、髪の毛が落ちて混入したり、手の脂が素材について入ったり、時にはくしゃみをして唾液が入るなんてあり得る話しだからね。


 初歩的な事や、教科書通りの内容を教えるのは上手な人なのだと思う。でも胡散臭いと感じるのは口が巧すぎるせいね。深い知識のなさを、誤魔化してる感じが漂うのよ。


 面倒だけど、錬金釜は自分で管理した方が良さそうね。


 エイヴァン先生の事はもう放っておく。わたしは中庭に近い席に錬金釜を置いて、鉱石をいくつかと植物の花や実をいくつか採る。


 植物は流石に補充が難しいだろうから、ちゃんと遠慮しながら採取したわよ。


「獣と言ったら匂いよね」


 コボルトなんかあんなに臭いくせに、どうして鼻がいいのか不思議だ。


 魔物の大半がまあ臭いと思うけど、どうやって匂いを嗅ぎ分けてるのか聞いてみたいよね。


 召喚士になればわかるのかしら。快適スマイリー君も招霊君もスライムや精霊みたいな存在だからか、意志は通じ難い。聞けるものなら聞いてみたい、凄く興味ある話だわ。


 なんかわたしが独り言を呟いていると、講師の教室から視線を感じた。あの先生、やってる事はともかく意外と研究熱心なのかしら。


 ただ教える立場の者が、教わる側の実験をガン見するのはどうかと思う。それに、この錬金釜はヘレナ製だから見てわかるものでもないわ。


 わたしが気づいたからなのか、ピシャっと室内のカーテンが閉められた。わたしが逆にそっちを覗いていたみたいで気分悪いわ。


 気を取り直してわたしは自分の立ち位置を考える。冒険者パーティーにくっついていた時は、ほぼ荷物預かりみたいなものだったからね。


 招霊魔物君は、わたしばかり狙ってくるゴブリンやコボルトを撃退するために考えた物だ。あいつら悪知恵働くから、勝てる相手にとことん齧り付こうとするのよね。


 逆にオークみたいなのは食いでのあり柔らかそうな、大人の女性を狙ってくる。オークの名誉のために言うと、決して変態さんだからだけじゃないのよ。たぶん。


 匂い、失敗‥‥うん、決まりだ。わたしはどの道役立たずだから、失敗した時の手段を考えておきましょう。自分で言っていてみると、悲しいわね。


 攻撃は石でも投げて、ヘレナ達の邪魔をしないくらいで気を散らせば上出来よね。


 狼とか犬とか足の速いのは必ず抜けて来るから、噛り付かれたら喉の奥にぶっこむのがいいわね。


 そうして完成したのが、片手用の盾だ。わたしの持てる重さになっていて、上下左右それぞれギザギザの縁にした部分がある。咄嗟に庇った時には噛じられ引っ掛かりを良くするためだった。


 そして噛じられる時にスイッチが入って喉奥に針が飛ぶ仕組みだ。


「ねえカルミア、この凄くクッサイのをダンジョン持って行く気なの?」


 迎えに来たエルミィが凄く厭そうな、しわい顔をしていた。


「それはまだ固めてないから、臭いだけよ」


 針といってもわたしの小指くらいの大きさだ。刺す事よりも、溶けることを狙っていた。


「最悪の場合に備えて、匂い玉かわりにもなるわよ」


 撤退しなければならない時に、魔物が寄り付かないように、匂いや煙で誤魔化す品は流通している。


 魔力を追う魔物もいるため、あまり効果が高いものではないのだけれど、ないよりマシよね。


「投げつけて壊れる仕様だと、持ち運びが大変だから水分に反応するようになるわ」


「それなら小袋にしまう前に、蝋を塗った紙で包んでおきなよ」


 万一濡れてもいいようにエルミィが助言をくれた。


「その盾に仕込むんだね」


「必要なら盾役くらいは出来ないと、お荷物になるでしょ」


 囮がいる、いないというのは結構戦闘の質に影響する。石を投げて、気を逸らすだけで隙が出来るくらいだ。


「まあ、確かに的の動きが鈍るだけで助かるね」


 エルミィは狩りをするから良くわかってるわね。わたしは提出書類(レポート)を書き上げ、簡単に風の魔法で教室内の空気を入れ替える。

 エルミィが感心していたけど、錬金術師なら簡単な魔法くらい使えるないと不便なのよ。


 研究成果の用紙と匂い針の一つを別な紙に包み、提出用の箱に一緒に入れておいた。


 許可証にも簡易の内容と時間を記入して、エルミィと鍵を返しに行く。


 提出物にはちゃんと水に弱いって記入してあるから大丈夫よね?


 わたし達が合流してお風呂に入っている間に、錬金魔術科の教室で異臭騒ぎが起きた。どうも担当の講師が生徒の提出物を検証するために、実験して失敗したらしい。

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