7 牛人の巫女姫
食料支援計画の相談と牛人の巫女の件についてヒュエギアと話しをするために、わたしは先輩とノヴェルとシェリハを伴って一度ロムゥリへと行く。
結局魔本を使うんじゃん、と眼鏡エルフがグチグチうるさいので、ヘレナと一緒にスキュティアのお守りを任せた。
円盤君はティアマトとメネスとバステト達に任せる。ガレス達も離れずにいるので、留守番をしっかりねと伝えて撫でておいた。
ロムゥリからアミュラさんを連れて来て、一度ムルクルへ戻り、再びロブルタ農園へ行く。ロムゥリで魔本を開くと魔力的に管理が面倒になるのよ。
ヒュエギアには連絡していたので、お茶の用意をして待っていた。わたしたちはともかく、アミュラさんは初めて呼んだので、お茶は人気のロブルタ茶を用意していた。
「お話しがあるそうですが」
冷めた口調でわたしを見る。疑似の血肉で造る人工生体と違って、聖霊人形は魔力が血脈のかわりとなって動く。魂を宿らせると表情も豊かになるので、人と区別するのは難しいかもしれない。
「ヒュエギアの中に、アマテルって人の魂が混じってるよね。分魂しても知識は受け継いでいるから大丈夫かしら」
わたしはルーネサイズの手乗り人形を出して、会議に使っているテーブルの上においた。
「そこへ、移すのですか。本人は嫌だと言ってますが」
予想通りね。本人の意思がないと出て来れないけれど、この場合の本人はヒュエギアの事よ。わたしも鬼じゃないから、手乗り人形を用意したのよ?
スキュティアほどじゃないにせよ、ヒュエギアも真面目で働きもの。その点、この人形に移ればルーネと同様、先輩人形を使って、のんびり楽に過ごすの······。
ヒュッと魂が移った。ぬっふっふ、かかったわね。一度出てしまうと、ヒュエギアの許可なく戻れない。それに、手乗り人形も作りは聖霊人形に近い。わたししか魂は移せないのよ。
「悪徳商人が、妖精を捉えたみたいだな。怯えて泣いているね」
先輩は手駒が増える分には構わないので、ノヴェルの作った魔力の檻の中の人形を面白そうに見る。泣いているので、先輩の言うようにわたし達が悪者のように見える。
「ヒュエギアの時もそうだけど、もう少し考えて行動しなさいね。騙した側のわたしが言うものではないけれどさ」
ヒュエギアも頷く。農耕の知識は突出していて、かなり役に立ったらしい。教授された知識は全て書物にしてノエムが複製して、ノヴェルが受け取っていた。あとで魔本に作り直すそうだ。
「その身体に入って、先輩人形に乗れば、スキュティアには見つからないわよ」
わかりやすく明るくなる。このアマテルという牛人の巫女姫は、働きたくないのではなくて、自分の時間で動きたい人なのよね。
ヒュエギアにいられたのは、彼女が農園を管理していて、作物の育成に合わせて動くので、気も楽だったみたい。
「ルーネにはいざという時に戦闘に回ってもらうから、アマテルには先輩役に徹してもらうわ。本当にヤバい時には参戦して、それ以外は基本自由よ」
泣いていた顔が晴れやかになる。拘束してこき使うことには変わりないのだけど、気づいていないようだから良いわね。むしろ、人が良いというか騙されやすくて心配になるわね。
「相変わらずキミの方が、悪しきものやら邪まなものよりたちの悪い存在に感じるのだが」
何を言ってるんだろう、この先輩。気づいていて止めないし、一番利益を享受してるの先輩なんですけど。そろそろお給料や報酬を、まとめて支払ってもらいたいものだわ。
「金貨の大半は、バスティラ王国の運用に回すから、しばらくはまたジリ貧だな。頑張って稼いで楽をさせてくれたまえよ」
ひぃー、この先輩め、いつの間にか大量の金貨を浪費していた。いや、知っているわよ。吸血鬼族に資金渡して食料を故郷から集めさせていたし、復興の為に蠍人にも資金回す必要あったし、アミュラさんにも輸入頼むからね。
うちの子たちはヘレナ以外はお給料の事すら忘れているのよね。バステトなんて、元本職暗殺者だったのに、お金に無頓着というか、ガチで首を刈るの楽しんでいたようで怖い。
ヘレナ、エルミィ、ノヴェル、ルーネ、ヒュエギア、ノエム、ドローラ、そしてアマテル。 これだけ大地の力に長けたメンバー揃ったのだから、金のなる木でもつくってくれないかしら。
「彼女は神農とやらの扱いだろう。それなら武装姿よりも、豊穣の巫女に相応しい姿にしたまえよ」
先輩の要望で、アマテルが扱う先輩人形は、王妃様やフレミールを超えるバインバインな身体になった。
もう先輩も女性だと公表されているからね。聖霊人形・豊穣型と名付けられた身体にアマテルが手乗り人形のまま嬉しそうに入る。アミュラさん以上に無口だけど、喜んでいるのはわかった。ただ、それ大きすぎて肩が凝るわよ。
身体の不調がわかるように、痛覚として本体に伝わる。だから、無駄に大きな双丘二つを包むために、わたしは呪いの黒パンづくりと、黒ブラを作る羽目になった。




