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錬生術師、星を造る 【完結済】  作者: モモル24号
第3章 星を造る 神の真似事編

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16 【巨人型ダンジョン】 ② なんで倒せると思うのよ

 後半部分にはリビューアの帝王の様子が描かれています。

 ヤムゥリ様とは対照的に先輩が大人しい。そしてわたしと目が合うと嬉しそうに笑う。


「なるほど、そういうことかね」


 先輩が得心がいったようでわたしの首に巻き付くように腕を絡めた。


「二人でニヤニヤしてないで私にもわかるように教えなさいよ」


 ヤムゥリ様がタックルするのを、アマテルが遮り、わたしの頬を両手で挟む。戦闘仕様にしているけれど、泣けるのよ。アマテルは涙と鼻水でぐちゃぐちゃな顔で説明を求める。


「カルミア様の仰っしゃる事はよおくわかりました。ですが我が民を消し去って、挙げ句にこの巨大なダンジョンが動き出してどうしてそんなに冷静なのですか」


「そうよ。街一つより大きいかもしれない超でっかいのを、どうやって倒すつもりよ」


 先輩だけがニヤニヤして、ヤムゥリ様とアマテル以外はみんなわたしを信頼して見守っている。


「倒せないわよ」


「はぁ?」


 いい表情ね、みんな。ノヴェルとティアマトは普通かしら。


「こんなデカいのわたしが倒せるわけがないと言ったのよ。フレミールの真竜ブレスでもかすり傷を負う程度なのよ。わたしにどうしろと」


 普通に考えなくても、虫と巨竜の例えでわかると思うのよ。


「え、君は何か考えがあるからだと思っていたんだけど」


 眼鏡エルフの眼鏡がズレた。


「魔女さんくらいの魔力があれば止められるかもしれないわね。わたしの魔力ではダンジョンに穴も開けられないわよ」


 みるみる青ざめる一同。当たり前の事を言っただけなのに。まったく、ノリのいい娘達よね。


「えっと、本当にお手上げなの?」


 ヘレナが顔を暗くする。わたしはね、倒すのは無理だと言っているのよ。倒すのはね。


「戦わない、それを作戦の軸にした意味を含めて説明してやりたまえ」


 後で大変になると脅されて、わたしは仕方なく説明することにした。長くなりそうだからと、ノヴェルとルーネが一応警戒に出てくれた。


「まずね、倒せないのは事実よ。予測だとロブルタの王都並の巨人だもの。わたしに限らず、並の人間に倒せるわけないわ」


 最近、わたしへの過剰な期待と評価の高さがあるので、ハッキリ言っておくわよ。わたしはただの錬生術師だと。魔力は実はヘレナより少しある程度のしょぼい魔法使いだった、と。


「それでもよ、見えないくらい小さな虫でも巨竜を止めるくらいなら出来るのよ」


 毒のようなものね。内部に入り込んでほんの少し重要器官に悪さすればいい。私の力では悪さも通じないけれど、魔女さんの力は違う。


「つまりよ、助けを借りながらわたしに出来る事をすれば、止めるくらいなら造作もないわけよ」


 わたしの出来る事は、魂を得ること。魔女さんの宝珠なら、どれだけ巨大な魔力の魂も入る。ハゲのおっさん(ダイダラス)がダンジョンと一体化したことで、ダンジョンそのものが巨人化した。それはダンジョンの巨大な人体化を意味する。


「人体化したのなら当然ながら、心臓の位置は胸部になるわよね。先輩が地図で絵にしてくれたので、神の牛の心臓(アピス・ハート)はすぐにわかったわ」


 心臓と呼ばれる魔晶石はダンジョンに魔力を循環させる核である。魂を抜かれ魔力のない心臓はただの石だ。


「血流が止まれば足が動かないように、魔力の循環が止まれば、人型である巨大なダンジョンは動きが止まらないまでも鈍るわね」


 すでに神牛(アピス)の魂がわたしの手にある以上、このダンジョンの容量は増やすことも叶わず、時間経過とともに魔力を失うだけなのよ。


 ダイダラスも、ダンジョンと同化した時点で逃げることが出来なくなった。奪い続けた魔力を、奪い続けた年月をかけてゆっくり歩みながら、フィルナス世界に還元してゆくだけの存在になったわけだ。


 何ものかに利用されたくなければ、頑張って解体すれば良いのよね。このダンジョン内に魔力をもとに魔物が誕生しても、飛行型でない限りは神殿から出てきても、真っ逆さまに落ちるだけだろう。


「それはつまり、神の牛(アピス)様は····」


「取り戻すことが出来たと言っていいわね」


 すぐに魂を取らなかったのも、事情がある。カプラの港町からムルクルまで、確実に手に入れるために、巨人型ダンジョンが線引をしてくれるのを待ちたかったからだ。メネス達がどこで戦っているのか、もう少し情報が欲しかったよね。


 ダンジョンがまだ生きていて動いていると知れば、リビューア帝国も迂闊にこの地方に手を伸ばすのは避けるだろう。


 アマテルはお人好しで忘れっぽい。自分が陥れられた重大なことを言及しておいて、覚えてなさそうだもの。ダイダラスが巨人の王になるために何故この地に来ていたのか、誰を頼ろうとしていたのか、絶対に忘れてるわよね。


「それで神の牛(アピス)様の魂はどうなるのでしょうか」


 このアマテル(おひとよし)に渡しても、また誰かに騙されて奪われそうよね。巨人型のダンジョン、それに神の牛の心臓(アピス・ハート)という起動の鍵。うん、アマテルには神の子牛(モーモーちゃん)でも渡して忘れてもらいましょうかしらね。


「丸聞こえなのだが、アマテルがモーモーちゃんとやらに、反応しているから早めに誕生させてやりたまえ」


 アマテル以外の、牛人の招霊君達さえ、彼女の目を逸らすことに了承してくれたわ。危なっかしいけれど、アマテルは愛されてるのね。



 巨大な巨人が現れた事で、リビューア帝国は大混乱に陥った。巨大な巨人の大きさは山と見紛う大きさで、出現した【巨人の眠る島】近くの港町のいくつかは巨大な巨人のたったひと踏み毎に潰され壊滅した。


 巨大な巨人の速度は一見遅い。しかしそれは遠くから眺めていたからであって、実際その場にいた者達は逃げる間もなく踏み潰されて重みと共に大地に沈んだ。



 リビューア帝国をまとめ上げ皇帝の座についた牛頭(ゴズ)族の牛頭帝王(モロク)は己の失敗を悟る。魔法の伝令兵によるリビューア帝国東部の巨大な巨人は、まっすぐにこのリビューア帝国の帝都カタルゴスを目指していたからだ。


 制御の効かない巨大な巨人を止める術はない。隣国の英雄王子とやらを焚き付けて、ダイダラスに始末させるはずが、何故失敗したのか彼にもわからない。


 諜報と暗殺を行う役割の集団もイミウト達は消息不明、バベル達は英雄王子の配下の部隊による強襲で目下交戦中で動けない。


「真の英雄か。見捨てられた大地にそのようなものが生まれるとはな」


 帝王に座し多くのものを手に入れたモロクは、積み上げたものが一瞬で全て失う恐怖と虚しさに落胆する。


 彼もまた、かつては英雄であった。異界からやって来る狂った神々を退け、人々をまとめ上げ大陸に覇を成す国を築いた。


「申し上げます。巨大な巨人の動きが止まりました」


 魔法の伝令兵からの通信により、沿岸部は大きな被害を出したものの、内陸の街は振動による被害だけで済んだ。


 巨大な巨人が動きを止めたのも、きっと英雄王子の仕業に違いない。あれはダイダラスの残したダンジョン兵器だ。核となる神の牛の心臓(アピス・ハート)がなければ巨大な身体を動かす事は不可能に近かった。


 英雄王子を煽りちょっかいをかけたのが間違いだと悟ったのはそのためだ。鍵となる神の牛の心臓(アピス・ハート)は間違いなく英雄王子の陣営にある。


 シンマ王国軍や蠍人の大軍の戦いから、古竜の娘まで抱えているという英雄王子を潰すには、十万程度の軍では難しいと証明された。


 それに加えて今やリビューア帝国を脅しかける破滅の巨人まで英雄王子が手に入れている。


 対抗しうる暗殺者集団も保護する前に先手を打たれ潰され、モロクは唸り声をあげた。


 活発になる邪神達の躍動、それに呼応するかのように、新たな英雄達が誕生している。


 彼は時代の変わり目に必要のない存在になっていた。出来る事はただ若い英雄達の活躍ぶりを見守ることだけだった。



 人の良さにつけ込み袂を分かった彼の真の主は、無様な彼を心配しているだろう。再び会えた時には何事もなかったかのように、彼の頭を撫でて微笑ってくれるのだ。

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