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錬生術師、星を造る 【完結済】  作者: モモル24号
第3章 星を造る 神の真似事編

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15 【巨人の眠る島】 ④ 突入のち撤退

 わたし達は神殿の中で呆然としていた。壮大で荘厳。そして、動き回るデカブツ達――――――――。


 神殿内は三十Mを超える魔物の巣だった。みんな巨大牛人(アルデバラン)と同じ、牛頭の魔人だ。


「入口まで一時撤退よ」


 牛人のデカブツと出会うと、撤退を余儀なくされるのは何度目よ。デカブツの巣の可能性はあったけれど、遭遇率ってものがあるじゃない。

 フレミールのいた【獣達の宴】だって、ドヴェルガーの抜け道、フレミールに後からやって来たデカブツといたけれど、最初からまとめていたわけじゃない。


「これは、このダンジョンの巨人から考えると、三十Mの魔物も虫のようなものということかね」


 先輩の考えは、概ね当たっていそうよね。一度偵察した時に、離島の神殿としては大きいなと思ったのよ。目の前にいるデカブツ達が出入りするのに充分な大きさだったからなのね。


 きっと勇敢な冒険者達が上陸して、覗いてみて、【巨人の眠る島】と名付けたのよね。牛人のデカブツって確かに眠るし。


「カルミア、現実逃避してないで」


 ヘレナがわたしを現実に引き戻す。いくらなんでも無理よね。デカいのと戦う想定はしていたわよ。でも多くても蠍人の時の倍くらい、それも十M級とか混じりだろなと、楽観視してたのは確かよ。


「巨人の里が落とせないわけよね。さっ、帰りましょう」


 数十体のデカブツと戦い続けるのは、ちっぽけな人族には不可能よ。巨人化の秘術とやらで、こうも簡単にデカブツ量産出来るの酷過ぎよ。


「これ放置していたらどうなるのさ」


 エルミィ、わざわざわたしに聞かなくても答えなんて、想像ついているでしょうに。


「泳げるのかは分からないが、少なくとも僕らの国は滅びるだろうな」


 さすがに先輩も手の打ちようがないみたい。見えている数のだけで、数十体だもの。散ってくれれば各個撃破出来るにしても、集団で来られては無理よね。


「もし、デカブツによる魔物の大暴走(スタンピード)が起きるとするなら、デカブツを吐き出した後にこれらが虫けらに見えるくらいの超デカブツが動き出しますよね」


 全長が馬車で半日飛ばすくらいの巨大生命体が街を襲ったとしたならば、どうにも出来ないから諦めて対策してないのよね。

 踏み潰されても地中にめり込んで壊れない避難所の中で、脅威が去るのを待ち続けるしかないのよね。


「ただ、それを成し得ているのは、神牛アピスの巨大牡牛の心臓(コル・タウリ)なわけよね」


「持ち運べるのかどうかはわからないが、核がなければこの巨体のダンジョンを維持は出来ない、だったな」


 何度も打ち合わせして来たけれど、最悪の場合、止めるなら破壊するしかないと結論が出ていた。


「アマテルがいれば気配で感づいてひざまづく展開を予測したのに、本当に貴女は牛人の姫巫女なの?」


 いまはさらに改造した牛鬼豊穣型器械兵(ミノスノイド・タロス)に乗り込むアマテルがフイッと目を逸らした。中身は手乗り人形(タイニードール)のままだけど、魔力はいまは隠していない。


「話せるんじゃないのか」


 何かに気づいたのか、ティアマトが急に発言した。


「巨人化しているだけなら、人族の姿になれるのではないのか。そっちが本来の姿だろう」


 そういえばそうだったわね。ありがとうね、ティアマト。ダイダラスとか言う巨人が、牛人に巨人化を教えた。

 いつ、どこで? ここは心臓(魔晶石)の魔力にあふれているから巨人化し続けられる。

 あいつらなんか闘っていたけど、あれって冒険者(チンピラ)がよくやっていた序列争いの力比べに見えなくもない。本質は変わっていないのに、気づいた素振りがないのって、障害があるに決まっている。


「いい案ね。ただ、問題はアマテルへの敬意よね。あの数のデカブツを指揮するものが今更アマテルの言う事を聞くのか疑問だわ」


 ティアマトの発案を元にわたし達は潜入を再開した。戦わない、この一択なのは同じで、逆にデカブツだって決めつけない事に注意を傾けた。


 人族型に成れるのならば、こっそり侵入して見つかってしまうと、隠れても小さくなって捜せるかもしれないからね。


 いま気がついてくれて良かったわよね。だだっ広い大部屋の袋小路に追い詰められて逃場なくす、なんて事もあり得たからね。


 ルーネに幻覚と隠蔽の魔法で水陸両用型円盤君(アンフィサイクラー)ごとわたし達の姿を隠して静かに進む。


 元から浮いている上に、マッドオルカの皮は陸だと音を吸収してくれる。デカブツ達が殴り合って、赤黒い血が良い保護色にもなっていた。


 ドキドキしながら最初の大広間を抜ける。目指すは大きいけれど、せいぜい半分以下の十五M程の高さしかない通路だ。


 あいつらがミノタウロスのような牛頭の牛人だとすると、人族の姿だとしてもわたし達からは巨人だ。普通に戦っても結局は厄介な相手よね。


「いったん止まって。バステト、バルスと様子を見に行けるかしら」


「首を狩るかィ」


「狩らなくていいから、見つからないようにね」


 バステトと、バルスが影になって通路の先を進む。ダイダラスという巨人族の意図はともかくとして、デカブツから聞こえる声は、物騒な言葉に感じた。


「壊す、壊すと言っています」


 あっ、駄目な会話じゃない。邪まなるものに操られていた蠍人みたい。


「この力は魅了かもしれませんね」


 なんか、嫌な予感。だってね、進むそばからバステトが足跡を見つけちゃったのよ。


「ムルクル方面で死んだんじゃないのかね」


 旧シンマの王と、異界の強者達が生きてこのダンジョンに潜伏している。ムルクル近辺の逃亡者は道を分かった貴族の集団だったのだろう。


「イミウトがいるねィ。首を刺していたねィ」


 おまけに暗殺者達の集団の一つ、バステトが敵対している部族として名をあげたイミウト族がいるらしい。獣の首を掲げるイミウトと牛頭を持つ牛人達が共生しているようには見えない。


 ずっと警戒して来た魅了使いが暗殺者達の中か、異界の強者達にいるのは間違いなかった。


「皇女樣の成分、このためにあるようなものね」


 人物の器としては、先輩も負けていない。ただ年齢的に伝説の皇女樣の魅力(カリスマ)は圧倒的で、魅了なと跳ね返す。


 皇女樣の専用釜でつくり直した美声君の魅了無効化に、ルーネの状態異常耐性などを含めると、今のわたし達には魅了など効かなくなっていた。


「バルス、あなたは魔本の中でまた待機、バステトはいったん中に戻って」


 さて、どうしたら良いかしらね。メネス達の負担はかなり減ったのは良かったわ。あっちにいる可能性が高くて危険があったので、戦力を足したんだもの。


「このまま放置すれば、また同じ繰り返しよ。デカブツが人化して合流する前に、叩きましょう」


 わたしはヤムゥリ様に連絡を取る。父親の旧シンマ王が、生きていたけれどどうするのか、彼女の判断に任せる。


 少し待っていると、ヤムゥリ様が戦闘態勢を整えてやって来た。


「この手で引導を渡してやらないと夢見が悪いもの」


 気合が入ってるわね。ヤムゥリ様にも耐魅了処置や装備を更新する。兎耳飾りは、魔力を集めて先輩のような怪光線を発射する仕組みに換えておいた。高笑いしてる時に、油断して刺されそうだもの。


「何よ、その不吉な予測は」


 予測はあくまで予測よ。呼び出しておいて死なれては、わたしが悪いみたいになるじゃない。備えあればってやつよ。害意あるものを自動で撃ち抜くから大丈夫よ。


 ヤムゥリ様の加勢で士気が上がった。いつもより歓迎ムードが高いのでヤムゥリ様の顔が真っ赤になったのはみんな内緒にしていた。



 新型円盤君をゆっくりと通路内へ進める。バステトの話しでは、通路の奥に分岐した箇所があり、その先にシンマの元王や異界の強者達が暗殺者集団といたようだ。


 フレミールは、牛人達がなだれ込んだ時を考えて温存しておく。最初の先制は、ヤムゥリ様とルーネによる火竜砲の砲撃だ。実弾を交えてダメージを与える。


 不意を付かれて暗殺者集団は十名が溶け、後のものは異界の強者に防がれた。


「あの頭のおかしい女と、ロブルタの英雄王女がいるぞ」


「ヤムゥリまでいる、殺せ。こいつらを殺せば我々はやり直せる」


 馭者を務めるわたしや天井から砲撃を加えるヤムゥリ様を見て、口々に騒ぐ声が届く。巨人の為に作られただけあって、彼らが野営していた部屋は最初の部屋並みに広く天井が高い。


「嫌がらせは辛味のみに。臭いはわたし達も巻き込まれそうだからね」


 前に洞窟で戦った時には臭いが酷かった。わたしの戦闘能力は落ちるかわりに、ヘレナ、ティアマト、バステトが飛び出す。


「キミの戦闘能力はないだろうに」


 ぐっ、先輩め、余計な一言を。


「バルス、出てきてバステトのフォローをしなさいな。ルーネ、貴女はヤムゥリ様を守りながら砲撃。エルミィは二人に近づかせないで」


 暗殺者達の動きが早い。攻め込む算段をつける前に攻め込まれたのに切り替えが早いこと。


「フレミールは背後から砲撃と槍で。ノヴェルは先輩を守りながら前をよろしくね」


 わたしとアマテルは左右の砲台からヘレナ達に注意して支援攻撃に移る。ここまで逃げて来ただけあって、シンマ元王以外は精鋭だ。

 わたし達と違って逃避行に、ダンジョン生活で疲労しているはずなのに、動きはいいわね。


「異界の強者、いや勇者じゃな」


 いるだけで何やら付与効果をもたらし、能力を高めるものがいるようだ。それに、暗殺者達は倒れても見捨てられ放置されているのに、異界の強者は傷を受けると回復される。


「回復、それもかなり強い魔法ね」


 死に瀕したはずの強者の傷が瞬く間に塞がる。それに、ずっと纏わり付く不快な魔力は魅了の魔法の効果だわ。


「先輩、全員の状態に注意をお願いします」


 かなり強力な呪詛のようで、暗殺者達もこの魅了に従って動かされていた。動きが鈍らないのは、元々指示に従い動くのに慣れてるためね。


 百名近い暗殺者達は使い捨てにされ時間稼ぎを行っている。使い捨てにされていても強い暗殺者達なのが迷惑よね。攻めるわたし達、籠城する元シンマ王と異界の強者達。籠城側の時間稼ぎって、援軍待ちか、こちらの弾薬切れ待ちってこと。


 当然、弾薬はたっぷり用意しているので簡単には尽きない。


「うわはっははは、調子に乗りおって小娘共が。おまえたち、あいつらが来たら、総攻撃じゃ。捉えた娘は、好きにしてよいぞ」


 うわぁ、気持ち悪い演技ね。ヤムゥリ様が嫌うわけよ。姉のユルゥム王女もこうなると、少しだけ同情するわね。


 元シンマ王が吠え立てるのに合わせて、彼らの背後とわたし達の背後から牛頭の牛人達が集まって来た。

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