第16話 錬金釜 ② 冒険者としては一流
同科生達には馬鹿にされたわたしの錬金釜。見た目は酷くても、釜の性能も調子も良かった。
普通に作るだけの調合物も性能が一割増しで向上している。外見は錆びて壊れたように見えるけどさ、品質はいいのが何よりよね。
一番凄いのはヘレナの特性魔晶石を使う時だ。三割から五割くらいは効能上がってるんじゃないかな。それが分かるくらい高品質の品になる。それほどに相性が抜群なのよ。
エルミィが訝しげな顔で見る。これはあげないわよ? ヘレナから素材を回収するのは命がけになって来たんだから。
「それはさ、普通に頼んで髪の毛とか貰いなよ」
「なるほど、その手があったわね」
エルミィ、流石の着眼点よね。ただ、髪の毛は危険が伴うのよ。
「まったく、君というやつは」
エルミィの助言でヘレナに髪の毛を整え、少し髪を切る事は許可を貰った。ちゃんとおかしくならないように、鏡を見ながら切り揃えたので喜ばれたわ。
ヘレナは綺麗に可愛くなるし、わたしは魔晶石の材料になる髪の毛を手に入れてホクホクだった。スマイリー君は思ったより学習能力があるのかな。
そしてこの特製魔晶石を使って、鉄と飛竜の爪の削りカスを混ぜる。飛竜と言ってもワイアームのもので、冒険者から貰ったものだ。
「おぉ、ドラゴンハートもどきが出来たよ」
あえて言うならば新鉱石と言う所かな。これで加工すればヘレナの専用の装備や装飾品が作れるわけよ。
でもヘレナには内緒にしておかないと新鉱石を手に入れるのが難しくなるからね。
「カルミア、後ろ」
エルミィが言うより早く、わたしの頭に拳骨が落ちた。
「ポーション作りをするはずなのに、君は何を作っているのかね」
エイヴァン先生が冒険者時代を彷彿させる動きで、わたしの背後に回って来ていた。あれ……この人は今もまだ現役だったかしら。
「それよりエイヴァン先生の開発した美容液のサンプルを、実験に使ってもいいですか?」
痛む頭を擦りながらエイヴァン先生の開発品が、わたしの研究に応用出来そうなので聞いてみた。
あれを使えば、快適スマイリー君の治癒効果版を作れそうな気がするのよね。エイヴァン先生の薬の改良版扱いにされるかもしれないけれどね。
エルミィもそれを考えて言葉を濁して言ったと思うのよ。薬もまがいものだと困るし、先生から直接貰うものなら大丈夫そうだもの。
「あれは私の研究の成果だ。おいそれとやるわけにはいかないよ」
もう一度拳骨を落とされた。でも先生は真面目に答えてくれた。我慢してるだけでわりと痛いのよ?
エルミィが口を押さえて笑いを堪えている。笑ってないで暴力反対と叫んで欲しい。
仕方なくわたしはポーション作りを行う。せっかくなので次の休みの日に、パーティーで使えるポーションを用意しておこう。材料はタダみたいなものだからね。
ポーション作りを始めると、やれやれと溜息混じりにエイヴァン先生が離れてくれた。よし、チャンスだ。
「やっぱりあったわ」
わたしは素材を取りに行くついでに、砂糖の入った瓶を発見して、小袋に移す。
エルミィから聞いた話だと、備品管理や素材補充は週末の休みにチェックする。つまり今日使い切っても問題ないってこと。わたしのようにポーションに砂糖を使うものもいないので存分に使える。
「苦味もこれを足すことで、逆に美味しく感じるようになるのよね」
わたしのポーションも、ある意味オリジナルだ。配合に砂糖を加えて、薬草を倍にしてから濃縮する。水分にはほんの少し、柑橘系の汁を足らして酸味を加える。
出来た調合薬に魔晶石を粉末にしたものを入れて良く混ぜて魔力を馴染ませ、一度濾した後に錬金釜へと入れて仕上げる。
今回は四本をわたしたち用に作り、それとは別に提出用にもう一本作る。特製魔晶石でもポーションを作り、ヘレナ専用にした。
エルミィもわたしと同じ考えだったようで五本作り、一本は提出していた。砂糖や柑橘系の汁を使ったせいで、わたしのポーションだけみんなと見た目が違う色になった。
錬金釜が失敗作なせいで、出来た品までおかしくなったと思われたみたいだわね。貴族の子達などさすが平民、と大爆笑していたっけ。
でもよく見てみなさいな。貴方達のポーションは薬草の原色に近い緑なのに対して、エルミィのは美しい青なのよ。
これは治癒薬なのに高い魔力が込められている。だからポーションとしての効能が高いとわかる。
そしてわたしのは橙色。効果はもちろんエルミィのものと同じくらい高いわ。それに回復効果がしばらく高まり続けるおまけ付きなのよ。
ヘレナ専用のものは緋色。出来たものは即効瓶に移し替えて蓋をして小袋に隠したわ。
霊薬を作った覚えはないんだけど。釜と魔晶石と何かが合わさった相乗効果で、ポーションの質を上げ過ぎたみたいだ。
霊薬は体力の回復効果と魔力の回復効果を同時にもたらす治療薬。たしか売れば小金貨一枚くらいになるし、買うと金貨一枚以上になる高級薬になるはずだ。
作るには魔力草と呼ばれる、フカシギの実などが必要な上に、魔力も結構浪費する代物だったのに、何故?
下手に売っても製法とか怪しまれて、生命を狙われ兼ねないから黙っておこう。
授業の後は、恒例のお風呂タイム。今夜はお風呂上がりのお楽しみもある。
授業で余った果汁と砂糖を混ぜて水で割ったものを凍らせ、一度砕いて再び固めたもの。さっぱり冷たい果汁の氷菓子なのだ。
しっかり温まった後の氷菓子は格別なんだから。季節的にはまだ肌寒いから、一応小さめに作ってある。
一緒の授業を受けたエルミィだけは、何故そんなものを素材にしたのか理解しがたい顔で見ていた。でも、お風呂上がりの氷菓子の美味しさに感動していた。
ちなみに凍らせたのはティアマト。氷菓子の話しをしたら真っ先に乗ってくれた。夏場のティアマト需要は、かなり高まりそうね。