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錬生術師、星を造る 【完結済】  作者: モモル24号
第3章 星を造る 神の真似事編

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16 【巨人型ダンジョン】 ① ファイアドレイク・テイマー

「ヤムゥリ様、ルーネ、今よ」


 わたしの声で、ヤムゥリ様とルーネが剣聖の一撃(気付け薬)を前後の入口へ放つ。浄化に包まれた弾は大きな牛頭の牛人の頭上で破裂し霧のような靄を発生する。


「アマテル、上へ」


 援軍を待っていたのは、こっちも同じよ。魅了が解除するかはぶっつけ本番だわ。効いたとしても、強力な魅了が再びかかれば終わりだけれど、一瞬でも混乱させればいいのよ。


 アマテルが新型円盤君の上に立つと、魅了が溶けたのか、何人かが跪く。


「何をしておる。小娘共を奪え、殺せすのだ!」


 うっさいハゲ親父ね。でもいいわ。いま飛び込んで来た二十六名の魂は把握したから。


「後方退避。フレミール、まずはそっちからやっちゃって」


 巨人化する前に、フレミールが先に真火竜の咆哮をぶっ放した。人化状態だけど条件は相手も同じ。それにルーネが上から、先輩がフレミールの側から追撃の火竜砲を放つ。


 わたし達の来た入口の二十人の牛人が消し飛ぶ。まあ耐久性が高いので黒炭になって横たわっている。さらにエルミィが追撃でトドメを刺す。異界の強者の回復は範囲が決まっていて、わたし達を越えて回復は出来ないようだった。


 魅了が解けて無防備な一瞬が、わたし達の勝機。アマテルがプルプルしている。仲間の意識が戻った瞬間に火竜の咆哮にぶち殺されたのだから、悲しいのね。


「オッ、オマエはァ〜」


 先輩を押しのけて、フレミールがキレた。この火竜、まだあっちに敵が残っているのに何やってるのよ。


「後で泣くのと今泣くのとどっちが良いの?」


 わたしの言葉にフレミールがビクッとして、ハゲ親父達のいる方を見た。魅了をかけ直し、指示しようとする異界の強者達ごとフレミールがブレスを放った。


「先輩、背面はごっつ君出して閉じてて下さいよ」


 フレミールが使いものにならなくなったので、先輩に介抱を頼んだ。


「僕が言うべきではないが、年長者をもう少し労るべきではないかね」


 先輩はそれでもフレミールを抱えてヨシヨシと慰めていた。火竜のブレスは援軍の牛人全てを焼き払った。


「異界の強者達はしぶといわね」


 召喚主のハゲ親父王と、異界の勇者と強者達はまだ四人も残っていた。


「イミウト達は狩ったねィ」


 バステトが、バルスに乗ってニィと笑う。宿敵の残党を狩り尽くして御満悦の様子だ。ヘレナとティアマトは円盤君の近くで、異界の強者達に睨みをきかせていた。


「あ、貴女は何をしたのかわかってるの?」


 散々サボって放っておいたくせに、アマテルがうるさい。


「魂は綺麗な状態で確保したわ。どれだけ牛人が囚われているのかわからないけれど、魅了使いを滅ぼしても救われないわよ」


 回収してわかったわ。ここは巨人族の王となるべく牛人の宝を利用して築かれた迷宮だと。巨人化の方法を教えたのは巨大牡牛の心臓、いえ、神牛の心臓(アピス)の力を最大限に引き出す為に利用した男の仕業だった。


「ハゲ親父の正体こそ、ダイダラスよ」


 ビシッと決めてやったわ。先輩とシンマ元王以外、ポカンとしているけど。アマテルは呆然としては駄目でしょうに。


「いや、まださっきの衝撃から立ち直ってないだけだろう。構わず話したまえ」


 真相を知らないと、出来ない事ばかりが起きていた。最初の違和感は学園の骨のデカブツだった。


 いくら死霊術師でも巨大化には技量もいるし、魔力を食う。才能はあっても眼鏡男子はまだ子供だったし、ヤケになった死霊術師程度では、デカブツの生成は無理だもの。苦労して来たから断言出来るわ。魔力の恩恵(ブースト)があっても、技術的にも面倒だもの。


 二つ目は、元王妃様の毎日の呪詛にハゲ親父殺すってあったのよね。最初はロブルタ国王陛下の事かと思っていたのよ。同じハゲだし。

 でも、元王妃が亡くなった時まで、陛下の髪はハゲっていうより薄くなり始めた人だったのよね。

 いまの王妃様のハッスルぶりも考えると、ハゲ親父はロブルタ国王ではなく別の人だ。


「あとは、アマテルや牛人を騙すのは簡単だから、悪しきものを上手く利用して、ここを築いたのね」


 シンマの荒れた土地は勇者召喚だけではなく、この【巨人の眠る島】へ魔力を集めるために奪い続けた結果ね。神殿は牛人ホイホイとでもいうのか、神牛の心臓(アピス)の力に惹かれて補充されるようね。


 三つ目は、魅了使いの異界の強者でも解けない恭順の呪いなんて、一国のハゲ親父の王が使えるわけないからね。ヤムゥリ様が誇り高いのは、無駄に誇りだけはあるハゲ王の血の為せる技なのが悲しいわね。


「ねぇ、なんか私まで心にダメージ与えるのはやめてよね」


 わたしの声の攻撃は美声君を通している。そしてルーネがわたしの声で、拡声していた。何してるの、あの娘。わたしにハゲを連呼されて、元シンマ王が半泣きで怒りと戦っている。


 異界の強者達はもとより、牛人達が逆らえないように呪いをかけたのは、こいつだ。蠍人のものは邪まなるものなのでややこしい。


「ええぃ黙れ、狂った錬金術師の分際で」


 あら、なんか怒りが増したわね。だいたい面識ないのに、なんでわたしの事を知っているのよ。


「キミは、煽るのが本当にうまいな」


 先輩が感心した。話せって言ったの先輩じゃないですか。ハゲ王が先程のアマテルのようにハゲの悲しみに震えている。


「殺せ。ワシはダンジョンにいる限り死なん。貴様らの全生命力を振り絞ってでも殺すのだ」


 もう嬲って遊ぶ余裕もなくなったみたい。どうやら主戦力にするはずの牛人達が、肝心の巨大化をする前に討たれたので相当痛かったみたい。ずっとネチネチ騒いでいた。


「フレミール、そろそろ機嫌直してヤムゥリ様のかわりにシンマの元王を撃ってあげて」


 死なないみたいなので、みみっちく残す髪を殺すのだ。


「そうはさせてくれないみたいだよ」


 エルミィから守りを固めるように注意が来る。異界の勇者と強者が特攻をかけて来た。一人は剣士で、変身したヘレナと斬り合う。ティアマトが回復術師を、バステトが、魅了の術師を狙う。


 あと一人の姿が消えた。これ、魔女さんの時間を止めるのに似ている。前にもいたわね、こういう奴。時間の停止を認識しているのは、慣れているわたしに拗ねているフレミールだけ。


「フレミール、先輩は頼むわよ」


 フレミールが頷く。拗ねてもいじけても泣いても、頼りにしているからこそなんだからね。


「狙いはヤムゥリか」


「えぇ」


 わたしは上に上がると、上にいる三人にマスクをつけて、ヤムゥリ様の周囲で辛臭玉を潰した。使いたくなかったけれど、そうも言っていられないからね。


 時間が解除された瞬間、ヤムゥリ様に近づく異界の強者が悲鳴をあげてもんどり打つ。自分から刺激物の飛散する中に無防備で飛び込んだのだ。


「何こいつ、キモ!?」


 ヤムゥリ様は、気持ち悪いものを踏み潰す弾で異界の強者にトドメを入れた。うん、素早い対処よね。ヤムゥリ様の目は憎いハゲ親父へ向けられ、効かないまでも砲撃を加えた。 ヤムゥリ様の砲撃が父親であるシンマ元王に届く。容赦なく消滅させる気で撃った砲撃が、台座の八門全てから放たれる。


 しかし目の前にいる彼女の父親は、すでにダンジョンと一体化し人の姿をしているだけの化け物だ。


「ぐわぁっははは、無駄じゃ。その程度の攻撃ではダンジョンの壁に少し傷を負わせて終わりじゃ」


 牛人達の魂は守れたけれど、打ち倒した暗殺者集団(イミウト)や異界の強者達はダンジョンに吸収されてしまった。膨大な魔力からすると、些細な魔力でも、強化に繫がると思うと癪に触るわね。


「憐れね。巨人の王になるつもりが、悪しきものに毒されて、破壊の片棒を担がされて生かされ続けたなんて」


 結局はそういう事よね。利用するつもりが利用されていたなんて、よくある話だもの。巨人族がどれだけ大きいかは知らないけれど、百Mもあれば充分よね。


 この巨人のダンジョンは違う。世界を壊滅させるために造りだされていた。


 アマテルを騙して神の牛の心臓(アピス)を手にして、王になる夢すら失って、破壊の為に生き続けた。それが、ダイダラスという巨人族のはぐれものの正体。シンマの玉座は忘れた夢を思い出して居心地が良かったのでしょうね。


「ちょっとカルミア、ハゲ親父の正体とかどうでもいいよ。死なないとか不味くないの」


 ヤムゥリ様が慌てる。今頃慌てても、すでにこの巨人ダンジョンは動いてる気がするわ。中にいるわたし達には外の感覚がないからわからないけど。


 どっちに向かっているのかもわかる。流れ的にはロブルタやバスティラなんだけど、魔力の流れがリビューア帝国の帝都へ向けられていたのよね。


「おら見ただよ」


 そうよ。あの時ノヴェルが確認した魔力導線は帝都に伸びていた。誰がやったのか。聞くまでもないわね。とことん嫌がらせと破壊を企んでいた悪しきものの仕業に決まっている。


 計画を仕込んだ頃は、ロブルタ王国はドヴェルガーの小さな国だったろうし、一番破壊の旨味があるのは、当時から人口の多かったリビューア帝国になる前の都市国家群よね。


「近隣は水害が酷そうだけど、帝都に辿り着くまでに心臓を奪えばいいわ」


 海中に備えた装備を整えて来たのに、その意図に気づくの遅れたので、陸に投げ出されそうね。浮揚したり翔べる仕様にしておいて良かったわ。


「そう簡単にいくものか。滅ぼし尽くしてやるわい」


 攻撃は無駄なんだけど、わたしは構わずみんなにハゲ親父を攻撃させる。わたしも少し焦っていた。だって今頃帝都方面の何処かで、メネスとシェリハがもう一つの暗殺者集団とやり合っているじゃない。


 そこへ、こんな一歩で街一つ踏み潰すような巨人がやって来たら逃げ切れないもの。ダンジョン内にいるから地響きすらわからないけれど、揺れだって激しいはずよね。


「他人の心配なぞしている場合か。お前たちもここで我が養分となるのじゃ」


 ダンジョンと一体化した事で、世俗的な思考も消えてしまったようね。さっきまではヤムゥリ様の事やわたしの事を認識していたのに、今は魔力の塊くらいにしか見てないみたいだ。


「ダンジョンが縮んでる?」


 ヘレナが、天井が迫り出すのに気づく。まだ他の牛人の確認が済んでいないのに、仕方ないわね。


「神殿入口に戻るわよ。残る牛人の魂を少しでも回収するわ」


 デカいので縮み出してもすぐにはどうこう出来ないみたいね。入口そのものは塞がっていたらおしまいだけど、完全に閉じるまでまだ時間があるはずだ。


「フレミール、今度は躊躇はなしよ」


「わ、ワレだってわかっておるわ」


 フレミールが激昂し、怖気を払い自分の気持ちを奮い立たせる。本当に優しい火竜よね。


 牛人達の魅了は、すでに解けていると思う。でも牛人達はこのダンジョンに囚われてしまった魂だ。どのみち一度は滅ぼさないと解放されないのよ。


 放置すれば異界の強者達のように巨人のダンジョンに吸収されるだけだからね。

 救う為には一度滅ぼすしかないなんて、真竜に至るまで清廉な火竜でも理解し難い考えだったのかしらね。


「ねぇ、いまの私達にそんな余裕あるの。脱出しないと不味くないの?」


 ヤムゥリ様が、不安気にまた騒ぐ。そんなにハゲ親父王を仕留めたかったのなら、もっと早く捜索して吊るし上げるべきだったわね。

 違うの、そうじゃないのと言ってるけれど、照れてるだけよね。

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