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錬生術師、星を造る 【完結済】  作者: モモル24号
第3章 星を造る 神の真似事編

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17 【巨人型ダンジョン】 ③ 勝手に領地が増える先輩

 わたし達は【巨人の眠る島】だったはずの巨大な神殿の入口にいた。そこから外の景色が覗けるのだけど、何と言うか崖の途中で垂直に立って地面を見ている感じだった。


「これって、ここから出たら落ちるやつだよね」


 ヘレナ、その通りなんだけど外に出た瞬間にまず、寒さと気圧差で頭をやられながら落ちると思いなさいな。見た目以上に、この神殿のある心臓部の位置は高いのよ。


 呑気に眺めていられるのが、ダンジョンのおかげなのは可笑しいわよね。この高さで落ちると、完全に飛べる先輩やルーネ以外は厳しいかな。


 巨人のダンジョンはまだ生きていて、一日に小指の第一関節程はリビューア帝国の帝都カタルゴスに向かってる。まあ数字は適当なんだけど、まったく動きを止めたわけじゃないのよね。


「先輩とルーネとフレミール以外は円盤君に乗って。二人とも円盤君の外で待機をお願いね。フレミールは円盤君を掴んで地上まで運べるかしら」


 魔本に入って降りる方が安全なのだけれど、どんな感じになっているのか見たいじゃない。


「いつも、そういう頼みならワレも気が楽なのだが」


 だいぶジトジトした目で訴えてくるけれど、手加減ゼロでぶっ放してスッキリしてるのは知っているのよ。雑魚い相手は一掃してこそ、ドラゴンだと思うのよね。


「そう思うのに、荷運びはさせるんでしょう」


 正論エルフめ、ここぞとばかり言葉を挟んで来た。一応円盤君の扉は閉めたけれど危ないから、ドームは出しちゃ駄目よ。


 【巨人の眠る島】の神殿の入口は大きいので火竜形態のフレミールでも楽々通れた。先輩とルーネは円盤君の台座に掴まり、いつでも飛べる用意はしていた。


「地面が遠いわね」


 飛び出した瞬間、閉じた扉の窓から広がるのは大海ではなく大地だった。ヘレナとノヴェルがわたしの横に並んで一緒に覗きこみ、なぜかはしゃいでいる。フレミールがくしゃみして円盤君を落としたら、わたし達がどうなるか教えてあげたい。


「先輩、外は寒くないですか」


「見張りをさせておいて何をいまさらと言わせたいのかね。フレミールの魔法で快適だよ」


 伝声君の様子だと呼吸は少し興奮して荒いものの、普通に感じる。


「ワレは、くしゃみなどせぬわ」


 フレミールを絞り過ぎたせいか、この所反応が早い。あまり頻繁に成分を絞っても純度の問題があるので当分はしないから安心なさいな。


「それだけじゃないと思うけど」


 ヘレナは何か知っているようね。それなら貴女に任せましょう。そう言うとヘレナは深くため息をつき、ノヴェルが慰めていた。


 以前は、わたしがいてヘレナ達がいるような感じの関係だったので、こうしてわたしの知らない所で仲間同士が仲良くやっているのを見ると嬉しいわね。


「その落ちて終わりそうな思考をやめてよ」


 墜落に備えて、心の準備をしていただけなのにエルミィに止められた。思ってた以上に高くて、巨人の山(これ)をどうするか頭を悩ませたくなかったのよ。


 フレミールに、巨人型ダンジョンのあった離島の位置に向かって飛んでもらう。巨人の足跡が大地を沈ませ、大きな穴が続いている。ある意味綺麗な足形なのよね。


 離島のあった付近はあちらこちらが崩れていて沿岸部の街ごと壊滅していた。カプラの港町は無事ね。被害はリビューア帝国が一方的に受けただけなので良しとしましょうか。


「色々言いたい事はあるが、先にメネス達の援護に向かいたまえ」


 先輩が心配するので、そのままフレミールに運んでもらい、メネス達が戦う暗殺者達の街へ向かった。先輩とルーネは中に引っ込み、魔本の寝室を開いて休む。


 ティアマトとエルミィが屋根に円形風樽火門(フレミールドーム)を設置して見張りを替わってくれた。フレミールがいるので見張りの必要はないんだけど、習慣づいてるのよね。


 わたしはアマテルのために、手乗り人形(タイニー・ドール)を使って神の子牛(モーモーちゃん)を造り出した。神の牛(アピス)の魂の宝珠から成分を少し分けてあるのだ。


 アマテルは器械像から降りて、神の子牛(モーモーちゃん)にスリスリしていた。同じくらいの大きさなので当人達以外には人形劇のように見えるわね。


 アマテルの乗る器械像に合わせてモーモーちゃん用の乗り物を考えてあげないといけないわね。


 わたし達が到着する頃にはメネス達が暗殺者集団を駆逐し、引き上げる所だったようだ。唐突に巨竜が現れたので、混乱仕掛けたけれど、シェリハがわたし達の乗る円盤君を見つけ、落ち着かせていた。


「数が多すぎて下っ端には逃げられたけど、組織としては叩き切れたと思うよ」


 メネスがシェリハとメジェド、それにアクラブとヴェカテの隊長二人を連れて地上に降りたフレミールとわたし達の所へやって来た。


 暗殺者集団はバベルだけじゃなく、イミウトの別働隊や、下部組織のギルドがいくつかあったそうだ。


「主だった所は叩けたから問題はないわね」


 他国へ潜入して、要人を狙うとなると腕利きのものが必要になる。それほどの能力あるものを抱えるとなると、大っぴらに維持するのも難しいし、目立つ。散り散りになったものが再集結して、先輩を殺しに来るまでにはリビューア帝国が肩入れしたとしても、かなりの時間を要すると思うのよ。


「御苦労さま。たぶん、先輩の在位中に襲われる事はなくなったはずだわ。王妃様には悪いけど、先輩の弟妹の世継ぎの安全はどうでもいいからね」


 先輩さえ無事なら、わたしはそれで解決とした。蜘蛛の子を散らすように逃げたものなんて、いちいち追っかけていられないもの。それに追い詰められたのは、おそらく帝王の方だもの。


 アマテルをだまくらかした罰よ。それとノヴェルの一族を追いやった罪も。しばらくの間、キリキリ胃を痛めて泣くといいわ。ついでにシトロンのスイーツの中身に辛玉を練り込んだものを贈って追撃してあげたいわね。


「キミのその見事なまでの、行動の棚上げには感心するよ」


「本当にね。魂のやり取り見ていると、カルミアの方が悪く見えるよ」


 先輩と眼鏡エルフが立て続けにわたしを詰る。失礼よね。わたしは奪ってないし、この世界に解放しているもの。悪神と邪神(あいつら)と一緒にしないで欲しいわよね。



 リビューア帝国側から正式にロブルタ、バスティラ王国と国交を結びたいと使者がやって来たのは、それからひと月後だった。

 リビューア帝国東部方面をバスティラ王国に正式に認める事を文書に認めていた。


 そのかわりに彼らが巨人の巨人と呼ぶ【巨人の山】ダンジョンにより受けた被害に対して、支援を要請された。


「ちょっかいかけようにも、先輩に先手を打たれて使う手足もないのにね」


 先輩が何も言わず、わたしの首をクイッと軽く刈る。英雄王子の名声は、確実にリビューア帝国のモロク帝の脳に刻まれたと思う。

 帝王と側近だけが、下手にちょっかい出すと国が危機に陥ることを知っている。


 ダンジョン作成に関わったのだから当然だ。魔力を溜め込みすぎたせいで、魔物を吐き出し続けたとしても数百年はダンジョンが残るはず。

 余計な交渉をして先輩を怒らせるより、先に捨てるつもりの土地を譲る事で恩を売り助力を得る腹積もりね。


「なんとも、したたかなことだな」


 先輩が野心家だったのなら、とっくに攻め込んで版図を広げていたわね。今も、わたしのこめかみをぐりぐりしながら、何かはしゃいでますけど、この人が動くとロブルタの領地が増えてるの、気の所為じゃなくなって来た。


 先輩はリビューア帝国の使者に対して了承の返書を認めた。実際に支援に入るのは新領地となる港町カプラからムルクルまでの街の復興体制が整ってからだと記すのも忘れない。


 【巨人の山】に被害を受けた土地も、ロブルタ、バスティラ王国側が【巨人の足跡】と呼ばれる新領として、得た。こちらはリビューア帝国が放棄した、正確にはいつまた【巨人の山】と名付けられた巨人の巨人が動き出すのかわからない恐怖もあって東部地域同様に復興を諦めたようだった。


「【巨人の足跡】の地域はネイトに任せて、新領地全体はいずれヤムゥリ様とナンナル、スキュティアに任せましょう」


 先輩がロムゥリで王都を築けば、ヤムゥリ様がエドラから西側の面倒を見られる。


「そんな面倒ばかり押し付けないでよね」


「僕より君が王に就くという手も、考えてみたまえよ」


 我儘な女王様達だわ。先輩はともかくヤムゥリ様が、ハゲ親父様の素性を知っても全く動じてないのが凄いわ。

 ある意味、あの【巨人の山】はダイダラス、つまり元シンマ王(ハゲ親父)の墓標なのよね。膨大な魔力に自我が溶け込み、そこにあり続けるだけの存在。


父様(ハゲ親父)には立派過ぎるお墓だわ。散々迷惑をかけたんだから、アスト様の治世を守る壁役くらい務めさせないとね」


 良い笑顔ね。そして暗にヤムゥリ様は王座に居座り続ける気はないと宣言した。先輩がヤムゥリ様の首をわしっと狩る。本当にこの人はたちが悪いわよね。ヤムゥリ様の弱点を見事付いて離さないんだから。ヤムゥリ様も首を締められているのに、照れないの。


 しばらくはロブルタをロブルタ国王夫妻が、バスティラと新領をヤムゥリ様が統治する事で話しが決まった。

 肝心の先輩はまだ王座にはつく気はないので、ロムゥリでは引き続きアミュラさんが長官として施政を行う。


「ふむ、わかっているじゃないか」


 ヤムゥリ様はあっさり先輩の軍門に降り、新領地全体の整備を任され了承した。わたしはカルディアと湯郷理想郷(ユートピア)計画について、責任者となって集中したかったのに先輩がまたも許可しなかった。


「キミは一生、僕の面倒を見ると決まったのだよ。諦めたまえ」


 親離れは出来たのに、わたし離れは断ると断言されたわ。ヘレナ達も集まって来て、みんなでノヴェルの真似をしてフンスッした。なんて可愛い集団なのかしらね、まったく。


 しばらくは新領地の大地の清浄化と、回復に追われる日々が続く。大地の回復と、人員の配置、防衛体制やリビューア帝国との間の街道問題など、やる事は山積みだ。

 一年近くの歳月をかけて、わたし達は新領地にも緑の大地を復活させた。


「さあ、いよいよ蠍人の故郷の再興、星造りに入るわよ」


 星の再興に向けた材料は揃った。わたし自身の技量や魔力の問題もなくなった。首を長くして待つセルケト達のために、わたし達は星造りに挑む。

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