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錬生術師、星を造る 【完結済】  作者: モモル24号
第3章 星を造る 神の真似事編

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11 豊穣の女神をつくる ③ 意外とお嬢な猫姫

 スキュティアがムルクルの状況と経緯を説明している。わたしがアマテルの替わりをつくる為に待たせていたので、彼女は個別に街の代表と接触して情報を共有していたらしい。


「優秀な補佐官なのよね。アマテルがあんなんだから、苦労が多いのかも」


 堅物だけど、統率力や根回しの能力は高い。今もわたし達の事を持ち上げつつ、実利をちらつかせている。

 わたし達にちょっかいを出せば、支援は途絶え皆殺しにされると脅しているのは、やり過ぎだと思うわ。


「何だろう、不気味だったのは既視感を感じて嫌悪を感じたのかしら」


 スキュティアへの誤解は今は置いておきましょう。わたしにも精神的なダメージが来そうだもの。

 スキュティアが先輩の事を紹介する。新しく出来た隣国の実質的なリーダーであると説明すると、どよめきの声が上がった。


「スキュティアの事だから、先輩の容姿までは知らせてなかったようですね」


「嬉しそうに言うじゃないか。顔を知らないのだから、キミを指導者としてもよいのだぞ」


 どうみても豪華な衣装の先輩と、錬金術師全開のわたしでは、先輩に目がいくので無理な話なのよね。それに、先輩よりも注目させる人物がここにいる。


「僕の紹介よりも、君たちにとって重要な人物を紹介したいと思う。ナンナル君、きたまえ」


 ナンナルと呼び名を付けられた牛人型・聖霊人形(アマテルノイド)が壇上に上がり、ティアマトとヘレナと共にいる先輩の横に立つ。


 多くの民は代替わりし続けていて、自分達の一族の巫女姫の顔なんて知らない。ただ、牛人のなかには魔力や雰囲気で、それがかつての自分達のまとめ役の巫女姫だと感じるものがいるみたいで涙を流していた。


 まったくの偽物ではないので転生し、かえって本物のように感じると思うのよね。本人に似て、パワーも魔力もかなり高いのにオドオドしてるし、大勢の人目が怖いようだ。


「な、ナンナルと申します。あ、アマテル樣の魂を宿すものです」


 あっ、この娘、本当の事をそのまま言っちゃったわよ。ただ、牛人達の代表者たちは、その名前を聞いて勝手に生まれ変わりなんだと納得してくれた。


「わ、私はこのアストリア樣を盟主として、我が民の生活と安全を守って行くつもりです」


「むっ」


 先輩が聞いてないぞ、と反応した。先輩がナンナルじゃなくて、何故かわたしを見るのだけど、アマテルの性格を考えてみれば、引き篭もろうとするに決まっていた。わたし自身(カルディアの時)の反省を活かして、これでも調整したのよ。


「それは、リビューア帝国からロブルタ王国へ移り、民として降るということですかな」


 代表者の中でもかなり老齢の者が発言を求め、尋ねて来た。ナンナルがガタガタ震えながらビクっとする。貴女、一応立場が上なのに。


「それは、皆さんの自由です。アストリア樣は、我々リビューア帝国東部地域の民の救済に既に動いてくれています」


 ナンナルはリビューア帝国との交渉で東部地域が実質見捨てられた事、そこで起きる問題に帝国がすぐには関与しない事を告げた。自国のやり方なんて、説明しなくてもわたし達より彼らの方が詳しいわよね。


「東部地域の大地の力の消失は、我々が失った巨大牡牛の心臓(コル・タウリ)が原因です。アストリア樣とお仲間の方々はこれを取り戻す事を約束して下さいました」


 ざわつく代表者たち。まさか自分達の住んでいる土地が、自分達の探し求めるもののせいだとは思っていなかった動揺を感じる。


「東部地域はいずれ復興させるにしても、原因を絶たねば無意味です。それに土地が回復したとなるとリビューア帝国が再び干渉してくるやもしれません」


 先輩はひとまず黙ってナンナルの好きに語らせるようにしたようだ。でも口は閉じていても美声君から呪いのように「キミはシメル」の言葉がわたしの伝声にだけ連呼されて来た。


 ナンナルによって牛人の民は、自由な選択肢を与えられた。彼女自身は巫女姫として、先輩を主として認めてついていくと明言している。

 東部地域に逗まるならロブルタ王国からしばらくは食料支援など行われるだろう。略奪するようなら戦うけれど、リビューア帝国はその件について関与しないとあらためて宣言していた。


「放牧に関しても、東部地域が回復するまでバスティラ、ロブルタの土地の回遊を認めてくれるそうです」


 ナンナルの言葉に先輩もうなずく。代表者達の街にはムルクル同様に、もともとは遊牧民族が多い。スキュティアのように馬人族も混じっているので、わずかな放牧草地を巡り争いが絶えなかった。


 緑豊かなリビューア帝国へ流れて行くと、馬賊として討伐される可能性もあったようね。行き場のない民、それが今の彼らの置かれている立場だ。


 武闘派、つまりわたし達の追ってきた暗殺者達は、まだ利用価値がある為か、リビューア帝国の貴族が密かに引き入れたらしい。殲滅しておきたい所だけど、戦力を二分する余裕はないのよね。


「ロブルタが君達の事を受け入れる条件はロブルタ、バスティラ、そしてリビューア東部地域の安寧だ。我々は、かつての君達の同胞を殲滅する為に追って来た。彼らが再び我らの地で暗躍すれば飢えた民は行き場を失う」


 ナンナルにかわり先輩が牛人や馬人達の代表に協力を仰いだ。遊牧を中心とするもの、農耕に勤しむもの、彼らやロブルタの地域を巡回し守るものと役割を各代表がまとめることに決まった。


 暗殺者達の始末は、スキュティアが中心になって、代表達の部族から腕の立つものを集めて戦うことになる。

 ロブルタからも、蠍人のアクラブの戦士団、吸血鬼族のヴェカテの一隊を参戦させようと思う。


「こちらの統率者は、メネスに頼むわね」


 集会のあとで、わたしは先輩に首を完全に腕で固められながら、暗殺者の殲滅部隊を選出した。メネスに彼らの引率を頼む。


「えっ? 私? バステトとかシェリハは?」


「吾輩はアストの首を守るねィ。かわりに吾輩と眷属の一団をカルミアがつくるよィ」


 あっこの狂人、勝手に決めたわね。吾輩とって、貴女の聖霊人形とか危なっかしくて嫌よ。眷属だけ数体出させて、バステト成分で強化しましょう。


「カルミア、私もメネスと行きます」


 シェリハが見かねて名乗り出た。メネス一人じゃないけれど、最近行動を良く共にするから心配したらしいわ。


「ならバステトにギルマスのおっさんを混ぜた最強の戦士をつける?」


 シェリハがいるならバステト人形を制御してもらえる。でも基本が狂人なので、メネスと相性の良いガレオンから得た成分を混ぜればよくないかな。髪は薄くなりがちだけど。


「吾輩を汚すのはやめるねィ」


 バステトが先輩にロックされているわたしの頭に、自分のおでこをくっつけて来た。何をしたいのよ、この猫。黒いあいつ(ゴッキー)も苦手だし、中年親父(ハゲ)も嫌とか、わりと可愛らしいお姫樣なのよね。


「それなら先輩とバステトと貰った皇女樣成分を少し使って、魔法戦士を作りましょう」


 作り慣れた先輩を基本に、メネスとシェリハの守り手を作る。暗殺者達の件が片付いた後は、先輩かヤムゥリ樣の護衛に回せる。

 バステト当人を結局は適任だからと回すようで申し訳ないわ。本人が乗り気なので、わたしも乗らせてもらうわね。


「そんな事をしても僕の機嫌はなおらないぞ」


 そうは言いながら、成分を吸収した黒パンを提供してくれる先輩。なんだかんだ、メネスやシェリハが心配なのよね。それにしても、わたしの首を狩りながら、よく器用に脱ぎますよね。堂々とみんなの前で脱ぎ慣れてる英雄樣って。


 先輩の機嫌は簡単に直りそうにないけれど、一応必要な事はやってくれるので放置することにした。

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